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『双翼、相過ごす明けの道程 』
クィーロ・ヴェリルka4122)&神代 誠一ka2086


「あれは、地獄だった……」
「元はといえば誠一が普段から掃除をしっかりしてないからだと思うけど?」
「掃除だけじゃねぇだろ! 扉も! ありませんでしたから!!」
 大の男が顔を突き合わせて何をしているのか。
 クィーロ・ヴェリルは笑いながらグラスを傾ける。
 中に入っているのは当然の如く命の水。酒だ。
 彼の相棒である神代誠一が住む、湖畔のログハウス。そこから扉が消え失せてしまったその理由が焼き芋から始まったなど、誰も信じはすまい。
 否、その場にいたメンバーは見たのだが。見なかったふりをしたものもいるかもしれない。
 まぁそれはそれとして。
 あの時ほど『射光』のマギステルが静かに、絶対零度の怒りを表したことも、もしかしたらないかもしれない。いや、掃除に関してはあったかもしれないが。
「んんっ。ま、まぁ、大掃除のことは置いておいてだな」
 軽い咳払いで話題転換を試みる年上の相棒の手にもグラス。
 中身はもちろんクィーロと同じものだ。
「まぁ、なんだ……うん。色々あったな」
 多くは語らないその言葉の重みを、クィーロは知っている。
 この一年、自身にも沢山の変化があった。そして、相棒にも。
 それは決して平坦な道ではなく。
 痛みも苦みも辛さも苦しさも全てを内包した、そんな道だった。
「そうだね。うん。けど、こうやってお互いここでこうしてお酒を飲んでる。それが全てじゃない?」
 空になった誠一のグラスに酒を注ぐ。返杯とばかりに注ぎ返す誠一に小さく笑い返せば、眼鏡の奥の瞳が小さく揺れてからそっと伏せられる。
「……有難うな」
 そう言って笑い返す相棒の言葉が、どれほどクィーロを喜ばせるものなのか。
 誠一は知っているのだろうか。
 年が変わる。年が変われば変わる何かもあるだろう。
 けれど二人ともが知っていることが一つ。
 それは、どれだけ年が変わっても、この双翼は共にあるだろうということだ。
 喧嘩程度でどうこうなるほど軟な関係ではない。
 背負い背負われ、背を押し押され、戦場を駆け日常を過ごし、築いた絆。
 例えそれは、どんな鋼鉄でも斬るという剣を以てしても断ち切られることはないだろう。
 かちりと、誠一の私室の時計の針が、長短両方天を向く。
 グラスを掲げた誠一が、久しぶりに見せる笑顔で声を上げた。
「あけましておめでとう!乾杯!」
「あけましておめでとう。ふふ、今年もよろしくね」
 グラスを合わせ、二人酒を煽る。
 そう。こうやっていつもと変わらぬ日々を繰り返すのだ。
 また新しい年も、相棒と一緒に多くのことを楽しめればいいと。そう願いながら。

 ところで。初日の出というものを知っているだろうか。
 元来この風習、誠一の住んでいた国でしかみられない独特な風習なのだが。
「初日の出か……日の出を見ることは沢山あるけど、今日この時っていうのが大事なのかな?」
 普段通りに近いクィーロの服装を、コートにマフラーにと着込んだ誠一は半眼で見やる。
「寒くねぇのかよ、それ……」
「うーん?」
 しれっとしているクィーロだが、正直なところ寒いは寒いのだ。
 だが、うっかりこの場に自分の防寒具を持ってきていなかった。何しろ、こんな日の昇る前から外出するとは思っていなかったのだから。
「せめてマフラーだけでも巻いとけって!見てる俺のが寒くなるわ!」
 自分の予備なのか、別のマフラーを引き出しから持ち出した誠一が、ぐるぐるとクィーロの首にマフラーを巻き付けていく。
「寒くなるわって、誠一は寒がりなんだね」
「お前がおかしいんだって。こんだけ寒いのによく……」
 誠一のお小言を流しながら、クィーロはマフラーに口元を埋めて小さく笑った。
 けっして誠一の行為がくすぐったかったからとか、そういうわけではない。気恥ずかしかったとか、そういうわけではない。
 ただ、そう。ちょっとマフラーがチクチクしただけ。それだけだ。
「しっかし……ねっむ」
「そりゃ、呑み明かしてそのまま初日の出じゃねぇ」
 くぁ、と噛み殺す気もない大きな欠伸を一つ零す誠一に釣られて、クィーロも小さな欠伸をマフラーの中で噛み殺す。

 昇る朝日は幸運にも、雲一つかかっていない美しいものだった。


 さて、初日の出以外にも元日のお楽しみはあるのだが、ご存じだろうか?
 そう。それは――。
「これこれ!やっぱ年初めには1個は買っておきたいよなぁ」
 先程まで欠伸を続けていた男とは思えない。
「いやうん。まぁ、誠一がそういうの好きそうなのは知ってたけどね」
 年の初めの運試し。それが『福袋』だ。
 堅実なクィーロが選んだのは食器用品が詰め合わせられた福袋。
 紙幣の代わりに受け取った福袋の中身を覗き込んでみれば。
(あ。これは当たりかな)
 特に当たりだと思ったのは、素焼きだが土そのものの素材が活きたカップが1組。
 これで呑む酒は格別かもしれない。二つあるのだから、どうせなら相棒との呑み専用にしてもいいだろう。
 そんなことを考えていたクィーロの背後から。

 \グワァァァァ!/

「…………」
 思わず笑顔から表情が変わらなかった自分をほめてやりたいと、クィーロは心底思った。
「なぁなぁ、これどうよ!腹押すと鳴くんだぜ」
「うん。うん。よかったねぇ誠一」
 鳥、だろうか。奇妙な形をした鳥(だということにもうしよう)の玩具の腹を押しては笑う誠一が、次はほらこれ!と取り出したのは。

 \ピコーン☆/

 おなじみ、ピコピコハンマーだった。
「これとかは射光のメンバーで遊ぶのに使えそうじゃね?な!?」
 ほかにも立派なお髭のついた変装眼鏡だの、ガムだと思って引っ張ったらパッチン指挟むやつだの。
 全くもってクィーロにはよく分からないものばかりが詰まっていたが。
 正直周囲の目が痛い。いい年した大人がなにやってんだという目が痛い。
「ふふ、別に俺のことなんて気にしないで、もっと燥いでいいんだよ?」
 大丈夫だ。自分はどんな誠一でも見捨てたりしないから、と。距離を取り周囲の目から回避しようと試みるも。
「お前は何買ったんだー?……なんつーか、お前そういうの好きだよなぁ……いいの入ってた?」
 残念!クィーロは逃げられなかった!
「まぁ、うん。そうだね。それなりに」
「なんだそれ。……あ!クィーロこれ見てみろよ!二人分の付け髭!しかも伸びるやつ!一緒につけようぜ!」
 これだけは是が非でも回避しなければならないと、戦場並みのすばしっこさでクィーロは逃げ出した。


 各々買うものを買った帰り道。
 あぁそういえば、と。行きの眠気が吹き飛んだ誠一がクィーロの手のひらへとぽとんと何かを落とした。
「ほい、お年玉」
 反射的にキャッチしたそれは――大翼の透かし彫りが施された、根付。
 どう考えてもその辺りで売っているものではない。それはそうだろう。
 この根付は誠一が相棒を思って特注した、世界でたった一つの根付なのだから。
「ほら、去年一緒に浴衣着た時、楽しそうにしてたろ?」
 それはまた、今年も一緒に着れたらいいという願いも込められているのかもしれない。
 「ふふふ、まさか誠一も用意してたなんてね」
 そう言って笑いながらポケットを探ったクィーロが代わりに誠一の手へと置いたのは、イントレチャートブレス。
 紐が翼を思わせるようなデザインのそれは、まるで互いの存在を表しあうものそのもので。
 誠一が福袋で爆笑している間にこっそり買っていて正解だった。
「お前も用意してたのかよ」
「例え離れていても心は常にそばに、ってね。少しキザだったかな?」
 顔を見合わせて笑い合って、どちらからともなく拳を合わせる。
「クィーロ、今年も宜しくな!」
「こちらこそ、今年も宜しくね、誠一」
 今年もいい年になりそうだ。
 まだ高いところにある日の光を浴びながら歩く二人の影に、雲が大きな翼をかけて流れていった。


 END
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【ka4122/クィーロ・ヴェリル/男性/25歳/緋色の双翼】
【ka2086/神代 誠一/男性/32歳/若草色の双翼】
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2019年01月21日

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