▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『三人で過ごすバレンタインは 』
夜城 黒塚aa4625)&エクトルaa4625hero001)&ウーフーaa4625hero002

 自室にいるのに全く以て落ち着かない。そこまで広くないスペースを歩き回り、黒塚は深く息を零した。所在なく向けた視線の先には小さな鏡があって、そこには人相が悪いうえに、人目があろうがなかろうが大体仏頂面の自分の顔が映っている。二人目の英雄を迎えてからというもの、くたびれたスーツも、糊の効いていないシャツも着る頻度は激減したが、堅苦しい正装が黒塚の性分に合わないのは変わっておらず。それでも今日ばかりは礼服を隙なく着こなして、普段は若干崩れているオールバックも綺麗に整えている。
(俺の柄じゃねェよなぁ……)
 と思わずにはいられないものの、今帰りを待っている相手がこういう格好を好んでいることは黒塚もよく知っていた。自己評価は良くなくとも喜ぶ姿を想像するだけでまあいいか、とも思ってしまえる。後はプレゼントをそつなく――少なくとも、格好悪さを見せることなく渡せればそれで充分だ。フロアライトの光をテーブルの上の宝石が反射し星のように瞬く室内を何となく眺める。贈り物の隠し場所を確認して、黒塚は第二英雄――最愛のパートナーであるウーフーの帰りを待ってベッドにどかりと腰を下ろした。

 ◆◇◆

「バレンタインって、大切な人に感謝を伝えて贈り物をする日なんだよ」
「……あァ?」
 リビングのソファーに腰かけたところで隣に座り、胸の前で両拳を握りエクトルが言うと、仕事帰りで疲れた様子の黒塚が目だけ向けて見返す。バレンタインはこの国だと好きな人にチョコレートを渡して告白するのが主流らしいが本来の趣旨はそうじゃなかったと、本を読んで知った。
「だから、クロもウーにバレンタインのもてなしをするべきだと思うんだっ」
「――礼、なぁ」
 黒塚と入れ違いにウーフーは買い物に出ていてバレる心配もなく身を乗り出すが、それに対する黒塚の反応は芳しくない。むむむと唸って、しかし二年以上もの付き合いになってくると、彼の言動が素直じゃないことくらい見る前から分かってしまうのだ。
「じゃあさ、僕が依頼を出すって言ったら、クロは引き受けてくれる?」
「……条件言ってみろ」
 ほら、ここで受ける気になるってことは元々やりたかったけど言えなかっただけなんだ、と内心得意げになりつつもそれで黒塚が拗ねてしまったら元も子もないので顔には出さずに、H.O.P.E.本部で状況説明される時のことを思い出しながら構想を伝える。
 まず場所は、黒塚の部屋を想定している。何故なら、二人きりのほうが普段ストイック過ぎて愛情表現に乏しい黒塚でも色々言いやすいんじゃないか、というのとウーフーを動き回らせるのはあまり良くないからだ。息抜きも大事だけれど、ただでさえ以前と変わらず家事を続けているのに負担をかけるのはダメ。というかウーフーは気にしなくても黒塚が気にして集中出来ないと思う。
「セッティングは僕に任せて♪」
「マジで大丈夫なんだろうな?」
 念を押されてぐっと親指を立てると、黒塚の眉間に寄っていた皺がマシになる。
「それで、大事なシーンなんだから服装にもこだわらなきゃ」
 と、仕事用のスーツだと新鮮味が薄いので勝手にクローゼットを開けて発見した礼服を指定する。髪もちゃんとしてねと要求を付け足せば彼は若干口角を下げたが異論は挟まなかった。黒塚が今はラフな衣服越しに自分の体を軽く触る。見た憶えがないだけあって着るのは久しぶりなのかもしれない。
「後はうん、クロらしく思ってることを言えばいいんじゃないかな!」
 自分に出来るのはお膳立てだけ。黒塚らしい心からの言葉じゃないと全部意味がない。言うと黒塚は長い沈黙を挟み、
「そうだな」
 とだけ言った。そんな彼に満足して、そして思い出したエクトルはソファーから降りてキッチンに行き、自分のおやつスペースからある物を取り出しリビングに戻った。そのまま黒塚の正面に立ち、それをはい、と差し出す。
「これは報酬の前金だよっ♪」
 準備と報酬に入り用だったのでこれしか買えなかった、スーパーで売っている安い板チョコレート。それは依頼という体裁を取ると同時に、エクトルからの贈り物の一つだ。
「いつもありがとね、クロ!」
 この一年にあった出来事と、これからのこと。思ったり感じたりしていることなら多分、素っ気ない素振りでもちゃんと自分たちのことを見ていてくれる黒塚にも、いつも優しく楽しそうによく笑い、小さなことでも何か手伝えば絶対にお礼を言ってくれるウーフーにも負けてない自信がある。でも今は二人がずっと仲良くしてくれるように、黒塚に頑張ってもらうのが何よりの願いで。だからそれだけを言って笑う。
 黒塚は黙ってチョコを受け取り、その場で包装を適当に破ると、剥き出しのそれにそのまま齧りついた。一瞬だけ犬歯が見えて隠れる。
「――その依頼、引き受けてやるよ」
 言って、伸びてきた大きな手がエクトルの髪を掻き乱した。

 ◆◇◆

 バレンタインデーを迎えるのは今年が初めてではないけれど、一年前とは随分と状況が異なる。当然喜ばしい意味で、だ。去年は彼が人気店で買ってきたケーキを三人で食べながら楽しく過ごした。それも勿論いい思い出になったが同時に炊事洗濯に自負のあるウーフーの心に火を点けたのも確かで。来年は絶対にチョコレートケーキを自作する、そんな野望を内に秘めて今日に至る。
 ただ、そこまで意気込んでいるのも恥ずかしいというか、パートナーである黒塚は勿論、エクトルに知られるのも居た堪れなくなりそうで自宅で作る案は却下した。幸運なことにちょうどバレンタインはどうするのかと聞かれ、軽く事情を説明したところ知人の一人が快く台所を貸してくれることになったので有難く甘えた。
 折角の晴れの日に妥協は一切なしと、知人と手分けして買ってきた材料を前にウーフーは軽く袖捲りして気合いを入れる。家主一家は準備中ウーフーを見守っていたが、惚気話を求められた動揺で盛大に蛇口の水をぶちまけたので気を遣って外出していった。完全にバカップルを見る生優しい目を思い出して恥ずかしくなる。しかし汚さず済んでよかった。
 黒塚もエクトルも甘味には目がないタチで、最近苦い物が流行っている中、甘さを売りにしたチョコレートを素材にガトーショコラを作り始める。湯煎し溶けたチョコレートから濃厚な甘い香りが漂い、二人が完成品を前にしたときの光景を想像すれば自然と口元が緩んだ。
「食べる前から、胸が一杯になりそうです♪」
 愛おしさにほっと甘い息が零れる。
 味は濃いめで、触感はしっとりと柔らかく。6号はさすがに大き過ぎると5号にしたが、いざ出来たら足りないような気もして不安になる。そのときはもう隠す必要もないから自宅でも何か作ろうかとも思ったが、もしかしたら二人も何か買ってきているかもしれない。ケーキじゃないことを祈りながらガトーショコラの表面に削ったミルクチョコをたっぷりと飾って、更にその上からシュガーパウダーを満遍なく散らしていく。暦上では春でもまだ肌寒い季節、雪のように見えるそれはまさにバレンタインにぴったりだ。
 会心の出来ににこにこと笑みを浮かべると身体の内側から軽い衝撃が伝わった。瞬間、ふっと思わず小さく笑ってしまう。まだ顔も分からないし名前も決めていないけれど。きっと父親に似て甘い物が大好きで、だから嬉しさのあまり蹴ってしまった、そんな想像が浮かぶ。まだ見ぬ我が子を慈しんで微笑み、優しく腹部の膨らみを撫でた。
 出来上がったケーキを崩さないよう慎重に箱に仕舞い、風邪対策に服を着込み、きっちりとコートの前を締めて、借りた合鍵で施錠するとウーフーは真っ直ぐ帰路を辿った。

「ただいま帰りましたー……あれ? マスター?」
 エクトルの靴はないが、黒塚の物は玄関に置いてある。なのに返事がないことを訝しみながらウーフーは家の中に入ってリビングを覗いた。しかし灯りは点いておらず、黒塚の姿もない。首を傾げながら冷蔵庫にケーキを仕舞った。まだ早い時間だが眠っているのかもしれないと思って彼の部屋の前に立つと、ウーフーがするより先に中からドアノブが回された。
「――……!」
 思わず言葉を失うウーフーに、
「……おかえり」
 たかが四文字、されど四文字。それでも格好良く誂えられた見慣れない格好プラス労いの言葉は、胸にもう何度目か分からない恋の矢を打ち込んでくる。更に、
「お手をどうぞ」
 ぶっきらぼうで口が悪く、目上の相手に対しても頑張っているのは伝わるものの、かなり崩れた敬語を使う黒塚が言い慣れなさが前面に出ているとはいえ、言ってすっと手を差し伸べてくる。言葉とは裏腹にその所作はまさしく紳士が淑女に接するときのそれで、きっちりと固めた髪型と礼装を加味すると、完璧という他なかった。
「――おい、大丈夫か?」
 雰囲気が崩れるのを嫌ってだろうか、小声で訊いてくるのもまた尊い。くずおれそうになるところを耐えてウーフーは紅潮する頬と嬉しさでにやける口元を隠さず笑う。感激のあまりに昇天してもおかしくないところだった。
「全っ然、大丈夫ですよ! それよりどうしたんです?」
 訊くと、黙って再び手を出してくる。それで今の彼の格好とここで待っていたという状況から何かあるのだろうと察して、嬉し過ぎて変顔にならないか気にしながらその手を取って彼の自室に入った。
「わぁ……!」
 と歓声をあげる。余計なインテリアを置かずにシンプルを貫いている黒塚の部屋は、真っ白なレースカーテンや甘い香りを漂わせるアロマキャンドル、テーブルの上にはプリザーブドフラワーと、お洒落かつ大人っぽい雰囲気で統一されていた。そんな中でも黒塚はサングラスをかけているが、そこだけ普段の彼なのもいいなあ、と思う。結局全部好きに違いないけれど。
 導かれるままに黒のシーツに覆われたベッドへと腰を下ろす。

 ◆◇◆

 手を繋いでいたので自然と目に入ったというのもあるだろう。立った姿勢から座る、そんな日常的な動作にさえも神経を使いそうだと思えば、ウーフーの身体をしっかりと支え、慎重に座らせる。
 妊娠が分かってからは気早にも街中でベビー用品に視線を取られ、妊婦体験なるものがあることも知った。都合がつかず参加は見送ったものの気になったので、二人が出掛けた隙に重さを調べて詰め物を用意してと、簡易的に試したこともある。しかし物は物で小さな命を内に宿すのとは全く勝手が違うのも容易に想像出来た。それでも寄り添っていきたいと感じた最中にバレンタインを控えて、家族同然の存在である二人に何かしたほうがいいのかと考えているとエクトルに今日の計画を提案されたわけだ。好みに見当がついていても踏み切れなかった黒塚には、まさに渡りに船の話だった。
「ありがとうございます」
 律儀にそう言って微笑むウーフーにはまだ掴み所のない面があり、多分そうしてはぐらかすのは自分たちを心配させない為だろう。一旦は離した手を肩が触れる距離にいるウーフーの腹部へ伸ばす。そこに気負いはなかった。
「マ、マスター?」
「――どこも痛くねェか?」
 中にいる自分の子供を、そして愛する人を慈しんで何度も撫でる。顔は下を向いたまま視線だけ向けて訊き、するとウーフーは即座に首を振った。
「今は大丈夫ですよ。……それに、痛いのもこの間だけのいい思い出になりますから」
 言葉はきっと偽りなく、そんなふうに受け止めてしまえる強さが眩しくて、黒塚はサングラスの奥で目を細めた。実際に話していると案外すんなり唇から言葉が零れる。
「お前が家事してくれてるお陰で、俺もエクトルも助かってる。……いつもありがとうな」
 日頃の礼を口にすればウーフーが目を見開くので、やはり照れくさくなってお腹に添えていた手を今度は上に向ける。自分より十センチほど下にある頭を撫で、いつも綺麗にしている髪を経由して頬にも触れた。その手でウーフーの視線を遮って続ける。
「悪ィな、俺も手伝ってやれればいいんだが」
「忙しいので仕方ないですよ。今は私の分も、働いてくれてるわけですしね」
 仕事によっては誰かと組むことはあっても、単独で動く機会のほうが多かったのが本業ではウーフーと一緒にいるのが当たり前になって。内容は苦じゃなくてもいないことにふと違和感を覚える。それでも猟犬の名が形無しにならないよう仕事に食らいついていく日々だ。そんな中エクトルも手伝っているとはいえ、家は荒れず、帰れば美味しい飯と共に迎えてくれる。その大変さと努力は尋常ではない。
 手を止めて立ち上がり、クロスが敷かれたテーブルの前で止まると、椅子の奥に隠していた物を取り出す。振り返った途端ウーフーの瞳がぱあっと輝いた。その目の前、床に片膝をつき渡す。
「ありがとう、ウー。そんで、これからも宜しく頼む」
 言うと、ウーフーは嬉しさと照れ臭さが綯い交ぜになった表情で赤い頬を花束に埋めて隠した。少ししておずおずと顔を出し、
「こちらこそ、ありがとうございます。貴方と出会えて、本当によかった」
 幸せを噛み締めるような声音に、自然と身体は動いて。不器用で不恰好かもしれない、そんな笑みを浮かべると黒塚は潤んだ瞳を睫毛が触れ合う距離で見つめ、唇を重ね合わせた。暫くして離し、また隣に座り余韻に浸っていればウーフーがはっとする。
「今日、ケーキを用意してあるんです。だから、ええと」
「エクトルならどっかに出掛けてるぞ」
「ですよね。それじゃあ……」
 言ってウーフーは携帯電話に手を伸ばした。楽しそうに、少し慌てて打たれる文面を黒塚も横で見守る。

 ◆◇◆

 エクトルは近くの本屋でずっと時間を潰していた。今頃二人は仲良く過ごしているかなと思いつつ、大変身した黒塚の部屋を思い起こす。予算の都合で百均を中心に買ってきたが、それでもいい感じの出来栄えになって、一人えへんと得意げになったくらいだ。机の上に散りばめたイミテーションジュエルも、雰囲気作りに貢献しているに違いない。帰って直ぐ成功報酬を渡せるように有名パティスリーのチョコレートも先に買ってきてある。鞄の厚みを確認して、マフラーに笑む口元を埋めた。
「わっ!?」
 と、不意にポケットの中に入れてある携帯電話が振動し、誰だろうと思いながらそれを取り出す。画面にはウーフーの名前があって、大丈夫かなと心配になりながらメールを開き、本文を目で追っていく。
『チョコレートケーキを用意してあります。皆で食べましょう』
 それから更にちょっとスクロール。
『ケーキは逃げないので、慌てずケガをしないよう気をつけて』
 優しい気遣いも、きっと手作りなのも嬉しい。依頼が大成功したのかはケーキを食べながらじっくりと聞こう。
 三人で過ごすバレンタインは最後。四人になる日を心待ちにしながら、エクトルは喜び家路を急いだ。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【aa4625/夜城 黒塚/男性/26/人間】
【aa4625hero001/エクトル/男性/10/ドレッドノート】
【aa4625hero002/ウーフー/不明/20/シャドウルーカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
行動的にはほぼほぼ詰め込めたと思いますが、
雰囲気も上手くご希望に添えられていますでしょうか。
ギャラリーにあるクリスマスの絵の話題も入れたかったんですが
尺が足りず無念です。いつ産まれるのか勝手に楽しみにしてます!
エクトルくんからウーフーさんへの呼び方は黒塚さんに準じ、
ウーフーさんは敬語&マスター呼びのままですが
実はもっと砕けるだとか、名前で呼んだりしていたらすみません。
三人ともお互いを想い合っている姿がとても微笑ましかったです。
今回は本当にありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
りや クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2019年02月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.