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『『続・愛の行方 前編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 歓楽街のビルで発生した爆発後。
 アレスディア・ヴォルフリートを背負って、ディラ・ビラジスは彼女の部屋へと戻ってきていた。
 本来ならば、病院に駆け込まなければならないほどの怪我を互いにしていたのだが、事件の事実を語るわけにもいかず。
 2人はアレスディアの部屋で怪我の治療をしていた。
「……ディラにも怪我をさせてしまったな。具合はどうだ?」
 彼の身体には切り傷、打撲痕があった。目の下、顎。見えない部分にもきっと沢山。
「平気。アレスと合流してからは、殆ど怪我なんかしてない。爆発の時だってアンタは俺を……」
 爆発で飛ばされた後、相手を庇い下敷きになったのはアレスディアの方だった。
「いや、狙われたのは私だ。巻き込んでしまって、すまなかった」
「は?」
 アレスディアの謝罪に対して、ディラは心底怪訝そうな顔をした。
「俺が所属していた団、俺のかつての仲間が起こした事件だ。アンタは俺の問題に巻き込まれたんだろ」
 ディラの言葉に、アレスディアは首を左右に振った。
「抗体を持ったものなら、いらくでもいるんだ。アレスが狙われたのは……俺が傍に居たから」
「そういうこと、だけじゃ、なくて……」
 アレスディアは眉を寄せて、口ごもる。
 ドクターに指示された場所に行き、アレスディアは戦いに臨んだ。
 ディラはそれを望まず、取引という道を選んだ……とアレスディアは思っていた。
 望まむ戦いに、彼を巻き込んだのは自分だ、と。
「だけじゃくて?」
「いや……何でもない」
 アレスディアは再び首を左右に振った。
「……それで、彼らはどうなった」
 手に包帯を巻かれながらアレスディアはディラに尋ねる。
 爆発の直後、はっきりと意識はなかったのだが彼女は生身の身体で、ディラを庇って更に深く傷ついた。
 その後の記憶は全くない。
「他に痛むところは、骨折はしてないか?」
「大丈夫だ」
「筋肉が傷ついているはずだ。当分の間動くなよ。買い物でもなんでも、俺が行くから」
 料理は出来ないから、しばらく弁当か出前ばかりになるななどと、ディラは軽い口調で言う。
「ディラ」
 アレスディアは彼の名を呼んで、彼の目をまっすぐに見た。
「爆発のことは、薄らと覚えている。……どうなったんだ?」
 再度、アレスディアが尋ねると、ディラは視線を彷徨わせたあと、観念したかのように彼女と合わせた。
「入っている情報では、怪我人は数名でいずれもあの部屋以外にいた者だ。爆発が起きたと思われる地下には誰もいなかった」
 誰もいない――。
 アレスディアたちの世界と、この世界では次元が違う。
 彼女達の世界の住人がこちらの世界で完全に息絶え、一切の蘇生の可能性を失った時。
 その者を形成していた物質も、魂も全て、元の世界へと還る。
 つまり。
「全滅、か」
 アレスディアの言葉に、ディラは返事をしなかった。
 彼も現場を見たわけではなく、爆発は部屋を出て彼女を連れて階段を上っている時に起きたのだ。ディラも正確な原因は知らなかった。
「……そうか……」
 アレスディアは拳を強く握りしめた。
「誰一人……命も、その、心も……助けられなかった、か……」
「ウイルスで完全に失ってしまった心は元には戻らない。奴らの心は、肉体の死でウイルスから解放された」
 拳を握りしめたまま、アレスディアはディラの言葉を聞いていた。
 何か思うところはあるようだが、彼女の口からそれ以上の言葉が出てくることはなかった。
「とにかく休め」
 治療を終えると、ディラはアレスディアに身体を休めるように言い、ベッドに促した。
 身体の痛みだけではない、体の痛みだけならいくらでも耐えられる。
 それだけではない深い痛みと耐え難い苦しみに、アレスディアは襲われていた。
 ベッドに横たわり、アレスディアは自分を見下ろすディラに目を向けた。
 彼を見ながら口を開きかけては閉じて。瞳に苦しみを湛えながら、小さく彼女は問いかける。
「……なぁ……ディラ……あの、約束……覚えているか……?」
 約束。
 彼の部屋で、交わした大切な約束があった。
『その矛で、私を護ってくれないか。私の盾で、護らせてくれないか。道半ばで力尽きるかもしれない。でも、共にいてくれ。共にいさせてくれ。この道がどこへ続こうと、最後まで。私は、ディラと共にいたい』
 アレスディアのその言葉に、ディラは『嬉しい、苦しほど。俺は、そうありたい』と答えた。
 そして2人は約束を交わした。
“何かあったら、必ず互いに連絡をする”と。
 1人で行かないと、アレスディアを置いていかないと。必ず連絡をくれる、と。
「私は……」
 小さな小さな声で、アレスディアは続ける。
「ディラにとって、信じるに、足る、盾では……ないのか……?」
 ディラが口を開くより早く「すまない」と、アレスディアは彼に背を向けた。
「……今日は、もう、休むから……ディラも、ゆっくり休んでくれ……」
 彼は何も言わなかった。
 そしてそっと、その場から去って行った。
 玄関のドアが開く音、閉じる音が響いた。
 握りしめる拳が、震えていた。
 ベッドの中で、きつく目を閉じて襲い来る深い苦しみの中、彼女は震えていた。

 彼女の言葉に従い、外に出たものの、ディラは帰るつもりはなかった。
(護りたい者に護られ、失う辛さは誰よりも知ってるんじゃないのか? 俺はアンタを失って、独り生きるつもりはねーぞ)
 アレスディアが抗体を持っており、戦いで活性化させることの出来る女であることは、団に知られてしまっている。
 同じように脅迫された時、彼女はまた一人で危険の中に飛び込もうとするかもしれない。
 例え、止める事が出来なくても傍に居る。軌道を変えて、生きる道を切り開く。
 少なくても今、こんなにも弱っている彼女の側を離れることはできなかった。
 彼女の家の側で野宿するつもりで、ディラは食料を買いに行った。

 その僅かな時間、だった――。

 異質な空気を感じて、アレスディアは目を開いた。
 薄暗い部屋の中に、黒い影が漂っている。
 異質な物質から逃れようと、咄嗟にアレスディアはベッドから体を落とした。
 しかし、彼女の身体は床に落ちることはなく、影により拘束されて、宙へと浮いていた。
「ぐ……っ」
 首にも影が絡み、声を出すことも出来ない。
 そして、部屋の中の闇は深くなり、現れた渦の中へと彼女の身体は引き摺り込まれた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸です。
今回のアレスディアさんの過去にまつわる物語も、全3回で書かせていただければと思います。
もう1本のご依頼は続きとなっていましたため、中編として書かせていただいております。
それでは何卒よろしくお願いいたします。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月18日

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