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『■走り出す前の、インターバル 』
天王寺茜ka4080




 リゼリオのハンターズソサエティ本部近くに位置する、ハンターを対象とした住居施設が多い区画の一角。
 日当たりも良好な『あかね壮』と名付けられたアパートメントの一日は、元気のいい挨拶から始まる。
「おばさん、おはようございますー!」
 いつもと変わらぬ明るい声に、アパートの前で掃除に勤しむ中年女性――顔を合わせれば、挨拶を交わす程度のご近所さん――が手を止めた。
「おはよう、今日も元気だね」
「お陰さまで。いい天気ですね」
「ほんと、絶好の散歩日和だよ。気を付けて、行っといで」
「はい、行ってきまーす!」
 会釈をする快活な少女の後ろから、五匹の柴犬がついていく。
「よく、しつけてあるわよねぇ」
 世話も大変だろうにと感心しながら、中年女性は散歩に出かける後ろ姿を見送った。

 柴犬達の散歩は、天王寺茜(ka4080)にとって毎朝の日課だ。
 というか、彼女のアパートで世話しているのは、犬だけで約30匹になる。
 更に虎猫を中心に猫も30匹以上いて賑やかな事この上ないが、きっちりと面倒をみていた。

「あれ、あのゴンドラ……」
 水路沿いの道に差し掛かったところで、見覚えのあるゴンドラに茜は首を傾げる。
 係留してある桟橋に近付くと、積まれた荷物の上で一匹の灰色猫が丸くなっていた。
「おーい。キミ、配達屋さんのトコの猫かな?」
 呼びかけに猫は小さく耳を動かし、ゆらりと尻尾が揺れる。
 連れた犬達は遊んでほしそうに尾を振り、ゴンドラの匂いを嗅いだりしているが。
 我関せずな猫は、警戒や興味を示す気配もない。
「荷物番、してるんだ……偉いね」
「嬢ちゃんは、朝から大所帯で散歩か。大変そうだな」
「あ、やっぱり配達屋さんのゴンドラだったんだ。この舟」
 街路から戻ってくる男へ、茜は軽く会釈をした。
「でもって、おはようございます」
「ん? ああ、おはようさん」
 改めて挨拶された配達屋は一瞬面食らった顔をしてから、言葉を返す。
「そういや嬢ちゃん、『あかね壮』って名前に心当たりとかあるか?」
「それって私が住んでるトコ、だけど……」
 今度は、茜が不思議そうな顔をする番だ。
「なんで配達屋さんが?」
「頼まれモンだ。俺の仕事は、届けなきゃならんモンを届けるコトだからな」
 配達屋は親指で灰色猫が乗っかる数個の段ボール箱を示し、ぽむと茜は手を打った。
「もしかして、この子達のご飯?」
「ご明察。ついでに乗ってくか? 客が増えたくらいで、沈む舟でもない」
「ん〜……楽しそうだけど、今回は遠慮しとくね。この子達も走りたいだろうし」
 見上げる柴犬達を撫でた茜は、ふと悪戯っぽい笑顔を浮かべ。
「代わりに、アパートまで競争する? 配達屋さんが届けに来るのと、私が帰るのと、どっちが早いか」
「そいつは勘弁してくれ。水路だと、回り込まなきゃならん」
「あ、そうなんだ。残念」
 わざとらしくげんなりする相手に少女は笑い、場所を開けた。
 入れ替わりでもやい綱を解いた配達人が舟に乗り、音もなく灰色猫は座席下へ消える。
「じゃあ、配達お待ちしてますね」
 途中、橋から下を通るゴンドラへ声をかけると、配達屋はひらと片手を振り返した。




 そこそこに重い段ボール箱を、頼まれた場所へ積む。
 中身は保存のきくドッグフードやキャットフードで、サルバトーレ・ロッソを降りた業者が売っている商品だった。
「いつもは、店のおじさんが運んでくるけどね」
「何か、腰をやっちまったらしくてな。心配するなと伝言も預かってる」
「そっか。大事じゃないなら、良かった」
 ホッとした顔で、茜はサインした受け取り票を配達屋へ返す。
「元気が良くて愛想もいい。見てる方が清々しくなるような、出来た嬢ちゃんだとベタ褒めだったぞ」
「本当? 面と向かって言われたら、照れちゃうな」
「ま、面倒見はいいってのは確かだな。でなきゃあ、これだけの数の犬猫の面倒は見れんだろう。せっかく縁があったのを、引き取ってもらうのも忍びないってところか」
「う〜ん……どの子も可愛いしね」
 てへりと照れたように笑う茜に、男は小さく肩を竦めた。
「無粋な詮索だった。聞き流してくれ」
「いいけど……じゃあ、これ」
「うん?」
 差し出された巾着の包みに、配達屋は怪訝な顔をする。
「小腹用のおにぎりと、留守猫さんにおやつです」
「……いつぞやのスイカといい、俺も餌付けされるのか?」
 迷うような僅かな間を置き、くつくつ笑いながら男は巾着を受け取った。
「そうね。料理の腕は自信あるから」
「楽しみにしておこう。嬢ちゃんも、重い荷物を背負い過ぎて無理をするなよ」
「お気遣い、ありがとうございます」
 一仕事終えて舟に戻る配達屋を、茜は玄関で見送る。
「さて、次は休憩スペースの掃除かな。後は本部で依頼を見て、時間があったらバイクの整備と……」
 時間は限られているが、気にかかる事も、やりたい事も沢山あって。
 悩みと迷いを抱えたまま、茜の一日はまた走り出す――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka4080/天王寺茜/18/女/人間(リアルブルー)/機導師(アルケミスト)】

おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2019年02月12日

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