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『Lovers 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001)&藤咲 仁菜aa3237)&リオン クロフォードaa3237hero001)&マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&迫間 央aa1445

●Dear Partner
「――いやよ!」
 暗い部屋の中、マイヤ・サーア(aa1445hero001)の悲鳴が響く。迫間 央(aa1445)の差し伸べた手を払い除け、彼女は顔を覆ってさめざめと泣いていた。
 寒村から都市へと村民を避難させる任務。六人が別行動をしていたところに、従魔が襲い掛かったのだ。隙を突かれたマイヤは頬から頬へとバッサリ斬られ、今に至るのである。
「こんな顔、央に見せられない。私が、此処に居ていいたった一つの理由だったのに……」
 半ば狂乱して叫ぶマイヤ。藤咲 仁菜(aa3237)とリオン クロフォード(aa3237hero001)は共鳴すると、ケアレイの光で静かに傷を癒す。
「もう、大丈夫ですから」
 仁菜は柔らかく語り掛けるが、怯える子猫のように、マイヤは震え続けていた。ただでさえ色白な彼女が、今や真っ青になっている。
「マイヤ」
 傍に歩み寄り、央はマイヤを正面から抱きしめた。茫然とするマイヤの耳元で、彼は力強く囁く。
「今の俺に必要なのは、俺を赦してくれる魔女でもないし、その代わりでもない。俺だけの英雄、マイヤ・サーアだけだ。まだいくつも解決しなきゃいけない事があるけど……だからこそ、これから先も二人で生きていかないか?」
 そのままマイヤの左手を取ると、薬指にトパーズの指輪を嵌めた。金色の眼が、潤んでいく。マイヤは呻き、そのまま央にしがみついた。
「ありがとう。……ずっと、央が背負ってくれていたのね」
 央の胸元に顔を埋め、マイヤは小さく頷いた。
「いつまでもここにいるわ。央が、そう望んでくれる限り」

 不知火あけび(aa4519hero001)は安堵の溜め息をつく。思わず彼女まで涙ぐんでしまう。
「……良かった」
 日暮仙寿(aa4519)は何も言わず、そっとあけびの左手を握った。心の奥で、彼女の髪が全て白髪となっても愛し続けるのだと心に定めながら。
「ついに、ゴールイン、か」
「そうだね。……ほんとによかった」
 リオンは小さく微笑む。仁菜もこくりと頷く。二人の手は互いを求めて伸びたが、結局空を掠めてしまった。
 お互いを見つめるリオンと仁菜。しかし、二人はこれ以上言葉を交わせなかった。

 H.O.P.E.へ帰還したマイヤと央は、手を繋いでそのまま市役所へ駆け込み、婚姻届を提出する。時はちょうどクリスマスイブのことであった。

●Lord of “Malkuth”
 依頼が終わってから一週間。三組は日暮家に集まっていた。勉強に決戦に、死に物狂いで頑張る仙寿をせめて大晦日に元旦くらいは休ませるべく、あけびが四人を誘ったのである。

「すごーい! ふわふわ!」
 仁菜は客間に入るなり、ベッドへと倒れ込む。長い耳がふわりと揺れた。布団に頬ずりする彼女に苦笑し、リオンは隣に腰を下ろす。
「ニーナは子どもだなあ」
「リオンだって! 御馳走食べ過ぎ!」
 仁菜は寝返りを打つと、リオンのお腹を指差す。バツが悪そうに、リオンは鼻を掻く。
「だって美味しかったから……」
 マイヤも頷く。その表情は穏やかだった。指輪を彼女はそっと撫でる。
「……いつかは、私の料理で央に美味しいと言わせないと」
 こそりと呟く。央が振り返った。
「ん?」
「何でもないわ」
 マイヤはつんと澄まして、あけびへと視線を送る。彼女はウィンクで返した。王を弑した後は、包丁を手に台所で食材と戦う盟約を交わしているのである。
 央はその目配せに気付いていたが、敢えて何も聞かない。壁際に置かれたテレビの傍らにあるゲーム機を央は指差す。
「あれって、『Links』かい?」
「ああ。テレビは客間にしかないから、ゲーム機もここなんだ」
「へえ。仙寿くんがゲームってイメージ無かったけど」
「確かにやった事無かったが、面白いもんだな」
「ソフトは?」
「これだ」
 仙寿は棚からソフトを取り出す。『ロードオブマルクト』。長くシリーズが続く、堅調のRPGだ。央はソフトを手にして眺める。
「ロードオブシリーズか。懐かしいなあ」
「央さんも知ってるんですか?」
 あけびが身を乗り出して尋ねる。
「昔のは触ったよ。六作目の『ルイン』は面白かったな」
「ろーるぷれいんぐ……『役を演じる』という事よね」
 マイヤも央の背中越しにタイトルを見つめる。リオンと枕をトスしていた仁菜も、目を輝かせて飛び込んできた。
「それ私達も持ってます! ねえ仙寿さん、勝負しません?」
 やたらと勝気に仙寿の顔を見上げる。一瞬怪訝な顔をしたが、仙寿は身を乗り出してゲームの電源を付ける。
「もちろんいいが、持ってきてるのか?」
「大丈夫です。コミュから私のキャラデータをダウンロードして、エキシビションでやれば良いんですよ」
 仙寿からコントローラを受け取ると、慣れた手で操作を始める。あけびは目を丸くした。
「……もしかして、結構やってる?」
「二周目の最終章まで来ました!」
 あけびは目を白黒させた。日暮組も、一周目で助けられなかったNPC達を救うべく、二周目に手を出している。しかしまだ結婚イベントを済ませたばかりだ。
「私達より進んでる……これは強敵だよ、仙寿!」
「だからにやにやしてるのか。負けないからな」
 仙寿は眉間に皺寄せ、二つ目のコントローラを手に取った。一周目のクリアデータからセンジュ(剣士)とフィーナ(踊り子)を送り出す。対峙するのはニーナ(戦士)とアリオーン(僧侶)。闘技場の中、二組は武器を構えて対峙する。
「行くぞ。先手必勝だ!」
 仙寿が攻撃を仕掛けた。彼の分身が刀を構え、鎧姿のニーナへ斬りかかる。次々出るシビアなQTEも楽々こなし、鋭い連撃を叩き込んだ。ニーナは盾を構えるが、じりじりと押された。
「やりますね。私それ苦手で、剣士は選べないんですよ」
「いやいや。これだけじゃないぞ」
 言うなり、あけびによく似た踊り子が、薄布を振るって踊り出す。光が舞い、センジュを包み込んだ。センジュは再び斬りかかる。今度は素早く背後へと回り込み、袈裟の一撃で打ち据えた。
「どう? 私達の必殺連携、『ディバイドストライク』だよ!」
 あけびはガッツポーズを決める。ゲームとはいえ、自分と似た二人が活躍するとわくわくする。ついでに、仙寿が二回とも彼女を結婚相手に選んでいるのも嬉しかった。
「なるほどー……でも、勝つのは私達です!」
 しかし、仁菜は強気な表情を崩さない。地面に倒れていたニーナも、すぐ立ち上がって斧を構えた。鋭い二連撃でも、ニーナの体力を削り切れなかったのだ。
「耐えるか」
「はい! そしてここからが私達の連携の真骨頂ですよ!」
 武器を構えたニーナは、センジュへと突進した。その背後では、僧侶が杖を掲げてニーナを癒す。ニーナはそれを頼りに、反撃を受けても構わずセンジュに斧を叩きつけた。仙寿は必死に受けるが、既に頬が引きつっている。
「くっそ、まずい……」
 センジュは反撃するが、ガンガン僧侶が回復するから一向に止めを差せない。まごつく間に、ニーナが一撃を確実に叩き込んでいく。その戦いぶりに、央は肩を竦めた。
「最新作でも『リザレクラッシュ』は健在なんだな」
 体力の高い戦士と回復力のある僧侶を組み合わせた、安心と信頼のゴリ押し。搦め手には弱いが、シリーズ通しての伝統となっている戦術だ。リオンは溜め息をつく。
「だからって突っ込み過ぎなんだよなぁ。いっつもギリギリじゃんか」
「リオンが回復してくれるから平気だもんね!」
 さらりと言ってのけると、そのまま仁菜は仙寿を怒涛の攻撃で押し切ってしまった。リオンはリザルトを見ながら苦笑いする。
「いや、そいつの名前アリオーンだし……」
 しかし、その頬は緩んでいた。そんな彼の表情をちらりと見て、マイヤは目を瞬かせる。
「剣士と踊り子に、女戦士と僧侶……」
 自分達であれば、どんな役回りが合うだろうか。彼女はいつか見た、聖女として過ごした夢を思い出してしまう。思い出すほど切ない気持ちになる。しかし、物語の存在に身をやつしての体験というなら、それもまた悪くない気がした。
「帰りに買おう。マイヤがやってるのを見るのも、楽しそうだし」
 ふと央が微笑みかけてくる。思わずはっとなるが、やがて小さく頷いた。
「……央がちゃんと教えてくれるなら」
 二人は微笑み合う。あけびもにっこりと笑って振り返った。
「じゃあ、マイヤさんも今度勝負しましょうよ!」
「マイヤも操作に慣れたら強そうだしな。どんな戦略を立てて来るのかも気になる」
 仙寿も頷く。央とマイヤは見つめ合った。
「そう、ねえ……」
 一緒に出来る事が増えることほど、二人にとって嬉しい事は無かった。二人の微笑みを確かめると、仙寿はくるりと仁菜に振り返る。
「あと、受験終わったらリベンジするぞ。待ってろよ」
「はい! お待ちしてますね」
 仁菜の勝ち誇った表情に、思わず仙寿はコントローラを握る手を強める。あけびは苦笑してしまった。
「やっぱり負けず嫌いだよね。仙寿って」


 数週間後、マイヤはアサシンハザマと青髪の賢者エリスのパラライズキル戦法で仁菜のリザレクラッシュを粉砕するのだが、それはまた別の話である。

●Love at first sight
 そんなわけで暫くゲームに興じたりしていた六人だったが、夜更け前には男女に分かれた。ちょっとした男子会女子会でもしよう、というわけである。

 和風の寝間着に着替えた仙寿は、ジャージの央とパジャマのリオンを自室へと招き入れた。アンティークな調度品が、部屋の雰囲気を二、三世代古くしていた。央は机の上の置時計を眺めながら、真っ先に口を開く。
「で、仙寿君は、第一関門を越えた後は少しのブレも見えない辺り、流石だな」
「どういう意味だよ?」
 揶揄われているのかと思って身構える仙寿だったが、央の顔は何時になく穏やかだ。
「あけびちゃんを大切にしてるって意味だよ。二人を見てたらよくわかる」
「……心は据えているからな。問題は山積みだが、それでもあけびと共に生きていきたい。それは央もそうだろ?」
 央はそっと左手の薬指に目を向ける。
「まあ、ね」
 二人で生きていこう。その言葉を聞いた時、いつもどこか曇っていたマイヤの瞳が、すっきりと晴れた。明けの明星のように輝いたのだ。
「危うい所があると思った時もあったが……央がマイヤに指輪を渡した時、もう大丈夫だと思ったんだ。受け取ったマイヤの顔を見て、大丈夫だと思えた。きっとこれから、見てて羨ましくなる夫婦になるんだろうな」
 仙寿は語る。ベッドに腰を下ろしたリオンも頷いた。
「うんうん。いやあ、憧れちゃうよなあ。あれが大人の男女なんだなって」
 彼らのやり取りを見ていると、リオンまで胸が温かくなる。笑みを浮かべながら二人を見比べていた彼だったが、不意に仙寿は隣のリオンに振り返った。
「あと気になるのはリオンなんだよな」
「へ?」
 突然真面目な顔を向けられ、思わずリオンの頬が引きつる。当てずっぽうの揶揄い半分、なんて顔ではなかった。仙寿らしく、全霊でリオンにぶつかろうとしている。
「リオンはよく仁菜を見てる。いや、それは前からだが……纏ってる雰囲気が違うんだ」
 その眼光に胸の奥を見透かされた気分だったが、それでもリオンは笑みを繕う。
「いやー、俺とニーナは、兄妹みたいなもんだし……」
「どうだろう。傍から見てても、お似合いに見えるけれどね」
 お似合い、と言われてリオンの笑みは崩れる。耳まで赤くなり、リオンは口をもごもごさせた。仙寿達がさらに顔を近づけると、耐え切れなくなったリオンは二人を押し退け叫んだ。
「なんだよ! もーお見通しじゃんか!」
 リオンは渋い顔で二人の顔をぐるりと見渡す。仙寿と央は顔を見合わせると、互いに頬を緩めてリオンに向き直る。
「それくらい見通せる。さっきのゲームの時だって、何だかやけに嬉しそうだったしな」
「まあ、でも英雄二人だし、色々気を回しちゃって前に踏み出せないのかな」
 年上二人の波状攻撃。リオンは口を堅く結ぼうとしていたが、その隙間からするすると本音が引き出されてしまう。
「あいつは……応援してくれてるんじゃないかな。『面倒くさいから、お前ら早く素直になれ』とか何とか、仏頂面で言ってるよ」
 リオンは俯いたままぼそぼそと零す。仙寿は大丈夫じゃない少年の横顔を見遣る。リオンと仁菜の回復スキルとその頼もしさには、何度となく助けられてきた。そんな戦友が悩んでいるなら、どうにか助けになりたいと思うのが人情だ。
「なら、何がリオンを引き留めてるんだ。仁菜だって、王子様や兄貴分としてばかりじゃなくて、ただのリオン・クロフォードとして隣にいて欲しいと思ってるんじゃないか。俺には、そんな風に見えるけどな」
 リオンは僅かに仙寿へ視線を向ける。パジャマの襟を弄りながら、彼はさらに俯き加減を強くする。いつもの自信ありげな態度はどこへやら、どこか悄然としていた。
「これからも一緒に生きていきたいとは思ってるよ。でも、俺の後悔も過去も、全部ニーナに誓約として背負わせた俺が、そんな事願っていいのかな」
 何かを守り抜けなかった後悔。その後悔から遠ざかりたくて、仁菜の存在を頼っていた。妹や仲間を失いたくなくて、自分の手にしがみつく仁菜の心も知っていた。こんなものは破れ鍋に綴じ蓋で、ある意味お似合いだが、結局は痛悔に引き裂かれかけた心を互いにどうにか接ぎとめ合っているだけ。リオンはそう自分達を見つめていた。だから、「恋」なんて綺麗な感情で今更自分達を包める気がしなかった。
 しかし、そんな彼の背中に、仙寿はそっと手を乗せる。
「自分を信じろよ。俺は、ちゃんとなるようになると思うぞ。前だって今だって、リオンは仁菜のこと、しっかり考えてるだろ」
 リオンは黙り込む。央も自分の幻想蝶を取り出し、手元に載せた。ガスランプ風ライトの光を浴びて、夜の海のような深さを湛えている。央もまた、この深さに溺れてしまいそうな頃があった。だが、気付けばそこが心地よい居場所になっていた。この美しい海を守る事が人生の目標にすらなっていた。央は軽く身を乗り出し、リオンと視線を合わせる。
「誓約で背負わせたのは、俺も同じだ。消えたかったマイヤを、俺が誓約で縛ったんだ。……でも、今は収まるべきところに収まれたと思う。始まりが誓約だとしても、その後、どうなるかは君達次第じゃないかな」
 それでも、リオンはやっぱり踏ん切りのつかない顔をしていた。後ろめたさが、彼の足を止めている。仙寿は励ますように眉を開いた。
「俺達だって、もう家族みたいなもんだろう。二人だけで背負えない事は、皆で抱え合えばいい。そうじゃないか?」
「……それは、そうだけど」
「大切な人を頼りにするのは悪い事じゃないはずだ。悪いのは、本当の自分をテリトリーに置き去りにしたままでそうしようとする事だ。そのまま寄りかかっていたら、ちょっとバランスを崩しただけで、互いに倒れる」
 仙寿は、嘗ての自分を脳裏に過ぎらせていた。やりきれない思いを抱えていた頃に現れたあけびは、まさにヒロインだった。彼女の事を頼りにして、そのくせそれを認めたくないとも思って。しかし、あけびも苦しんでいる事を知って、対等であろうと足掻いて、共に『師匠』の背中を追いかけるようになって。そのうち、二人は自立していた。それでも手を取り合い走っているのだ。
「昔の俺達も……多分そんな所があったから、わかる。だから歩み寄るんだ。あともう一歩」
 リオンは自分の掌を見つめる。白馬の王子様ではなく、一少年のリオンとして。好きになった女の子と手を繋ぎたい。それを認めるのが何となく怖くて、心の奥に押し込めていた気持ちを、彼は掴んだ。塞いだ表情に、光が戻る。
「……何とか、なる。いや、何とかするんだ。ニーナとの事も。大丈夫!」
 お決まりの文句で復活したリオン。しかし、ニーナが好きな自分を認めた瞬間に、ある事を思い出して再びベッドに倒れ込む。
「あうう……あの時は何でもなかったのに……」
「どうした?」
「キャンプの時。あの寝袋の中で、俺……」

 ニーナはふわふわだった。

●Red string of fate
 一方、女子達は一つの客間を借りて丸テーブルを囲んでいた。パジャマ姿のあけび達に、ナイトドレス姿のマイヤ。三人揃って、お高い和紅茶に、仙寿が焼いたビスケットを浸して食べる。夜のティータイムをすっかり満喫していた。
「仙寿くんはいつもながら流石ね。このビスケット、紅茶にぴったりだわ。こんなお菓子を食べさせてもらえるなんて、あけびちゃんは幸せ者ね」
「へへ……ですよね」
 仙寿が褒められると、あけびはもう自分のことのように嬉しい。お返しとばかりに、あけびも央を称え始める。
「央さんも! あのプロポーズすっごく素敵でした! 本当にマイヤさんを大切にしようとしてくれてるんだなぁって感じが、私達にも伝わってきて……」
「はい、はい! 迫間さんとってもかっこよかったです! もちろんいつもかっこいいのですけど! こう、マイヤさんにしか見せない優しい笑顔が!」
 仁菜も興奮気味に語る。マイヤは頬を染めて、どこか照れくさそうにしていた。仁菜は両耳をふわふわさせながら、あけびへと振り返る。
「あけびさんもそろそろプロポーズされたりするのでしょうか?」
「それとも、あけびちゃんからプロポーズする?」
「ぷ、プロポーズって。それはまだ、早いかな。でも……」
 あけびは首から下げているネックレスを取る。手にした指輪には、仙寿の瞳と同じ色の宝石が嵌められていた。少し頬を染めながら、あけびは二人の目の前に差し出す。
「この指輪、仙寿とペアで。合わせると裏側に桜が浮かぶんです」
 八重桜に染井吉野。桜の花は二人の縁の徴だ。あけびは胸元で大切に握りしめる。
「私達も、いつか絶対結婚します。自分を全部預けても大丈夫だって、信じられるので」
「さすが。二人は付き合い始めてからブレないわね」
 希望に胸膨らませるあけびに、マイヤは目を細めた。あけびはうっとりして頷く。
「はい。仙寿だから、きっと素敵なプロポーズしてくれるって、信じてます」
「お二人とも、結婚式には呼んでくださいね?」
 仁菜は二人の幸せそうな顔を見比べる。少女は幸せなラブストーリーのラストを見届けているような気分でいた。しかし今度は仁菜の番。
「仁菜ちゃんはどんな感じなのかしら。何だかお母さんみたいな所があるから、誰かを好きになるって、あまりイメージ湧かないけど」
「そ、そうですよ。暁小隊で頑張ってますからね、私!」
 急に話を振られ、誤魔化そうと胸を張ってみせる仁菜。しかしマイヤは、口元を指を当てて勝手に考え込み始める。
「でも、感じの良い男の子が二人も近くにいるし、ちょっと大変そうね……」
「た、大変そうって? 何がですか?」
「私も、家族として他の女の子といる事もあるけど……もし大事な彼が出来たら、長く一緒にいるために、守るところはちゃんと守りましょうね?」
「ど、ど、どういう意味ですかあ!」
 マイヤの畳みかけるようなアドバイスに、仁菜はすっかりバタバタしている。その隙を見逃さずに、あけびが鋭く突っ込んだ。
「ねえ、リオンのこと、好きでしょ?」
「ふええっ?」
 突然の問いかけに、仁菜は頬を赤くした。マイヤもこくりと首を傾げる。そのうち、仁菜は近くのベッドへ逃げ込み枕で顔を覆い隠す。
「そんな! ずっと相棒だってやってきたのに、い、いまさら恋してる、なんて……言えない! ムリムリ、ムリ!」
 あけびも席を離れると、仁菜の傍に腰を下ろした。
「つまり好きって事だよね?」
「……だって、リオンはかっこいいし、王子様だし」
 いつも自分の手を握ってくれる王子様。その手に縋り付くのに必死だった頃もあったが、幾つもの死線を潜り抜けて、仲間も出来て。身も心も成長していくうちに、リオンを白馬の王子様としてではなく、一人のカッコイイ少年として見るようになっていた。
「でも、私のこと妹みたいにしか思ってないだろうし!」
 そう思うと、いつもと違って勇気も出ない。あけびはそんな仁菜の肩に手を載せる。
「どうかなぁ。リオンだって、仁菜のこと好きなんじゃない?」
「わ、私のことより。マイヤさんはどんな感じなんですか?」
 仁菜は枕で口元を隠し、ぼそぼそと呟く。とにかく話を逸らそうとしていた。
「あけびさんはもうラブラブみたいですけど。マイヤさんと央さんは……」
「私? ……央は、あれで案外……激しく求めてくれるから」
 人生の戦友でもある二人には、マイヤも思わず口を滑らせてしまった。その言葉の意味するところは二人もわかる。思わず仁菜は枕で顔全部を覆い、あけびはぽけっとしながら呟く。
「京都旅行の時も思いましたけど、央さんって、かなり男らしいですよねー……」
 少女には刺激が強かったことに気付く。白い肌を僅かに朱に染め、マイヤはハンカチで口を拭うような仕草をする。
「……そうよ。央はかっこいいもの。あけびちゃんはどうなの?」
「キスなら……よく、しますよ? そういうのは、結婚してからって決めてますけど……」
「はぁ」
 京都で肝胆相照らした二人の話に、仁菜は思わず嘆息する。マイヤはふと、艶めかしい微笑みを仁菜へと向けた。
「他人事みたいだけど……? 大人になったら仁菜ちゃんやリオンくんだって――」
「ヤメテー!」
 初心な仁菜は耳を塞いで足をバタバタさせた。初恋に心を揺らす少女は愛らしい。あけびは微笑み、小さくガッツポーズを作ってみせた。
「とにかく、仁菜がリオンの事を好きなら、リオンだって仁菜のこと、好きだと思うよ。だって二人、とっても息ピッタリだから」
「……はい。頑張って、みます」
 仁菜は観念して、小さく頷く。欠けた心のピースを埋め合うだけじゃなくて、一緒に前へと進みたい。そんな思いと、少女はようやく向き合うのだった。

 あけびはふと、置時計へと目を向ける。既に時は11時59分。新しい年が訪れようとしていた。三人は顔を見合わせる。
「もうすぐ年が明けるんだね……」


 仙寿達もまたその頃、時計を手に取りカウントダウンを始めていた。男子も女子も、ここに集った戦友達の想いは一つだ。


「みんなで、幸せになれる年にしよう」

 Lovers おわり



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

日暮仙寿(aa4519)
不知火あけび(aa4519hero001)
藤咲 仁菜(aa3237)
リオン クロフォード(aa3237hero001)
マイヤ・サーア(aa1445hero001)
迫間 央(aa1445)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
影絵 企我です。
長回しのノベルは初めてなので……上手い事皆さんの要望を落とし込めているでしょうか?
ゲームについては、この際なんで色々と設定詰めたりしてます。何もなければ仙寿さん達三週くらいしてそうな感じですが……受験中なのでまだ二周してないくらいにしました。ガンバッテ!
コイバナについては何分此方の経験が薄いので……上手く描けているでしょうか?

日付についてはそれらしいキリが見えたのでこんな感じにしていますが、ぼかしておきたかった、という場合はリテイクをお願いします。直しますので。その他についても、何かありましたら。

この度はご発注まことにありがとうございました。ではまた、御縁がありましたら。
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2019年01月17日

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