2019バレンタインイベント キャラクター名刺恒常販売開始

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『バレンタイン仮面リターンズ! 』
銀 真白ka4128)&クレール・ディンセルフka0586)&ミィリアka2689)&七葵ka4740)&黒戌ka4131)&ドロテア・フレーベka4126)&エステル・クレティエka3783

 ――昔々、二年前の二月十四日のことです。リゼリオ中がバレンタインに沸いている中、突如四人のヒーローが現れました。彼らは自らのことをバレンタイン仮面と名乗ります。名前の通り仮面を被っているのでどんな顔をしているのかは分かりません。ただ、彼らは純粋に人々の幸せを願ってチョコレートを投げつけていました。投げつけるといってもその投げ方はとても優しくて、誰も怪我をすることはありません。みんな喜びながら、チョコレートを受け取っていました。こうしてこの街のバレンタインは平穏無事に終わって、人々はみんな幸せになりましたとさ。めでたしめでたし。
 とある昼下がりの幼稚園は子供たちの歓声に包まれていた。一通り話し終えた保育士は一滴も出ていない汗をさっと拭い、やりきったと言わんばかりの晴れやかな笑顔を浮かべる。もう絵本のお話は聞き飽きたと幼児特有の唐突な無茶振りに即興で対応したにしては中々の出来だったのではなかろうか。――冷静に考えるとこの短さの中にもツッコミどころは山程あるが、細かいことを気にしていては身が持たない。しかしせめて悪役を撃退する勧善懲悪モノにするべきだったとは思う。
 実体験だったので、ついアドリブが利かなかったのだ。保育士は二年前、件のヒーローに例のチョコを貰い、ホワイトデーに婚約。昨年無事に結婚したのだった。左手の薬指に愛の証が輝いている。そして、今年再び彼らは現れるのだろうか、とふと来週に迫るバレンタインを思うのだった。

 ●○●

 ふと思い出して立ち寄ったAPVリゼリオ支部。目立つ場所にある掲示板にはソサエティには回ってこないような一風も二風も変わった依頼が貼り出されていることがある。以前も確かそうだったと真白はあっという間に過ぎ去った二年を思う。
 そして、予想通り二年前の同じ時期に見たのと限りなく近い文面が一番目につくところにデカデカと載っている。若干パワーアップしているような気がしなくもない。
 その名もチョコレート投げ大会。色々な意味で伝説になったイベントだ。
「これは……ついにバレンタイン仮面、再集結の刻がやってきたか……!」
 相変わらず表情筋は一切仕事をしていなかったが、その銀色の瞳には確かに星のような煌めきが宿っていた。彼女とそこそこ交流のある者なら、楽しんでいるとひと目で分かるほど。そうして気を取られていたので真白は気付かなかった。後ろから掲示を眺めている兄の黒戌が死んだ魚のような目をしていたことに――。

 そして当日、APVのエントランスはとにかく人でごった返していた。そんな中、話し声に紛れてゴクリと生唾を飲む者が一人。碧と青の視線は自らの手元にある水色の仮面へと注がれる。それは貴族、あるいは王子様かのような格好をしている彼女によく似合っていた。胸元には仮面と同じく緑色のリボンが巻かれている。
(この仮面を被るのも久しぶりです……)
 と、彼女――エステルは胸中で呟く。しかし二年のブランクを経ても忘れられない思い出なのは確かだった。開き直った者勝ちと思い切った結果、大変楽しかったのも事実だ。こうして再び参戦するほどに。そしてそれは全員が再び一堂に会していることからも窺える。しっかり仮面を結んだエステルの肩にたおやかな手が置かれる。
「ふふっ、ほんと面白い子たちよねー」
 鬼の面を着けたドロテアがその奥で瞳を細め笑う。金色のリボンによる装飾は華やかな容姿の彼女に相応しく違和感がない。前の言動を振り返ると、そこはかとなく女王様にも見えるが。ある意味エステルとの親和性がある。
「んん? 最初にこれ言い出したのって、ドロテアじゃないの?」
 と首を傾げるのは、今回侍仲間と先に新加入が決まっていた女子力仲間に負けるまいと謎の対抗心を携えて参戦したミィリアだ。仮面はピンク色でリボンは黄色。髪や鈴の色と綺麗に調和している。暇を持て余して愛用のネコちゃん型ミトンの肉球をもきゅもきゅ触りつつ訊く。
「え? 言い出しっぺ? あらあら何のことかしら、あたしは皆が楽しくなるように色々教えてあげただけ。面白い解釈をしたのは真白君や七葵君よ?」
「お二人とも天然ボ……いえ、真面目な方なので……」
 白々しくも楽しげな声音のドロテアから視線を外し、エステルがそっと言う。素でボケ倒す例の二人と自分で蒔いた種に何だかんだで乗っかっていくスタイルのドロテア。おまけに新加入のメンバーも元気とノリで押し切るタイプとくれば押されがちになってしまうのは必然だ。グループにありがちな良心的存在が振り回されるアレである。しかしやるからにはエステ
ルも頑張っていく所存だ。
「すまない、遅くなってしまったな」
 そう声をかけ合流したのは先程名前が挙がった七葵と真白の二人だ。
「偵察に行ってたんじゃなかったっけ?」
「偵察の後に少し出掛けていた。七葵殿に大事な用があったものでな」
 と話を振られるまでもなく、三人の視線は七葵が抱え持つ何本もの刀に注がれていた。彼が近付くと何だか色々と混じっていてよく分からないが、とにかく甘い匂いが漂ってくる。
「千代恋霊刀だ。前回は何事もなく終わったが、今回もそうとは限らないだろう? 悪漢が現れたとき戦えんとなれば正義の味方の名折れだ」
 至って真面目、神妙な面持ちで七葵は滔々と語る。その言葉に「さすが七葵殿だ」と真白は賞賛を贈り、ミィリアは「どんなのがあるの?」と興味津々に尋ねる。人混みの中、邪魔にならないよう五人で小さく輪を囲むようにして、広げた千代恋霊刀の品定めを始める。七葵と真白は真剣な表情でミィリアはわくわくと楽しそうに、エステルはちょっと困ったように笑い、ドロテアは顔を背けて小刻みに肩を震わせる。ミルク、ビター、ホワイト、ストロベリー、さくらに抹茶等々と、七葵がフレーバーを説明する際の発音は一部を除きたどたどしかった。彼の背後に某菓子店の女装店長がウインクしている幻が見える――気がする。
「黒戌殿がいたら、是非びたーを使ってもらいたかったのだが」
「黒戌さん……って真白さんのお兄様でしたっけ?」
「ああ。今日は大事な用があると、何か覚悟を決めたような顔をして何処かに行ってしまった。だから、ここには来ていない」
 エステルの問いに答える真白の眉がしゅんと下がる。折角のお祭りだ、純粋に兄と楽しみたかったのだろうし、それほど親しいわけではないが賑やかそうな人だったので、いたらカオス――もとい、より楽しかっただろうなとエステルも思う。と。
「ごめーん! 大丈夫!? 間に合ってる!?」
「まだ大丈夫ーでござる!」
 急ぎつつも走りはせずに、上手く人々を躱して合流したのはミィリアと同じ新メンバーのクレールだった。彼女は三年前にピースホライズンにて行なわれたこの大会とは似て非なる行事に参加したときの扮装、その名も幸せ妖鬼チョコレールを改造し、参戦している。ちなみにそれ自体が元々完全自作というこだわりの一品だ。その名残である手足につけるドーナツをうっかり忘れていた為、更衣室に取りに戻っていた。この面子の中ではカオス度と本気度が最も高い。とはいえ、見回してみればエステルは王子様風、ミィリアはどこからどう見ても猫耳メイドの格好に袖と篭手だけ鎧武者風で、その他の三人は普段通りの服装に仮面をつけた状態だ。統一感など初めから存在しない。でも一応色の住み分けは出来ている。リアルブルーのとある島国から来た人間がいたら全力で突っ込むカラーリングだとしてもだ。
「大成功だったものね。この二年で色々と対策は講じたみたいだけど、それでも凄く忙しそうだわ」
 規模が大きくなればなる分だけアクシデントが起きる確率も跳ね上がる。それを回避する為に奔走するスタッフの人たちにまずチョコを投げたくなるほどだ。輪に混じったクレールが興味津々に千代恋霊刀を指差して尋ね、それにまた七葵が先程と一言一句同じ説明を返す。仮面の色だったり個人の好みだったりに合わせながら千代恋霊刀は分配されていき、余りは刀身をぽきっと折って打刀から脇差サイズに変更された。実物では真似出来ない芸当にある種の感動を覚えながらクレールはもぐもぐとキャラメル味の千代恋霊刀(破片)を頂く。
 後にこの大会の参加者は語る。仮面を付けた怪しい集団は一番真面目にスタッフの説明を聞いていたが、同時にチョコレートを貪っていたと。そしてそれは伝説の一つに付け加えられた――かもしれない。

 そしていざ大会開始時刻。以前より人もコスプレイヤーも増え、混沌とした優しい戦場には幸せを求めて多くの人々が投げられる側として集まっていた。トラブル防止に会場を更に細分化し、そのエリアから出ないよう求められた彼らがグループごとに散らばって突っ立っているのは若干シュールではある。何だかんだでやっぱり恋人か夫婦と思しき二人組が多いものの、園児らしき集団や何の集まりか分からないグループまで色々いる。投げる側の参加者も特定の範囲を複数人で担当する形を取っていた。真白たちは全員一緒で、その分担当エリアも広い。
「それではスタート!」
 と、トランシーバーではなく、街中にあるスピーカーを通して開始が宣言される。
「私は復活のバレンタイン仮面『技の一号』。本年もまた皆に祝福を届けよう」
「祝福の守護者……愛と正義の味方。『力の二号』ことバレンタイン二号、推して参る」
 口上は番号順、あるいは加入順がお約束である。平時と変わらず真面目な代わりに熱量の足りない真白と七葵の名乗りだが、前回と全く同じだった代わりに七葵の言い方はだいぶ滑らかに進化している。鬼の面は相変わらず二人とも後ろにつけていた。遠くではエステルが笛で何かそれっぽいBGMを奏でている。
「そして、あたしが金の三号よっ!」
 ドロテアはシンプルに、しかしその声は高らかに周囲に響き渡って、バレンタイン仮面を知っているか否かで出来ていたと思われる温度差がなくなり拍手が返ってくる。急ぎ駆け寄ってきたエステルは小さく咳払いして、
「伝える想いに勇気のそよ風を。バレンタイン仮面四号、見参です」
 前半と後半の間に帽子の鍔の位置を整え、言い終わるとマントを華麗に翻す。これを真白や七葵のようにクールにやれば格好良かったのだが、久しぶりの口上にその頬はうっすらと赤く染まり、声色にもしっかりと照れの感情が乗っていた。だがそこがいい、と誰かが言うのが聞こえる。尚当人にはまだ勇気のそよ風は吹いていない。
「バレンタイン仮面が一人! 幸せ妖鬼チョコレール改め、鬼の五号! 幸せを鬼のように増幅させるため、推参ー!!」
 と勇ましささえ感じる声で名乗りをあげたのはクレールだ。衣装に見合った気合いの入りっぷりで腕を掲げたり拳を握ったりとばっちりポーズも決める。まさに期待の新人。恋人? 何それ美味しいの? な独り身ではあるものの幸せを祝う気持ちは人一倍ある。そして、最後にミィリアが綺麗に締めるはずが、
「恋心満開! サムライ仮面でござる!!」
 あまりに堂々とした語調に一瞬「ん?」となる投げられる側一同。
(……あれ、なんか違ったかも。まあいいか!)
 本人も直ぐに気付いたが、それはなかったことにして可愛らしく、千代恋霊刀(さくら味)を構えてサムライっぽくポーズを取る。小柄なだけに少し刀が大きく見えて、小さな女の子が大きな武器を持つのに萌える特定の層と単純に可愛いものが大好きな思春期の女の子の人気を攫った。実はお酒が飲める歳になってそこそこ経つのは内緒だ!
 まとまりはないもののとりあえず人を幸せにしたいという気持ちは伝わってくる六人のヒーローに人々は拍手を送った。

「恋人も友達も家族も幸せなもの! ただし幸せに上限なし!」
 クレールがいい笑顔で両手に個包装の豆チョコレートを鷲掴みし、
「さあさ! 全土に幸せのチョコシャワーを!」
 と開幕から盛大に大人数が固まっているところに投げる。といっても、目盛りを全開まで振り切ったシャワーではなく、ちょうどいい水圧程度だ。元の幸せを更に高めるというそのコンセプト通り受け取った人々からお礼を言われ、楽しさに嬉しさも加わる。取り損ねた人がいないのを確認すると次の集団へ向かった。その近くでは、
「ほら、大丈夫。このミトンを貸してあげちゃう! これなら手を痛くしないでキャッチできるよね?」
 目線を合わせる為にしゃがんで言うミィリアに小さな女の子はこくりと頷いた。
「ネコちゃん可愛いね」
「うんうん、だからミィリ……サムライ仮面もお気に入りなの」
 言うと女の子は隣にいるお母さんに買ってとせがむ。勉強も運動もお手伝いも頑張ると一生懸命説得する彼女に、お母さんも笑って了承した。投げる前から幸せに出来たらしい。ちょっとだけ距離を取って、ミィリアは姿勢を低くしてスタンバイをした。
「いざ尋常に……勝負でござる!!!!」
 水を掬うような形にした小さな両手めがけて、女子力(物理)をソフトかつ真っ直ぐに発揮する。

「あら、エステル君ってば随分控えめね?」
「ふぁ? いえだって、最終的に幸せを得るのは皆さん自身の力ですしっ。私はこう、そっと陰日向になって応援する感じでいいんです」
 エステルの返しに「そういうのもいいわねぇ」とドロテアは微笑む。二人ともチョコを投げる手は止めない。それだけでお礼を言われることにくすぐったさを感じながら会話を続ける。
「ドロテアさんはこう、意外とノリノリですよね」
「まあ正直、自分が混ざるのはどうかと思うけど、騙し通すには致し方……ホホホホ、やあねえ」
 笑う彼女には何処か捕らえ所がなく、しかしエステルもつられて笑みを零す。王子様は女王様には構わないものらしい。
(――でもね)
 と声には出せない続きをドロテアは胸中で言葉にする。
(人に言えない出自のあたしが、こうして若い子に混じって“幸せを配る”だなんて……前は皮肉だと思ったこともあった。でも、今は違うわ)
 だからこの時期に真白から誘いが来て直ぐさま察して、そして今ここにいる。口角をあげて浮かべるのは心からの笑顔だ。
「折角の機会なんだし、思いっ切り楽しみましょ!」
 じゃないと損だもの、と続けてウインク一つ。笑い合う二人の間を不意に黒い影が通り抜けた。揃って来た方向を見れば、そこには眉に困惑の色を乗せた真白と険しい顔をして周囲を警戒する七葵の姿がある。予想外の事態に六人は再び集結した。

「何があったの?」
「……見てもらったほうが早い」
 ミィリアの問いに七葵が答え、それに真白が頷く。そして升から粒を一掴みすると少し離れた所にいる人に向かって投げた。相手に届く前に先程の影が通過し、チョコは空中で消失する。
「ちょこれいとを渡すなど許せぬ! 全て拙者が頂戴仕る!!」
『ふっ、不審者だー!』
 ミィリアとクレールの声が綺麗にハモる。この近さなら覚醒せずとも動体視力で見えてしまうのだ。明らかなヤベー奴に二人は体を寄せ合う――こともなく、わくわくを隠し切れない顔で臨戦態勢を取る。何せ男は長身で、しかも早急に妨害する為に割と近くで待機している。黒い仮面を着けた黒ずくめという出で立ちと先程の言動は完全に悪役のそれだ。
「えぇと、こういう場合……成敗自由にござる?」
 と訊くのはクレールだ。しかし、
「妨害は確かに許せぬことだ。が、まだ敵と決まったわけではない」
 と真白が至極冷静に待ったをかける。そして謎の人物について検証を始めた。
 まず一つ、対象は真白のみ。他の人が投げても無視する。次に、女性相手に投げる分には黒い物体は反応しない。三つ目、スキルを使用している為ハンターなのは間違いない。四つ目は――。
「忍……」
「えー、おサムライさんじゃなくてニンジャかぁー、でござる」
 真白の言葉に落胆を隠さずミィリアが言って肩を落とす。侍派と忍派の溝は深かったり深くなかったりする。それはさておき、忍の技を使う者はリゼリオ広しと言えどそこまで多くはなく、かつ対象が真白に絞られるとなると答えは明白だ。ドロテアが肩を竦め、エステルも何となく理解し苦笑いを浮かべた。七葵が小さく息をつく。
「一号、俺に投げてもらっても構わないだろうか」
「? ……分かった」
「すまないが皆も協力してくれると助かる」
「了解です」
 このままではいつまで経っても埒が明かない。そう判断した真白が七葵と向き合い、二人を囲むように四人が定位置につく。それはヒーローが必殺技を決めるときのフォーメーションにも見えて、最早観客と化した人々は固唾を呑んで六人を見守る。
「幾ら七葵殿であっても認めぬでござるよ!!」
 叫びながら、七葵に向かって投げられる豆チョコを例の如く掻っ攫おうとする人影。しかし二人の距離は近く、七葵の右手の甲には剣三つ葵が浮かび上がっている。――手にしているのが千代恋霊刀(ビター)でなければまさにただのイケてる侍なのだが。しかし相手も他人に危害を加えていないだけあってそこは弁えているらしく、合わせた刃からは同種の匂いが漂う。そのまま七葵と男は、まるで互いの流派と癖を熟知しているかのように流麗に刀(チョコ)と苦無(チョコ)をぶつけ合う。ミィリアも二人の仕合に戦い甲斐のある者が出てきたと喜び勇んで、そして両手にチョコレートの粒を握り込んで投擲の構えを取る。
「ディンセルフコート、峰打ち用全峰展開。ちぇすとー」
 気の抜けた掛け声とともにマント代わりに身につけていた自作の武器、特別仕様のコートを剣に変化させたクレールの両目に竜と月の紋章がそれぞれ浮かび上がる。それを見た不審者の喉から「ひぇっ」とちょっと情けない声が漏れた。それを掻き消す歓声。
「お主鬼か!? 鬼でござるか!!?」
「鬼かと言われれば鬼ですとも!」
 まさに剣を振るうその腕に鬼の面がついている。傍観中のドロテアが溜め息をついた。
「もうやめたらどう? 勝ち目ないわよ」
「嫌でござる! 絶対に嫌でござる!!」
「その言葉遣いは親近感が湧くけど……でも、容赦はしないよっ! 天誅でござる!!」
「正義を妨げるのなら容赦はせん。お覚悟!」
 と、連携も何もあったものではないのに何故かそこそこに噛み合う戦いの最中。
「むう。この声、どこかで……?」
 前衛二人の猛攻っぷりに割り込む隙がなく、千代恋霊刀(ストロベリー)を構えつつも既視感の答えを求め動かずにいる真白の更に後ろ、冷静に事の成り行きを見守っていたエステルのオッドアイが淡く輝き、伸ばした指は動き回る男の姿を捉える。その身体に浮かび上がる文様と毅然とした瞳に、ついに大技かと観客のボルテージも最高潮に高まり、
『ばれんたいんかめん、がんばえー!』
 と、園児たちが全力で応援する声が聞こえ、男は緊張し、クレールは容赦なく隙を狙う。
「ディンセルフコート鬼仮面衣装バージョンが唸……」
「皆さん下がって! スリープクラウド!」
 多勢に無勢でノーマークだった隙にエクステンドレンジで射程を延長した術を発動、男の周囲に青白いガスが広がり――。そして悪は呆気なく眠りに落ちたのだった。踏み留まれなかったクレールの峰打ちが若干やばい所に入り、時間差でミィリアの撒いたチョコが振りそそぐ。静寂は数秒ほど。
 倒れるときに顔から剥がれ落ちた仮面。その下にあったのは案の定――。
「……兄上?」
「え!? お兄さん!? イッツ、げふんげふん、ヒーズブラザー!?」
「あ、ほんとだ、黒戌さんだー!」
「ご、ごめんなさーい!」
 三人に覗き込まれている彼は眠っているようにも気絶しているようにも見える。何故か起きる割れんばかりの歓呼の声を浴びながら出てきたスタッフはにっこりと笑顔で真白に荒縄を差し出した。

 ――この黒戌、主命を受けてより幾年月、真白を守り育て、僭越ながら本当の兄や親のような情を頂いている次第。世が世であれば今頃は相応しい婿を取っていたであろうし、いずれは真白も身を固める時が来るであろう。あろうが、しかし。
 今は! まだ!! 早い!!! 義理と言えども真白が男に想いの籠ったちょこれいとを渡すなど、この兄にはまだ耐えられぬ!!! 故に!!! 全力で!!! 邪魔するのでござる!!!!!!!!
 ……いや違う。これは別に特に私怨だとか“しすこん”だとか、そういうことではないのでござる。正義を体現するヒーローには相対する悪役が必要なのが世の常であり、折角我が妹とその友人たちが善き行ないをしようと言うのであれば盛り上げ役も必要だろうという兄心であって、決して私心など含んでいないのでござる大丈夫でござるこの黒戌嘘をついたことなどないのでござる。

「だからほんと全然大丈夫でござる兄を信じるでござる、うむ、大丈夫、うむ」
 途中ノンブレスで申し開きを試みた黒戌の息は上がり、目の前にいる幼女が「大丈夫?」と心配そうな声を出す。そして彼の口に包装を剥がしたチョコを無遠慮にねじ込んで列から捌けていく。そしてまた次の子供が、と引き回しやらハリセンやらは免れた黒戌には悪役が改心する為の儀式という名のひたすら豆チョコを食べさせられる刑が執行されていたのだった。その傍には兄の邪魔に全く気付かず、何なら自白するまでまだ信じていた真白が街灯と一緒に縛り上げた兄を見下ろしつつチョコを咀嚼し頬を緩める。ちなみに先程の述懐の前半は墓まで持っていく秘密なので声に出していない。
「うむ、幸せとはやはり良いものだ」
「真白殿。これも美味いぞ、是非食べてみるといい」
「七葵さんのえっと千代恋霊刀? は家に持って帰って食べますね」
「みーちゃん、ドロテアさんの奴お酒が入ってるみたい!」
「ほんと!? お酒と甘い物が一緒に楽しめるなんて最高、でござる!」
「うふふ。黒戌君、お先に真白君のチョコレート頂いちゃうわね?」
「ああああー! やめろー、やめるでござるよー!!」
 黒戌が眠って(?)いる間につつがなくイベントは大成功を納め、現在は近隣住民と参加者の善意によって晒し首ならぬ晒し黒戌が続いている。六人は折角バレンタインに集まるのだからと自分たちで交換する友チョコも持ってきていて、カフェのテラス席を借りての交換会を行なっていた。楽しませてくれたお礼と言う店主に紅茶やジュースをサービスしてもらう。仮面を外し、衣装も戻してとすっかりいつも通りになっていた。
 じたばたと暴れ、縄を抜けようとする黒戌を見やった真白は、千代恋霊刀(ホワイト)を食べる手を止めて立ち上がり、彼の元へ歩み寄る。兄の瞳は捨てられた子犬のようにきらきらとして救いの手を待っていた。彼の前に差し出されたのは一つの箱だ。
「……兄上の分です。食べて下さい」
「真でござるか!? いやでも、拙者今手が塞がっているでござる。……真白、食べさせてはくれぬか?」
 懇願された真白は深く大きく溜め息をついて、そして包みを開け始めた。チョコレートを餅でくるんだ菓子をつまみ、しゃがんで地べたに座らされている黒戌と目の高さを合わせる。真白にしては珍しく呆れたと顔に書いてある。
「全く、仕方のない兄上なのだから……」
 小さく独り言のように呟き、手ずから黒戌用に用意してあったチョコを食べさせる。帰ってから渡すはずだったのにこんなことになるとは。感動のあまり滂沱の涙を流す黒戌は格好悪いけれど、真白にとってはずっと背中を見てきたヒーローだ。今までも多分これからも。
「黒戌君の妨害も含めて、何だかんだで楽しかったわね」
「いやしかし、兄として妹を心配する気持ちは解らなくはないが、正義の行いを邪魔するのは如何なものか」
「うーんと、問題はそこではないような……?」
 エステルが困ったように言って、唐突にドロテアはふっと軽くふき出す。笑いながら、不思議がる彼女に軽く手を振って否定の意を返した。
「戦いに次ぐ戦いで大変な時期だけど、こういうのも悪くないわって、そう思っただけ」
「でもどうせだったら、歪虚を全部倒しちゃった後のほうが楽しいと思いますよ!」
「さすがくーちゃん、ナイスアイディア! でござるっ」
 ますます気合いが入るわね、と女子力(大体物理)のコンビがきゃっきゃとはしゃぎ、違いない、と七葵は目を閉じ、口元を僅かに笑みの形に変えてみせる。
「それじゃあ今年の内に最終決戦なんてぱぱっと片付けちゃって、来年はもっとこの大会を楽しみましょ?」
「それは楽しみだ。後はこの調子で更なる仲間が増やせればいいのだが――」
「でも六人なのも凄くいい感じですよ? あ。来年は黒戌さんも、ですね」
 悪役は今日を以て返上するのだから。楽しそうな六人を見上げながら刑執行中の黒戌も実に晴れやかな顔で笑うのだった。そして、バレンタイン仮面の伝説は続く――?

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4128/銀 真白/女性/16/闘狩人(エンフォーサー)】
【ka0586/クレール・ディンセルフ/女性/22/機導師(アルケミスト)】
【ka2689/ミィリア/女性/12/闘狩人(エンフォーサー)】
【ka3783/エステル・クレティエ/女性/17/魔術師(マギステル)】
【ka4126/ドロテア・フレーベ/女性/25/疾影士(ストライダー)】
【ka4131/黒戌/男性/28/疾影士(ストライダー)】
【ka4740/七葵/男性/17/舞刀士(ソードダンサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
参考URLに記載されたリプレイを元に好き勝手にやらせていただきました。
今年も開催されてますが、そちらのほうは特に考慮せずに作ってます。
このメンツ、天然ボケとツッコミが出来ない(しない)人しかいねぇ!
というのが、発注文とマイページを一通り拝見した直後の感想でした。
コメディ系は途轍もなく苦手ではありますが、書くの自体は好きなので
ご理解の上で指定される分には問題ないです。非常に楽しかったです!
ただ、いつもと色々違うので、ご期待通りかどうか不安ではありますが。
今回は本当にありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
りや クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年02月12日

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