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『3人もいる?』
高野信実aa4655)&福田 シゲオaa4655hero002)&ロゼ=ベルトランaa4655hero001

 世界に混沌を齎していた存在である彼らが消え去った後のことである。
 高野信実達エージェントが戦っていた愚神達が存在しなくなり、世界中はもとに戻った。ここ、日本にも平和が訪れていた。
 高野は地元である岩手に転校し、普通の学生といえる日々を送っている。共に戦っていた英雄達を思い出すことはあれど、もう会えない存在でもある。胸の奥に微かに引きずる寂しさは確実にあったが、それでも今は憧れの警察官になるため、受験勉強のために日々教養試験の内容をさらっていた。
 化学の授業が終わった理科室で、実験器具を片付け終えた高野はふと顔を上げ窓の外を見た。空は鮮やかな夕焼け色に染まっている。
「はぁ、今日も疲れたっす」
 誰もいないのを良いことに、高野はなんとなく身体に溜まった疲れを言葉と共に吐き出した。
 英雄たちがいて、共に戦っていた頃だって疲れたはずだけれど、どうしても一人受験勉強に向かって前進している今の方がなんだか疲れる。それは、きっと仲間がいないという喪失感も少なからず関係しているのだろうと思った時だった。
 鼻腔を擽る酸っぱい香りがする。
 これは、一体……考えてすぐに思い当たった。
 レモンだ。

 意識が突然暗闇に遮断されたような気がして、目覚めると、そこは片付けを終えた理科室だった。
 綺麗になった机に顔を伏せて寝こけていたらしい。
 帰るか、と立ち上がり教科書類を持ち上げようとして気づく。開かれたノートには自分の文字でこう書かれていた。
 『祭り騒ぎにて待つ』
「祭り……?」
 こんなことを書いた覚えはなかった。なんだか懐かしい感触だ。何かが起ころうとしているのだろうか。微かにぞくぞくとしている自分を落ち着かせながら、そういえば先程から聞こえてくる太鼓の音はどうやらお囃子らしいと気付き、高野はノートの言葉に従うことにした。
 学校の正門を出て、祭囃しの音に導かれるようにそちらへと迷いなく進む。
 田んぼのあぜ道を進むと素朴な神社がある、はずだった。
 神社の境内には所狭しと屋台が並んでいて、人だかりの中に見慣れた後ろ姿を見つける。
 一瞬目を疑って、高野は思わず目を擦る。
「……ロゼ、さん?」
 そう、その姿はかつて愚神と戦っていた時、手助けをしてくれていたロゼ=ベルトランなのである。しかも、なぜか共鳴後の姿で、一歩間違えれば高野自身と間違えられそうなほどその姿は自分と似ている。
 もう見れないと、そう自分の中でも整理をつけようとしていた矢先に、こんな姿を見ると揺らいでしまう心があった。でもまず、その前にだ。
「俺の見た目で何をしてるんすか」
 共鳴後の高野とそっくりな姿で、両手に花とばかり、女性を連れ歩いている姿にまずツッコんで更にため息がでた。
 赤信実(ロゼ)は周りできゃいきゃいと騒いでいた女子達に、名残惜しいとばかり眉をハの字にして言う。
『本命が来たみたい、ゴメンね』
 自然な動作で女子達に投げキッスを送る。女子達は赤信実の柔らかな物腰と純朴そうな見た目とのギャップに完全にやられたらしい。「きゃー」といいながら頬を赤く染め、赤信実に手を振り返して祭りの人混みに紛れて行ってしまった。
「ロゼさん、俺はそんな趣味ないっす。なんで誤解させるようなこと言うんすか!」
 少し怒り混じりの言葉は、会えた喜びを伝えたいはずなのに、どうしてかつっけんどんな言葉ばかりが口をついては出ていく。けれど、そんな高野に赤信実はつうと近寄ると高野の両頬を両掌で包んで言う。
『ふふ、自分を好きになって、何が悪いの?』
 自分。確かにそうだ。自分と瓜二つだ。でも、自分は一人しかいないはずなのに。赤信実の言いたいことも高野は理解しようとしているけれど、純粋でそれていて核心を突くような疑問には口ごもってしまった。けれど、離れがたい気持ちはあって、祭囃子の音の方へと歩く。
 近づけば近づくほど、どんどんと囃子太鼓の音は地響きのように聞こえてくる。この小さな神社には提灯に釣鐘といってもいいような立派な神輿が見えてくるのにはそう時間もかからなかった。立派な神輿の上では褌姿で太鼓を叩く男がいる。
「気合、入ってるっすね……」
 と、よくよくその男の顔を見れば、これまた高野とそっくりな姿の男である。
「えっ、えええ?! 何してるんすか、福田先生、ですよね」
『応、久方ぶりだな。高野君』
 えっ、やっぱりこれ共鳴後の福田先生じゃないか……。でもなんでまた褌一丁なのかツッコミたいところは色々ある。横にいる赤信実さんのこともそうだし、この緑信実(福田先生)のこともそうだ。まず、何故会えない筈の彼らと祭りにいるのか。
「あ、あのぉ、なんでそんな格好なんすか?」
『神輿に乗っていた男からな、言われたんだ。「褌を締めれば一層男前になる」ってな。だからこうして神輿にのっている』
「はぁ……」
 肯定すべきなのか否定すべきなのかツッコめばいいのか、もはや頭のこんがらがっている高野にはわからなくなっていた。そんな高野に緑信実は豪快に言った。
『お前も脱げ。男らしくなるぞ』
 大真面目な顔をして勧めるものだから慌てて高野は答える。
「脱がないっす!!!!」
 半ば怒鳴るようにして言ってため息を吐く。
 横にいた赤信実がそんな高野の腕を引いて言う。
『信実クンにはもっと息抜きしてほしい。綿飴とか食べたいな』
 赤信実としては気遣ってのことだったのだかこれが引き金になったらしい。
「我儘言うな。まったく。ロゼさんはいつもいつも……」
 思い出される懐かしい日々でも赤信実には困らされることが多かった。だからか、堰を切ったように止まらない怒りの言葉を吐き終えるとバツの悪さに高野は二人のもとを後にしてしまった。
 高野信実が祭りの人混みに紛れてしまった後、赤信実はぽつりと口を開く。
『なんでいつも信実クンには怒られちゃうかなぁ』
『お前の軟弱な言動のせいだろう。してやりたいことがあるなら、もっときちんと誠実に伝えれば良いというもの』
『ボクはきちんと伝えるけどね! 福田さんは信実クンに言いたいことがあったって伝えられないよね。誠実さだって大事だとは思うけど、まずは伝えることからだよ。信実クン、真面目だから言わないと突っ走っていっちゃうから』
 赤信実の切り返しに緑信実は何とも言えず、黙って奥歯を噛み締めた。確かに、自分は不器用だから高野信実に伝えたいことを伝えることはできていないかもしれない。でも、そうだとしても、彼を守りたいから英雄として呼び出されたような気がするのだ。
 口達者に切り返した赤信実も、少し思案気にしていた。
 自分が伝えたいことは、いつも本当の意味では信実クンには伝わらない。
『信実クンにはもっと息抜きしてほしい』
 これが、赤信実の本当の思いだった。
 英雄として呼び出された時から、ずっと。高野信実という人間を近くで見ていた自分としては、彼がいつもいつも直向きに頑張って何かを変えようと奮闘している姿を見て来ていたからこそ。自分を犠牲にしてでも正義という感情に恭順する姿勢は見ていて辛くなるほどだったのだ。けれど、それこそが高野信実の良い面でもあるから、面と向かってそれを否定することはできない。そう、だって正義なのだ。正義を否定すれば信実からの信用は失われるだろうし、彼自身はもっと深い闇の中で自責の念に囲まれてしまうかもしれない。赤信実は高野信実という人間が好きだし、酷く愛おしいものだとすら思う。だからこそ親が子を思うような愛情から、彼には息抜きをしてほしい、休んでほしいと思うのだ。
 赤信実が言った発言の真意をなんとなく読み取った緑信実はやおらに目を伏せ、一見してわからないほど少しだけ口端を上げた。
『綿飴食べたいな』
 これだけ屋台が出ているのだ。何か食べたっていいだろうという顔で緑信実を見るも、緑信実は緩めていた顔をすぐに引き締め一言。
『我儘言うな』
 と低い怒声を発した。
『ええ、いいでしょ……、こんなに屋台が並んでいるのに何も食べないで帰るのは損だよ。どこに綿飴の屋台あるかな』
 わくわくした様子で綿飴の屋台を探し出す赤信実は緑信実が叱った意味さえわかっていなかった。

 一方、二人の信実という自分から離れた高野信実自身は、離れてからあれだけ寂しく思っていた二人に会えたはずだというのに何故か苛立ってしまった自分に戸惑いを覚えていた。
 受験勉強の時間が削られる苛立ち、それとともに高野を大いに戸惑わせていたのは、久しぶりに会った二人の振る舞いだ。高野信実は『真面目でしっかり者』であるべきで、それに呼応して形作られたはずの英雄である福田シゲオやロゼ=ベルトランが何故あれほどまでに自分とかけ離れた振る舞いをするのか。自分という存在の中に一つでもあんなところがあるだろうか。
『こんなのは俺じゃない』
 そう、思ってしまうのだ。
 戸惑いは高野の足を絡め取り、いつしか神社の外れに来ていた。屋台の喧騒もここでははっきりとした音としては聞こえてこない。
 うら寂しさが漂う境内の一角にある暗がりは、その向こうに何かがいそうとすら思える雰囲気をたたえている。
 少し頭を冷やそうと、石造りの腰掛けに座り高野はため息を吐いた。
 自分と同じ姿をしていても、全く性格の違う二人とどう接すれば良いのか、正直困りきっていたのだ。以前は戦いという繋がりがあったからこそ、それを踏まえてお互いを制し、お互いを理解していたように思うけれど実際のところ一人ひとりの個性として面と向かって接したことはなかったかもしれない。
 高野の悩みはどんどんと膨らんでいく。そんな心の隙につけ入るように細い声がしたのは突然のことだった。
『僕はたたりもっけ』
『僕もたたりもっけ』
『たたりもっけ』
『たたりもっけ』
 声がしたと同時に、梟が人型を模したようなナニかに周りを取り囲まれている。それは幼い子供のような声で、騒ぎ立てる。
 たたりもっけと称した存在からは、過去に対峙した従魔のような気配を感じた。もう、これらの存在は駆逐されたはずだと主張する理性と、これは危険だと主張する本能がせめぎ合い、身動きがとれないまま目を見張った高野は瞬時に体を固くした。
『僕を殺さないで』
「(殺られる……!)」
 悟ると共になるべく致命傷を避けるように両腕で庇うが、間に合わない。背中には林。これでは逃げ場がない。たたりもっけの攻撃に、為す術なしかと思われた時だった。
『間に合ったね』
『滅せよ!』
「ふ、ふたりとも……」
 たたりもっけの持つ刃のようになった翼を退ける、銃声と刀が光った。
 高野があれだけへそを曲げて二人から離れたというのに、彼らは助けにきてくれたらしい。申し訳無さをまず感じて謝りたくなった。
 これだけ性格が違うと思っていても人を助けようとする『優しさと真面目さ』の中に、自分と同じ心根が垣間見えて、やっぱり、二人で良かったと高野は心に思った。
 二人なら戦える、丸腰の自分は今ここにいても足手まといになるだけだと判断した高野はたたりもっけっから離れながら、声を振り上げる。
「俺は、避難誘導をするっす! 二人は人に被害がいかないように食い止めて!」
『応』
『りょーかい!』
 頼もしい二人の声を後に高野は祭囃子の方向へ走り出した。
「逃げてください! ここは危険です」
 エージェントの時を彷彿とさせるてきぱきとした誘導に市民達は従い、祭り屋台はもちろん、参道からも人は引けていった。
 たたりもっけ達はロゼと福田を囲むようにして撹乱し、傷を負わせようとしてくるが、二人は背中合わせになり迫ってくるたたりもっけに対処していた。たたりもっけ達がこちらへ飛び込んでくる前に、福田は数えることのできない程の傷を浴びせる。それでも福田が傷を負えばすぐに、ロゼが回復のために福田へ銃を打ち込む。
 数に物を言わせるたたりもっけを、銃撃により牽制していく。
『全く、多いね』
『あぁ。話している余裕はないんじゃないか?』
 脇腹に刃の傷を負わされた赤信実は緑信実にむかって仲間意識のある憎まれ口を叩く。
『福田さんこそね』
 自身の脇腹から流れ落ちる血液をちらりと見た後、赤信実は銃口を軽く咥えて自分に向け打ち込む。回復を行うにはこれが一番早い。
 圧倒的な速度で、はぐれ従魔たたりもっけ達は倒されていった。
『またつまらぬ者を切ってしまった』
 背を預けていた二人の距離はいつの間にか少し離れていて、黄信実へ向けて赤信実が銃口を向け、何かを言うが離れているせいでその言葉は黄信実には届かなかった。
 避難誘導を終えて、逃げ遅れた人がいないか確認しながら戦闘している二人の元へ戻ろうと振り向いた高野はどこかで嗅いだレモンの強い香りを鼻腔に感じると同時に気絶してしまった。倒れた高野の存在を知るものは一人としていない。

 急いで戻らなければ、という思いと共にがばりと起き上がった高野は自分が理科室にいることに気づいた。
「え……あれ? 従魔は、二人は……?」
 何やら騒がしいと思えば外は祭り騒ぎである。
 そういえば、校内掲示板にも今日は『座敷わらし祭』が行われるとチラシが掲載されていたのを思い出す。
 では、今まで自分がいたのは?
 たたりもっけと称した従魔がいたが、よくよく考えれば、座敷わらしは幼い子供の姿である。そして幼い子供が祟った姿をたたりもっけと呼ぶ地域もあるのだ。
 もう一度、行ってみるべきだろうか。口の中では食べた覚えもない綿飴の味がしていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号1024338】
【(aa4655@WTZERO)高野信実/年齢14/職業学生】
【(aa4655hero002)福田 シゲオ/年齢48/職業教師】
【(aa4655hero001)ロゼ=ベルトラン/年齢28】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご発注誠にありがとうございました。
 以前もPC高野様とロゼ様を書かせて頂き、また再び関われたことが嬉しいです。
 一人ひとりとても方向性の違うキャラクター性が交わることでどんな展開が生まれるのか、私も楽しんで書かせて頂きました。
 お楽しみ頂けると幸いです。
 山上三月
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リンクブレイブ
2019年01月31日

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