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『明日の先 』
藤咲 仁菜aa3237)&リオン クロフォードaa3237hero001

 H.O.P.E.東京海上支部のロビーに、藤咲 仁菜とリオン クロフォードが足を踏み入れた、次の瞬間。
「バトルメディックなのよね!? 登録済ませたらうちの隊に来ない!? 回復足りてないのよ!」
「生命適性だったら前衛も張れるよな! おまえのこと最大に生かせる場所、あるぜ!?」
「わたしたちぃ、バトルメディックの互助会みたいな感じなんですけどぉ……いっしょに辻ヒーラーしませんかぁ?」
「申し訳ありません、彼らはこれから事務手続きなのですよ」
 殺到するエージェントたちをにこやかな笑みで押し退け、アラン・ブロイズはふたりを返り見、唇の動きで伝えた。
 申し訳ない顔をなさい。そのまま顔を下げてこちらへ。
 仁菜とリオンはあわててそれに従った。申し訳ない顔はとまどった顔をそのまま向けるだけでよかったから、とにかく足を速めてアランを追う。そして人の気配が切れたところで、ようやくと。
「回復職が不足してるってほんとなんだな」
 肩を強ばらせた仁菜へリオンがささやいた。
「……うん。でも、あんなふうに、部活の勧誘みたいな騒ぎになるなんて思ってなかった」
「ブカツ?」
 そんなふたりに、アランは冷めた笑みを振りかけて。
「彼らは備えたいのですよ。大規模作戦――通常の戦闘任務とはちがい、数百のエージェントが連動して臨む大戦に」
「それ、すごく危ないんだな」
 すかさず牽制するリオンに、アランはうなずいた。隠すつもりは最初からないから、そのまま告げる。
「敵は高位愚神ですからね。命を落とす危険すらある。……あなたがたにも参加していただきますよ。それは万来不動産が妹御の保護を請け負う条件のひとつですから」
 びくり。固まっていた仁菜の肩が跳ねた。
 ここへ来るまでに、いくつもの覚悟を決めてきた。冷たい機械が組み合わされた生命維持装置により、かろうじてこの世界で熱を保つばかりの妹を守る。そのために戦場へ立つこともまたそのひとつだ。
「ニーナ、大丈夫だよ」
 リオンにそっと背を支えられたが、仁菜の震えは止まらない。
 怖かった。戦場に立つことではなく、リオンと交わした誓約――どんな状況でも守ることをあきらめない――を、戦場という極限状態の中で貫けるのかが。
 私はほんとに逃げないでいられるの?
「私は過程を問うつもりはありません。結果だけを渡していただければね」
 仁菜の葛藤を見透かしたように、アランが言葉で彼女の逃げ道を塞いで。
「ですから、どこかの小隊に所属するのも一手でしょう。見ての通り、バトルメディックは引く手数多です。多数を抱える小隊なら、あなたに課せられる責任もそれだけ小さくすみますよ」
 仲間という監視の目に縛られていれば逃げられないでしょう。言外に含まれたアランの意図へは気づかないふり、仁菜は疑問を口にした。
「どうしてこんなにバトルメディックが少ないんですか?」
「誓約のきっかけを考えてみればすぐにわかるでしょう。たとえばあなたは、どうしてクロフォード様と誓約を交わしたのですか?」
 思い出すまでもない。従魔に襲われ、妹を喪いそうになって、そして――
 そういう、ことか。
 ライヴスリンカーの多くは、命の危機に瀕して能力を開花させる。つまり、そのときに求められるものは戦うための力だ。
 だから当然、英雄もそれに応えた結果顕われることとなる。ドレッドノート、ブレイブナイト、ジャックポット、シャドウルーカー、ソフィスビショップ。能力のちがいはあれ、愚神や従魔を殺すことのできる力を備えた者たちが。
 私も、妹を助けたいじゃなくて化物を殺したいって思ってたら……リオンと会えなかったんだ。
 そう思うと、不思議な気持ちになる。あたたかくて、くすぐったくて、ちょっと笑ってしまいそうで。
 なんだろ、私。
 よくわかんないけど、でも。リオンと会えたから、私は守る力をもらえたんだ。
 だからきっと、妹だけじゃなくて、誰かのことも守れる。
 リオンがいてくれたら、きっと。
「ごめんなさい。横、通らせてもらいますね」
 唐突にやわらかな声をかけられ、仁菜がびくんと横へ寄れば。
 赤髪の青年を先頭にした一団が、三人の横をすり抜けていった。
 ここにいるということはエージェントで、しかもどこかで戦ってきた帰りなのだろう。体の各所へ巻きつけた包帯からは血と消毒薬の臭いが漏れ出していて、応急処置だけを済ませてきたことが知れた。
「彼らは確か、【暁】という小隊でしたかね」
 言い終えたアランはさらに添える。
「彼らが選ぶ戦場は常に厳しい。初心者にはお勧めしかねますね」
 仁菜は後ろ髪を引かれたように振り返った。
 妙に気になる背中。
 しかし。そこからどうするべきなのかはわからなくて、ただ見送るばかりに終わる。
「とにかく肩慣らししていかないとな。依頼って、どこに行ったら紹介してもらえるんだ?」
「手続きを済ませたらご案内します」
 先へ進むリオンとアランを追い、仁菜は足を速めた。


 仁菜とリオンが肩慣らしを終えた頃、大規模作戦が発令された。
 各小隊からの勧誘は日に日に激しさを増し――仁菜はロップイヤーを駆使して追っ手をかわし、逃げ回る。
「なんでこんな必死で逃げなくちゃいけないんだよ!」
 息を切らしてついてくるリオンへ仁菜は背中越し。
「だって言えないでしょ!」
 実はまだ戦闘依頼受けたことないんです! だからきっと役に立てません! なんて。
 そんな彼女の様に、リオンはうーむ、口の端を歪めた。
 怖がりな仁菜のことを思い、危険のない依頼を選んできたのは彼だ。が、そのせいで、参戦を強要された大規模作戦までに戦闘経験を積ませることができなかった。
 共鳴体の主導を取るのはリオンだ。だから大丈夫と言えば大丈夫なのだが……仁菜の願いを思えば、彼女自身が強くならなければ、先は拓けない。
 俺が全部受け止めてやれるなんて思い上がらないし、そうしてやりたいと思っちゃだめなんだ。俺が考えなきゃいけないのは、ニーナがニーナの足で歩けるように。それだけだ。それだけなのだが。
「誘ってくれる人たちには悪いけど、戦闘部隊に入らなくていいんじゃない? 大怪我でもしたら万来不動産に借りが増えるし。俺たちは手頃な後方支援部隊で経験積ませてもらおう」
 過保護なのかもしれないが、仁菜に階段を一段越し、二段越しで登らせたくなかった。無理をして足を取られれば、それこそ怪我をするだけでは済まないのだから。
「うん……そうだよね。そうするべきだよね」
 そしてふたりは勧誘者の接近に注意しつつ、ロビーの片隅に置かれたベンチへ腰を下ろした。
 リオンが持つタブレットを並んでのぞきこみ、いい感じの後方部隊を探す。
 と。人の気配がして。
 ベンチの脇にある自販機がガチャリ。ペットボトルを吐き出した。
 引き寄せられる仁菜の視線。そこにいたのは、先にすれちがったあの赤髪の青年で、今回もまた、包帯に血を滲ませていた。
「小隊を探してるんですか」
 水で喉を潤し、青年は言う。その問うほどでもない問いには仁菜たちを追い詰めたくないという気づかいが感じられて、リオンの警戒心もわずかに緩んでしまった。
「大規模作戦で入れてもらえる後方支援部隊がないかなって」
 それでも気を引き締めて、固い声音を返す。
 不用意に誰かを信じるな。この世界で無条件に心を預けていいのは仁菜だけだ。
「そうですか」
 青年はうなずき。
「ありがとう」
 ふたりが歳下であることを確信したか、言葉をほろりと崩して微笑んだ。
「背中を守ってくれるエージェントがいてくれれば、ボクたちは前だけを向いて行ける」
 それだけを言い残し、去って行こうとするが。
 仁菜がその腕を引き留めていた。
「あ。その、怪我、してますから」
 リオンを急かして共鳴し、ケアレイ。
「……ほかにも怪我してる人、いるんですよね?」
 青年の背を押して、仁菜は【暁】の詰め所へ向かう。
『ニーナ、どうしたんだよ!?』
 内から声をあげるリオンへ、仁菜は内で言葉を返す。
『前だけ向いて行くって、愚神とか従魔とかと戦うことでしょ。私はなんにもできないけど、せめて背中くらい、守りたいから』
 リオンは言いかけた言葉を飲み下した。
 あまり入れ込ませたくなかった。激戦を選んで踏み入るようなエージェントにも、そんな連中が集まる場にも。
 しかし今の仁菜にもっとも必要なのは成功体験だ。癒しの力が充分役に立つのだと自覚できれば、こんなふうに自分を急き立てることもなくなるはず。


 重傷者を癒し、軽傷者にはぞんざいな応急処置よりはマシな処置を施して、仁菜は詰め所を後にした。青年を始め、【暁】の面々の笑顔で送り出されて。
「喜んでくれたみたいでよかった」
 リオンの言葉にうなずく仁菜。
 三回分のケアレイと、医療の専門家などではない小娘の処置。たったそれだけのことで、彼らは快く歓迎してくれて、救われた顔をしてくれた。他の小隊のように勧誘してくることもなくだ。
 しかし、どれほどの無茶をしでかせば全員があんな有様になる? しかもその無茶を一切顧みずにきたからこそ、仁菜たちへそれを晒すこととなったわけで。
「無茶してんだな、【暁】って」
 アランの物言いからしてもずいぶんな戦闘小隊であるらしい。確かに歴戦の凄みはあったが、それ以上に感じるものがあった。
「あの人たち、前線でがんばって、怪我して、なのに誰もそれがやだって言わなくて」
「だからそういう人たちの背中、支えるんだろ。それがニーナと俺の、今のところの精いっぱいなんだしさ」
 とりとめのない仁菜の言葉を先回りして塞ぎ、リオンはタブレットを抜き出した。
「早く入る小隊決めちゃおう。依頼にも行って経験積んどかないとな。今度はちょっとがんばって調査とか」
「受けるのは戦闘依頼だよ」
 今度は仁菜が先回りしてリオンの言葉を塞ぐ。
「後方支援は戦闘より連携だろ。それがわかってないといろいろ困ることになるぞ」
「でも、後ろにいたら私たちの手、あの人たちの背中に届かない」
 誘われなかったのは、仁菜が弱いからではない。自分たちの戦いに巻き込みたくないからだ。
 そうして互いに心を合わせて無理を突き通し、どれほど傷ついても足を止めず、前へと進むその様は――リオンと誓約を交わしたあのときの自分と重なった。
「俺たちはまだまだ弱い。足手まといになるだろうし、ついてくだけで死ぬかもしれない」
「死んじゃうのは怖いよ。でも」
 両親同様、従魔に殺されるはずだった自分を思い出すだけで、目の前が暗くなる。息が詰まって、膝から力が抜け落ちる。それでも精いっぱい脚に力を込めて伸ばし、息を吸い込んで、目を大きく開いた。
「自分がどんなに辛くても、あの人たちは誰かを背中にかばって戦って、戦って、戦って……そんな人たちが私に向けてくれた笑顔が消えちゃうのはやだ。絶対、やだ!」
 昨日に怯えてなんていられない。
 今日を繰り返している暇なんてない。
 明日へ踏み出して、進む。その先を示す暁の光に手を伸べて、明後日の先にまで。
「私、あそこに行きたい。あの場所に、いたい」
 震えながらうつむいた仁菜へリオンが返したものは、ため息。
 恐れていたとおりの顛末を、そのままになぞってしまった。確かにあの小隊なら誓約を果たすに申し分はないし、アランとの契約も十全にこなせるだろう。
 いや、そんなことじゃないな。
 俺にとっていちばん大事なのはニーナだ。
「わかった。それじゃあ小隊に加入届け出す前に、戦闘依頼を見繕いに行こうか。ただし、難易度は普通までだぞ」
 腰に手を当てて言うリオン。
 仁菜はそっと目を上げて彼の表情を窺い。
「……いいの?」
「戦闘での立ち回りに慣れとかないと、いざってときに体が動かないからな!」
 うなずいて、笑む。いつものとおり、でも少しわざとらしく大げさに。
 まだ仁菜の震えは止まらない。なのに足だけは踏み出していて、それがリオンの胸を突き上げる。
 ほんとはすごく怖いくせに、それでも逃げ出すより必死で進もうとするんだ、ニーナは。
「大丈夫。ニーナには俺がついてるから」
 大丈夫。俺がニーナを守るから。なぜだろう、口にせずにおいた決意を胸に刻み、リオンは仁菜と共に本部へ向かった。
 難易度だけは確認するが、依頼は仁菜に選ばせるつもりだ。
 意志を尊重するのはもちろんだが、どんな戦いであれ、彼がするべきことは変わらないのだから。
 俺は絶対あきらめずに仁菜を守る。それから仁菜と力を合わせて誰かを守るんだ。

 果たして仁菜は【暁】の一員として戦場を駆ける。
 リオンと共に、明日の先を目ざして。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【藤咲 仁菜(aa3237) / 女性 / 14歳 / LinkBrave】
【リオン クロフォード(aa3237hero001) / 男性 / 14歳 / 二人の絆】
【アラン・ブロイズ(az0016hero001) / 男性 / 23歳 / 万来不動産社長】
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2019年02月12日

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