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『誰か教えて 零れる感傷 』
メアリ・ロイドka6633

 ベンチに座り、することの当てもなく目の前の噴水を見つめ、流れ落ちるその音を聴いていた。
 この季節の噴水は見ていて余計に寒々しい心地にさせる。商店街といった賑やかな界隈からは外れた通りにある交差点に設置されたこの場所が今は閑散としているのは、つまりそういう理由なのだろう。
 最も、寒々しいのは、来るかも分からない人を待っているという状況ゆえに余計に感じている面もあるかもしれないが──と、メアリ・ロイドは痺れを感じ始めた指先にはぁ、と息を吹き掛けながら思った。
 予想は……いい方向に外れた。誰かの近付く気配に顔を向ければ、待っていた姿がそこにある。約束の5分前。その事自体には意外さは感じなかった。来るなら少し早めに来るだろう。約束の時間になっても現れなかったら……もう来ないだろう。そんな気はしていた。
 表情に不服が現れているのは、呼び出された事についてだろうか。それとも……自分が先に居たことにだろうか?
「来てくれたんですね、高瀬さん」
 僅かに顔と声を柔らかくして、メアリはやって来た人物、高瀬 康太に告げる。
「……来なければ、貴女は自室を調べて押し掛けかねない、と思いましたので」
 康太が応えると、メアリは「かもな」と言って、また少し笑った。
 取り敢えず、立ち話もなんだし座りません? と己の座るベンチを指し示した。康太は、若干警戒するようにして、やがてメアリとは多少距離を置くようにして腰掛けた。
 それで、呼び出した要件は何なのか……と、言いたそうで切り出しかねているという顔がそこにあった。今日がなんという日かは分かるはずだ。そんな日に、異性からの呼び出し。
 ここは意地悪しないで、自分から切り出してやろう、とメアリは手にした袋から取り出したものを差し出す。
 青いリボンで装飾された白い箱。
「これを、渡したくて。……別に、何も企んでませんよ。中身はいたって普通のチョコミルフィーユです」
 手作りなのでそういう意味では保証は出来ませんが。メアリがそう話すのを、康太は聞いているのかいないのか、ただ差し出されたそれを無言で凝視し続けていた。
「……義理チョコ、というやつですか?」
「……そう、言われると、違う。本命」
 ただの友人に渡すものと同じかと言われたら、違う、と言いたくなった。この想いは友情以上──とは、はっきりと言える。
 じゃあ恋愛感情なのか……というと、分からない。恋とか愛とか……親愛とか。その境界線はメアリの中で非常にぼやけている。
「……でも、大好きなのは確か」
「憐れみと混同しているとは?」
「同情なんかではあんな約束受けねーよ」
 ……それを言われると、康太としては、弱い。ただの友人に預けるには酷く重たいものを背負わせたという自覚はある。
「……受け取って、貰えませんか」
 半ば諦めを含めて、メアリは改めて聞いた。強引なのは分かっている。……一方的なのも、慣れている。
 暫くの沈黙を挟んで。
「……待ってください。今僕はここでどうするべきなのかまだ考えてる最中です」
 箱を掲げ続けるメアリに、その圧力に断りを入れるようにそれだけポツリと告げた。
「……考えてる最中って……」
 成程だから手出しも拒絶もまだしないのか。というか時間をかけて考えるのかそれを。
「真面目か」
 思わず呟いた。
「からかうのが目的なら帰りますよ!?」
「あ。いや思わず。これ自体は真剣な気持ちだったんですが、その反応は予想外過ぎて」
「何がそんなにおかしいんです!?」
「おかしいというか……悩んでは、くれるんだな。さっさと断られるかとも思ってた」
「……」
 それもまた。思ったままが口に出ただけの言葉だったが、痛いところを突かれたという風に康太は沈黙した。
 そうして……。
「取り敢えず、ずっとこうやって持ってるのも疲れるので一旦置いてもいいですかこれ」
 メアリがふと気が付いて言うと、康太ははぁ……というため息と共に「どうぞ」と短く告げた。
 二人の間に、ケーキの箱が下ろされる。
 何となく、何らかの猶予がそれで与えられた、感じはした。
「……後悔をしたくない、という点は理解します。僕も……これからは常にそれを意識して生きていくことになるのでしょう」
 ややあって。ポツリと康太が言った。
 そうして。
「……聖輝節でお会いしたあの男性のことは?」
 暫くして躊躇うように彼が聞いてきたのはそのことだった。
 今度は、メアリがしばし沈黙する。我ながら複雑にねじくれたこの感情を、どう説明したものか。
「片想い、です」
 ……ありのままに話すしか、ないだろう。分かってもらおうとしてはいけない。なにせ自分にだって分からないのだ。
 そして、誤魔化してはならない。この人は本当に、残り少ない時間を後悔しないようにと慎重に……こうやって、考えてくれているのだから。
 だから、浮かぶ、そのままを。
 彼が、彼にとって間違いの無い答えを出せる、ように。
「貴方への想いも、それに近くて。だから──あの人への想いが、少し上くらいです」
 ──ああ、しかし、酷い答。
「……随分勝手な話に聞こえます」
「ですよね」
「それが恋愛感情だというなら、僕としてはそれは博愛というより節操がないという感覚です」
「……それも、否定出来ない、な」
「はっきりと二番目、と言われるのは。面白くないばかりではなく、貴方が本命の彼に振られた場合に備えて繋ぎ止めておこう、という話にも思えますね」
「それは…………違う」
 最後の問いには、一度己の心をしっかりと確認してから……それでも、それは、否定したいと思った。……そんな風に彼を軽んじたいわけでは、無い。
 ……信じてもらえるかは、別として。
「まあ、そうですね」
 そうして返ってきた彼の言葉は、存外落ち着いていた。
「……考えるまでもなく、『寂しさを埋めるための存在』として僕を候補に置くのはあまりにも不適切です。……だから、貴女が分からない」
 彼はそういって、深く溜め息をついて俯いた。
「……恋愛感情かどうかというのは、そんな、分からないようなものなのですかね」
「……高瀬さんには、分かる?」
「二つ。考えてみてください。
 一つ。貴女が想うその人が、貴女の気持ちに応えたと仮定したら……僕への気持ちはどうなっていますか。
 一つ。僕が例えば、『残された時間のために、同じ境遇の女性兵士と見合いをしてみようと思います』と言ったら、率直にどういう気分ですか」
 即答は出来ないメアリに、康太はまた、二人の間にあるケーキの箱に視線を落とした。
「僕は、貴女の事を」
 そうして、意を決したように彼が切り出すと、覚悟はしていたつもりでも、手先が強ばるのをメアリは感じた。
「……同性の友人ならば良かったのに、と、そう思っています」
 箱から視線を離さないまま──メアリの方を見れないまま、康太は告げる。
 親しみでは、あるのだろう。振り回されることをよしとは思っていない。だが拒絶はきっと出来ないのだろう、そんな形。
 ……でも、ここまでだ。これ以上にはさせないで欲しい。それこそ後悔になる気しかしない。だから。
「答は……出そうですか? 今、これは一体何で、どういう意味が込められてきますか」
 視線の先はケーキの箱。二人の間にある不安定な何か。受け取れるかどうかは、今、それが何かであるか次第だ。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6633/メアリ・ロイド/女性/20/機導師(アルケミスト)】
【kz0274/高瀬 康太/男性/24/猟撃士(イェーガー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注有難うございます。
……なんか尻切れ蜻蛉で申し訳ありませんが。
しかし、書き連ねるにつけこれはちょっと、聞いただけでポンと答えを返して終わり、にはできないなあと。
そんなわけですみません。一度またそちらに投げ返させていただくべきだと思いました。
あ、すみませんそんなわけで。おまけノベルがまだなのですが先にどうしてもこちらだけ。
もう少々お待ちください。
改めまして、この度はご発注有難うございます。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年02月14日

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