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『共に在るという勇気 』
三ッ也 槻右aa1163)&荒木 拓海aa1049

 あれから、何度目のお見舞いになっただろう。

 愚神の『王』の降臨による影響で、局所的に異界化してしまった町――曇白の空に見下ろされたあの灰色の町で、荒木 拓海(aa1049)は奇跡的に一人の人間の救出に成功した。
 それは小さな子供で……拓海の友人の娘だった。小学校の入学を来年度に控えていた、幼い子供だ。救出当時はライヴスの消耗から危険なほどに衰弱していたが、病院に搬送された後は、緩やかに回復へ向かっていた。あと少しでも救助が遅れていれば、彼女はそのまま命を落としていただろう。

「……ちょっとずつ良くなってるみたいで、本当に良かった」
 彼女の病院へお見舞いに行って、その帰り道。隣の拓海に、三ッ也 槻右(aa1163)が言った。「うん」と頷く拓海が、まるで我が身のことのように彼女の回復に一喜一憂していることを槻右は知っている。『王』との戦いが激化し忙しくなる最中なれど、拓海は足しげく見舞いの為に病院へ足を運んでいるのだ。
 槻右がそれに随伴するのも、今日が初めてのことではなくて。……少女の経緯を聴いた時は、驚きと胸の痛みに手が震えてしまったものだ。
「……、」
 夕焼けの帰り道、遠くで学校のチャイムが聞こえた。二人の間に沈黙が流れる。二人共、頭の中にあれこれと考えが渦巻いていた。
 拓海、と名前を呼びかけて、結局、槻右はまた口を噤む。彼がここ最近ずっと何か考え事をしているのは察していたが……結論を急かすような真似はしたくなかった。マフラーに鼻から下を埋めた拓海は、目を伏せたまま黙々と歩いている。
 その間にも、拓海の脳裏に過ぎるのは、あの死の町だ――冷たい瓦礫と、並ぶ黒い結晶柱。かつて生命だったモノの成れの果て。そんな中で、手を土埃で汚しながらようやっと見つけた命。彼女を抱きしめた時の喜びと、掌で感じた温もりが、ずっと忘れられない……。
 守らなければ、という義務感以上に、守りたい、という気持ちが大きい。いつか『王』を撃破し、世界の歪みも元通りになって、友人も戻ってこれたなら、その子を抱きしめさせてあげたい。そんな願いは日々、拓海の中で強くなっていた。
 その中で気付いたのは――少女に対し、我が子のように感じ始めている自分自身で。

 ……現実問題として。
 家族はおろか故郷を破壊され尽くされた彼女に帰る場所はない。
 祖父母については、一人ツテがあったが、高齢な上に体があまり良くない為に育児はどうしても難しい。遠い親戚を片っ端から漁るという手もあるにはあるが……しかるべき施設に入所するあたりが着地点だろう。
 もう一つ、彼女は肉体面こそ回復に向かっているが、精神面においては深い傷が残されている。心の傷は、未だに彼女の顔に笑顔をもたらすことを塞いでいて、拓海も槻右も、まだ一度も彼女の笑顔を見たことはなかった。もちろん、施設に入ってからそういうメンタルケアは施されるのだろうが……心配だった。

 どうしたらいいんだろう、自分に何ができるんだろう――

 拓海はずっとずっと、そのことばかりが心に引っかかっていた。
 答えというか、願望は既に拓海の中にはあるにはあった。けれど、それが正解なのかも分からなくて、結局ずっと、今日の帰り道も沈黙のまま。
 でも――今日こそは。結論を出さなくちゃ。先延ばしにし続けることも、もうそろそろできないだろう。拓海は深呼吸をしてから、おもむろに足を止めた。ひとけのない街路樹、槻右も立ち止まっては、彼の方を振り返る。
「拓海、どうしたの?」
「槻右。……オレ、あの子を養子にしたい」
「養子に、」
 驚きのまま、槻右は目を丸くした。それが彼のずっと考えていたことだったのか、という納得をも忘れ去るほどの驚きだった。そんな彼に、拓海は英雄には反対された旨を話す。
「槻右の気持ちはどうなるのか。命を預かる重さを軽んじていないか。親が無事ならば手放すことになる、そうしたら寂しさで潰れるんじゃないか……そんなオレは見たくない、ってさ」
 自嘲のようなものを浮かべ、拓海は肩を竦めた。英雄の意見は尤もだと思う自分がいることを彼は自覚していた。育児経験もない男二人で――英雄もいるとはいえ――いきなり血の繋がらない子供を育てることなどできるのか。これは独善の暴走ではないのか。なにより槻右と英雄はどうなる? 一人でどうこうできる問題ではない、どうしても周りの人間を全て巻き込むことになる。手間も時間も、そしてお金もかかることだ。
 それは槻右も同様だった。子供を育てるということは、一人の人間の人生を背負うということ。ペットを飼うこととは訳が違うし、子供の愛玩動物扱いはそれこそ唾棄すべき所業だ。
(……僕に、できるの……?)
 槻右は視線を惑わせる。自問自答に帰結は見えず。
「……最終的には槻右を尊重する、って言ってくれた。オレも、そう思う」
 と、拓海が英雄に言われた言葉を続けた。「槻右に決断を丸投げして、逃げるみたいな真似だけど」とポツリと加え。
「拓海――」
 槻右は顔を上げた。拓海と目が合った。

 ――泣きそうなほど真摯で、真っ直ぐに愛情を宿した目。
 間違っているかもしれない、これでいいんだろうか。そんな不安と勇気がないまぜになって、恐怖で震えそうで……それでも誰かの為にと、何かできるんじゃないかと、明日が今日より良くなればいいと、最善を探してもがいている。そんな色が、そこにあった。

(ああ、そうか……)
 真っ直ぐにその目を見つめ返しながら、槻右は懐かしさにも似た温かさが心の中から込み上げてくるのを感じた。
(彼のこの深い優しさに、僕も救われたんだ――)
 空っ風が吹いて、一度、槻右は深く目を閉じる。思い返すのは白い病室、小さな少女を抱き上げた時のこと。想像以上に軽くて、小さくて、弱くて儚くて、でも温かくて、脈打って息をして生きていて……掌に感じた命という熱が増したような心地を、槻右は感じた。
(拓海と会って、いろいろあって……)
 あの子の幸せを支える素地は、きっとこれまでの中にある。
 思い返す温かな記憶をひとつひとつ辿りながら、槻右はゆっくりと目を開けた。
 それから、覚悟を込めて、微笑んで。
 こう言ったのだ。

「いいよ」

 今度は拓海が目を丸くする番だった。
 次いで、泣きそうな顔でくしゃりと笑った。寒さに頬を真っ赤にして。
「ごめん、ありがとう、一緒に育ててくれ……」
 なんて優しい人だろう。拓海の心に槻右への感謝の想いが込み上げる。表情を見れば分かった、自分が切り出したことが簡単には決断できない難しさであることを――その上で、覚悟を以て頷いてくれたことに対して、喜びが言葉にならない。拓海は年下の彼を強く強く抱きしめた。
(ずっと考えてたんだなぁ……)
 槻右は彼の苦労を思い、その努力を労うように抱きしめたまま背中を撫でた。優しく、ゆったりと。
「拓海、話してくれてありがとね」
「いや……遅くなってごめん」
「いいよ。拓海は悪くないさ」
「……ありがとう、槻右」
「うん。……あの子を親御さんに帰せるなら、幸せを願って一緒に泣こう。可愛かったね、幸せになってね、って」
「うん」
「もし……僕達のところに来れるなら、皆で体当たりで幸せになろう。世界で一番幸せな家族になろう」
「……うん」
「“お母さん”はいないけどさ……はは。“お父さん”は二倍だから!」
「うん、……うん、ほんとだ」
 クスリと笑んで、腕を回したまま体を離した。今一度、互いに視線を交わす。幸いにして周囲にひとけはなくて、しばらくそのままでいた。「今すごくキスしたくなった」という言葉は、互いに飲み込んで……また並んで、二人は歩き始める。







 結論として。
 少女は拓海と槻右に引き取られても構わない、と意思を示してくれた。拓海は少女の親の友人だったこともあり、二人とも公的に信頼の在るH.O.P.E.リンカーとして活躍もしており、里親としては申し分ない。英雄という異文化が浸透しつつある世界では、同性婚の者らに対する偏見もうんと薄い。……“薄い”だけで、“ない”わけではない。しかしその不当な偏見から“娘”を護り抜く決意が、二人にはあった。

「僕達がパパでもいい?」

 そう尋ねた槻右に、彼女はボロボロと泣きながら、こう答えたのだ。「ひとりぼっちにしないで」と。
 そのやりとりを――「もちろんだよ」と彼女を抱きしめる槻右を見守りながら。拓海はいつか来るのだろう娘の独り立ちのことが早くも脳を過ぎり、いや早計すぎないかと自分自身に苦笑して、それから田舎の親のことをふと思い出した。もう一つ強く感じたのは……
(ああ、オレ、槻右のことが好きだなぁ……)
 パートナーへの強い愛情。今日からここに、娘に対する愛情も加わるのだろう。そう思うと、ここ数日の、あちこち奔走している大変さも吹っ飛んでしまう。
 拓海は、抱き合う槻右と娘ごと、その両腕で抱きしめた。
「退院したら、ランドセルを買いに行こう。皆で、一緒にさ……」

 窓の外は寒い冬だ。桜の木の枝、蕾は未だ硬く。
 これが咲く頃には……きっと。きっと世界は平和になっている。
 そう信じて、家族は抱きしめ合ったのだ。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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三ッ也 槻右(aa1163)/男/22歳/回避適性
荒木 拓海(aa1049)/男/28歳/防御適正
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2019年01月25日

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