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『遅れたティータイム 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 午後のティータイムに必要な茶菓子を切らしてしまった。
 優雅な時間に上質な茶葉と同様のお菓子が無ければ、そもそものティータイムなど訪れない。
 そう言って、ティレイラの師でもあり姉のような存在でもあるシリューナは自ら買い物へと出かけた。
「すぐに戻るけれど、お店番お願いね」
「はーい」
 茶菓子に妥協を許さないシリューナは、半ば真剣な面持ちで自分の店を後にしたのだ。
 それから、二十分ほど経っただろうか。
「うーん、週中のせいか、お店も隙だなぁ……。ちょっとお掃除しようかな」
 留守番を任されたティレイラは、普段から何もないことが苦手だ。手持ち無沙汰だと感じてしまうからだ。
 シリューナの経営する魔法薬屋には、新規の客はあまり来ない。この場を知り、質の良い商品を知る者と常連客がほぼな為に、音沙汰が無いときはパッタリと途切れてしまうのだ。
「そうだ、商品の補充と倉庫の掃除もしておかなくちゃ……」
 そんな独り言を続けながら、ティレイラは箒を片手に倉庫へと足を向けた。
 その数分後、店のドアが開かれた。
「こんにちは〜!」
 元気よく姿を見せたのは、ティレイラの友人でもある瀬名雫であった。
 右腕に下げたランチバッグに小さめのお菓子がいっぱい詰められた状態だったので、客としてではなく、ティレイラに会いに来たのだろう。
 そして彼女は店内をぐるりと見回し、誰も居ないことに気がついて、小首をかしげた。
「あれぇ……ティレちゃんもシリューナさんも居ないなんて……」
 二人が、何より店主であるシリューナが何の理由もなく開いた店を放置するわけがないと雫も知っているので、もう少しだけ気配を探る。
 すると、奥の方から物音が聞こえて、視線をそちらにやった。
「やっぱり、お留守じゃないんだ……こんにちは〜、雫です〜!」
 彼女はそう言いながら、奥へと足を踏み入れた。何度か通ったことがあるため、勝手知ったるなんとやらと言ったところである。
「おーい、シリューナさん、ティレちゃん〜?」
 物音がした方角は、店の商品などが閉まってある倉庫だ。地下になっているので、階段を数段降りて、開きっぱなしの扉の向こうへと雫は顔をのぞかせた。
 多くの在庫の向こうに、人影が見える。ティレイラの後ろ姿だった。
「……あっ、ティレちゃんっ!」
「きゃっ!?」
 掃除に集中していた一方のティレイラは、突然の声に当然に驚き、屈めていた身体をピンと伸ばした。
 勢い余って少しだけぐらついてしまい、慌ててその場で手を伸ばすと、彼女のそばに置いてあった大きな石版が揺れ動いた。
「あ、わわ……っ」
「……っ、ティレちゃん、あぶない……!」
 彼女の背丈よりも大きな石版は、きれいな装飾が施されていた。シリューナがつい最近仕入れた封印用の石版であった。
 そんな大きな石版が、ティレイラに向かって倒れそうになっている。
 雫が慌てて駆け出して、ティレイラの横に立つ形で両腕を差し出した。
「お、重……っ」
「でも、何とか、もとに戻せそう……。ティレちゃん、このままもうちょっと力加えて後に押し返そう!」
 二人同時に石版を支えることになったティレイラと雫は、そう言い合いながら力を振り絞った。
「うう……もうちょっと……っ」
 ティレイラはそう言いながら、腕の力を強めた。
 その、直後あたりであった。
「え、あれ……っ。ティレちゃん、これ、なんだろ……?」
「……えっ!?」
 石版が一瞬、淡い光を放ったかのように思えた。
 そして、それを支えているティレイラと雫の手の感覚が、無くなり始めたのだ。
「う、嘘……まさか、封印発動しちゃった……?」
「え、えぇ……そうなの? ……って言ってる間に、手がなんか固まってきたよ〜!」
「……あぁ、これ、マズいかも……。お姉さま、早く帰ってきて〜!!」
 石版を支えている、という姿勢であったために、二人共動くことが出来なかった。それ故に、自分の手が石版のように固くなって行く間も、どうすることも出来ずに青ざめて声を上げるだけだ。
「し、雫ちゃん……ごめん、巻き込んで……」
「い、いやぁ、元はと言えば、あたしが急に声かけちゃったからだし……うう……」
 二人がそんな会話をしている間にも、身体は石版に吸い寄せられるようにして固まっていく。支えが無くなった状態になっても、それは傾いたままで動きを止めて、ティレイラと雫を取り込んでいった。

「――ティレ?」
 シリューナが大きな紙袋片手に店に戻ると、店内は無人状態であった。
「あの子ったら、また勝手にお店を放置して……あら、これは確か雫のバッグ……」
 呆れ口調でそう言いながら店内を見回ると、住居スペースに繋がる廊下に落ちていたバッグを目にして彼女は表情を歪めた。なんとなくの、状況を察知したらしい。
 そして無言で店のドアノブに掛けてある『OPEN』のプレートを裏返して、内鍵を掛ける。
「……まぁ、どうせ今日はもう来客はないだろうから、良しとしましょう」
 そう静かに呟いてから、シリューナは住居スペースへと足を運んだ。自室から各部屋をめぐり、以上がないことを確認したあと、倉庫へと足を向ける。
「…………」
 倉庫内は、静まり返っていた。
 その静寂さが余計に怪しさを掻き立てて、シリューナは眉根を寄せる。
 道すがらに落ちている箒、雫が穿いていたと思わしき片方だけのスリッパ。それらを確認しつつ、奥へと進んだ。
「……あらまぁ」
 思わず、そんな声が漏れる。
 視線の先に止まったのは、先日購入したばかりの石版であった。壁側に置いていたはずのものが、不自然に移動している。
「魔力の気配があると思ったけれど……なるほど、あなただったのね」
 シリューナは物言わぬ石版に対してそう言いながら、歩を進めた。そして正面に回り込んで、そこに存在するモノを見た。
「そういうこと……雫まで巻き込んじゃったのは問題だけど……でもこれは、二人だからこそ出せる美でもあるわね」
 彼女の視界に飛び込んできたのは、浮き彫り細工の石版の表面であった。美しい少女と可憐な少女が二人、大きな石版にピッタリと収まるように施されている。
 言うまでもなく、この場にいたティレイラと雫の姿だった。
 石版の封印の魔法が発動してしまったがゆえのそれであったが、あるべき姿になったかのような錯覚さえ憶えて、シリューナは深い溜め息を零した。その頬はうっすらとピンク色に染まっている。
「うふふ……とっても綺麗……ちゃんと解除してあげるから、もう少しだけ堪能させてちょうだいね」
 白い指先が、ゆっくりとレリーフのラインを撫でる。
 それは、ティレイラだからこその造形美と、雫の少女らしさが見事に融合された『作品』だった。
 鑑賞する者は一人だけ。目の前にいるシリューナのみに許された、特権なのである。
「素敵よ、ティレ……」
 ほぅ、とシリューナの色っぽい吐息が漏れる。
 偶然の結果ではあるが、彼女にとっては最高のご褒美ともなった石版は、シリューナが満足するまでその場に置かれたままであった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785 : シリューナ・リュクテイア : 女性 : 212歳 : 魔法薬屋】
【3733 : ファルス・ティレイラ : 女性 : 15歳 : 配達屋さん(なんでも屋さん)】
【NPCA003 : 瀬名・雫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもありがとうございます。
 改名後でしたので再びご指名頂けるかどうか不安でしたが、楽しく描かせて頂きました。
 また機会がございましたら、よろしくお願い致します。
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2019年02月04日

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