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『■ありがとうと、ありがとう 』
ミコト=S=レグルスka3953)&パトリシア=K=ポラリスka5996




 それは、新しい年を迎えて間もなくの事。
 リゼリオの街の一角では、あちこちに魔女――黒いローブ姿でホウキにまたがった、バサバサの白髪にワシ鼻の老婆の人形が飾られていた。
 何の変哲もない人形をパトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、どこか感慨深げに眺める。
「そういえば……『魔女の日』が近いネ」
「よぅ、嬢ちゃん」
 聞き覚えのある声に振り返れば、輸送用ゴンドラの上からひらと手を振る男が一人。
「どうした、昼飯でも物色中か?」
「違うヨ、配達屋さん。通りがかっただ、け……」
 ぐ〜きゅるる。
 腹の虫が、自分でも気付かなかった空腹を主張する。
 ハッとお腹を抑えたパトリシアに配達屋はカラカラと笑い、荷渡しに使う長柄の手鉤(てかぎ)にバスケットを引っかけて寄越した。
「パン屋のだから喰っとけ。あとクッキーは、デザインに煮詰まったプレシウ嬢ちゃんから『お裾分け』だ」
「煮詰まったラ、クッキーでお裾分け?」
「案を考えながら生地を練って、細工のデザインを実際にクッキーで作ってみるらしい。もちろん、本物の細工品はもっと小さいけどな」
「でもこれ、配達屋さんのお昼ダヨネ?」
「嬢ちゃんが腹ヘリで行き倒れても、マズいだろ」
 受け取ったバスケットは大きくて重く、わずかに温かい。
 中を確かめる間に配達屋はスルスルと手鉤を戻し、ゴンドラは水路を下り始める。
「それじゃあな。しっかり喰えよ」
「恩に着るヨー!」
 大声での礼に、遠ざかる背は片手を挙げて応え。
 何かを思いついたパトリシアは、両手で籠を抱えたまま路地を走って行った。




「う〜……」
 ベッドの中でうめきながら、ミコト=S=レグルス(ka3953)は何度目かの寝返りをうった。
 寝ても起きても頭が重くて、ぐらぐらする。
 風邪かもしれないと、心配され。
 何とかは風邪をひかない筈なのに、とか言われ。
 とにかく寝るのが一番だからと、部屋に押し込められ。
 同居人達の『気遣い』に感謝しながら、もどかしさに嘆息する。
 その時、コツ、コツコツと。
 窓を叩く音を聞き留め、身を起こしたミコトが目を丸くした。
「パティちゃん!?」
 慌てて窓を開けたすぐそこで、ふわふわの金髪を揺らしたパトリシアが微笑む。
「んーと。頑張ってる良い子のミコトに、魔女パティからお菓子ダヨー」
 魔法の箒に乗って宙に浮かんでいる彼女は、確かに魔女と言えなくもなく。
「寒いから、早く入ってよ」
「えーっと……じゃあ、窓から失礼しマース」
 スカートの裾をたくし上げ、よいしょとパトリシアは友人の部屋にお邪魔した。

「ミコ、もしかして寝てたのカナ?」
 友人が寝間着姿なのに気付き、首を傾げるパトリシア。
「ちょっとダルいなーと思ったら、皆に心配されちゃった。ヒーローに寝てる暇はないのにねっ」
「でも、油断は大敵ダヨ。いつでもミコは頑張ってるカラ、たまにはお休みも必要ネ」
 ぷくっと頬を膨らませる友人の言葉にミコトは困った顔をして、ぽすんとベッドへ座る。
「じっと寝てるのも、何だか落ち着かないんだよね……今日は皆、出かけちゃってるし」
 所在なさげな様子に「う〜ん」とパトリシアは思案し、手を伸ばして柔らかなストロベリーブロンドの髪をそっと撫でた。
「頑張ってるのは、みんな知ってるヨ。だから、心配なんダヨー」
「う、うん……」
 予想外の行動だったのか、ちょっとうろたえるミコト。
 そんな彼女の反応にパトリシアは満足げに胸を張り、それから大きなバスケットをテーブルへ置く。
「ところで、お昼まだなら一緒に食べナイ?」
「お昼持参で来たんだ?」
「途中で配達屋さんに会って、もらったノ」
 笑顔で持ってきたバスケットを開ければ、まだ温かい空気が立ち上った。
 布に包んだ焼き石で保温されたホットサンドと可愛いクッキーの袋を取り出し、途中で買ってきたスープも一緒に並べる。
「わぁ……結構な量だね、これ」
「うん。だから、ミコと食べヨと思って」
「こっちのクッキーは、変というか……珍しい形? 何だか、アクセサリーみたい」
「装飾細工師さんの試作品みたいダヨ」
「試作品? もしかして、食べるアクセとか」
「だっタラ、非常食ダネ」
 笑いながら、二人は揃ってホットサンドへ手を伸ばし。
「ベーコンエッグのホットサンド、いただきっ」
「あーっ。パティも狙ってたヨ〜!」
「早い者勝ちだもーん」
 満面の笑みで、ミコトは『勝利宣言』をしたものの。
「でもパティちゃんが食べたかったら、交換しようか?」
 思わぬ提案だったのか、パトリシアが何度も目をぱちぱちさせる。
「もしかして……敵のお塩サン?」
「えー、なにそれ」
 難しい顔をした返答に、思わずミコトが吹き出した。
「だって〜。いつもお昼は、ライバルだったヨ〜」
「あはは、懐かしいー。毎回、購買部では戦争だったね」
 何も知らなかった学生の頃を思い出し、笑い合う。
「でもミコは病人さんだから、好きなものを食べるのがいいヨ」
「別に、病気じゃないんだけどなぁ……じゃあ、半分こしよっか。そっちのハムとチーズのサンドも、チーズがトロトロで美味しそうだし」
「うん! 冷めないうちに、ドウゾ!」
「それじゃあ、いただきまーす」
 手を合わせてから、ミコトはホットサンドにかじりついた。
 焼き石のおかげか、パンも具材もほのかに温かく。
 半熟状態になった目玉焼きの黄身を、こぼさないよう気を付けながら頬張る。
「美味しいネ」
「ホント。ベーコンはカリカリで、焼き加減もいい感じ」
「パン屋さんのホットサンド、侮れなかったヨ」
「だから、パンも美味しいんだね」
 わいわいと盛り上がりながら二人は舌鼓を打ち、既に昼時を過ぎていたのもあって、分けてもソコソコの量をぺろりと平らげた。




「お腹は満たされたケド、ミコの調子はドウ?」
「すっかり元気になったよ。パティちゃんのお陰だね」
「よかったヨ。こうしてると、ナンだか天文部の部室とかでお昼を食べてたの、思い出すカモ」
「そういえばパティちゃんの髪、学生の頃と比べるとたいぶ長くなってない?」
 パトリシアが自主的に『卒業』を決めた頃から伸ばし始めた金髪は、ふんわりと肩を越えるくらいになっている。
「えへへ、スクスク伸びてるヨー。ミコは短いまま?」
「動きやすいし……何となく、かな」
「ふーん」
「……なに?」
「ふふふふーん。ナイショ〜♪」
 スープを飲みながら、そんな女子らしい会話に花を咲かせた。
 それから最近の出来事を話したり、パトリシアが面倒を見ているリーリーやペガサスの話をしたり、それぞれの友人の話をしたりと話は尽きず。
 気が付けば、いつの間にか陽がとっぷりと暮れていた。

「冬って日が暮れるの早いよね。まだ、そんなに遅い時間じゃないのに」
「ダネー。晩御飯、ミコが作るのカナ?」
「帰る時に買ってくるみたい。何もしないで、大人しく寝てるようにって、念を押されちゃった」
 つまんない。と言いたげにミコトは足をぷらぷらさせるが、パトリシアはニコニコと笑顔でクッキーをかじり。
「ミコは、お世話になるのが苦手カナ?」
「そうかも。考えたら動いちゃう方だもんね」
 預けられる背中でも、重荷になるのは嫌だった。
「誰かを頼るより、誰かに頼られてる方がミコトは嬉しそうに見えるヨ。ホントに嬉しいっていうのとは、ちょっと違うケド……」
 らしい言葉を探しているのか、修正しながらパトリシアも「う〜ん」と唸る。
「なんだか、キラキラ生き生きしてる感じ……も、違うカナ?」
「でも言いたい感じ、何となくわかるかも。頼って待ってるのって、ちょっと……もどかしい」
 胸につっかえた重い気持ちをほどく様に、ミコトが深く息を吐いた。
「だからパティちゃんが来てくれて、よかった。ホットサンドも美味しかったし、今日はありがと」
「ううん、お礼を言うのはパティの方ダヨ。ずっと前の『魔女の日』も、転校したばかりの学校でも、ミコ達に見つけてもらったカラ……きっとミコがヒーローだったから、ネ」
「なんだか……面と向かってそんな風に言われると、照れちゃうね」
 笑ってミコトは勢いよく立ち上がり、窓辺に近付く。
 古い窓を開けると、ひんやりとした空気が部屋に流れ込んだ。
「はわ、夜風はホントの風邪ひくヨー!」
「えへへ。ちょっとだけ、ね」
 慌てるパトリシアへ小さく舌を出し、窓枠に手をかけたミコトは夜空を仰ぐ。
 部屋の明るさが邪魔になるものの、目を凝らせば夜空には明るい星が瞬き始め、何よりハッキリと二つの月が浮かんでいた。
 眺めるミコトの隣にパトリシアもやってきて、肩を寄せ合うように夜空を見上げる。
「こうして見ていると、綺麗だね」
「うん……」
 短いやり取りをして、会話は途切れた。
 この世界の人達は、どんな気持ちで二つの月を見ているんだろうと、少しだけ思い。
 リゼリオの街の一角から上がる花火は、ここからでも見えるだろうかと、ちょっと気にかけて。
 やがて夜空と地上の分かり辛い境界線に点る、小さな複数の灯火を見つけた。
「あの明かり、時間的に帰ってきたのかも」
「じゃあ、パティはそろそろお邪魔カナ」
「えーっ。晩御飯、一緒に食べようよ。そのまま泊まって、皆でパジャマパーティでもいいし!」
「合宿みたいダネー」
「そうそう。とりあえず、バレないうちに窓は閉めないとね」
 本当に風邪を引いてはシャレにならないと、ミコトが窓をしっかり閉じる。
 そして間もなく帰ってくる、何も知らない友人達をどうやってビックリさせようかと、少女達はくすくす笑いながら相談し始めた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka3953/ミコト=S=レグルス/女/16/人間(リアルブルー)/霊闘士(ベルセルク)】
【ka5996/パトリシア=K=ポラリス/女/18/人間(リアルブルー)/符術師(カードマスター)】

おまかせノベル -
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2019年02月04日

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