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『『触れたい』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 次元の狭間から戻ってきて、数日が過ぎた。
 アレスディア・ヴォルフリートは怪我と負傷による発熱で、まだ一人でベッドから起き上がることさえ辛い状態だった。
 切り傷の他、打撲に捻挫、骨にひびが入っている場所もあり、全治まで3カ月はかかるようだ。
 ディラ・ビラジスの怪我も軽くはなかったが、彼の方は多少の制限はあるものの自力で活動が出来る程度ではあった。
 ディラの手を借りて、アレスディアは上体を起こし、彼が買ってきて温めてくれたおかゆやスープを口にする。
「それ、首にしてるんだな」
 アレスディアの隣に腰かけて、ディラは彼女の胸元にあるコインに目を留めた。
 アレスディアは常に、首から竜の紋章が彫られたコインを提げていた。しかし、今アレスディアの首にあるコインは彼女の右手中指に在った指輪と融合し、白銀と黒銀の竜が絡み合う指輪へと変化していた。
「ああ……ディラから貰った指輪、変わってしまってすまない」
「何の問題もない。アレスの代わりに、傷つき、壊れていいものだって言っただろ。アレスの大切なものと一つになり、アレスがいつも身に着けていてくれる……嬉しいくらいだ」
 そう、ディラは穏やかに答えた。
「ありがとう」
 アレスディアは弱弱しい笑みを浮かべる。
 それから彼女が食事を食べ終えるまでの間、時折手を貸しながら、ディラはアレスディアを見守っていた。
「……聞いてもいいか? あの男のこと」
 アレスディアが食事を終えた後で、彼女の体調を気にかけながらディラが尋ねた。
「私も、話したいと思っていた」
「無理するなよ」
 ベッドに寝かそうとするディラに、大丈夫だと答えて、アレスディアは座ったまま話し始める。
「あの男は……私の肩に傷を刻み、故郷を滅ぼした男だ……騎士団に流れ着いているとは、思っていなかったが……」
 次元の狭間にアレスディアを連れ込み、彼女の心を砕き、更なる苦しみを与えようとした男がいた。
 その男は、かつてディラが所属していた騎士団の紋章を服につけていた。
「あの男は人を踏み躙るときいつも、嗤っていた……この肩に手を伸ばしたときも、嗤っていて……」
 目を閉じて、爆ぜたような傷跡が残る左肩をアレスディアは強く掴んだ。
 男の薄ら笑いはディラも見ている。アレスディアが苦しむ様をあの男は悦んでいた。
「でも……終わったんだな……」
 肩を掴む手を緩め、アレスディアは吐息と共に言葉を吐いた。
 開かれた眼には、仇を討った喜びや、命を奪ったことへの同情や後悔も表れていない。
 彼女の青い眼は、静かで落ち着いていた。
「そうだな」と、その一言しかディラは言えなかった。
 自分は過去、あの男のような笑みを浮かべてはいなかっただろうか。完全に否とは言えない。
 少しの沈黙の後、アレスディアは息をついてディラを見詰めた。
「私は……取り引きは、嫌だ。だが……ディラが私に隠して一人解決しようとすることの方が、もっと嫌だ……」
 男に連れて行かれる前の、ディラが彼女に連絡をせずに、抗体を求めてきた女性のもとに向かったことを言っているのだろう。
 彼女は真っ直ぐな人で、曲がったことが大嫌いで。
 だから、裏の取引や、自分に有利に事を運ぼうとする駆け引きは出来ない人だと、ディラは思っていた。
 しかし、それは戦い以外の方法で解決するため、互いに血を流さず、命を落とさずに解決するために必要な手段だとディラは考える。
「私は不器用だ……これからも、衝突するかもしれない」
 ディラはアレスディアと衝突したくはなかった。
 ディラには彼女のような、自分の身を盾にして、弱者を護りたいという気持ちはない。
 アレスディアよりも、あの男の方が自分に近いだろうと、感じてしまうほどに、ディラと彼女の考えは違う。
「でも……ディラ一人に泥を被せて、自分だけ綺麗なつもりでいたくない……」
 紡がれるアレスディアの言葉に、ディラは戸惑いを覚える。
 これまでディラは隠してきた。アレスディアに拒絶されることを恐れて、自らの本心の多くを。
「あの時、怒鳴ってくれて、刃を撃ち込んでくれて……嬉しかった。私に面と向かってくれたんだなって……信じてくれたんだなって」
 刃を交えた時以来、ディラがアレスディアを怒鳴るようなことはなかった。
「私は……」
 自分の膝の上にあったディラの手に、アレスディアは手を重ねた。
 ディラの鼓動が高鳴りを覚えていく。
「もっと、ディラの心を知りたい……もっと、触れたい……」
 鼓動の高鳴りと共に、恐れの感情がディラに襲いかかる。
 だけれど、も。
「アレスに正義があるのは事実だし、アレスに置いていかれたくなくて、自分の感情を抑えてきたことがあった。だが……」
 彼女の気持ちを、自分と共にありたいと言ってくれた言葉を、大切に想ってくれている、その気持ちを信じてみようと、ディラは意を決していく。
「アンタの自分の自身を犠牲とするような護り方は間違っている。護られて残った者の苦しみを、アレスは誰よりも知っているんじゃないのか。俺の幸せはアレス以外とはない。アレスを失えば、俺の未来は死ぬ」
 強い口調で、はっきりとディラは言い切った。
「あの女たちの策を見抜けなかったのは、俺の失点だ。だが、奴らのやり口はお前より、俺の方が知っている。俺を信じず、1人で先走ったのはお前も一緒だ」
 アレスディアからすれば、ディラがアレスディアを信じず、1人で解決をしようとしたとなるが、ディラからすれば、彼らの手口を知るディラに相談をせずにアレスディアは真っ向から向かう道を、自分が犠牲になる決定をした。それはディラを信じていないからに他ならないと感じていた。
「知っての通り戦いは戦いを生む。憎しみは連鎖する。例え、護るための戦いであっても。もし、俺に憎しみを抱く者が、アンタを殺したら、俺はソイツを殺す。そいつが愛する者を目の前で苦しめ、八つ裂きにした後で」
 怒りさえも感じる真剣な眼差しから、それらが彼の本心であることがわかる。
「感情に流され、結果を考えず死地へ飛び込むようなことは二度とするな。アレスにそれが出来ないと判断したら、俺が裏で動くまでだ」
 重ねられたアレスディアの手を、ディラは離さないというようにもう一方の手で挟んで掴む。
「この街の奴らは、戦い以外の方法で家族や大切な人を護っている。この街でもうしばらくアレスと共に過ごし、アレスにそんな生き方を知って……いや、思い出してほしいと思う。そして、俺も変わりたい」
 喧嘩になっても、拒否されても、置いていかれても、もう離れない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
順番が前後しますが、先にこちらを書かせていただきました。
ディラはアレスディアさんの護るための戦いを否定しているのではなく、自己犠牲を望んでいるようなところを否定しているのかなと思います。
一般人を逃がす為に、敵いもしない怪物に立ち向かわなければならない、という事態が訪れた場合は迷うことなく矛としてアレスディアさんと共に行きます。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月07日

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