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『交わし反響する気持ち 』
ティアンシェ=ロゼアマネルka3394)&メアリ・ロイドka6633

 ぬくもりの中で眠りにつき、引き上げられるようにして目覚める。
 外気は冷たく、朝の訪れと共にひんやりとティアの頬を撫でる。ぶるりと震え、名残惜しく思いつつも寝床から這い出ると、抜けるようにしてぬくもりが失われていった。

 目覚めるときは、一人。
 それが当たり前だってわかっているけれど、仮初でも幸せな眠りを知ってしまったから、多少の落胆を覚えてしまう。
 気を紛らわすようにして朝のお茶をかき混ぜ、晴れない気持ちにため息をつきそうになる。
 会いたいな、という気持ちがあり、会ったばかりでしょう? とティアの理性が自身を窘める。
 しつこく思われたくないから気持ちは理性の方に引っ張られて行くのだけれど、うっかりすると沈みそうになるから、何か他のことをしよう、と思った。

 …………。

 気晴らしに出かけた先で、メアリと会った。
 メアリの表情はさほど変わらないけど、柔らかに細まる眼差し、抜けた肩の力が歓迎している事を示してくれる。
『こんにちは、メアリさん。お出かけです、か?』
 嬉しくて微笑み返し、スケッチブックを掲げて首を傾げる。
「こんにちは、メイさん。気晴らしの散歩ですね、……あの人に会えれば、と思うのですが、中々そうは行かなくて」
 平淡な口振りなのに、メアリの声色はほのかに憂いを帯びている。
 彼方に向けられる眼差しは、当てもないのに想い人を追ってしまう。都合のいい偶然なんて望むべくもないのに、自分を止められない。
 覚えのありすぎる感覚に、ティアはあぁ……と納得と共感の息を吐いた、聞いてもいいのだろうかと迷いつつも、次の言葉をスケッチブックに書き込んでいく。

『会えそうです、か』
「今日は無理だと思います、……まぁ、する事もないのでぶらついてた訳ですが」
 想いの強い日は、気がそぞろで何もかもが手につかない。
 気持ちはとてもわかってしまうのだけれど、友達をこのまま放って置くのもティアにとっては余り望ましくなかった。
 ――想いに手出しは出来ないけど、思いつめる気持ちだけでも少しはほぐしてあげたい。
 どうすればいいだろうかと考えて、ふと閃いた事を急いでスケッチブックに書き込んだ。

『では、私とお茶会をしません、か』

 …………。

 どういう事か尋ねるメアリに、『恋のお話がしたい、です』とティアは少し恥じらいながらも答える。
 立派な助言なんてティアにはできっこない。
 恋を想って苦しくなるのはティアだって同じで、メアリの話を聞いても、きっと頷いてあげる事しか出来ないけど、今はそれが必要なように思えた。
 ただ、頷いて肯定してくれればいい。貴女の想いを知り、似た気持ちを抱く同志がここにいると感じて欲しい。
 想いはずっと抱えてると苦しいけど、分かち合えばきっと少しは軽くなる。

『お茶を、用意しましょう。特別な日の、とびっきりのものを。お菓子も用意して、おめかしして』
 溢れそうな想いで壊れる前に、言葉の花として咲かせてしまおう。
『女子会……と言うのでした、か。あの』
 私でもいいですか……? と控えめに書き込んで示したら、メアリにしては珍しく、ちゃんと笑みとして口元が綻んだ。
「……そうですね、是非ご一緒させてください」
 わぁと掌を合わせて喜ぶティアに対して、なんと言えばいいのか、そう考え込む風にメアリの視線が泳ぐ。

「いいのか、ではなく。……この話をするなら、きっとメイさんがいいと思っています」

 +

 待ち合わせの時間を決めて、準備のためにティアは家に戻ってきた。
 まずはお茶をする場所の用意、二人分の椅子と、色々並べられるだけのテーブル、特別だからと可愛いクロスも探してきて上に掛ける。

 必要以上にはしゃいでいる、そう自覚出来るくらいにはティアは浮かれていた。
 お友達とコイバナが出来るだけでも大概嬉しい、その上今回はおうちに招いてのお茶会がついてきて、更に当人がティアを望むような言葉を口にしてくれている。
 どれくらいの重みがあったのか、ティアには推し量りようもない。勘違いかもしれないけれど、それでも応えて貰った事が、舞い上がりそうになるくらい嬉しい。

 用意する御菓子は、外で買ってきた特別なもの。
 自室に戻って着替えをして、待ち合わせの数分前にお茶の準備をする。
 姿見で身だしなみをチェックして、用意は万全。ドキドキしながら時間が過ぎるのを待ち、ベルの音に飛び上がると、いそいそと出迎えに向かっていた。

 …………。

「女子会の経験が余りないので、これでいいのかわかりませんが」
 そう言って、メアリが持参したのはふわふわの苺ショートだ。
 何を手土産にしたものかと思い悩み、スイーツ系のお店をうろついた挙げ句、ショートケーキの印象がティアに似ているという事でこれにしたらしい。
 余りにもストレートな好意表現に、ティアは自分が口説かれてるんじゃないかと錯覚を抱きそうになる。そんな事はないのだと自分を奮い立たせながら、ティアはあわあわと『有難うございます、とても嬉しい、です』とスケッチブックに書き添えた。

 荷物を置き、お互いの服を見せ合うようにして、スカートをつまんで一礼する。
 ティアの服は白のふわりとしたワンピース、黒のコルセットで色合いを引き締めて、裾に施された緑の刺繍が柔らかな印象を増していた。
 左側のリボンには形見のロザリオ、右側は左と同じ白だったはずが、今日は緑のリボンになっている。
 メアリは普段の落ち着いた印象から一転、大人びた黒のワンピース。
 体のラインに沿ったものだけれど、露出の低さが上品さを感じさせる。少し色を薄くした黒のコートを身につけ、アンクルストラップがついたワインレッドのヒール、ワインレッドの口紅が鮮やかに映っていた。

 着席した後もティアがそわつくのは、気恥ずかしさが半分、相手の思惑を知りたいのが半分と言ったところか。
『とても、素敵です。メアリさんがぐっと大人びて、おめかしって感じ、で』
 綴ったスケッチブックを見せると、メアリは少し悩ましげにしたものの、有難うございます、と小さく礼を告げて来た。
 想い人の色に合わせ、化粧品もそのために新調したのだと言う。
「メイさんも、……リボンが変わっていますね」
 言葉はなく、代わりにティアは手を両頬に当てて恥じらう素振りを見せる。
 緑のリボンは、彼と自分のものを交換した結果だ。強く主張するのは恥ずかしいけど、ワンピースにもこっそりその色を入れていた。

「リボンの交換ですか……素敵ですね」
『あの子だけずるい、って思う気持ちも……少しはあるんです、けど』
 席を立ち、ちょうどいい具合になったお茶をカップに注ぐと、爽やかな柑橘系の香りが空間に満ちる。
 お皿を数枚用意して、各自持ち寄った御菓子を広げる。
 彼のリボンをもらえたのは嬉しい、嬉しいけど、もっと欲しいって思ってしまうから、切なさは一向に満たされない。
 リボンだけが彼の傍に行くことが出来た、そう考えればほのかなやきもちだって湧くのだ。

「受け取ってもらえただけ、傍に行くことが出来た……という考え方もありますか」
 何の話? と首を傾げると、メアリはため息混じりにプレゼントの経緯を口にする。
 マフラーを贈ったのだけれど、首に巻くものは使わないと言われてしまった事。
 家で腹巻きにでもしてくださいと言ってゴリ押しして……なんとか受取拒否はされなかった。
 落胆は大きい、でも受け取ってもらえただけ、救いを感じてしまう、もちろん一方的なものだって自分でもわかっているのだけれど。

「振り向いて欲しいって……思って」
 空になったカップがソーサーに置かれ、メアリの手の中で乾いた音を立てる。
 自分に興味がないって、わかっていた。それでもいいって決めたのに、切なくて辛くなる。
「でも……好きなんです」
 わかります、そう心の中で頷いて、ティアはスケッチブックに大きく『はい』と書いた。
 好きって告げたのは自分だけ、ティアも気持ちは一方通行。
 返ってくる気持ちがないからどうしても不安で、でも優しくしてもらえるから、些細な挙動を勘違いしたくなる。
 つらつらとティアが記せば、今度はメアリが大きく頷いた。

「似ています、……とても」
 興味がないのに優しくしてくれるんです、そう呟いてメアリの両手指がテーブルの上で重ねられる。
 無関心だからかもしれません、と口では冷静ぶるのに、諦めきれてないところも良く似通っていた。
『好きになってもらうって、難しいです、ね』
 こればかりは二人ともに答えを出す事が出来ない、自分が彼を好きなところなら答えられるのに。

「久しく見ていませんが、……彼の笑顔が好きです」
『わかり、ますっ』
 二人の想い人はそれぞれ違う表情をするのだろう、それでも二人ともに想い人の笑った顔が好きなのだという。
『私に意地悪するときの、笑った顔が』
 こう書くと自分が変な子みたいで、ティアは途中でへこたれてしまう。
 気を取り直して新しいページをめくり、自分の想い人も優しくて、そういうところに惹かれるのだとはにかみながら綴った。
『あと、頑固、です』
「わかります」
 きっと意味は少しずつ違うのだろうけど、またしてもの共通点に、どうしようもないとばかりの苦笑がティアから零れる。
 信念が強い、そういうところも好き。中々ほだされてくれなさそうだから、手強い場所でもあるけど。

 『彼が好き』、その想いを交互に言葉にして確かめる。
 一人だと何も返らないからとても心細いけど、お友達が気持ちを受け止めてくれるから、もう少し頑張ろうと思えている。

 腰を抜かした時に背負ってくれた、広い背中を好きって感じた。
 彼に惚れ薬が効かなくて、それくらい絶望的だとは思いたくなかったから、逆に両思いだって主張したくなった。
 取り留めのない話をつらつらと交わす、溢れた暖かい気持ちを、もう一度胸にしまいなおして――。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3394/ティアンシェ=ロゼアマネル/女性/20/聖導士(クルセイダー)】
【ka6633/メアリ・ロイド/女性/20/機導師(アルケミスト)】
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2019年01月18日

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