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『その姿の裏には 』
鞍馬 真ka5819

 これはまだ、二つの世界を、自由にとはいかないけど、月面基地や秋葉原であれば、それなりに行き来が可能であった、そんな頃の話だ。

「あれ?」
 オフィスに来た鞍馬 真は、そこで伊佐美 透を偶々見かけて声をかけた。
「偶然だね。これから何処かに出発?」
「……ええと、うん。もう少ししたら」
 何気ない挨拶に、少し含む態度で返す透に、真は小首を傾げる。
「いや、君とハンターオフィスで会うのって『偶然』かなあってちょっと思っただけだ」
「……いやそんな。私が何時でもオフィスに居るみたいな」
「うん悪かった。……でも、時間があったら来てるんだろ?」
「いや……だって……他にやることもないし」
 そんな会話を。
 何となく、透の出発の時間まで少しだからと、そのまま他愛なく続けたそのうち──時折、態度に、反応に、普段と違う鈍さのようなものを真は感じた。
「……なんか透、もしかして少し体調悪くない?」
「んー……まあ、少し、疲れは出てるかも」
「大丈夫かい? 無理しない方が良いんじゃ……」
 真の言葉に、透は困ったような顔をして、ゆっくりと首を振った。
「いや、今日は行かないと駄目なんだ。……撮影があるって言われてるから」
「ああ……そうか」
 その手の事情であれば。真には下手に口を出すことは出来ない。今にも倒れそう、と言うならともかく、少し疲れてる、くらいなら……と、真は、確認するように透の様子をじっと見直して。
「大丈夫だよ。俺もこういうことで迷惑はかけたくないから。今日なんとか乗りきれるように、色々備えはしてきたし……帰ってきたら、一旦しっかり休むことにするから」
 微笑して言う透に、それ以上言えることも出来ることも思い付かない。頑張って、無理しすぎないでね、と言って見送ってから。
 時計を見上げた。
 リアルブルーに行ったのならば。戻ってくるのは強制帰還時刻になる筈。その時余裕があったら、ここに様子を見に来てみようか。そう心に留め置いて、真は真で、この紅の世界で依頼を受けて、こなしてから……──

 その時刻。
 リゼリオのオフィスにある転移門、その一番近くにある長椅子に凭れてぐったりとしている透と再会したのだった。

「……透?」
「あー……うん。少し体力回復してから……帰るろうと思って……」
「……その体調でこんなところ居て、回復するとも思えないよ……?」
「……。いや、大丈夫。なんとか乗り切れたし。今はほら、終わったと思ったら気が抜けて。うん。家に帰るくらいの気力くらいはどうにかなる。する」
 後半、真に答えていると言うよりは己に言い聞かせているような言葉になっていた。真は盛大に溜め息を吐く。
「……付き添うよ。何とか歩けそう? 少し私に寄りかかって良いから」
「いや。わざわざ君にそんな。平気だって。ほら、リアルブルーで調子崩したお陰で、逆に薬とか買えたし……ええと……」
 言って透は、ぼんやりした顔で鞄を軽く漁って……その手が止まる。
「あのさ透……リアルブルーにあった物は持って帰ってこれないの、覚えてる?」
「……。今。思い出したよ? ちゃんと」
 やらかした自覚はあるのだろう。片手で俯いた顔を覆いながら、小声で恥ずかしそうに透は言い返して。
 あ、これ駄目なやつだ。確信した真は、透の腕を引いて無理矢理肩を貸すような形にすると、半ば引き摺るようにして歩き出した。
「あ、いやあの、真……」
「担いで行く方が良い?」
「……。いや良いです。歩けます……」
 そんな感じで。
 明らかに熱を出している透を、真は彼の部屋まで送り届けることになったのだった。

「本当、疲れが出ただけだから、寝てれば治ると思うから……」
「うん。透はゆっくり寝ててね? 寒気がするなら取り敢えず、しょうが湯でも作ろうか」
 ベッドに横になるなり、透が言いかけたことを遮るように真は言って、一度台所に立つ。常備してあったらしい生姜は勝手に使わせてもらって、程よく辛味と甘味を調整したそれをマグカップに淹れて差し出した。
「……有難う」
 一先ず、透は素直にそれを受け取って啜る。
「これ以上は、自分で何とか出来るから……真もう、いいよ。ごめん。君はもっと、やるべきことがあったんだろうに……」
「弱ってる友達を放置するほど薄情に思える? ……そこまで仕事中毒に思われてたなら、流石に少しショックかな」
「そういう事じゃ無いんだけど……でもさ。……。ごめん。何やってるんだろうな、俺」
 冗談めかして返す真に、透は何を言えば良いのか思い浮かばなかったらしく、両手で包むようにして持つカップに視線を落として、ポツリと言った。
(疲れが出た……かあ)
 その様子を見て、真は思う。
 実際、それはそうなんだろう。最近の透の様子を思えば。
 考えてみれば役者の仕事と言うのはただ稽古して舞台に立てば良いというだけではない。今回みたいに宣伝用の撮影があったり。取材に応じたり。二つの世界の行ったり来たりで都合も通信も不便な状態でスケジュールを擦り合わせて。
 その上で、合わない時間の分、とこちらで、一人稽古に励んでいる姿を時折見ていた。そこから更に、ただ転移門を使わせてもらうわけにも行かないとハンターの仕事もして。
(……やっぱりなんだかんだ、きみも私のこと言えないところあるよね?)
 苦笑して、彼を見る。肩を落とす彼の──
「本当に、何やってるんだ、俺。こんなことじゃ駄目なのにな……」
 ……熱意が裏目に出て、空回りして落ち込む、その姿も。
 ──分かるよ。
「……そうだね。透の演技は十分凄いじゃないか。そんなに、頑張り過ぎることは無いんじゃない?」
「……っ!」
 誉めるような真の言葉に。透はしかし、奥歯を噛み締めて……瞳に、怒りにも似た鋭い光を見せて。
「……なんて、他人からいくら言われても納得なんて、出来ないんだろう?」
 ──……良く分かってるよと、真は続けてそう言った。
 もう十分強いだろう。無理して身体を壊して何になるんだ。そんな言葉を、内から外から、何度聞いただろう。でも、焦燥は、渇望は消えない。足りない。それでもまだ、望むものには足りないんだと。
 そうして無理して倒れた彼の姿は、どこか自分に似ていて。だから。
「私はね、透。きみを責めもしないし、呆れてもいない」
 その一方で、でも。
 新しい役が決まったんだと。そう教えてくれる時の彼の微かな笑み。仕事を楽しいと思うその気持ちは同じようで……きっと。
「……そんなきみだから、応援したいんだよ。きみの為じゃない。私がそうしたいんだ。……どのみち、早く治さないと駄目だろう?」
 最後は、少し狡い言い方をする。こうなったらどのみち二択だと。自分に迷惑をかけるか、舞台に迷惑をかけるか。
「……ごめん」
 そうなれば透が選べる方なんて決まっていた。
「……食欲はどう?」
「良く分からない、けど多分、少しなら……」
「分かった。雑炊とかで良いかな」
「……うん。ごめん」
「それはもう聞いたよ」
「……有難う」
「それももう聞いた」
 笑って立ち上がり、また台所に向かう。準備をしながら様子を見に戻ると、体力の限界だったのか透は眠りに落ちていて。目覚めた時にはもう、随分とスッキリしていた。

 なお、その日撮影したというポスターは倒れた様子など全く感じさせない程良く撮れていた。
(ほんと、きみって人は)
 それを目に留める人たちの中。真は、一人違う想いで、笑うのだった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
【kz0243/伊佐美 透/男性/28/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注有難うございます。
はーいそんなわけで良いですよね看病ネタ! 私も好きです。
ただこいつも素直に助け呼べる性格かって言うと……なのと、
今色々ややこしいのでちょっと時系列をずらそう……とか
考えたらこんな風になりました。
改めまして、ご発注有難うございました。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年01月28日

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