▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『女神演技 』
スノーフィア・スターフィルド8909

『英雄幻想戦記』。
 それは現在8作がリリースされている――制作会社は9作めも作ると息巻いている――ゲームタイトルだ。
 大きな特徴として、タイトルごとにがらりと世界観が変わることがある。これはファンを喜ばせるばかりでなく、激しく戸惑わせることでも有名で、ナンバリングごとに支持するファンの顔ぶれも変わる。
 さらには課金アイテムやダウンロードコンテンツだ。売り上げ数にそぐわぬ多彩な内容と数が予告なしにばらまかれ、それはファンよりも先に好事家の心をくすぐった。彼らの手で情報サイトが複数立ち上げられたことでファンもまた購買欲を燃え立たせ、ついには一般のライトユーザーすら巻き込んでみせたのだ。
 私は(発売日から結構経ってましたけど)最初から(サイトを見て)ちゃんと全部抑えてましたけどね! 攻略も(ほぼほぼ他人頼りで)完璧です!
 ちょっと虚しい自慢をひとりきりの部屋の中、無言でかましておいて。
 スノーフィア・スターフィルドは握り締めた拳をそっと開き、息をついた。
 自力か他力かはともあれ、ずっと『英雄幻想戦記』を追ってきたのは確かだし、タイトルに対する熱量は誰にも負けない自負がある。それこそ来世ってやつでスノーフィアになってしまったのだから。
 そしてこの世界、基本的にはファンタジーRPGである初代と、原点回帰した8作めをベースにした法則に支配されているのだが、それはスノーフィアが選択したタイトルによっていきなり変わる。実際のところ、それで大騒ぎを起こしかけたことも一度や二度ではない。
 まあ、それはとりあえずいい。
 問題は、法則の変わった世界――それぞれのタイトルでかならず隠しキャラとして登場するスノーフィアを、自分は正しく演じられているかどうかだ。
 ――冷静に考えれば、世界の法則を変えてしまわなければ済む話なのだが、スノーフィアというか“私”は気づかない。ファンを拗らせすぎている者の視野は限りなく狭いから。それに、たまには見てみたいじゃないか。いろいろなタイトルにおけるスノーフィアの姿を。

 というわけで。
 各タイトルにおけるスノーフィアの姿を再認識し、今後正しくロールプレイできるよう、整理してみることにした。


 1作めと8作めは魔王退治を巡る冒険譚。こでのスノーフィアは女神の力をその身に顕現させた存在だった。これは“私”にとっていちばん馴染み深い形である。
 長らく幽閉された暗い過去は、思い出せない“私”の過去の影とも妙に引き合うし、それを抱えながらも前向きに生きる姿だって重なっている。異なっているのは、スノーフィアは勇者という存在を支えにしていて、“私”は酒を支えにしているという点くらいなものだ。……うん、同じ同じ。
 だから、特にロールプレイを意識する必要はないだろう。“私”がスノーフィアだ!

 2作めは1作めのアフターストーリーで、1作めの登場キャラが繰り広げる宮廷陰謀劇。主人公は選択肢を選んで各キャラの好感度を上げ、味方を増やしていくのだが、スノーフィア登場フラグは全キャラの好感度が最低値に落ちること。必然、難易度最高のシナリオとなる。
 ここでの彼女は前作のやわらかさをそのままに、しかしどんな困難も平然と受け止め、毅然と立ち向かう強靱さがあった。それは人としての成長を示すものだから、“私”も笑みに意志を込めてロールプレイに励んだ。

 3作めは2作めの数百年後、人と魔が争うシミュレーションRPGだ。
 魔の統べる土地の中、取り残された人々を率いる姫将軍敵立場にあったスノーフィア。ロールプレイ的にも凜々しさを押し立てるべきだろう。ただ、その中には強さを演じる者の弱さがあった。
 それは“私”の勝手な解釈で、ストーリー的にもそれが語られるシーンはないのだが(メーカーに要望は出したが無視された)、“私”は脳内補完であれこれ仕立て上げ、それこそ同人誌が出せるくらいのストーリーを積み上げている。ある意味、もっとも“私”が反映された姿と言える。

 4作めは荒廃した大地から飛び立った宇宙船を舞台に繰り広げられるスペースオペラで、星から星へ渡ってさまざまなクエストや貿易イベントをこなしていく冒険もの。
 職業選択によってさまざまな種族やロボットになれる(いつでも生身に戻れる)謎仕様だったが、“私”はスノーフィアに、外づけ装備でいくらでも強化が可能なガイノイド(女性型アンドロイド)形態をとらせることが多かった。ガイノイド専用ぴちぴちスーツもよかったし。
 ロールプレイとしては、感情を極力抑えた淡々さを心がける。そうすることで、時折見せるはにかみが映えるのだ。

 5作めは学園もの――とひと言ではくくれない多要素が詰め込まれたバラエティ。スノーフィアは最初、画面の端々に見切れるモブだと見せかけ、主人公が困るたびにちょっとしたヒントをくれる。そのフラグを全回収することで、ようやくキャラとして現われるわけだ。
 このロールプレイ、実は難しい。知性がなければそんなふうに立ち回れないから。ただの便利キャラにしないためには、抑えるべきツボを抑えて淑やかさと慎ましさを押し出さなければ。このさじ加減には、“私”も最高に気を遣う点である。

 6作めと7作めは迷作と名高いアレである。無理がありすぎたのだ。ファンタジーSF魔法探偵ものと、世界の果てに封じられた迷宮が舞台の恋愛シミュレーションアドベンチャー(時間制限あり)は。
 バグもないのにパッチが頻発したことでなんとかクリアはできたのだが、スノーフィアのキャラとストーリーの薄さは筆舌に尽くしがたく、“私”は初代のスノーフィアのロールプレイをそのままに妄想し、コントローラーを投げつけそうになる手を鎮めたものだ。
 まあ、8作めが原点回帰せざるをえなかった理由、このあたりから察せられるものがある。


 そんなわけで、さまざまなスノーフィアが在り、“私”はそれを遵守したいと思うわけだが。
 最大の問題は演じ分けたところで――
「引きこもっている私に、それを見せる相手はいないのですよね」
 人と話す機会が極端に少ないスノーフィアである。だからといって神様相手に披露したところで楽しくもないし、誰かに話しかける気力も持ち合わせていない。
「結局、私は“私”ということですか」
 それはそうだ。これまでの話は“私”がスノーフィアをどうロールプレイするかというもので、製作サイドの意図よりも自身の解釈を優先させたものなのだから。
 でも。
 スノーフィアであることを全うしたいと思う。
 そうでなければ、“私”が私になった意味と意義がない。
 スノーフィアは炭酸水にカシスリキュールを注ぎ、喉を潤した。
 次いで、パソコンのモニターにブックマークしておいた製作会社のホームページを表示。1作めから5作めが最新ゲーム機でダウンロード販売されていることを確かめ、うなずく。まずはこれで復習しましょう。
 それから新しいニュースを見て、微笑んだ。
 企画が進行中の9作め、これはVR対応になる予定。
 こちらの世界のゲームにもスノーフィアが登場しているのかは不明だが、VRとくれば360度、自在な角度で彼女を堪能できるはず。
 通販サイトの最速お届けサービスでゲーム機を注文し、スノーフィアはシャワーへ向かう。
 これから、この部屋は戦場になる。いつまで続くとも知れぬ独りぼっちの戦いに備えなければ――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【スノーフィア・スターフィルド(8909) / 女性 / 24歳 / 無職。】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.