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『お気に入りの帽子 』
夢路 まよいka1328

 その日、お出かけをする為に用意していた夢路 まよいは、服に袖を通すと鏡の前でくるりと回った。
 ふわふわのスカート。レースがたっぷりのブラウス。
 うん、今日の恰好も可愛い。
 これに、いつもの帽子を合わせれば完璧……!
 ふと、帽子を手にして違和感を覚えた彼女。
 まじまじと見ると、クラウンとブリムのつなぎ目がほつれてしまっているのに気が付いた。
「ああー! 破けちゃってる! どうしよう。この帽子お気に入りなのに……!」
 しょんぼりとするまよい。
 ――この帽子を、手にした日のことをハッキリと覚えている。
 クリムゾンウェストに転移してすぐ、立ち寄った洋品店で見つけたのだ。
 ……リアルブルーにいた頃は、『パパ』に守られ、超よ花よと育てられ、あまり外に出ることがなかった。
 広い地下室と童話や幻想的な物語の本が、彼女の世界の全てだった。
 最初、転移したことも良く理解していなかったまよいは、目の前に広がる世界を見て目を輝かせた。
 ああ、とうとう自分は憧れの絵本の世界に入り込むことができたのだ。
 だったら、絵本の主人公のように。
 可愛い恰好をして旅をしなければ……!
 そんな勘違いをしたまま、冒険の為の衣装を探して……彼女は、すぐにその帽子に目を奪われた。
 黒地に紫のリボン。白い大輪の花が咲くそれがとても素敵で、まるでお姫様の為の帽子のようで……。
 被ってみたら、まよいの青みがかった灰色の髪に良く映えて――彼女はすぐさま購入を決めた。
 それ以来、この帽子はお出かけから冒険まで、様々な場所にお伴している。
 これだけ酷使していたら、帽子が草臥れてしまうのも無理もないのかもしれない。
「でも、この帽子を手放したくないし。修理出来ないかな……」
 呟くまよい。残念ながら、箱入り娘として育てられた彼女はあまり裁縫が得意ではない。
 やれば出来るようになるのだろうが、経験値不足というやつだ。
 下手に修理して、再起不能にしてしまっては意味がない。
 ――そうだ! 自分で出来ないなら、得意な人にお願いすればいいんだ……!!
 ぴこーん! と思いついたまよい。裁縫が得意な人には幸い心当たりがある。
 大急ぎで外套を羽織ると、善は急げと駆け出して行く。


「……という訳なの。この帽子の修理をお願い出来ないかな?」
 突然やってきてぺこりと頭を下げるまよいに、困惑した目線を向けるバタルトゥ・オイマト。
 色々聞きたいことはあったが、まず一番気になることを口にした。
「……何故俺に?」
「バタルトゥさん、すごいお裁縫上手なんでしょ? 一族の子供達のコートとか、お守り袋とか沢山作ってるって聞いたよ!」
「……それは否定せんが……こういうのは専門家に頼んだ方が良いんじゃないのか?」
「えっ。バタルトゥさん専門家でしょ?」
「一通りのことが出来るというだけだ……。こういった帽子については縫ったことがない……」
「……ダメなの?」
 大きな目に涙を浮かべる彼女に、うぐ、と言葉に詰まるバタルトゥ。
 何を隠そう――否、全然隠せていないのだが、彼は子供に弱い。
 娘程の年頃の女の子に泣かれて『ダメです』と言える程、非情ではなかった訳で……。
「……分かった。分かったからそんな顔をするな……。修繕してみよう……。ただし、上手くいく保証はないぞ……」
「やったー! ありがとう! バタルトゥさんイイ人ー!!」
 今泣いた烏がもう笑うを地で行くまよい。にこにこしながら帽子を差し出して来る彼女に、バタルトゥはため息をつく。
「……随分使い込まれているな」
「うん。とってもお気に入りなの。ハンターになった頃からずっと使っててね。帽子は色々持ってるんだけど、やっぱりこれに戻って来ちゃって」
 あははと笑う彼女。
 ――1つのものをずっと大事に使い続ける。その精神に己の一族と同じものを見たのか。
 バタルトゥの表情は真剣になり……帽子と同じ色の糸を選んで、早速縫い始める。
「わー。バタルトゥさん縫うの早いね。何だか魔法みたい。……直りそう?」
「……うむ。まよいの使い方が良かったのか、そんなに酷くほつれていないのが幸いした……」
 そう呟きつつ、手早く針を動かす彼。
 みるみる塞がって行く穴に、まよいの目が輝く。
「……ほら。出来たぞ」
「すごーい! やっぱりバタルトゥさんにお願いして良かったよ! あ、何かお礼しないとだよね。何がいいかな?」
「……少し縫っただけだ。礼は必要ない。この帽子を大事に使ってやれ……」
「分かった。じゃあ今度、お菓子持ってくるね」
「……礼は要らぬと言っただろう」
「私がバタルトゥさんとお茶したいんだよ。いいでしょ?」
「……好きにしろ」
「そうする!! ありがとね!!」
 一方的に話を進めつつ、直った帽子を被り嬉しそうに笑うまよいに、バタルトゥは頷き返し――。

 それから数日後。山ほどお菓子を抱えたまよいが再び族長を訪ねて来たのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka1328/夢路 まよい/女/15/物語に生きる少女

kz0023/バタルトゥ・オイマト/男/28/手先が器用な族長(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

まよいちゃんの帽子のお話、いかがでしたでしょうか。
どんなお話にしようかなーと考えて、まよいちゃんといえば帽子……! と思い立ち、このような話にしてみました。
帽子に対する設定を勝手にねつ造してしまいましたが、少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2019年01月15日

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