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『神隠しか、前世か 』
海原・みなも1252

 ザ、ザ……ザアアアア……。

 海原・みなもはススキが無数に生える寂寥とした場所に立っていた。
 彷徨う異界「すすきがはら」だと直感した。友と別れた直後であり、友はどうなったのか考えるとより一層不安が募る。
「出口を探さないといけません」
 ススキとその陰に見えるキツネだけ、手がかりは見えない。

 シャン。
 チリーン。

 鈴が鳴る。
 風が激しく吹いたため、みなもは髪や制服のスカートを抑える。
 前に、女性がいた。顔は良く見えないが、絶世の美女だと感じる。服装は花魁のような豪奢な着物や帯、髪留め……。
『おやあ、うぬは何かのう?』
 声はする。口調は単調であるが、どこか感情も感じる。女性の声だと思うが、不思議な声音だ。恐ろしく、美しい。
『ふんふん……うぬは……なるほどのう。ここには居ってもよいが、いなくてもよい……が、面白いのう』
 みなもは逃げようとしたが足がもつれた。地面についた手は前足と呼ぶにふさわしいものになっている。
「あ、あああ」
 みなもは自分の顔に前足で触れる。すでに人の物ではない感触。
 自分の上げた悲鳴がキツネの声に聞こえた。
『ふふっ、子ギツネが一匹。この地は楽園ぞ? 抗わず、ここにおるの方が幸せぞ? ススキと戯れ、日々過ごすのみ。ゆっくりしておゆき』
 みなもは逃げるために走り出す。
 振り返るとそこはススキだけだった。

 一陣の風が吹く。強い風はススキの穂や葉を激しく揺らした。
(逃げ切れたのでしょうか? でも、あの人はここの世界……だから、近くにいるのかもしれません)
 不安は募る。
(どうすればいいのでしょう)
 周囲を見た渡した。道は見えない。
 ただ、ススキが揺れる音がする。
 みなもは出口を探して歩き始めた。あきらめなかった。
 慣れない態勢で歩き回ることは辛かった。
 通り過ぎたキツネは足を止めて、みなもを見て何か言った。
 みなもはキツネが何と言ったか理解できないため、希望につながった。
(……早く出ないと……早く……)
 みなもは疲労していく。
 倒れるように草むらに入る。枯れ草の具合は横たわるのにちょうどよかった。
 寝たらいけない、休んだらいけないとは思うが、疲労はみなもを眠りを誘った。

 みなもは心細かった、独りでここにいるのだろうかと。
 誰かを探して歩きだしたが、豪奢な衣装を着けた人間のような存在が目の前にいて驚いた。
『すっかり……ふふっ』
 みなもはまぶし気に見上げた。この人間のような存在を知らないが知っている。本当の名前も姿もわからないが、主とも中心とも言われていることは知っている。
『ふふふ、そのように緊張することはないぞ?』
 みなもはおろおろするが、時間が経つと落ち着いてきた。
『あの、どうしてあたしは一人なのでしょうか?』
『寝坊したら、誰もおらぬのう。ほれ、皆と楽しみ日々を過ごせばよい』
 みなもは彼女が指す方を見た。ススキの間から、みなもと年が近そうなキツネが数匹、顔を覗かしていた。
『新入りだ』
『新入りがいる』
『お前は誰だ?』
 口々に言う。
 みなもは驚いたが、ほっとした。仲間がいるから。
 そのキツネたちとみなもは遊ぶこととなった。ススキの間を走り回る。鬼ごっこだったり、大きなススキの葉を探す競争をしたりした。
 疲れたら眠る。
 食事は不要。世界にいる限り、空腹は来ないし、そのようなことがあることもわからない。
 遊び、眠る……それでも楽しい日々。
 世界に溶け込み、遊びの中で世界を知り、力を蓄えることになるのだ。

『大きくなったらどうなるのかな?』
 仲間のキツネが不意に言う。大人のキツネもいるけれども、自分たちのようなキツネではないキツネもいた。
 大きくなるとあのヒトに近い存在になれるといいとみなもは漠然と思った。
 毎日が楽しいことが重要だった。
 季節があり、違う楽しみがあった。
 春になれば若いススキにじゃれつき、夏になれば蒸し暑さから逃れるようにススキの間に隠れる。秋になると花を咲かせたススキにじゃれつき、誰が高く飛べるかの競争が始まる。冬になると寒さの中、枯れたススキを寝床にもっていく。枯れ草は有能な布団となる。
 風の音、ススキのこすれる音。走る音、歩く音。
 薄く晴れた色、光を受けた鈍い輝き。
 みなもは新鮮な驚きを何度も繰り返していた。

 ある時、みなもは彼女の来訪を受けた。世界を走り回っても出会うことはないのに、みなもが忘れたころに姿が隣にある。
 驚くが、そういう存在だと受け入れる。
『ずいぶんとまあ、力をため込んだのう』
 みなもはその言葉に首をかしげる。
『ここにいるだけで力を得る。しかし、それは個別の能力により差は出る……ぬしは感じておらぬのか? そのままここにおる方が幸せなのだろうのう? 妾は構わぬが、面白きことは気になるのう』
 彼女が何を言っているかみなもはわからない。
『幸せ?』
『そう、幸せのう。ここにおることは幸せであろう? 妾がそうなるよう願っておるからのう』
 みなもはうなずいた。毎日仲間と遊ぶことは楽しいし、幸せなのだ。
『例えば……いや、まあ』
 考えるがまとまらない様子でみなもを見つめる。
『例えば……』
 彼女は扇を動かした。先端の軌跡に水が吸い寄せられ舞った。舞った水はみなもの鼻先に落ちた。
『冷たいっ』
 みなもは舌で舐めとる。
 この世界に来て水を飲んだことはなかった。飲まなくても生きてこられたから。
 水が舌から喉を通る。
 身体に電撃が通ったような衝撃が走った。
 全身から力が湧く気がするが、それだけではなかった。
 みなもは脳裏に断片となって知らない世界が浮かんでは消えていた。
 知っている、懐かしい、帰りたい場所のように感じた。この世界にずっといるのだからおかしいと感じた。
『力があるならば、妾のような姿に化けられるはずぞ?』
 促され、みなもは姿を思い浮かべた。彼女を手本に化けてみることにした。
 力を繰った。どういうふうに変化するのか、化けるにはどう力を使うのか、感覚でつかむ。
 身体の輪郭がゆがむ。前足は手に、後ろ足は足に、胴体は真っ直ぐと立ち、顔は平たくなるように考える。
 みなもは見える範囲を見て人間になれたと感じた。服は彼女のようなものではなく、足が見える服だった。
 差し出された鏡を覗いたみなもは目を見開いた。
「……え? あれ? あたしは? キツネ……違う……ススキ……」
 みなもはその人物を見て後ずさる。
 このままいればキツネにされてしまう。
 この世界ではキツネしかいられない。
 いや、先ほどまで自分はキツネではなかったのか?
「……ど、どういうことなのです……」
『さて? 妾は知らぬのう。ぬしは何を望むかえ? この地にとどまり、さらに上の存在を目指すか、それとも、人の生をまっとうするか』
「……!?」
 断片化されたいた記憶をつなぎ合わせると、みなもは相当長い間ここにいたことになる。むしろ人間であることは本当か否かもわからない。
『さあ、二択ぞ?』
 彼女は迫る。
「あ、あたしは――」
 イキタイと願った。

『もったいない気もするのう』
 みなもが最後に聞いたそのヒトの言葉だった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
???/豪奢な衣のヒト/女?/二十代?/主?


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注ありがとうございます。
 前世とも取れますし、夢かもしれません。正しい答えは設けていません。
 あのヒトは何者か……わからないような雰囲気になっていきました。実は、性別も……?
 さて、いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月29日

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