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『終極、そしてその先の未来に向けて 』
魂置 薙aa1688)&ピピ・ストレッロaa0778hero002)&ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001)&皆月 若葉aa0778)&エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001

 そろそろ着く頃だろうか、と視線を隣を歩く二人から前に戻して。思わず止めそうになった足をラドシアスは平静を装って踏み出した。目聡くこちらを見ようとした若葉はピピが大きく手を振り、名前を呼んで駆け寄るのを見て追いかけていく。歩調を早めながらラドシアスも後に続いた。少し先にある家の表札には魂置と書かれている。
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫、だよ」
 と、互いに近付いて合流した若葉と薙がそんな言葉を交わし合い、
「エル、すっごく可愛いねっ!」
「ふふ。ピピに褒められるとは、頑張った甲斐があったの」
 勢いよく向かっていったピピを受け止めたエルが微笑み、ぎゅっと抱き返した。
「ねー、ラドもそう思うよね?」
「……そうだな」
 振り返って無邪気に笑うピピから改めてエルに視線を向け直して、同意だけを返す。それでも彼女は嬉しそうに目を細めて笑うから何とも言えない心地になる。
 愚神との戦いもいよいよ終結が近付いてきたこともあり、その合間を縫って元日早々に行なわれた新年会。自分たち五人だけでなく、これまでの戦いをきっかけに縁を結んだ人々と共に遊んで騒いだ純粋に楽しいひと時だった。その席でも親友である若葉と薙、そしてその英雄のラドシアスとピピ、エルは同じテーブルを囲んでいたので話す機会も多く、新年会が楽しいという話題から昨年の思い出話に花が咲き。そういえば去年は初詣に行きそびれたと薙が呟いたのを聞いてそれなら今年は絶対行こうと、若葉は妙に力強く返した。そうしていつまた戦況に追われるとも知れない現状を鑑みて三が日のうちに行くという結論になり、今に至る。
「そろそろ行こうか」
 若葉の呼びかけに三人が短く答えて、ピピが元気よく手を上げる。五人で横並びに歩くわけにもいかないので、流れのままに前を若葉と薙が、その後ろを左からラドシアスにピピ、エルの順に並んで歩く。余所見をするといつどこに行くともしれないピピの右手はエルの左手と繋がれ、楽しそうに歩く度にエルの手ごと強く振る。それでも嫌な顔をするどころか至極嬉しそうな彼女の横顔と、その普段と違う装いにラドシアスは密かに視線を向けた。
 晴れ着姿は去年の椿祭りでも見た覚えがある。だが髪を結い上げているのは同じでも、髪飾りが違えば着物の色も違っていて、首に巻いたファーショールは見るからに暖かそうだ。さすがに足元まで見るのは気が引けて確認していないが、歩く音が重いのは若干気にかかる。ここから駅までならともかく、神社の最寄り駅からはそれなりに歩くはず。歩き辛さのせいで躓く可能性もなくはない。
 駅に辿り着くと案の定、人がごった返していて内心辟易しつつ、小柄なピピを見失わないようにラドシアスもその手を取りしっかり握った。果たして周囲の人間から自分たちはどう見えるだろうか。そんな思考を追いやって全員の姿を確認しながら電車に乗り込み、二人を扉の前に立たせてラドシアスは他の乗客との間に入る。若葉と薙は一つ前の扉辺りにいるはずだ。神経は使ったがその甲斐あって何事もなく揃って降車でき、駅を出れば人の流れが神社への道標になる。
「楽しみは後に取っておくのもまた一興じゃ」
 大きな神社での初詣はどんな感じなのか聞きたがるピピに、エルがウインクして言ったのは合流してすぐのこと。それで期待が高まったからか、鳥居が見えた瞬間するりと手を解いたピピは前を歩く若葉と薙に抱きつき、引っ張っていこうとする。
「ひやっとしたか?」
「……少しはな」
 はぐれたらと思うと肝が冷える反面、今日のピピは自分たちから離れそうもないという、漠然とした予感もある。彼女の顔を横目で見、空いた距離を詰めて。
「よく似合ってる」
 綺麗だとか可愛いなんて思っていても口に出せないが。言葉の奥底まで汲み取ったエルは唇に手を添えて笑う。礼を言う彼女の肩をラドシアスはただ引き寄せた。

 ◆◇◆

「わーい、お店がいっぱい♪」
 ぎゅっと右腕を掴むピピが声をあげたとおり、参道の脇にはずらりと出店が並ぶ。普段若葉たちがお参りに行く神社はここより近く規模も小さいところなのだが、今日敢えて遠いここを選んだのも、この屋台が目当てといっても過言ではない。三が日中に行こうという話になったときにすぐ思い浮かんだのが、この神社の賑わいだった。といっても、全国的な知名度を誇る場所に比べれば人混みもそこまで多くなく、参拝者の列も少しずつ前へ進んでいる。逆に何を売っている店か確認するのが難しいほどだ。焼きそばやフランクフルト、カステラといった定番が目に入る。
「あ! あれ美味しそう!!」
 ピピが指し示す方向に薙と揃って目を向ける。
「……たまごせんべい?」
「お好み焼風かな? パリパリして美味しそう」
 じっくりと見れなかったが、大きな煎餅の上に目玉焼きが乗っていて、トッピングがお好み焼っぽいのは何となく分かる。
「名古屋名物、って、書いてある」
「だから見たことなかったわけだ」
 都内ではやはり珍しいようで前に並んでいる女性が振り返って連れの男性に言っているのが聞こえる。帰りに皆で買おうかと話していると、今度は若葉がいる側の店をピピがあれも! と指差して跳ねる。
「……ちょ、何あれ」
 何だかとんでもない絵面が見えたような。
「あれはパフェでよいのか?」
「だと思うが……食べづらくないか?」
 真後ろを歩くエルとラドシアスも困惑した様子だ。若葉がそちらへ目を向けるのと同時にピピが手を離して今度はラドシアスの腕を掴みながら、例の物を見たいのか後ろ向きに歩く。
「さっきの、食べてみたい!」
「買うのはいいが……参拝が終わってからだ」
「……お参りが終わったらすぐ食べていい?」
「ああ。私が何でも買ってやるぞ」
「……それもどうなんだ?」
 普段は笑顔一つとっても優雅だとか気品があるという表現がしっくりくるエルだが、ピピに接するときの彼女は少し子供っぽい感じがする。どこか誇らしげな彼女にラドシアスが指摘を入れるが聞こえなかったのか、無邪気にはしゃぐピピがまた二人の間に収まって、再び手を繋いだエルはにこにこと楽しそうだ。何だか、
「何だか、親子みたい、だね」
 若葉が胸中で呟いたのと一言一句同じ内容が薙の唇から零れる。思わずふ、と笑ってから同意の言葉を返した。
「やっぱりエルルは、ラドさんに任せて、大丈夫みたい」
「楽しそうだしね。エルさんも、ラドも」
 当人には聞こえないよう顔を寄せ、小さく囁き合った。二人きりも勿論素敵だろうけど、ピピと一緒のときの二人も微笑ましい。
 屋台が途切れたと思えばいつの間にか手水舎まで来ている。ちょうど三人同時に捌けたのもあって薙に勧められ、若葉とラドシアス、ピピの三人で先に清めさせてもらうことにした。
(たまにだとやり方忘れちゃうんだよね)
 幸い、直ぐ脇に立て札があったのでそれを確認しつつ、作法通りに進める。ちらりと横目で見れば、
「まずは……」
 と右手で柄杓を取ったラドシアスがピピを見ながら右手だと補足を入れる。こくこくと頷いたピピも同様にして、手本を見つつ説明を聞きつつ、手順をこなしていった。ラドシアスの手慣れた動きに凄いなと感心し、逐次調べるより早いので途中から若葉も一緒に見習う。左手に溜めた水に口を付けたところで隣からごくんと勢いのある音が聞こえた。
「……飲んじゃった!」
 それで、そうだ、すすぐんだったと気付く。
「あぶね……俺も飲むところだった」
 残った水を流しつつ笑いながら言えば、やり直すピピを見ていたラドシアスがこちらを見返して苦笑する。
「まあ、よくあることだな」
「あるあるだね」
「ちゃんと出来たよ!」
 えらいえらい、とピピの頭を撫でると満面の笑みが返ってくる。その小さな肩に触れて、先に三人手水舎から離れた。前の二人と入れ替わりに正面に来た薙とエルと目配せを交わす。

 ◆◇◆

「冷たいっ」
 最初の手順だけは先程ラドシアスがピピに教えていたのを聞いていて分かっており、実践してみたら水の冷たさに思わず声をあげる。若葉に去年は行かなかったと言ったが、実のところ薙が初詣に来たのは随分久しぶりで。作法があるという知識は持っているが、何分経験が浅く慣れていない。誰か他の人を手本にと思ったところで、隣のエルを見れば意外にもまだ終わっておらず、有難く参考にさせてもらうことにした。
(……あ、これ)
 ラドシアスのように教えたり見守ったりはしないけれど。エルの丁寧な動きは単にその所作が優雅というのを通り越し、自分に見本を見せているのだと気付く。しかし薙があれから行っていないのだからエルは当然初めてのはずなのに迷いなく、着物の手配と同じく自習済みだと知ると素直に尊敬の念を抱いた。
「エル、ありがと」
「ふふ。来年は一緒に復習するとしよう」
「うん」
 手水舎から離れて若葉たちと合流する前にお礼を口にする。エルの返しに、来年は若葉の前でスムーズな所作を見せられるように練習したいなと思った。
 再び行列に戻って手水舎でのあるある話や屋台で何を買うかを話している間に拝殿まで辿り着いて、今度は若葉と薙の二人が先に前へ進む。とその前に。
「……お辞儀は何回だっけ?」
「二拝二拍手一拝だ」
 こそっと後ろを向いて訊く若葉に、ラドシアスが淀みなく答える。お礼を言って正面に向き直った彼と一緒に足を踏み出し、賽銭を入れてそれぞれの正面にある鈴を鳴らす。二度お辞儀をしてから胸の高さで手を合わせたあと拍手も二回。そしてまた両手を合わせて祈願する。
(絶対、勝って、帰ってくる)
 決戦はもう間近に迫っている。不安がないと嘘は言えない。それでも、まずは勝つこと。そして必ず帰るのだと固く誓った。す、と目を開けて、隣で手を合わせる若葉を横目に見る。勿論自分だけではなく、彼に後ろの三人に友人たちも。一緒に帰って、皆で築いた平和な世界を生きていくのだ。大切なものを守る為に全力で戦い、勝ちを掴み取ると。改めて決意して再び瞼を上げる。最後にもう一度お辞儀をして若葉と顔を見合わせると揃って拝殿から離れた。

 正しい手順をこなして目を閉じれば意識は作法から遠ざかって。若葉は来年も五人全員が笑顔でここに来られるように、と願った。王を倒したとき、能力者としてこれまで重ねてきた戦いの日々は終わりを告げる。だからこのありふれた、小さな幸せを守るのだ。決戦の後にはまた、考えなければならないことが待っているけれど。今は勝つ未来だけ見据えていようとそう思った。

(今年も皆と共に、変わらぬ日々を)
 エルの願いは突き詰めればその一言に尽きる。薙の誕生日にも思ったことだが、この一年は特に彼が心身ともに成長し、またより良い方向へ変わっていく姿が見られて、戦いは決して生易しいものではなかったが、喜びの方が遥かに大きかったと断言出来る。それも若葉たちやここにいない友人たちのお陰。だから彼らへの感謝と、これから共に過ごす日々を思い、エルは胸元で合わせた手にそっと力を込めた。

「…………」
 ただ静かに祈りを捧げる。人事を尽くして天命を待つ。そんな心境なのは皆もだろうと思いながら、ラドシアスはこの平穏で幸せな日常を守るのだと改めて己に誓った。生まれは別の世界にあろうとも、若葉と交わした誓約を違えるつもりはない。それは二人に共通する最も強い目的なのだから。若葉の親友であり、自身にとっても友と呼べる薙。世話の焼ける、でも絶対に放っておけない末っ子のピピ。言葉では表現出来ないほど大事に想っているエル。自分より他人を優先する相棒の若葉。彼らや関わりを持った人々を必ず守る。目を開き、腕を下ろすと再び姿勢を正し、ラドシアスはもう一度深く頭を下げた。

 隣に並ぶ二人の動きを真似し、ぺこりぺこりと頭を下げてぱんぱんと手を叩き。それからピピは神様にお願いした。
(今年もたっくさん、みんなの笑顔が見れますようにっ!)
 去年もその為に若葉と一緒に戦ってきたから。だからまた頑張れば叶うに違いないのだ。そんなふうに思うと背中の羽がむずむずして、皆と一緒に空を飛び回れたらきっと楽しいのになと想像する。目を開けて、今日は帽子がないので勢いよくぺこりとお辞儀をして。それからピピはまずは自分からと弾ける笑顔を浮かべ、こちらを見ている二人の手をぎゅっと握った。

 ◆◇◆

 木の箱の中に手を入れ、がさごそと中をかき混ぜる。
「んー……これっ!」
 ちょうど手のひらに収まるように触れた紙を取って、着物のお姉さんに手渡せば八十一番ですねと笑顔で言ってお神籤と交換してくれた。すると隣からえっ、と小さく声が零れて、ピピはそちらを見る。
「同じ番号、だね」
「ホント?」
 薙のお神籤にも確かに八十一番の文字があった。お姉さんも驚いているので多分珍しいのだろう。
「あっち行って、一緒に、見よう」
 ピピが頷くと薙は手を取り、後ろの若葉たちに声をかけて列から離れた。人だかりが出来た木の近くの、隅っこに寄って二人しゃがみ、お神籤を開く。
「中吉だ! それから……何書いてるのか、分かんないっ」
 中吉の文字の上下にも何か書いてあるが、読めなかったり読めても意味が分からなかったりしてピピは首を捻る。するとこれはね、と薙が一つ一つ丁寧に説明してくれた。
「恋愛は……相手を思いやるのが、大事、だって」
 と言って、薙は難しい顔をする。
「ナギ、好きな人いるの?」
 何となく訊いてみると彼ははっとして、それから少し考えて、
「……内緒」
 と小声で言うから、ピピも分かったと頷く。
「ピピちゃんも、いい子、だね」
 伸ばされた手に髪を撫でられ、気持ちよさに目を閉じる。薙はくすりと笑い、少しして手を下ろすと続きを説明してくれた。全部終わった頃には三人も合流する。
「何が出た?」
「中吉じゃ。上々といったところだの」
「俺は小吉。ラドは?」
「……末吉だった」
 立ち上がった薙の問いにそれぞれが答える。
「小吉と末吉って、どっちがいいんだっけ?」
「小吉だな。内容を見れば分かる」
 なるほど、と若葉がラドシアスと自分のお神籤を比べ始める。それを聞いていると、若葉は我慢したり時を待てば何とかなるという内容だが、ラドシアスの物は急ぐなだの避けろだのの文字が踊っていて何だか凶とあまり変わらない感じだ。同じ中吉のエルのお神籤はピピと薙の物よりも前向きな内容が多い。
「結んで悪い運気を置いていこう」
 と若葉がラドシアスの顔を見上げて言って、そうするかと彼も頷いた。
「ナギとエルも一緒に結ぼ!」
「うーん……僕は、取っておこう、かな。それと、ちょっとだけ、待ってて」
 お神籤を綺麗に畳んで財布に仕舞うと、薙はどこかへ小走りに行ってしまった。首を傾げるピピの肩にエルの手が乗せられる。四人で一緒に木の前まで行き、ピピは届かないのでラドシアスに抱えてもらって皆と同じ場所に結んだ。
「良いのも悪いのも半分こ!」
 ゆっくりと下ろされながら言って振り向けばラドシアスの唇の端が少し上がる。それが嬉しくてピピも笑った。
「薙の様子を見てこよう。皆は先に屋台のほうへ」
 分かった、と直ぐにラドシアスが頷く。迷わず歩いていくエルの姿ははぐれたとき自分を迎えに来てくれる若葉やラドシアスに似ていた。

 ◆◇◆

 近付いていくと足音に気付き薙が振り返る。
「いつもなら、気に留めない、けど。だけど、今年は……」
「皆まで言わずともよい」
「……うん」
 視界に入って気になったのはエルも一緒だ。
 台へと向き直る薙の隣に並ぶ。書き終わってこちらを見た彼は、ん、と持っていたペンを差し出す。それと絵馬の両方を受け取り、魂置薙と書かれた下の空白にエルも連名する。
 皆と一緒にいられますように。それが薙の願いでありエルも同じ心境だ。普段は神頼みはしないし、しようとも思わないが山場を控えた今年ばかりは例外だった。
 三人に隠したいわけではない。むしろ彼らだって同じ思いだろうという確信もある。でも今は二人、言葉なく同じ思いを共有したかった。ただそれだけ。

 絵馬に書いた皆という言葉に嘘はない。けれど、薙の脳裏にはたった一人の姿が思い浮かぶ。唯一特別にだなんて欲張りな願いだ。口にはせず、既に沢山の願いが並んだ絵馬掛に自分たちの物も奉納した。願い事を指でなぞって、そして、エルと連れ立って皆の元へ戻った。

「珍しい物があるの」
 と参拝に行く途中では人気過ぎて見えなかった小さな粒状のアイスをエルが見つけ、ピピだけでなく薙も若葉も、何ならラドシアスまで興味を惹かれていたから、それも買って。予め目星をつけていたたまごせんべい、口の部分にアイスや果物が乗った姿がインパクト大のたい焼きパフェも、と一度に持ちきれない量だったので、空いていた休憩所の椅子に一旦座って食べる。
「ふふ……しあわせ♪」
 嬉しそうにたい焼きパフェを頬張るピピの前には特に食べ物が多く並んでいる。エルが財布の紐を緩めて色々買ったのはここだけの話だ。うちの子にならないだろうかと改めて思う。並んで座った薙と若葉が違う味のアイスを分け合い、感想を言っているのも微笑ましい。
「エルも食べる?」
「よいのか?」
「どうぞー!」
 髪がかからないよう手で押さえ、差し出されたスプーンに口を寄せる。抹茶と粒餡、バニラアイスのバランスが絶妙だ。もう一度同じように掬ったピピがラドシアスにそれを向けたときはどきっとしたが、彼が何食わぬ顔で食べたのを見ていっそ呼吸が止まりそうになる。顔の熱を誤魔化すように咳払いし、自分のパフェに手をつけた。
「これ……どう食べるのが正解?」
「んー、どうだろ……?」
 たまごせんべいを手に悩む若葉と薙をよそにピピは同じ物をさくさくと食べ進めて、
「……顔」
 エルがティッシュを用意するよりも早く、半熟卵の黄身がついたピピの頬をラドシアスが拭う。溜め息交じりの微笑みは面倒臭さよりもずっと楽しさが上回っている証拠だ。エルに甘いと言う彼も大概、ピピに甘い気がする。その気持ちはよく分かるけれど。慎重を期しているものの黄身の手強さに翻弄される薙にティッシュを慌てて手渡し、盛大に零すのを何とか回避出来たかと思えば、今度は若葉の卵が危うい。
「若葉、これ」
「うん。薙もエルさんもありがとう!」
 余分に渡しておいたティッシュを薙が譲って、危機を脱すると口元に少しだけついた黄身を拭いた若葉にお礼を言われ、二人揃ってどういたしましてと返した。しかし興味は惹かれたものの買わなくて正解だった。薙と二人なら多少の失敗はよしとして、恋人の前で卒なくあれを食べる自信はエルにもない。
「ラド、どこ行くの?」
「飲み物でも買ってくる」
「それなら僕も、荷物持ちする、ね。だから、エルルは、座ってて」
 腰を浮かせたところで言われ、座り直す。
(相手のことが分かるのは薙も同じ、か)
 自分たちは家族だから。そんなことを思いながら残りは食べながら帰ろうかと話しているとじきに二人も戻ってきた。
「おお、甘酒か」
「寒い中並んで冷えただろうと思ってな」
「熱いから、気を付けてね」
「ありがとー!」
 薙がピピに一つ手渡し、器用に三つ持っていたラドシアスが若葉とエルに甘酒を配る。若葉と二人で話しているときとはまた違う笑みが薙の顔に浮かんだ。
「参拝の後の甘酒って好きなんだよ♪」
 という若葉の気持ちも分かる。エルも体の芯まで温まってほっと息をついた。ピピも美味しそうにごくごく飲んでいる。
 飲み終わると片手で持てる分を持ち家路を辿る。と、不意に腕を引かれて顔をあげた。
「帰るまで掴んでてくれ」
 恋人にも慣れない着物と草履で疲れていたことなど、お見通しだったらしい。その言葉に甘えて腕を絡めて二人笑い合った後、振り返ってこちらを見ている三人の元へ歩き出した。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1688/魂置 薙/男性/18/アイアンパンク】
【aa1688hero001/エル・ル・アヴィシニア/女性/25/ドレッドノート】
【aa0778/皆月 若葉/男性/20/人間】
【aa0778hero001/ラドシアス/男性/24/ジャックポット】
【aa0778hero002/ピピ・ストレッロ/不明/10/バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
五人勢揃いのお話を書かせていただけて、凄く嬉しかったです。
詰め込めるだけ詰め込んだつもりですが、書き切れなかったり、
視点がころころと変わる、かなり変則的な形になってしまいました。
互いの呼び方等、一応確認していますが間違っていたらすみません!
お神籤の結果はランダムです。なので被りにはびっくりでした。
あと、ラドさんとエルさんの絡みが書いていて一番楽しかったです。
今回は本当にありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
りや クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2019年01月18日

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