▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『想いが届くと願う 』
ミアka7035)&ka7179)&白藤ka3768

「えへへー、乙女な時期ニャスなぁ♪」
 昼下がりの通りを歩きながら、ミアは楽しそうに顔を綻ばせる。その視線は人々を目まぐるしく追って、ショートパンツについているだけのはずの尻尾は垂直に立ってゆらゆら揺れた。
「皆さんもきっと私たちと同じなんでしょうね」
「そやろなぁ。なんか皆キラキラして見えるわ」
 灯が言えば右を向き、白藤が言えば左を向く。二人とも唇を淡く笑みに彩っていて、まだ出掛けた矢先なのに思い切って誘ってよかったと、ミアは嬉しさで胸が一杯になる。
 バレンタインを目前に控えた街に目立つのは、ミアたちと同様に女性同士で数人固まっている姿だ。何か励まされていたり、蕩けた顔で惚気だろう話をして流されていたり。様々な光景が広がっているが皆白藤が言うように輝き、ミアが言うように乙女で、そして灯の言葉通りに仲良しの友人同士といった風だ。
(若い二人と一緒につけて、見苦しいやろうか?)
 じゃれてくる妹猫の恋バナ攻撃を笑ってあしらいながら、白藤は横髪につけたピンを撫でた。小花が双つ飾られたそれは、先日温泉旅館に行ったときの土産に買ったもので、白藤は瑠璃色でミアは柘榴、灯は翡翠と、色違いを選んだ。
 普段なら自分が年長者になるのは気にならない。むしろ無茶無謀な戦いを好む白藤に負けず劣らず怪我をしがちで、寂しがり屋の癖にまるで自らの死は恐れていないようなミアと、ここぞというときには芯の強さを見せるものの基本大人しく何処か憂いを帯びた雰囲気の灯。二人に世話を焼くのは嫌いではない――というか大好きだから側にいたいし、嬉しいから人目が気になっても揃いの品と仲の良さを見せつけたくなる。
 製菓材料を売る店の中に入れば外の比じゃなく混み合っていて、一旦解散する羽目になった。手作り=本命なのか妙に殺気立っている。三人も本命チョコを作る予定ではあるが、同時に今日は所謂友チョコの交換会も行なう話になっていた。出来てからのお楽しみなので丁度いい。

(そう言えば、彼って苺が大好きなんニャスよネ。お酒も強いニャスし……)
 店内をぶらつくミアの目に留まったのはリキュールが並ぶコーナーだ。ミアは本番用に作るのではなく今日は練習する予定で、そもそも何にするかのイメージも掴めていなかった。思い浮かべるのは三毛と呼ぶときの声、それこそ気まぐれな猫のように向けられる不器用な優しさ。
「……よっしゃ!」
 小瓶を手に、思いついたレシピに合わせた他の材料を探し始める。

 三人が合流したのは店の外に出てからだった。特に問題はなかったが会計に時間を取られて白藤と灯は若干疲れた顔をしているし、ミアの尻尾も地面につきそうになっている。灯が大事そうに袋を抱え持っているのを見て微笑ましく思いながら、白藤は気を取り直した。
「それで、この後は何買いに行くんやっけ?」
「んーと、ラッピングの材料が欲しいニャス」
「そやったなぁ。うちは酒でも買いに行こかな。灯は要るもんない?」
「私は花屋さんに寄りたいです。ラッピングに添える花を買いたくて」
「それなら、花は帰る時に買うといいニャスネ」
 ミアの提案に二人も頷く。交換する頃にはもう陽が落ちているかもしれない。あまり遅くなるようなら泊まるのを勧めてみようかと考えて、ミアは期待に胸を膨らませた。食べながらでも女子バナナもとい恋バナは出来るけれど、他の話題も増える一方だ。
「気合いを入れ直してお買い物の続きも頑張るニャスよー!」
 言って、白藤と灯の腕に抱きつくと、ミアは二人を引っ張るように足を踏み出す。並ぶ三人は同じ形のピンを挿し、違う笑い方をしてこの時を共有する。

「ささ、みあはうすにようこそニャスー♪」
 とある森の中を進むと現れたのは屋根に芝生を使ったホビットハウス――ミアの住処だった。自然派らしい見た目で、実際この環境を好んで居を構えているが中は快適な状態に整えてあるし、諸々の用意も完璧。扉を開き招き入れると、灯がここに来るまでで何度目かの感嘆の息を零した。
「ミアさんのお宅へお邪魔できるなんて、嬉しい」
「そ、そんニャ面白いものなんてないニャスよ?」
「こんな所に住んでるってだけでだいぶ珍しいと思うわ」
 マフラーの位置を正したあと白藤は言って肩を竦める。家は勿論、周辺にある花畑や泉も初めて訪れた時は珍しがったものだ。灯のような純粋な感動ではなく、強いて言葉にするなら、それは納得だった。実家もこんな感じなんだろうと思わせるような。
「こちらも見ても?」
「どーぞどーぞ! 自分のおウチだと思って、ばーんとくつろいじゃっていいニャスよ♪」
「ほんっとミアは元気一杯やねぇ」
 それこそ自宅のようにダイニングに荷物を置いて戻ってきた白藤の手が懐に伸びて、煙草の箱を探る。遠慮がちにミアの自室を覗いた灯は「可愛い部屋ね、貴女らしい」と賞賛の言葉をかけ、かけられたミアは白藤を振り返ってキラキラ輝く眼差しと共にドヤ顔。今度こそ呆れた表情を隠さず、
「灯に褒められてよかったなぁ。ほら、はよやり始めんと陽暮れてまうよ?」
 と気の抜けた声で言って、白藤は体を弄る手を止めて諦めた。ミアは間延びした言い方で、灯は生真面目に返事をして、脱線もそこそこにお菓子作りを始める。

 三人だとさすがに手狭ながら、一人ずつ作っていたらあっという間に夜になる。なので交代して使いつつ、最初雑談を交えていたのが次第に集中し始めて口数が減っていく。

(ニャふふ、二人ともビックリするだろうニャぁ)
 悪戯っぽく笑ってミアが二人の為に作ったのは“美味しい花束”だ。数は作れない分、丹精に花びらを芯に沿って増やした。
 もう一つは本命――大切な友達に作る予定の、店で思いついたハートショコラ。センターには苺リキュールとワインを入れる。黒と赤の二色は彼の髪と瞳を連想させた。
(大切な友達……ともだち……)
 テンパリングして型に流し込んでと時間に追われながら、彼と兄妹が一緒にいる姿を思い浮かべる。入団してからは特に、そんな光景を見る機会は増えた。
(“ともだち”がいつか、“家族”になったりしないかニャぁ)
 彼を好きか嫌いかと訊かれれば好きと即答する。好きか大好きかなら大好き。愛しているかと訊かれたら一拍考えてからそれがどういう意味なのか尋ねるだろう。そして恋愛感情として、と付け足されたならミアは首を振る。ただ彼ら兄妹の温かみに憧れているのだ。――自分の兄はもうこの世にはいないから。口を開けば冷たい言葉ばかり出てきても、ミアは彼が兄を尊敬していることも、妹を心配していることも知っている。互いを想い合う。だからその関係を護りたい。出来るなら一番近いけど輪の外にいる友達じゃなく内側で。
「……あ、危なかったニャス……!」
 思考に呑まれてリキュールを零しそうになった。練習といってもうっかりで失敗するのはよろしくない。ほっと息をつき、ミアは再び作業に集中しだした。

 ミアの声に何事かと顔をあげて、胸を撫で下ろす姿に大丈夫そうと思い直すと灯はチョコ作りに戻った。二人に贈るのはチョコクッキー。さくさくに焼いたクッキーに絞り器を使ってホワイトチョコで簡単に絵を描く。犬、鳥、梟、狐など形は色々作ってあり、それに顔のパーツや模様を足していった。そして、また別にミアと白藤をイメージして作ったものもある。これらに買ってきた花も添えて渡すつもりだ。大切な友人である二人に喜んでもらえたらいいと願いながら、灯は無意識に微笑を浮かべる。
 更に、オレンジリキュールを入れた生チョコレートも作っていく。作るのは一つだけ。
 灯が気になっているのはピンの小花と同じ、翡翠の眼をした軍人の彼。
(あの瞳の色が、いつも何かを秘めているように見えるのはなぜかしら)
 人当たりがよく見えて自分の愉しみを第一に考える。遠くにいると思えば急に喉元に刃を突き付けられる距離まで迫って、灯を言の葉で刺し貫く。名前で呼べるようになっただけで近付けるような簡単な人ではない。それでも決して冷たい人ではない、それだけはよくわかる。
 灯にとって彼は命の恩人だ。遠ざかる背中、傷付いた仲間、対峙した敵と彼との浅からぬ因縁。そして静寂が訪れた後に己の信念に則って発した問いと、切り返された質問の飄々とした語調に釣り合わない重み。本心。気になるのは感謝しているからだと思っていた。でもそれだけじゃないとやっとわかってきたところで。
(――縁を結びたいと願うのは、我儘かしら)
 まるで“桜吹雪”のような彼と。大切にしたい、ゆっくり深めていきたいと、いつか伝えた言葉に偽りはないから。また一歩踏み出す。
 最後に食べてもらえます様にと祈りを込めて白いガーベラを添える。彼になら伝わる。白いガーベラの花言葉は――。

 親友達にはあえてチョコを外した贈り物をすると白藤は決めていた。大輪も悪くないけれど、小振りの花にも可愛らしさはある。
 本命には少し悩んだ後で抹茶とココアに金箔を乗せたチョコトリュフを作った。
「なんや賄賂みたいなチョコになってもうた……」
 二色のチョコトリュフも抹茶と金箔の組み合わせも、珍しいものではないのに。首を傾げながら仕切った箱にグラシンカップを並べ、包装しリボンを巻く。休憩がてら白と黒の紙で作った切り絵――白は鷺草、黒は白藤の胸元にある刺青と同じ意匠の蝶の絵をカードの隅に張り付けた。メッセージは散々考えた末に書くのを諦める。何故こうも臆病になってしまうのか、いや原因には色々心当たりがあるけれど。
 自分の過去の男。彼の昔の婚約者。比重は後者へと傾く。焦りがあるのに踏み込む勇気がなく、かといって簡単に胸の内から消し去ることも出来ない。そうしてぐるぐると同じ所を回っている。ちゃんと渡せるかも、正直あまり自信はなかった。

 橙色が射し込む中、交換会が始まって、グラスが三つ置かれただけのテーブルにまず灯がチョコクッキーを運んでくる。
「お二人をイメージして作りました」
 と白藤には椿の形のクッキーに白椿の花を、ミアには肉球型に青薔薇を添えた贈り物だ。他の形の物も一緒に入れてある。包装を丁寧に剥がした姉妹猫は中を見るなり目を輝かせた。
「これ、食べるの勿体なさすぎひん!?」
「肉球、可愛いニャス!」
「ふふ、喜んでもらえてよかった。食べないほうが勿体ないので、遠慮なく食べて下さい」
 食べるのが大好きなだけにさくっと割り切ったミアに対し、白藤ははぁと息をつき、時計を見て焼き上がった頃だと酒を一杯煽ってから菓子を取りに行った。オーブンを開けた途端に広がるのは林檎の香り。
「チョコは入っとらんけど気持ちは込めたつもり。これやったら指で摘めるから、大口を開けずに上品に食べれるやろ?」
 と、薔薇の花を模したアップルパイを置く。赤く色付く林檎に、パイの焼き色と匂いも食欲をそそる。
「美味しそうです。でも小さいから、幾らでも食べてしまいそう」
「じゅるる……さすがしーちゃんニャス……はっ、先にミアのも持ってくるニャスよ!」
 灯の複雑そうな表情に、白藤は彼女が太り易い体質だと愚痴っていたことを思い出す。食べても胸以外に栄養が回らないミアが羨ましいとも。そんなミアも作った物を持ってくる。
「じゃーん、ミアのはこれニャぁ!」
「え……これ全部、チョコレートですか?」
「ほんまやん……これもよく出来てるわぁ」
 想像通りの反応に得意げなミアのチョコは小さな薔薇を一輪ビターチョコのコーンに挿した花束だった。
「灯ちゃんのは抹茶味の緑薔薇ニャス」
 彼女が気になっている彼の希望になれますようにと願いを込めて。花言葉は“あなたは希望を持ち得る”。灯も知っているのだろう、目を細めて微笑する。
「しーちゃんのはホワイトチョコの白薔薇ニャス。……しーちゃん」
 薔薇を眺めていた白藤がどないしたん、と目で語って見つめ返す。
「彼に渡してみないニャス? 白薔薇」
 にししと笑って。花言葉は“私はあなたにふさわしい”。きっと彼も意味を汲み取り、何か言ってくれるはず。
「あー……考えとくわ」
「結局やらないやつニャスネ?」
「チョコをお渡しするだけでもきっと、喜んで下さいますよ」
 はぐらかす白藤にじとっと視線を向けたが、ミアも無理強いする気はない。彼女が元気に幸せでいてくれるのが一番だから。早速食べながら早くも酒の進む白藤が疑問を口にする。
「二人は、誰にあげるん?」
 おねぇさんとしては本命が誰なのか気になるところだ。
「勿論、ク――ニャ!?」
「それは次の機会にしましょう。……そう、渡し終わった後に報告会でも開いて」
「……せやなぁ。うん、そうしよか」
 聞きたいけど自分は言いたくないのは狡い。白藤がいつになく強めに言う灯に同意すると彼女はミアの口を塞ぐ手を離した。ぷんすか怒るミアに謝る灯は口元を隠して笑う。それでもそれが自然な笑顔なのが分かった。
(うちの知っとる人? 知らん人やろか? 二人がお嫁に行く時は寂しいてうち泣いてまうやもしれんわ……)
 二人が誰かの物になってしまうのが寂しい。でも幸せでいてほしい気持ちも本当。それなら知っている相手のほうが信頼出来るだけいい。
 二人や他の友人と一緒に出掛けた、このひと月余りの出来事さえも話し切れない。あっという間に時間は流れていき――。

「なぁ、ミア……灯」
 お菓子を全部食べ、酒も空になった頃。船を漕いでいた白藤が不意に蕩けた声音で二人の名前を呼ぶ。
「うち今、めっちゃ幸せやもしれん」
 二人と、こないしておれる事、流れる時間を過ごせる事。――思い出の砂を、一粒ずつ増やしていける事が。
 夢心地に語る白藤の顔は酔いに薄く染まっているが、いつも何処か自制心を保つ彼女にしては崩れた、照れが滲む笑みを見せていた。
「私も大好きなお二人と楽しい時間が過ごせて幸せですよ」
「当たり前ニャス。ミアも、しーちゃんと灯ちゃんと沢山話が出来て幸せニャスよ!」
「そっかぁ……二人が幸せやったら、うちはもっともっと幸せやわ」
 二人の言葉に満足したように白藤は言い逃げすると、突っ伏して小さく寝息を立て始めた。白藤に負けず結構な量を呑んだ灯がすっと立ち上がり、ミアも彼女が欲しい物の場所へと案内する。持ってきた毛布を灯は優しく白藤の体にかけた。
「しーちゃん起きそうもないニャスし、灯ちゃんも泊まってくニャスか?」
「ふふっ。それじゃあお言葉に甘えて」
「んニャ、そしたら明日も一杯お話するニャス」
 笑い合って、白藤も交えて勝手に三人で指切りする。
 泊める準備をし始めたミアは帰った直後に自室に飾った花瓶を見る。挿してあるのは花屋で買った青薔薇。花言葉は――。
「ミアの夢……いつか叶うかニャ」
 囁いて夜の窓辺に置いた。そしてカレンダーを一瞥して、二人の待つ部屋へ向かう。
 バレンタイン当日まで、後少し。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka7035/ミア/女性/20/格闘士(マスターアームズ)】
【ka3768/白藤/女性/28/猟撃士(イェーガー)】
【ka7179/灯/女性/23/聖導士(クルセイダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ミアさんが本命チョコをモグモグして、二人が驚くだとか、
悪ふざけに全力で乗っかっていく白藤さんだとか、
灯さんの表情の機微をもっと上手く表現したかっただとか、
色々書きたかったことはあるんですがこれが精一杯でした。
お相手の方々とのやり取りもざっと確認したつもりですが、
PCさんの心情や関係性について間違っている点があったら
申し訳ないです。納品は当日になってしまいましたが、
素敵なバレンタインデーになることを祈ってます。
今回は本当にありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
りや クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年02月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.