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『『続・愛の行方〜ディラ・ビラジス〜 後編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 闇の縄に拘束されているアレスディア・ヴォルフリートの目に、いつもの輝きがなかった。
 手の中に盾もなく、拘束している男に抵抗もせずに、連れて行かれそうに見えた。
 男の掌がアレスディアに向けられ、男の唇が動いた。
『殺すぞ』と。
 瞬時にディラ・ビラジスは魔力を纏った拳で空間をこじ開けて、次元の狭間へと飛び込んだ。
 光と闇が渦巻く次元の狭間にて、男はディラに闇の縄を放ってきた。縄はディラの片腕に絡みつく。
(間違いない、団が開発した魔法武器だ)
 男の服には、ディラがかつて所属していた騎士団の紋章が在った。
「……アレスを放せ」
「お前は騎士団の団員だったのだろう? 返せと言われて、返す理由がどこにある」
 男はアレスディアに掌を向けながら、もう片方の手で剣を振り、ディラに闇の刃を繰り出す。
 ディラはダガーに魔力を纏い、攻撃を弾く。しかし完全に弾き飛ばすことは出来ず、体が少しずつ傷ついていく。
「お前のせいだ。すぐに止めは刺さん。泣き叫び、別れを惜しめばいい」
 男がアレスディアにそう囁いた。
(アレスを追いつめるために、俺を甚振ろうとしている?)
「ま、待て……ッ、抗体は私だけで十分だろう、ディラに手を出すな」
 輝きが失われたままの目で、アレスディアが悲壮な声を上げた。
「そうか、手を出されるのは嫌か」
 そんなアレスディアの様子に、男は楽しげな笑みを浮かべた。
(抗体というより、目的はアレス自身……!?)
 2人の間には、何か深い因縁があるようだった。
 手を広げディラに向けながら、男は闇の縄で繋がれたディラの腕を、自分の方へと引っ張る。
 抵抗する振りをしながら、よろけるようにディラは男へと近づいた。
(あと、少し……)
 ディラはさほど魔法が得意ではない。間合いを詰めなければ、魔法は相手に届かない。
 少しでも、アレスディアに近づくためにも。
「ディラ、この男の掌に気を付けろ。空間が閉じる前に戻れ」
「アレスも一緒だ」
 アレスディアの叫びに、ディラは即そう返した。
 アレスディアは辛そうに首を左右に振る。
「まだ、間に合う……ディラだけでも戻るんだ。戻って、平和な世で、誰か、と……幸せ、に……」
 そんな彼女の言葉に、ディラは苛立ちを覚える。
 男は満足気に薄ら笑いを浮かべていた。
「馬鹿な事言ってんじゃねーぞ! てめぇ、俺があの女に捕まってた時、何て言った! 自分の言葉を思い出せ!!」
 ディラは吐き捨てるように叫ぶ。
 アレスディアは、ディラが置かれている状況を知らなかったとはいえ、彼にこう言ったのだ。
『苦境に立たされたときこそ、信じる先を誤るな。矛だけでもならぬ。盾だけでもならぬ。共にいてこそ、状況は切り開ける』
 その彼女が、この男の言葉を信じてしまっている。心を折られてしまっている。
「私は……助けを必要とする者がいれば、駆けつけてしまう。私と共にいれば……ディラも、戦いに、巻き込まれる……今だって、そうだ……他の誰でもない、私が、ディラを戦いに誘い、私が、ディラを傷つける……大切な、人ほど……私は……」
「そうだ」
 薄ら笑いを浮かべたまま、男がアレスディアの言葉を肯定する。
「お前は大切な者を死に導く。お前が愛した者は等しく死に絶える」
「お前のせい、じゃない。俺の意思だ」
 振り下ろされた刃を、ディラはダガーで受け止める。だが、魔法薬で強化された男の力に敵いはせず押し負け、薄く胸を切り裂かれる。
 血がにじみ出る。
 例え、ここで死に至ったとしてもそれはアレスディアのせいではない。
「共にいてこそ、状況は切り開ける……そうだろ?」
「……今度は……置いて、いかないか……? 一緒に……いさせて、くれるか……?」
 不安気で、泣き出しそうなアレスディアの顔と言葉に、ディラは軽く混乱を覚えた。
「何を……」
 側にいたいのは自分の方で、アレスディアは自分と一緒にいるよりも、自分自身の意志の方がいつも優先なはずで……。
 そうしている間にも、闇の刃が繰り出される。ディラの身体に傷が刻まれていく。
 弄び、殺そうというのだろう。もしくは、アレスを言いなりにするために、人質として捕らえるつもりかもしれない。
「1人で解決しようとしたのは、間違いだった。悪かった、もう離れない」
 どちらにしても、退くつもりはない。離れるつもりはない。死ぬつもりもない。
 ディラは大きく息を吸い込んで、苦しげに怒鳴った。
「いつだって、俺はアンタと一緒に居たい。だが、状況がそれを許さない時もある。そんな時は、アレスがこっちに来い! 矛を持たずに1人で飛び込むなッ!」
 アレスディアの瞳が揺らいだ。ディラの言葉をかみしめるように彼女は頷く。
「時間を与えすぎたようだ」
 笑みを消し鋭い光を湛え、男が闇の縄を引き、ディラを引き寄せる――。
(今だ!)
 引き寄せられた振りをして、また近づいたその瞬間に、ディラは魔法の刃で手をつなぐ縄を切り落とした。
 虚を衝かれ、男がよろめき、アレスディアが叫ぶ。
「ディラ! 私を、ディラの隣に立たせてくれ!!」
 躊躇なく、ディラはアレスディアに風の刃を放った。
 戦いの場において、互いに傷つくのは覚悟の上。
 護りたいのは命と心。
 ディラはアレスディアの負傷を過度に恐れたりはしない。
 刃は闇の縄を切り落とし、彼女の身体に傷をつける。
 男が体勢を立て直し、ディラに手を伸ばした。近づきすぎた今、躱す術はなかった、だが。
 中指に嵌められた指輪に口づけ、アレスディアが2人の間に跳び込んだ。
 指輪――2年前、ディラが彼女に贈った指輪が、砕けたコインと融合し大きな盾に変わっていた。
「……お前の言う通り、私は罪深い。この手をいくつもの命がすり抜けていった。それを、忘れたことはない」
 いつものアレスディアの強い声が響いてくる。
「……だがこの場において、一番大切な人の言葉を信じず、傷つけられるのを黙って見ている以上の罪があるか!!」
 ディラの目に映っているのは、傷だらけの彼女の背と、大きな盾の裏側。
「これが罪の報いだと言うなら、罰だと言うなら、罪も罰も何もかも飲み込んでやる! 竜とは、暴食の生き物だ!!」
 その盾は、振り下ろされた剣も魔法も全てを受け止めていた。
 男とアレスディアが距離を詰める。
 男は掌から発せられる能力で、盾を砕こうとする――。
「……お前は何度この盾に撃ち込んだ? 言ったろう。何もかも飲み込む、と」
「!?」
「飲み込んだ全てを、力に変える。自らの炎、受け止めろ!!」
 アレスディアがそう叫んだ途端、盾に炎が生まれ、力が男へと放出される。
 瞬時に、男は両腕を広げて、アレスディアを抱き込もうとする。
 男の手がアレスディアに触れるより早く、後方からディラは彼女を抱き寄せた。
「帰るぞ、東京にッ!!」
 アレスディアをきつく抱きしめ、閉じかけた出口へと跳んだ。

 爆発の音と衝撃を受けながら、2人は静かな部屋へと落ちた。
 東京の、アレスディアの部屋だった。
 大盾がコインに戻った、途端……アレスディアは何も言わずにディラに抱き着いた。
(二度とあんな眼はさせない。側で護らせてくれ。命と心を)
 ディラは強く目を閉じ、アレスディアを掻き抱く。
 互いに傷だらけだった。流れる血を拭う事も忘れ、2人はただ強く、強く抱きしめあっていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
こちらはディラ視点の方となります。
この後のお話も描かせていただけましたら嬉しいです。
この度はウエブゲームへのご参加、誠にありがとうございました!
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年01月31日

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