▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『甘く優しい唇(1) 』
白鳥・瑞科8402

 広大な空を水晶体の中に閉じ込めたかのような澄んだ青色の瞳が、目的の品を目に止めた瞬間に嬉しそうに細められた。好きな紅茶ブランドの新作の茶葉を購入した白鳥・瑞科は、この紅茶に合うスイーツも購入するために馴染みの店へと足を向ける。
 店に入ってきた瑞科の顔を見た瞬間、まるで待っていたとばかりに顔見知りの店員は頬を緩めた。うっとりと見惚れるような視線がしばし瑞科に向かい注がれたが、今自分が仕事中だという事をハッと思い出した店員は慌てて顔を左右に振り、聖女に向かい何かを差し出してくる。
 フェア中なので試食をしないかと勧めてくる店員から瑞科が受け取ったのは、お洒落な一粒のチョコレートだった。
(そういえば、もうすぐバレンタインデーでしたわね。「教会」の皆さんに贈るチョコを見繕ってみても良いかもしれませんわ)
 瑞科の柔らかな唇が、そっとその菓子へと触れる。口の中に入ったチョコレートは優しく溶け、彼女の舌を楽しませた。見た目も味も、瑞科の好みに合う上質なものだ。聖女は優しげな笑みと共に、お礼の言葉と味の感想を口にする。
(これなら、皆さんも喜んでくださるに違いありませんわね)
 購入したチョコを抱えながら、仲間の喜ぶ顔を思い浮かべ優しき聖女は思わず笑みを深めた。
 ご機嫌な様子の彼女が次に向かうのは、お気に入りのブティックだ。そろそろ店には春物が増える時期である。最近のトレンドを思い返しながら店へと向かう彼女の足取りは、少女のように軽い。普段は街を守るために戦っている瑞科も、休日はショッピングを楽しむ普通の女性なのだ。

 毛先まで手入れの行き届いた長い茶髪を揺らしながら歩く瑞科の姿は、性別年齢を問わず多くの人々の視線をさらう。彼女の日常を切り取るだけでも、一本の美しい映画が作れてしまうに違いなかった。
 ふと、瑞科が常に携帯している通信機に連絡が入った。彼女の上司である神父からの通信だ。慣れた手付きで通信を繋げた瑞科は、せっかくの休暇を邪魔されたというのに嫌な顔一つ浮かべない。常の落ち着いた笑みを崩さずに、聖女は穏やかに応答する。
 通信の内容は、恐らくそうだろうと思っていた瑞科の予想通り、仕事に関する話だった。緊急の任務が出来たので、今すぐに拠点に来てほしいとの事だ。「教会」でトップクラスの実力者である瑞科に緊急の連絡をしてくるという事は、命に関わる危険な任務なのだろう。
 だが、瑞科の顔に怯えの色はない。いつも通りの穏やかな笑みを浮かべている瑞科は、足を翻し拠点に向かい迷う事なく歩き始める。
「ショッピングの続きは、仕事が終わってからですわね」
 誰に聞かせるわけでもなく紡がれたその呟きには、閉店時間までには仕事を終わらせる事が可能だという彼女の絶対的な自信が表れていた。

 ◆

「心が弱った者を狙う魑魅魍魎……許せませんわね」
 ワードローブから戦闘服を取り出しながら、瑞科は先程神父から受けた任務の内容を思い返す。黒の光沢のラバースーツが、彼女の滑らかな肌に寄り添うように首から下の身体を包み込んだ。その上に着る修道服もまた薄い生地で作られており、瑞科のボディラインの美しさを損なわない。
 服だけでなく靴にもこだわりを持つ聖女が戦闘時に履くのは、ロングブーツだ。膝まであるそれは、彼女のすらりと長く伸びた足によく似合っていた。修道服の両脇に入った深いスリットから惜しげもなくさらされている美脚には、ニーソックスが食い込んでいる。
 女性らしい豊満な膨らみとは対照的にスレンダーな腰回りに装備するのは、鉄が仕込まれたコルセットである。彼女の腰をきゅっと絞りそのグラマラスな体型を一層魅力的に見せるだけでなく、戦闘面においても優れている特注品だ。鉄は軽量で薄いが、特殊な素材で出来ており瑞科の細腰を守ってくれる。
 手には、美しい装飾の施されたロンググローブを。爪先まで手入れの行き届いたその手が布地に包まれた瞬間、少しだけ気が引き締まるのを瑞科は感じた。
 忘れてはいけないのが、純白のケープとヴェールだろう。瑞科の美しさに白という穢れなき彩りを添え、人々を魅了する色香を持ちながらもどこか神聖さも感じる彼女の優美さを強調してくれる。戦闘『シスター』である彼女にとって、必須のアイテムと言っても過言ではなかった。
 太腿に括り付けられたベルトにナイフを装備し、剣を持てば全ての準備は完了する。着替えを終えた瑞科の表情は、必ず任務を達成させてみせるという自信と、悪を打ち倒せる事への歓喜に満ちていた。
「与えられた任務通り、敵をせん滅してみせますわ。一体も残しませんわよ」
 悪と戦う事になる危険な任務だというのに、瑞科の他に人影はない。彼女一人の方が、かえって効率が良いのだろう。何故なら、たいていの任務は瑞科一人で済ませてしまえるのだから。「教会」随一の実力者である瑞科と肩を並べる事が出来るものは、世界的な影響力を持つ組織である「教会」の中にすらいないのだ。
 仲間達は彼女の力を信頼しているからこそ、瑞科の邪魔をしないように聖女を戦場へと見送る。そしてその信頼に、今日もまた瑞科は応えるのだろう。任務をこなすという、完璧な形で。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております、ライターのしまだです。このたびはご発注ありがとうございました!
連続ノベルの1話目となっております。しばらくお付き合いいただけましたら幸いです。
引き続き、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.