『『続・愛の行方 後編』 』

アレスディア・ヴォルフリート（8879）

　闇の縄で拘束されたアレスディア・ヴォルフリートの首に、彼女の故郷を滅ぼした男の掌が向けられた。
　しかし男の視線の先はアレスディアではなく、歪んだ空間の先――アレスディアの部屋へと駆け込んだ、ディラ・ビラジスへと向けられていた。
　『殺すぞ』と、男の唇が動く。
（ディラを……挑発している……？）
　どこか虚ろな目で、アレスディアは男を見上げた。
　拳に魔力を纏い、狭まった空間をこじ開けてディラが飛び込んでくる。
　途端、男はアレスディアを拘束する力を強め彼女の身動きを封じ、飛び込んできたディラにも闇の縄を放った。
　片腕を縛られながら、ディラは男を強く睨む。
「……アレスを放せ」
「お前は騎士団の団員だったのだろう？　返せと言われて、返す理由がどこにある」
　男は、アレスディアに掌を向けながら剣を振り、ディラに闇の刃を繰り出す。
　ダガーに魔力を纏い攻撃を弾くも、ディラの身体は少しずつ、傷ついていく。
「お前のせいだ。すぐに止めは刺さん。泣き叫び、別れを惜しめばいい」
　男が、アレスディアにそう囁く。アレスディアは男がしようとしていることに気付き、息をのんだ。
「ま、待て……ッ、抗体は私だけで十分だろう、ディラに手を出すな」
　輝きが失われたままの目で、アレスディアは声を絞り出す。
　動揺するアレスディアの様子に、男は楽しげな笑みを浮かべる。
「そうか、手を出されるのは嫌か」
　闇の縄を引き、男はディラを近づけ、手をディラの方へと向ける。
「ディラ、この男の掌に気を付けろ。空間が閉じる前に戻れ」
　無我夢中で、アレスディアは声を上げていた。
「アレスも一緒だ」
　ディラの言葉に、アレスディアは首を左右に振る。
「まだ、間に合う……ディラだけでも戻るんだ。戻って、平和な世で、誰か、と……幸せ、に……」
　幸せに生きてほしい。そう言おうとするのに、どうしても言う事が出来ず、アレスディアは歯噛みした。
　アレスディアのそんな反応に、男は薄ら笑いを浮かべ、ディラは怒りを爆発させた。
「馬鹿な事言ってんじゃねーぞ！　てめぇ、俺があの女に捕まってた時、何て言った！　自分の言葉を思い出せ！！」
『苦境に立たされたときこそ、信じる先を誤るな。矛だけでもならぬ。盾だけでもならぬ。共にいてこそ、状況は切り開ける』
　それがあの時、アレスディアがディラに言った言葉だった。
「私は……助けを必要とする者がいれば、駆けつけてしまう。私と共にいれば……ディラも、戦いに、巻き込まれる……今だって、そうだ……他の誰でもない、私が、ディラを戦いに誘い、私が、ディラを傷つける……大切な、人ほど……私は……」
「そうだ」
　薄ら笑いを浮かべたまま、男がアレスディアの言葉を肯定する。
「お前は大切な者を死に導く。お前が愛した者は等しく死に絶える」
「お前のせい、じゃない。俺の意思だ」
　男が剣をディラに振り下ろす。ディラはダガーで刃を止めるが、魔法薬で強化された男の力に敵いはせず押し負け、薄く胸を切り裂かれる。
「共にいてこそ、状況は切り開ける……そうだろ？」
　傷ついていく彼に『男を振り切ってすぐに戻れ。帰れ』と言わなければいけない。だけれど、不安げで、泣き出しそうな目でアレスディアの口から出た言葉は、全く別の言葉だった。
「……今度は……置いて、いかないか……？　一緒に……いさせて、くれるか……？」
「何を……」
　そんなアレスディアの言葉に、ディラは攻撃を受けながら戸惑いの表情を浮かべていた。
「１人で解決しようとしたのは、間違いだった。悪かった、もう離れない」
　男の甚振るような、じわじわ繰り出される攻撃で傷つきながら、ディラは苦しげに怒鳴る。
「いつだって、俺はアンタと一緒に居たい。だが、状況がそれを許さない時もある。そんな時は、アレスがこっちに来い！　矛を持たずに１人で飛び込むなッ！」
　アレスディアの瞳が揺らぎ、ディラの言葉をかみしめるように、頷く。
　男の顔から笑みが消え、瞳に鋭い光が生まれる。
「時間を与えすぎたようだ」
　男は掌で触れたものを、発火、爆発させる能力を持つ。
　ディラを爆破すべく、男が闇の縄を引いた。
　瞬間、ディラは自身の腕を縛る闇の縄を魔法の刃で切断した。
　騎士団に所属していたディラは、この武器の特性を知っている。切断のタイミングを計っていたのだ。
　虚を衝かれ、男が一瞬よろめく。
「ディラ！　私を、ディラの隣に立たせてくれ！！」
　アレスディアの声が響く。ディラは躊躇なく、アレスディアに風の刃を放った。
　刃は彼女を拘束する闇を切り払い、彼女自身も傷を負う。
　中指に嵌められた指輪に口付けながら、アレスディアはディラのもとへと跳ぶ。
　体勢を立て直した男の掌がディラへと触れる、直前に。
　アレスディアが間に入り込んでいた。
　指輪と、砕けたコインの破片が融合し大盾が生み出されていた。
　これまでの２枚の大盾ではない、それよりも一回り大きな、両の手で扱う盾だった。
　男の掌が盾に触れる。だが、新たな盾は振動しただけで、崩れない。
「馬鹿な……！？」
「……お前の言う通り、私は罪深い。この手をいくつもの命がすり抜けていった。それを、忘れたことはない」
　アレスディアは黙祷するように眼を閉じた。
「……だがこの場において、一番大切な人の言葉を信じず、傷つけられるのを黙って見ている以上の罪があるか！！」
　開かれた彼女の瞳には、強い輝きが戻っていた。
「これが罪の報いだと言うなら、罰だと言うなら、罪も罰も何もかも飲み込んでやる！　竜とは、暴食の生き物だ！！」
　これまで、擦り切れて見えなくなっていた竜の紋章が、盾にくっきりと浮かび上がった。
　男は舌打ちして、剣を打ちおろし魔法を浴びせる。
　アレスディアは盾を操り、その全てを受け止めた。
　互いに、１歩前へと出る。男が剣を盾に打ちおろし、もう片方の掌で盾を掴む。
「……お前は何度この盾に撃ち込んだ？　言ったろう。何もかも飲み込む、と」
「！？」
「飲み込んだ全てを、力に変える。自らの炎、受け止めろ！！」
　盾に炎が生まれ、男へと放出される。
　瞬時に、男は両腕を広げて、アレスディアを抱き込もうとする。道連れにするために。
　だが、もう一つ、彼女を後から抱きしめる腕があった。
「帰るぞ、東京にッ！！」
　ディラはアレスディアを強く抱きしめて、閉じかけた出口へと跳んだ。

　爆発の音と衝撃を受けながら、２人は静かな部屋へと落ちた。
（帰って来た……ディラと一緒に……ディラのところに）
　盾はコインに戻り、アレスディアはディラに抱き着いた。
　彼の胸の中に、暖かなぬくもりの中に、強くたくましい腕の中に。
　互いに、傷だらけだった。だけれど、体の痛みなんて感じない。
　アレスディアの部屋の床の上で、ゲートが閉じるまでの間、互いに何も言わず。
　アレスディアはディラを、ディラはアレスディアをただ強く、強く抱きしめていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号／PC名／性別／外見年齢／職業】
【8879／アレスディア・ヴォルフリート／女／21／フリーランサー】

ＮＰＣ
【5500／ディラ・ビラジス／男／21／剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
無事、戻って来られて良かったです。
恐らくはアレスディアさんの中に、わだかまりなど、残っている部分があるかと思います。
お互いしばらくは療養生活かと思います。ゆっくりと元気を取り戻していってほしいです。
ご依頼ありがとうございました！

東京怪談ウェブゲーム(シングル)

川岸満里亜

東京怪談

2019年01月31日