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『その時、焚き木がパチンと爆ぜた 』
夢路 まよいka1328

 オフィスで受けた依頼のさ中、日が暮れたこともあって山中でキャンプを取ることになった。
 テントなんて便利なものは準備していなかったから、仲間と手分けをして乾いた枝を拾い、ベッド代わりの落ち葉を集め、暖をとる。
 携行食量で食事を済ませ、暖かい飲み物でひとここち。
 それから数時間交代で火の番を立てることにして、それぞれ仮眠をとっていく。

 自分の番となったまよいは、煌々と燃える木を枝で突きながらぼんやりと炎を眺めていた。
 パチパチと小気味の良い音に身を委ねながら、不定形にゆらめく赤い影に心を重ねる。
 辺りではすうすうと寝息を立てる仲間たちの姿。
 独りじゃないけれど、なんだか少し心細い。
 数分がすごく長い時間のように感じて、それがまた気持ちに拍車をかけた。

 クリムゾンウェストに来たばかりのころは、何もかもが新鮮で、1日がすごく短く感じた。
 憧れのファンタジー世界。
 リアルブルーと同じように、悪い存在に脅かされる街や村を、魔法の力で救っていく。
 それはもう夢のような世界。
 もちろん悪い奴と戦うだけじゃなくって、商店街のお店のちょっとしたトラブルを解決するのも。
 農家で収穫を手伝うのも。
 お祭りでダンスを踊るのも。
 お天道様の下を着の身着のまま、行くあてもなく歩くのも。
 全部全部、はじめてが詰まっていた。
 あの暗くてじめじめした部屋では得られなかった楽しみが、この世界にはあふれている。

 もちろん、楽しいことばっかりじゃない。
 こっちの世界の生活は、リアルブルーでの生活ほど便利じゃないことが多くある。
 電気なんてないし、代わりの火だってこうして起こさなくちゃならない。
 絵本で見るみたいに、そんなの魔法で起こせると思っていたけれど、これは火のように見えるマテリアルなんだって。
 最初のころは、なにを言われてるのか意味がよくわからなかった。
 後からちゃんと火を起こせる魔法を覚えられたときは、それはもう喜んだものだったけど。
 
 火は人間にとって一番身近であるはずで、まよいにとっては一番遠い存在だった。
 それもそのはずで、あの地下の密閉された部屋で火を起こそうものならそれはもう熱やら煙やらで大変なことになる。
 誕生日のケーキに乗った蝋燭の炎がせいぜいで、それがどれほど力強く、恐ろしい存在であるかも理解していなかった。
 いや――知らなかったわけじゃない。
 おとぎ話の世界では、火はよく家を燃やしたり、お城を燃やしたりする。
 ただ、それだけ大きな炎を見たことがなかったのだ。
 
 だからこそクリムゾンウェストで焚き木を見た時、どこか胸が高鳴るのを感じた。
 
 現に今だって、こうして燃え続ける炎を眺めているのは苦でないし、むしろ楽しい。
 新しい薪を放って、少しずつ、火が燃え移っていく。
 皮が燃え、繊維が赤く変色し、やがてゆらめく炎のひと塊となる。
 いつか誰かにそれを話したら、みんな「わかるー」と口を揃えて言ってくれた。
 見慣れた人でも、炎を見ていると心が温かくなって、楽しい。
 それくらい強い力が、この赤いゆらめきに秘められている。
 
 それでもこうして心細さを感じてしまうのはなぜだろう。
 もぞりと誰かが寝返りをうって、まよいはちょっと表情を明るくして、そっちを見た。
 たけど、寝返りをうっただけですぐに寝息を立ててしまったのに気づくと、しょんぼりして、また焚き木をつつき始める。
 寂しいのは、きっと炎は「囲むもの」だと知ってしまったから。
 ご飯を食べる時。
 お祭りで踊る時。
 大きな戦いに勝って、それを喜ぶ時。
 火の回りには、必ず自分以外の誰かの声が、笑顔があった。
 たのしいな。
 たのしい。
 もしリアルブルーに帰れるようになったら、あの楽しい時間は過ごせなくなるのだろうか。
 だとしたら私は――
 
――その時、焚き木がパチンと爆ぜた。
 
 はっと意識が戻って、ぐらりと倒れかけた身体を思わず起こす。
 ぼんやりとした頭であたりを見渡すと、変わらず燃え続ける炎と、いびきをかく仲間たちの姿があった。
 寝てた……のかな?
 でも炎はずっと見つめていた姿形そのままで、思い返していた記憶も、気持ちもはっきりと覚えている。
 じゃあ、何だったんだろう……?
 虚ろな意識のままで、乾燥したのかピリピリする目元をごしごしこする。
「……ん、そろそろ時間か?」
 眠っていた仲間の1人が起きて、うんと背伸びをしながらまよいに語り掛けた。
「うん。私、そろそろ限界ー。あと、よろしくね」
「ああ」
 焚き木の前を譲って、入れ違いにほんのりと温もりの残った落ち葉のベッドに身をうずめる。
 夢?
 幻?
 それとも考えすぎ?
 答えはよくわからないけれど、横になった途端に、心地よい睡魔が彼女を今度こそ夢の世界に誘った。
 炎の温かさと、パチパチ心地よい音をゆりかごにして。


――了

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【ka1328/夢路 まよい/女性/外見年齢15歳/魔術師】
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ファナティックブラッド
2019年01月21日

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