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『絆 ver. LKB 』
不知火あけびaa4519hero001)&日暮仙寿aa4519)&ダリア・ヴァルバートaa4892hero001

●遭遇
 クレープを手にした男の子が、地下街を黄色い声をあげながら走る。その視線の先には、最近クライマックスを迎えた特撮ヒーローの姿が。母親はその背中を慌てて追いかけていた。
「待ちなさい! クレープなんて持って走ったら……あっ」
 母親が言い終わらないうちに、男の子はタイルの罅割れに躓いて転んでしまった。クレープはその手から放物線を描いて綺麗に飛び出し、向かい合わせに歩いていた一人の少女の黒いブーツに直撃する。
「……わお」
 少女――ダリア・ヴァルバート(aa4892hero001)は足を止め、生クリームやら苺ソースやらがべったりと付いた爪先を見つめた。視線を前に送ると、クレープの薄皮は破れ、中身を石畳の上にぶちまけているのが見える。更に前を見れば、顔を真っ赤にしてぐずっている少年が見えた。
「ふええ」
 少年はその場で泣き出す。母親は慌てて駆け寄ると、その場でぺこぺこ頭を下げる。
「だから言ったじゃない! すみません、本当に……ほら、あんたも謝りなさい」
 しかし少年は泣くのに必死で謝る余裕もないらしい。ダリアはしばらく目を瞬かせていたが、やがて少年と母親へと歩み寄り、ぱっと笑みを浮かべる。頬の青い蝶が、ちらりと輝いた。
「大丈夫です! このクレープって、最近この地下街に出来たあのお店のクレープですよね?」
「え、ええ……」
 クレープの包み紙を突き出され、母親は戸惑ったように頷く。ダリアはティッシュでブーツの爪先を軽く拭うと、少年の手を引いて立ち上がった。
「構いませんよ! 袖振り合うも他生の縁、クリームが付くのも他生の縁です! 私もこのお店のクレープ、食べたかったんです!」

 そんなわけで、ダリアは少年と母親を引き連れクレープ屋を訪れていた。しかしそこは新進気鋭の人気店。長蛇の列が出来ている。
「はー……すごい列ですね」
「すみません。靴を汚してしまったのはこちらなのに……」
 少年は目を丸くするばかりだったが、母親はすっかり居心地が悪そうな顔をしている。
「いいんですよ。それにしても、本当にここのクレープは人気なんですね!」
「えーと、そうみたいですね……」
 測定不能のコミュ力でダリアが母親を振り回していたところ、一組の少年少女がクレープを手にして列を擦れ違っていく。ハッとするような美男子美少女っぷりに、誰もが振り返った。ダリアもちらりと彼らに目をやる。その深紅の瞳、紫色の髪にはよくよく見覚えがあった。
「あけびさん!」
「……ダリア!」
 不知火あけび(aa4519hero001)は目を丸くした。
「ダリアもここのクレープを食べに来たの?」
「そうです! あと、この子がクレープを落としちゃったので、代わりを買おうと思ったんですよ!」
「代わりか……」
 日暮仙寿(aa4519)は手に持ったクレープに目を落とす。そのまま彼は、静かに跪いて少年に視線を合わせた。
「何度もこの行列に並ぶのは疲れるだろう。イチゴのクレープだが、これで良いならあげるぞ?」
「いいの?」
「ああ。その代わり、お前も誰かが困ってたら優しくしてやれよ」
 出来立てのクレープを少年に握らせる。イチゴはちょうど少年が食べたかったクレープ。彼はまた目を輝かせた。
「ありがとう!」
「あ、そんな……申し訳ないです。せめてその分の代金を」
「いい。気にしないでくれ」
 財布を取り出しかけた手を押し留め、仙寿は微笑む。ダリアはその姿を見て、薄れかけた記憶の靄を感じる。こんな光景を、前も何処かで見たような気がした。その思い出に釣られるように、ダリアは店を出ていく二人をぶらりと追いかける。
「あけびさん! あと、ええと」
「仙寿だ。どうした?」
「あ、ええと……少し、ご一緒してもいいですか?」
 ダリアは仙寿にあけびを交互に見比べる。どう見てもデート中だった。
「もちろん、邪魔で……なければですが!」
「邪魔なんかじゃないよ。ね?」
 あけびはちらりと仙寿に目配せする。仙寿は頷くと、広場のデスクを指差した。
「そうだな。少しあそこに座るか」

 そんなわけで、あけび、ダリア、仙寿の三人は一つの丸いデスクを囲んだのだった。怒涛のように過ぎゆく日々。話のタネは尽きなかった。
「はあ……センター試験。そういえば、この形式の試験って、今年限りで終わりになってしまうんでしたよね?」
「ああ。……だからここでこけると苦労するとは言われているな」
 ダメだったとしても、コネで推薦がもらえたりはしてしまうのだろう。しかし仙寿はそれを善しとするつもりは無かった。だからこそ、只の穴埋め作業で失敗するわけにはいかなかった。
「テストというと……此方は久遠ヶ原学園の定期考査を思い出してしまいますね!」
「うんうん。あれも大変だったよねぇ」
 同じ世界の友人同士、あけびとダリアは苦労を思い出して頷き合う。
「試験をパスするためにどれだけ労力を使った事か……」
「友情のピアスに誓って! って一緒に頑張りましたよね!」
 すっとダリアは髪を掻き上げ耳たぶに手を伸ばすが、そこには何もついていない。ダリアは思わずしょんぼりしてしまった。
「でも、この世界に来た拍子に、落としてしまったようです。ピアス穴もついでに」
「うん……そういえば私もピアス無くなっちゃったんだよね……」
 あけびも両耳を指差す。嘗ては確かにモルガナイトとソーダライトの宝石が輝くピアスがあったのだが。しかし、そこは行動力に溢れるあけびのこと、此処で落ち込んだりはしなかった。
「よし、無いならまた着ければいいんだよ。買いに行こう!」
「そうですね! お洒落は女の子の嗜みですよぅ!」
 仙寿は盛り上がる二組を見比べる。デートのつもりで来たが、ここは一旦身を引いておこう。そう決めて仙寿は腰を起こす。
「なら……俺は本屋にでも行っておこうか。女子二人で楽しんで来いよ」
「えー! ダメですよ! 仙寿さんも来ないと!」
「は?」
 不意に声を張り上げられ、思わず仙寿は首を傾げる。あけびも立ち上がりながら仙寿の腕を引いた。
「そうだよ! 折角だし仙寿の意見も聞かせて!」
「いや、しかし……」
「そうだ! 仙寿さん、あの男の子にクレープ渡しちゃって結局クレープ食べられてませんよね! 私もクレープを食べていないのですが、こんな所にこんな企画があるそうですよ!」
 ダリアはいきなりスマートフォンを取り出し、仙寿に向かって突きつける。そこには、苺をテーマにしたスイーツビュッフェの広告が映されていた。
「行きましょうよ! 三人で!」
「う、ううむ……」

 苺パワーは偉大。押し問答はこうしてダリアとあけびが押し切る形になったのだった。

●友情の証 ver.LKB
 そんなわけで、早速あけびとダリアは仙寿を引き連れアクセサリーショップにやってきたのだった。ダリアはショーケースを覗き込み、深紅の宝石を指差す。
「宝石なら今回はガーネットにしようと思うのですよ! 宝石言葉は『真実』に『情熱』に『友愛』です! 異世界に飛ばされてもこうして再会した私達にピッタリだと思いませんか!?」
「そうそう! 私もダリアと同じこと考えてたんだよね!」
 元の世界ではダリア“ちゃん”と呼んでいたあけびだったが、今ではストレートに呼び捨てしている。二人とも、いつまでも子供ではないのだ。大人として、新たに仲良くしたい。そんなあけびの想いの現れだった。
「ねえ、仙寿はどう思う?」
「む?」
 普段なら「女子の買い物はどうしてこんなに長いんだ」だの何だのと言って本屋や骨董品屋に逃げ込もうとする仙寿だったが、今日は割と乗り気だ。恋人の耳を飾るアクセサリーだ。どうせならいいものを付けてもらいたかった。
「まあ選ぶ宝石はしっかり決まってるんだからそれでいいとして……紅い宝石は主張がつよくて地金が負けやすいから、石が小さめのものを選ぶと綺麗だと思うぞ」
 良家の子息である仙寿。金物細工には多少造詣がある。彼はショーケースの中の一つを指差した。中に飾られていたのは、白色金のアクセサリーだ。
「あと、値は張るがいい地金を選んだ方がいい。どうせならずっと使える方が良いだろ?」
「確かに……途中で壊れちゃったら嫌だしね」
 ダリアはじっとショーケースを覗き込んでいたが、やがて一つのピアスを指差した。そのピアスは、桜のような菊のような、華やかな装飾が施されていた。
「では、これなんかどうでしょう? この花の形のピアス! あけびにダリア、私達はどっちも花の名前ですし、ピッタリではないかと思うんです!」
「確かに! あと、今回はこの一組のピアスを一つずつ付けない? お揃いって事で」
 あけびはダリアの顔を覗き込む。ダリアはこくりと頷いた。
「いいですね! あけびさん賢いですよ! 一つずつなら穴も一つだけで済みます!」
 ダリアの言葉でようやくあけびは思い出す。自分の耳には今や苦労して開けたピアス穴が無いのだという事を。思わずあけびは身震いした。
「……そ、そうだ。またピアス穴を開けないといけないのか……」
「そうですね……痛かったですよ、あの時……!」
 今やピアス穴を開けた時の記憶は虚空の彼方だが、それがむしろ恐怖を加速させる。ダリアは冷や汗をだらだら流して笑みを凍り付かせる。
 ピアス穴で盛り上がる女子二人。仙寿は思わず首を傾げた。
「ピアス穴を開けるならきちんと皮膚科に行った方がいいぞ。自分で開けるより安全だし、何より綺麗に開けられる」
 当然のことをアドバイスしたつもりだったが、あけびはずいと鼻先に詰め寄る。
「そういう問題じゃないんだよ! 仙寿!」
「アッハイ」
 仙寿はもう目を白黒させるしかなかった。そんな彼の目の前で、あけびとダリアはさっと両手を取り合う。
「ダリア、此処でくじけちゃだめだよ。女は度胸!」
「そ、そうですね! 私達はいっぱいいっぱい戦ってきたんです。もう一回ピアス穴を開けるくらい、どうって事無いですね! はい!」

 こうして、あけびとダリアはこの世界でも新たな友情の証を手に入れたのだった。そのピアスが二人の耳を飾るのは、もうほんの少し先の話だが。

●苺がつなげる絆
 その後、二時間ほどたっぷりかけて、ピアスの他にも様々なお洒落アイテムを二人は買って回った。荷物は全部仙寿に押し付けつつ、その足で二人はホテルのスイーツビュッフェへと向かったのだった。

「すごい! この苺ケーキとっても美味しいですよ!」
 ダリアの溌溂とした声がビュッフェの喧騒の中に響く。テーブル一杯にケーキの乗った皿を並べて、それをダリアは次から次へと更地に変えている。ケーキに限っては、ダリアの胃袋は宇宙へと変わってしまうのである。ダリアのケーキを半分分けてもらいながら、あけびはくすりと笑った。
「ダリアは本当に美味しそうに食べるよね!」
「だって、これすごく美味しいですもん」
 ごくりと喉を鳴らしてケーキを呑み込むと、ダリアは目をぱちぱちさせながら仙寿を見つめた。
「……と、どこまで話したんでしたっけ?」
「難癖がへたくそなチンピラを追い払ったところまでだが」
「はい! そうです。そしたらそのお礼って事で、アクセサリーを譲ってもらえることになって。その時に選んだのが、ソーダライトとモルガナイトのピアスで! 一つずつシェアして付けたんですよ! それで……」
 話は止まない。今度ケーキを食べる手がぴたりと止まっている。彼女の明け透けとした話しぶりを聞きながら、思わず仙寿は微笑んでしまう。
「……あけびもダリアも、どこでも変わらないんだな」
「そうだね。私は私、ダリアはダリア、だよね」
 あけびはダリアに向かってウィンクしつつ、仙寿の前にケーキを差し出す。
「ほら仙寿、苺スポンジに苺ムースに苺を乗せた苺尽くしケーキだって!」
「ああ……」
 仙寿にとっては極楽の食べ物のような一品だが、此処でがっつくのもきまりが悪い。仙寿はあくまであけびに勧められたからという体を装い、フォークで切り分けながらお行儀よく食べていく。
 そんな中、あけびを真っ直ぐに見つめて、ダリアは尋ねた。
「それにしても、あけびさんと仙寿さんとは一体如何なる関係なのでしょうか!」
「え?」
「要するに真剣なお付き合いをしているという訳ですよね! 一体何処でどう出会ったんですか? 互いの事を意識し合ったのはいつです? もうキスとかもしちゃってる感じですか!?」
 矢継ぎ早に質問を飛ばしまくる。あけびは最後の質問に思わず頬を赤らめる。
「えと、まあ……キスはしてるよ」
「わーお! いいですね。ラブラブですね!」
 もうケーキそっちのけで盛り上がっている。仙寿も照れそうになったが、あけびとの仲も深まって、少しは余裕が出来たのだろう。首から下げた指輪を取り出す。
「この指輪もペアリングなんだ」
「おおっ! もう結婚したようなもんじゃないですかあ。隅に置けないですね!」
「ちょっと、仙寿……」
 側面射撃をもろに喰らって、あけびは思わず耳まで真っ赤になってしまう。そんな可愛らしい反応を横目にしながら優雅に苺尽くしを堪能していた仙寿だったが。
「ところで、この生クリーム仙寿さんにそっくりじゃないですか!?」
「は?」
 急にダリアが叫び出し、仙寿は目を白黒させる。オーソドックスなショートケーキを目の高さに掲げ、ダリアは仙寿と白いクリームを見比べる。
「いや仙寿さんが生クリームにそっく――ゲフン」
 仙寿は思わず唇をへの字に曲げ、クリームのついたフォークの先をダリアの鼻先へ向ける。流石に生クリーム呼ばわりされては抗議せずにいられない。
「おい、お前には俺がケーキに見えてんのか!」
「いやいや! これがダリアンジョークってやつですよ! 怒らないでくださいゴメンナサイ!」
「どういうジョークだよ……」
 思わず立ち上がりそうになった仙寿は、溜め息交じりに座り直す。そんな彼の横顔を見て、今度はあけびが笑い始めてしまった。
「仙寿が生クリーム……!」
 その脳裏には、苺の被り物をしている仙寿の姿が浮かぶ。その滑稽な姿に、いよいよ腹が捩れそうになる。仙寿は思わずあけびに噛みつく。
「何で笑ってんだよお前まで!」
「だって、苺が」
「はぁ……?」
 ダリアが作り上げた奇妙な空気に思わずたじたじとなってしまう。
「でも、やっぱり私は仙寿さんは生クリームだと思います!」
「何でだよ!」
「いいですか、生クリームだけをスポンジに塗りたくってもケーキは出来ません。スポンジに苺だけおいてもケーキは出来ません。生クリームと苺を使って初めて、このケーキはケーキになっているのですよ! 仙寿さんとあけびさんも、同じだと思うんです」
 思わず仙寿は黙り込む。思わず膝を叩くような、叩かないような。彼は頬を赤くし結局口ごもった。
「ありがと、な」

 そんなこんなで、三人はしばらく会食を楽しんだのだった。



 絆 ver. LKB 終わり




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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日暮仙寿(aa4519)
不知火あけび(aa4519hero001)
ダリア・ヴァルバート(aa4892hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
参考のノベルをほんのりイメージしつつ……という事で冒頭から書かせていただきました。
結局自分でピアッサーを使ったのか、二人並んで病院で開けて貰ったかはお任せします。仙寿さんなら真剣に病院で開ける事を勧めそうだなあと思ったので……
ダリアさんについては初めて描かせて頂くという事で、色々参考にさせていただきましたが、イメージとして問題無いでしょうか。何かありましたらリテイクをお願いします。

この度はご発注まことにありがとうございました。ではまた、御縁がありましたら。
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2019年01月25日

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