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『二人雪庭、銀景色 』
狐杜aa4909)&朱華aa4909hero002

「わ、あ……!」

 朱華(aa4909hero002)の視界一杯に広がっていたのは、朝日に煌く雪景色であった。
「昨日の晩から降っていたけれど、見事に積もったもんだね」
 隣に並ぶ狐杜(aa4909)が、雪化粧を施された庭に目を細めた。彼の住まいは立地的には山間部に位置する。それはしんしんと冷えた冬が造り出した、輝かんばかりの光景だった。尤もキラキラ瞬く輝きは、眩しさが得意でない狐杜の目には少々厳しいのではあるが。
「すごい、きれい……きのうからふっていたのが、こんなに……」
 朱華は瞳に好奇心を煌かせ、素足のまま庭に降りようとした。が、「ちょいとお嬢さん待った待った」と狐杜が困った笑顔でその肩にポンと手を置く。
「そのままだと寒いよ、冷たいよ、風邪をひいてしまうのだよ」
「あつぎは、おもたいのですわ……」
 少女は唇を尖らせる。控えめな気質ではあるが、今はその好奇心が早く早くと雪庭へ誘っているようだ。狐杜は優しく微笑んだまま続けた。
「それじゃあ、こないだ贈ったあの軽ぅくてあったかいやつを羽織ろうね。タオルとお風呂の用意もするから、少しだけ待てるかな」
「……ゆき、とけませんか?」
「溶けない、溶けない。焦るこたないさ。ささ、こっちおいで」







 和装にコート、和洋折衷な服装だが、むしろハイカラな趣が少女の愛らしさに良く似合う。まあ、狐杜と第一英雄が見繕ったのだ。似合わない筈がなく。
 さあ行っといでと背を押され、ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめる音。長靴を履いた朱華は、ぱっと表情を花咲かせながら狐杜へと顔を上げた。
「どこまでも、いけそうなきがいたしますわ、コト。ありがとうございますわ。あのかたにも、あとでおれいをいわないと」
 少女はくるりと回り、頬を赤くしてご機嫌だ。朱華の後ろには、雪の上に小さな足跡が点々とついている。
「どう致しまして」
 半纏にマフラーと着ぶくれた狐杜は、寒さに鼻をすすりつつも小さな英雄を見守った。「すごい、すごい」と少女は目を真ん丸にしながら、雪の上にけんけんぱと足跡をつけてみたり、しゃがみ込んで雪を掌にすくってまじまじと眺めてみたり、手すさびにぽいと放ってみたり、寒さなど感じさせぬ忙しなさだ。子供は風の子……という言葉を狐杜は思い出す。
「ゆきって、こんなにつめたいのですね」
「雪は氷だからねぇ。……手袋しなくてよかったのかい?」
「てでふれてみたかったのですもの」
「ああ、それはなるほど」
 頷きながら、狐杜もまた雪を踏みしめ朱華の傍へ。しゃがんでいる彼女の隣に同じくしゃがむと、その手でおもむろに雪を掻き集め始めた。
「こうして、雪玉を作ったら……コロコロ転がして、雪をつけていって……」
 言葉と共に狐杜が雪の上で雪玉を転がしていけば、白い塊は少しずつ大きくなっていく。
「同じように、少し小さめの雪玉を一つ作る。これを上下に重ねて、できあがいなのだよ」
 “り”が上手く発音できない独特の物言いで、「ほら」と彼が作ってみせたのは雪だるまだ。お手本なので大きなサイズではないが。
「これに細い枝で顔を作るのも、良いだろうね。ナンテンの実で飾るのも、きっと楽しいよ」
「! わたくしも、ゆきだるまつくりますの!」
 じっと狐杜が雪だるまを作るところを観察していた朱華は、促されるままに雪玉をコロコロと転がし始める。手袋を着けていない素手で雪に触れるのは冷たいだろうに、指先を赤くしながらも朱華は楽し気だ。時折、「つめたいですの!」と笑いながら手を口元に、はぁと吐きかける吐息で指先を温めつつ。
「どう? 上手にできたかな?」
「できましたの!」
 狐杜が問いかけると、朱華は見て見てと言わんばかりにできたての雪だるまを示した。狐杜が作ったものの隣に、小さな雪だるま。「きょうだいか、しまいのようですわ」と朱華は並ぶ雪だるまに満足げだ。
「あのかたがつくると、さんきょうだいになりそうですわ。わたくしよりもうんと、おててがおおきいですから」
 これぐらい、と朱華が第一英雄の手の大きさを表現しながら言う。「そうだねぇ」と狐杜はくつりと笑った。
「次は雪うさぎを作ってみようか」
「ゆきうさぎ? うさぎさんですの?」
「そうそう。雪をこれぐらい……楕円に形作って、葉や実で耳と目をつけると、それらしくなるよ」
 できあがい、と狐杜はお手本を見せる。葉っぱの耳と、ナンテンの赤い実の瞳。どちらも庭にあった素材だ。
「すごいのですわ!」
 朱華は新鮮に情動を輝かせる。やってごらんと促されれば、少女はいそいそ雪うさぎを作り始める。「あんまいギュッとしすぎないように……」と狐杜のアドバイスに従って、ほどなくしてこれまた小さな雪うさぎが作られた。
「うん、じょうずじょうず」
 雪だるまの頭の上に乗せられた、赤い瞳の雪うさぎ。狐杜に褒められ、朱華は得意気に完成品を見つめた。と、狐杜の傍らに置かれていた絵具一式に興味が移る。
「……えのぐ?」
「ああ、こんなに雪のキャンバスがあるんだ、楽しそうだろう?」
 本当はかまくら造りも捨て難かったが、流石に雪も時間も足りないだろう。なのでと狐杜が用意したのだ。
 絵具用のバケツに水を入れて、絵の具を少しだけ垂らして、筆で混ぜて、色水を作る。赤、青、黄色……。
 狐杜はその色水で、先ほどの雪だるまに色彩を施していく。簡易だけれどニッコリ笑った顔だ。ウサギの頬にも、ほんのりと紅を施してゆく。
「そちらはどうだい?」
 おお寒い、と筆を置いた手と手をすり合わせて温めつつ。狐杜が朱華を見やれば、彼女は雪の上にしゃがんで熱心に描いている真っ最中のようだ。肩越しに見えるのは、鮮やかな橙色で描かれている……キツネだろうか?
「ううん……いろがまざらないようにするのは、なかなか、むずかしいのですわ」
 絹のような髪を真っ赤な耳に掻き上げながら、朱華は集中してキツネを描いていく。そのしゃがんで丸い小さな背中はコートでふっくらしていて――冬のすずめを連想させて、狐杜は可愛らしさにホッコリした気持ちになった。スマホを持ってきたらよかった、と空のポケットをまさぐる。
「……できましたわ!」
 ほどなくして、朱華が絵筆片手に立ち上がる。「どれどれ」と狐杜が覗き込めば、やっぱり……「キツネだろうか?」という印象が湧いてくる橙色の絵がそこにあった。
「うふ。ちょっぴりへんてこ」
「上手だよ、ハネズ。ユニークだもの」
「ありがとうございますわ、コト。……あのかたも、わらうでしょうかね?」
 第一英雄のことに言及しつつ、朱華はころころと笑った。
 と、晴れ模様だとばかり思っていた空は、雪遊びをしている間に曇り始めていたらしい。ちらりほらり、白い空から降って来るのは白い雪。
「あ! また、ゆきがふってきたのですわ」
 朱華は白い息を吐きながら空を見上げた。次から次へ、ふわりふわり、花弁のように降って来る。「わあ〜……!」と朱華は下から見る雪景色に魅入っていた。
 小さな少女の朱華色の髪に、まぁるい頬に、赤い指先の掌に、雪が散る。狐杜はその姿を見守って……それから、彼女が描いたユニークな狐の絵を見やった。雪の上に描かれたそこにも雪が積もり始めている。それから、雪だるま兄弟と雪うさぎ兄弟にもだ。このまま降れば見えなくなってしまうだろうか――そう思っては、「ちょいとお待ち」と一度朱華に声をかけて家に戻ると、スマホを持って戻ってきた。
「せっかくだものね。記念撮影しておこう。ハネズ、はい、ちーずして」
「ちーず!」
 ぴ、とピースサインを向ける朱華。狐杜は横向けたスマホでキツネの絵や雪だるまに雪うさぎをフレームに収めると、撮影を。
「うんうん、なかなか良い絵が撮れた。……さてと」
 スマホをしまい、狐杜は顔を上げる。雪はどんどん降り続ける。
「風邪をひいてはいけないからね。一度、家に入って温まろうか」
 一旦お開きだ。狐杜がそう言えば、「はぁい」と朱華は素直に頷き、踵を返した彼の後を追って玄関へと歩き始めた。







 雪で濡れた服を脱いで、温かいお風呂に入って……
 着替えを済ませれば、二人は雪庭の見える和室へ。

「はふぅ……」
 暖房の利いた室内、コタツで温かいお茶を飲んで、朱華が溶けたような吐息を吐く。お風呂から出た後、髪も狐杜にドライヤーで丁寧に乾かして貰った。
「はい、おうどんお待たせ〜」
 そこへお盆を持った狐杜が現れる。朝起きてすぐに雪遊びをしたものだから、朝ご飯がまだだった。時間的にはブランチになるか。机の上に置くのは、冷凍うどんを茹でて粉末スープに入れておあげを入れた簡易なものだが、できたてのあつあつだ。
「おうどん! ですわ!」
「おうどんだよー。いただきまーす」
 二人で向かい合って座って、手を合わせて。ふうふうと、熱い麺を冷ましながらすすってゆく。
「コト。あのかたがかえってきたら、ゆきがっせんというものも、やってみたいですわ」
 甘ぁいお揚げを頬張りながら朱華が言う。「いいねぇ。やろうやろう」と狐杜は湯気にサングラスを曇らせながら頷いた。
「……かまくら造いも挑戦するかい?」
 三人がかりならできるはず、と狐杜は曇ってしょうがないサングラスを仕方なしに置きながら言う。「やってみたいのですわ!」と朱華が声を弾ませた。
 狐杜は英雄を見守りつつ。雪そり遊びなんかもいいかもしれない、どこぞに良い斜面があったかな……と思いを馳せた。朱華はもちろんはしゃいでいるが、その実、己も心がうきうきとしているのかもしれない、など、自称成人済み外見少年の彼は、熱いお茶を飲んだ。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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狐杜(aa4909)/?/14歳/回避適性
朱華(aa4909hero002)/女/8歳/ブラックボックス
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2019年01月24日

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