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『聖紅士<サンタ>が村にやってきた! 』
ルトガー・レイヴンルフトka1847


 意外な顔を通りで見かけた。ルトガーは足早に近づいていく。
「こんなところで逢うとは珍しいな。どうした、買い出しか?」
「レイヴンルフトさん! 先日はありがとうございました」
 ひょろりとした体格の黒髪の男が、愛想の良い笑顔を向ける。
 リアルブルーからの移民が多く住むバチャーレ村の代表、サイモン・小川だ。
「村はどうだ。皆は元気か?」
「はい、おかげさまで。そうですね、元気すぎるというか……」
 サイモンの思い出し笑いは、本当に楽しそうだ。
「いつもの通り、アニタさんの子供たちが喧嘩をしましてね」
「またか。相変わらずだな」
 たくましく生きる住民たちの様子に、ルトガーの表情も思わず緩んだ。
「だが親父さんは帰ってきたんだ、『形見』のお守りを取り合ったりしなくていいんだろう?」
「その親父さんが原因なんです」

 話はこうだ。
 レベッカ、ビアンカ、それに上の男の子エリオの父親は同盟軍の軍人で、死んだと思われていたのだが、つい最近になって家族の元へ戻ってきた。
 彼は軍を辞めて、妻のアニタが移り住んでいたバチャーレ村に一家で腰を据えることになった。
 そこで村を上げた歓迎会を兼ねてクリスマス会でもしようかという頃、ビアンカが言い出したのだ。
『あたし、去年のクリスマスに、サンタさんに父ちゃんをクリスマスプレゼントにくださいってお願いしたんだよ』
 これに姉のレベッカが鼻を鳴らした。
『サンタさんなんか、ほんとはいないんだから』
『いるもん! 父ちゃん帰ってきたもん!!』
 激しい言い合いに、兄のエリオが割って入った。
 もう大人に負けないぐらいの体格になっていて、母に代わって妹たちの喧嘩を仲裁することが多くなっている。
『レベッカ、いいじゃないか。父ちゃんが帰ってきたのは本当なんだから』
『よくない! あたしだってちっちゃいころはお願いしてたもん! サンタさんがいたら、なんで今まで父ちゃんが帰ってこなかったのよ!!』
 そこからはいつものパターン。
 にぎやかな喧嘩はアニタの介入でひとまず収まった。だが問題が解決したわけではない。
 それどころかこのクリムゾンウェスト民の姉妹それぞれに、他の子供たちが加勢し、にらみ合いが続いているのだという。

「クリムゾンウェストで聖輝節と呼んでいた行事に、リアルブルーのあらゆる『クリスマス』が混じりあっていますからね。両方を納得させるにはどうしたらいいものか、大人は頭を悩ませているところなんですよ」
「なるほど。それは難しい問題だな」
 ルトガーは深刻そうに眉間に皺を寄せた。
 子供にとっては大問題だろう。
 サンタと「父ちゃんが帰ってきたこと」とは無関係だろうが、それでは余りに味気ない。
 かといって「お願いが通じたんだね」とビアンカの言葉を受け入れれば、今まで寂しさに耐えていたレベッカがかわいそうだ。
「で、とりあえず僕にはそこを解決するアイデアは出せないだろうと皆に言われて、買い出し担当というわけです」
 ははは、と笑うサイモン。自分でもその点を争うつもりはないらしい。
 ルトガーはううむ、と唸る。
「だが果たしてサンタはいないのだろうか? そういう精霊もひょっとしたらいるのではないか?」
 実際、覚醒者は大精霊クリムゾンウェストと契約しているし、バチャーレ村の近くには、気が向けば姿を見せてくれる精霊の宿る祠もある。
 そもそも同盟は、智恵を司る大地の大精霊アメンスィの加護を受ける地だ。
 赤き衣の精霊がいても、おかしくはないのだ。
「ええ、この世界ではいても不思議はありません。でもお手軽な存在ではないですよね」
 確かに、どの精霊たちを思い返しても、簡単に「お願い事を叶えてくれる」などとは思えない。
「なあどうだろう。俺もそのクリスマス会の盛り上げに参加させてもらえんか」
「もちろん歓迎ですよ! でもいいんですか、お忙しいでしょう」
「遊びに行くだけだからな、幾らでも時間は作るさ」
 ルトガーは、サイモンが足元に置いていた荷物をひとつ、ひょいと持ち上げた。


 太陽が山の向こうに隠れた頃、ようやくサイモンは村に戻ってきた。
 そのまま住居エリアを走りながらトラックの警笛を派手に鳴らしたので、住人たちは何事かと顔を出す。
「すみません、お騒がせして! 皆さん、あちらの空を見てください!!」
 サイモンが示すほうには、既に暗くなりつつある空と、黒々とした山の稜線があるだけだ。
 瞬き始めた星の光は冴え冴えとして冷たい。
 首を傾げる住人たちの中には、アニタと子供たちの姿もあった。
 不意に上の女の子、レベッカがアニタの服の裾を引っ張る。
「母ちゃん、あれ! なんだろ?」
「何って……え、何あれ?」
 村はずれの防風林のほうから、光るものが近づいてくるのが見えたのだ。
「父ちゃん! なに、なにがみえるの?」
「ちょっと待ってな、……ほら、見えるか?」
 アニタの夫であるニーノが、ビアンカを肩に抱き上げる。ビアンカは父親の頭にしがみつきながら、そちらに目を凝らした。
「なにか光ってる!」
 光るものが近づいてくると共に、軽快な金属音のようなものも聞こえてくる。

 シャンシャンシャン。

「この音なんだろ。鈴の音?」
 長男のエリオが眉を寄せながら首を傾げた。
 そうしているうちに光るものはどんどん近づき、それが光る馬であることが分かる。
 住人たちは色めき立った。
「VOIDだ!!」
「危ないよ、早く逃げて!!」
 車を降りたサイモンが、慌てて皆をなだめる。
「いや、よく見てください! ほら!」

 馬の放つ光に照らされ、鞍上に赤い服の男が見えた。
「HO−HO−HO−!」
 男は棒にたくさんの鈴をつけたスレイベルを振りながら、陽気な声を上げる。
 そのスレイベルを振るたびに、軽快な音と、光の粒子があふれ出す。
「サンタさんだ!!」
 ビアンカが、父親の肩の上から叫ぶ。
「やっぱりサンタさん、いたんだよ!!」
 興奮して顔を真っ赤にして、兄弟たちを誇らしげに見下ろした。

 その言葉に応えるように、赤い服の男はスレイベルを空高く突き上げる。
 すると雲もないのに粉雪がさあっと舞い始めるではないか。
「メリー・クリスマス!」
 そう言うとスレイベルを一振り、今度はそこから飛び出した流星が空に向かって飛び出し、宙で弾ける。
 子供たちは瞬きするのも忘れたように、赤い服の男の動作を息を詰めて見守り続ける。
 そうしているうちに、光る馬は村の中まで入って来た。
「良い子にはご褒美だ!」
 男はそう言うと、またもスレイベルを振る。
「ぐほっ!?」
 呻いた直後、咳き込んだのはサイモンだ。口にチョコレートバーが突き刺さっている。
「HO−HO−HO−! さあ良い子達、プレゼントを受け取るがいい」
 キャンディケーンや砂糖菓子やジンジャークッキーを、次々と取り出しては配り始める赤い服の男。
「あれ? ルトガーおじさんよね?」
 クッキーを受け取ったレベッカが、見事に正体を見破った。


 住民たちは村の集会場に改めて顔をそろえ、ごちそうを囲んでのクリスマス会となった。
 既に料理の準備は整えられていて、サイモンが買ってきた飾り物やプレゼントなどは子供たちとルトガーが飾り付けた。
 子供たちは歌を歌ったりお菓子を食べたりと実に楽しそうだが、若干むくれているのがビアンカである。
「どうしたビアンカ、もっとお菓子を食べないか?」
 ルトガーが話しかけると、恨みがましい目でじっと見つめる。
「おじさんは本物のサンタさんじゃないもん」
 どうやら姉に言い負かされたようだ。
 ルトガーはレベッカを呼び、ふたりを両脇に座らせる。
「ここだけの話だが。本物のサンタさんは精霊なのかもしれない、と俺は思っているんだ」
 真面目な顔で秘密めかして囁くと、ふたりが顔を寄せてくる。
「だとしたら、お願い事をしたいからって、すぐに出てきてくれると思うか?」
 ふたりは一番近くにいる地精霊を思い浮かべて、首を横に振る。
 精霊はとても綺麗だけど、気まぐれ。
 しかも怒らせると怖い……ということは、この村ではよく知られているのだ。
「な? でも人間を不思議な力で助けてくれることもある。サンタさんだって姿を見せなくても、レベッカがずっと前にお願いしたことを覚えていて、親爺さんを探してくれてたんじゃないかと思うんだ」
「そうなのかな」
「きっとそうだよ!」
 ルトガーは満足そうに、やっと仲直りできたふたりの頭を撫でた。
「ありがとうね、上手くなだめてもらったみたい」
 手を繋いで走っていく背中を見送るルトガーに、そう声をかけたのは子供たちの母親であるアニタだ。
「旦那が帰って来たんだってな。良かったじゃないか」
「色んな人にお世話になっちゃったけどね、今は本当に毎日が幸せ」
 気のせいか、嬉しそうに笑うアニタは前よりも綺麗に見える。
「そいつは何よりだ。ここは移住者の村だからな、クリムゾンウェストのことを色々教えてやればいい。助けになるだろう」
「そうだね。旦那も農家の出身だし、子供たちにはここが故郷になるんだから」
 ルトガーは頷く。
 新しく生まれた村に刻まれる、新しい歴史。
 ハンター達は、これからもそれを見届けることになるのだろう。

 アニタと入れ替わりにマリナがやって来た。移住者のひとりで、今はハンターとして修業中の身だ。
「今日はお疲れ様。ハンターって色んなことができるのね」
 村の材料で作ったクワスのグラスを差し出す。
「面白かったか? まあちょっと特殊なクラスで、歪虚と戦うときに使えるものでもないがな」
 ルトガーは先ほどの種明かしを説明する。
 騎乗したペットを輝かせて高速移動する『シューティングスター』、光を撒き散らす『ドリームパレード』、などなど。
「戦うだけがハンターの仕事というわけでもないからな。住民同士のトラブルを解決するというのも、立派な仕事だ」
「そうね。でも何より、貴方が楽しそうなのがよかったと思うわ」
「そうだったか?」
 ルトガーが頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。が、マリナは大真面目だった。
「ごめんね、悪い意味じゃないの。ほら、スキルがいくら上手に使えても、使う人が楽しそうじゃなかったら、見ているほうは楽しめないから」
「それはあるかもしれんな」
 マリナが頷く。
「子供は正直だもの。気持ちの籠らないキラキラだけじゃ、すぐに飽きるわよ」
 そこにレベッカとビアンカが駆け寄ってくる。他の子供たちも集まって来た。
「ねえおじさん! さっきのピカッてビューッていうの、またできる?」
 目を輝かせる子供たちに、マリナが『ほらね?』というように小首を傾げる。
「よしよし、あれは外でやるものだからな。寒くないようにして、外に出るぞ」
 きゃあきゃあとにぎやかに騒ぐ子供たちを連れ出しながら、ルトガーがマリナを振り返る。
「マリナ、もし良かったら後で例の祠につきあってくれ。ここでこんなに楽しそうにしていたら、またヘソを曲げられては叶わないだろう?」
「それもそうね、準備してくるわ。もう聞こえていて、呼んでも出ていらっしゃらないかもしれないけどね」
 マリナはさもおかしそうに笑った。


 結局、他にも何人かの希望者がいたので、精霊参りは10人ほどの一行になった。
 今年は村の辺りの雪も少なく、明かりを照らせば山道とはいえ問題なく歩ける。
「すごい星空だ。今にも降ってきそうだね」
 サイモンが白い息を吐きながら、空を見上げる。
 枯れた枝の隙間から見える空には、クリスマスツリーの電飾のように無数の星が煌めいていた。
「星は綺麗だけど、足元にも気をつけてね。怪我は治るけど失った命は戻らないわよ」
 マリナがサイモンを冗談めかして脅す。
「気を付けるよ。空のことを考えていて地の穴に落ちたという先人もいることだしね」
 山道を踏みしめ、精霊の祠にたどり着く。
 落ち葉は綺麗に掃き清められ、磨かれた祠の石が濡れたように光っている。
「綺麗に手入れされているな」
「冬の間も交替で掃除に来ているんです。マリナさんはもっと頻繁に通っていて、何かあればすぐに知らせてくれますし」
 子供たちの父親のニーノが荷物を下ろしながら言った。
「あんたがアニタの旦那か。すっかり村の生活に馴染んだみたいだな」
「はい、皆さん良くしてくださいますから」
 てきぱきとお供えを準備する様子を見れば、ずっとこの村にいる人のようだ。
 明かりを灯し、香を焚き、酒や干し肉、干し魚、芋などをきちんと並べる。
 ルトガーはそこに、住民たちが作ったお菓子を並べた。
「この村の小麦で作ったそうだ。お菓子も偶にはいいんじゃないか?」
 それから皆で静かに祈りをささげる。
 もうすぐやってくる新しい年が平和でありますように。
 この地に住む人々にこれからも豊かな大地の恵みが与えられますように。

 そのとき、祠が金色の光を帯びる。
 見つめる人々の前で、光は小さな人の形をとった。
「人の子は夜に寝るものであろう。ご苦労なことよの」
 美しい女性の形をとった地精霊マニュス・ウィリディスは、柔らかく暖かな光を放つ。
「下で騒いでいるので、ご機嫌伺いに押しかけた。会えて光栄だ」
 ルトガーが挨拶すると、精霊は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
 この辺りは妙に人間臭いところがある。
「今宵はどうにも人の気配で騒がしゅうてな。これでは来るものも来られぬ、ほどほどにして眠るがよいぞ」
 謎の言葉を残し、精霊は姿を消した。
「来るもの……?」
 マリナが何とも言えない表情でルトガーを振り向いた。
「さて、精霊様のお言葉だからな。人間にはわからんこともあるだろう」
 ルトガーが笑った。
 子供をなだめるために思いついたことだが、さて真偽のほどは如何に。
「でもこんな夜には、本当に何かが起きそうですよ。ほら!」
 サイモンが指さす先を、一筋の流れ星が消えていった。
「そうね。今日は久しぶりに、靴下をつるして眠ろうかな」
 マリナの言葉には複雑な想いが込められているようだった。
 だからルトガーは、わざとまぜっかえす。
「プレゼントのリクエストがあれば、サンタさんが聞いてやるぞ。窓の鍵は開けておけよ」
「そうね、何にしようかな。窓の外に靴下をつるしておくわ」

 住民の一人一人が、村の歴史を作る。もちろんマリナもその一人だ。
 そしてこの村に立ち寄る人々も、また。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka1847 / ルトガー・レイヴンルフト / 男性 / 50 / 人間(クリムゾンウェスト) / 機導師+聖紅士 】

 登場NPC
【 kz0211 / サイモン・小川 / 男性 / 33 / 人間(リアルブルー) / 一般人 / バチャーレ村代表 】
【 kz0272 / マリナ・リヴェール / 女性 / 28 / 人間(リアルブルー) / 聖導士 / バチャーレ村の住民 】

 未登録NPC
 地精霊マニュス・ウィリディス
 バチャーレ村の住民 ニーノ、アニタ、エリオ、レベッカ、ビアンカ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、移民の村のクリスマスをお届けします。
聖紅士のスキルはしっかり使える機会が余りありませんが、あれこれ考えているととても楽しかったです。
なお、今回は関連NPCほぼ全員が参加させていただきました。
楽しいひと時をどうもありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
樹シロカ クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年01月29日

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