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『銀色の夢 』
アルト・ヴァレンティーニka3109

 仕事を終え、家に戻ってきたアルト・ヴァレンティーニ。
 真っ先に風呂に入って汗を流した彼女は、ベッドにごろりと横になると、サイドテーブルの上に置いてある草臥れた牛革の手帳を手に取った。
 ――この手帳は、セトという男性のものだ。
 以前、血盟作戦の時に、過去の記録を見た。
 今、『暗黒の魔人』と呼ばれ、世間を騒がせている歪虚、青木 燕太郎が、かつて人間だった頃の記録。
 護衛任務に向かう予定だった部隊が転移に巻き込まれ、彼らが乗っていた哨戒艇は突然氷の山中に放り出された。
 通信も繋がらず、飢えと寒さに耐えながら救援を待つそんな極限状態の中で――セトも命を落とし、部隊は全滅。何らかの歪虚と契約状態にあった青木は歪虚となった。
 彼がアルトの友人である強化人間の少年、レギの兄であったと知った時は、何という運命の悪戯かと思ったけれど……。
 彼らの小隊の墓標である哨戒艇を見つけて、こうしてセトの遺品を回収出来たということは、何か自分に課せられた役目があるのかもしれない。
 そう。役目――。最近アルトは、寝る前にこの手帳を解読することが日課になっていた。
 最初、彼女がこれを読み解き始めたのも、歪虚となった青木の、何らかの手掛かりが得られないかと思ったからだった。
 所々破れたり、風化したり、掠れたりしていて、読めないページもあるが……ユーモアたっぷりに綴られる日常。

 いつまでも部屋を片付けないセトを叱る青木がまるで小姑のようだとか。
 レギと一緒に遊んでいて勢い余って崖から落ちたとか(その後青木に回収されて説教されたらしい)。

 自由奔放で型破りな手帳の主が、親友や弟、そして小隊の同僚達を大切に思っていたことを窺い知ることが出来た。
「セトさん、物書きの才能もあったんじゃないかな……」
 呟くアルト。この手帳、レギ君に返す前に親友にも読ませてあげたいな……なんて考えながら。
 彼女は微睡に落ちていく――。


「よう。燃える赤毛の天使さん。俺とお茶しない?」
 背後から声がして振り返るアルト。
 そこには、自分より長身の……銀髪の青い瞳の男が爽やかな笑みを浮かべて立っていた。
 アルトは、その男に見覚えがある。そう、レギに良く似たこの人は……。
「……セトさん?」
「おう。天使様に覚えて貰ってるとは恐悦至極。やっぱこれは運命ってやつかな」
「君達、言うことが本当そっくりだよね……」
「君達って誰のことだ?」
「レギ君だよ。セトさんの弟さんでしょう?」
「何だ? あいつも嬢ちゃんのこと口説いてやがんのか。女の好みまで一緒だとは聞いてねえぞ」
 大袈裟に顔を覆って見せる彼に、くすりと笑うアルト。
 ふと、彼女は真顔になってセトを見つめる。
「……私、セトさんに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「ん? 天使様の悪行か? 俺は神父じゃないが、懺悔なら聞くぜ」
「懺悔というか……色々あって、今貴方の手帳を読ませて貰ってるんだ。勝手に読んでしまって申し訳ない」
「何だそんなことか。別に構わねえよ。読まれて困るようなことは書いて……書いてねえよな。うん。もし手帳に女が出てきても遊び相手だから気にしないでくれ」
「誰もそんなこと気にしないよ」
 考え込むセトにビシッとツッコむアルト。彼女はそれから……と続ける。
「……まだ、エンタロウを止められてないんだ。止めるどころか出し抜かれてさ。本当にごめん」
 礼儀正しく頭を下げるアルト。セトは天を仰いで大きくため息をつく。
「嬢ちゃんのせいじゃねえ。あいつ、やるとなったらとことんやる男だからなぁ……。こっちこそ悪ィな、面倒なこと頼んじまって」
「いや、止めたいとは思ってる……ううん。私達が止めなくちゃいけないんだ。だから、もうちょっと待ってて」
「ああ、期待して待ってるぜ。そうだ。嬢ちゃん、もう1つ頼まれてくんねえか」
「ん? 何?」
「……弟を宜しく頼む。あいつ俺に似て馬鹿だけどいい奴だからさ」
「それは……私に出来ることなら力になるつもりだよ」
「そうか。こんな天使に傍にいてもらえて、我が弟ながら幸せもんだなー」
 ハハハと笑うセト。彼の姿が、徐々に銀色の蝶に変わって行くのを見て、アルトは慌てて……。
「あ、待ってセトさん!」


「あ、れ……?」
 ベッドからガバッと起き上がった彼女。
 いつの間にか眠っていたらしい。
 ……セトと話していたような気がしたが、あれは夢だったのか。
「うーん。もうちょっと聞きたいことがあったんだけどな。青木の弱点とか……」
 呟きながら肩を竦めるアルト。寝る前に手帳を読んでいたから、あんな夢を見たのだろう。
 夢の情報に頼ろうとするなんてどうかしている。
 ……そうだ。朝になったら親友とレギ君を誘って、青木の情報を洗い直そう。
 もしかしたら、レギ君が青木について何か知っているかも……。
 もう一度、布団にもぐり直す彼女。
 視界の端で、ふわりと銀色の蝶が舞ったような気がした。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka3109/アルト・ヴァレンティーニ/女/21/家族に憧れる女の子

セト/男/23/天性の女ったらし(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

アルトちゃんのおまかせノベル、いかがでしたでしょうか。
レギとの話にしようか、青木との話にしようか悩んだのですが、以前の依頼で会った、レギの兄である青年に触れてみました。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2019年01月15日

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