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『企みの序章 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&真紅の女王・美紅(8929)&紅の姫・緋衣(8931)&黒の姫・シルヴィア(8930)

 古城のサロン。

 黒の貴婦人・アルテミシア(8883)が客人を出迎えた。

「お招き頂き光栄だわ」

 真紅の女王・美紅(8929)が、妖艶に微笑みながら真紅の薔薇をモチーフにした己のドレスを摘み礼をすると、後ろに控えていた2人の女性も続いて頭を下げた。

「あら?新しい姫を迎えたの?」

「お初にお目にかかります、黒の御方。美紅様にお仕えしております、緋衣と申します」

 アルテミシアが興味を示すと紅の姫・緋衣(8931)は自ら名を名乗る。
 幾重にも重なるチュールが彩る赤から白へとグラデーションが彼女の纏うプリンセスラインのドレスによくあっている。
 ウェーブがかった長い金糸の髪も相まって可憐な姫にアルテミシアの目には写った。

「話というのは?」

 出されたワインを楽しみながら美紅が本題を切り出す。

「ええ。先日招待状を贈った2月の宴のことなのだけれど」

 宴とはアルテミシアが、定期的に催している女性だけの社交会のことだ。

「ええ。私達も是非参加させてもらうわ」

 それがどうしたのかと言った口調で微笑む美紅にアルテミシアは苦笑を持って応える。

「連れて行く姫がいないのよ。恥ずかしい話なのだけれどね」

 宴への参加者はお気に入りの姫を伴い、皆で姫達を愛でる。

「主催者に伴う姫がいないのではお話にならないでしょう?」

 そう続けるアルテミシア。

「そういうことなら、私の姫を1人貸してあげるわ」

「そう言ってくれると嬉しいわ。でも、良いのかしら?」

 アルテミシアの視線が黒の姫・シルヴィア(8930)へと投げられる。

「愛しい友人が困っているんだもの。当然よ。ねぇ、シルヴィア」

 戸惑ったような表情を浮かべるシルヴィアと心配そうな表情で主人とシルヴィアを見つめる緋衣。

「……はい。勿論でございます。アルテミシア様、不束者では御座いますが宜しくお願い致します」

 シルヴィアにとって主人の命は絶対。
 それが例え自分の意思と逆行するものであったとしても異議を申し立てるなど彼女にはあり得なかった。

「ありがとう。これで安心して宴を開けるというものだわ」

 安堵したように目を細めるアルテミシアに美紅はどこか含みのある微笑みを浮かべると、シルヴィアに声をかける。

「他のお客様に私が貸したと分かればアルテミシアの外聞が悪くなってしまうかもしれないわ。しっかりと準備しなくては、ね」

「かしこまりました」

 恭しく返事をするシルヴィアだが、その声にはどこか不安げな響きがある。

 そんな様子を見てアルテミシアはクスリと忍び笑う。

「あら、そんな声を出さないで。取って食おうというわけじゃないのよ」

「いえ、そんなことは」

 慌てたようにシルヴィアは頭を振る。

  ***

 美酒を楽しみ終えた頃合いを見てアルテミシアがおもむろに立ち上がる。

「……さて、そろそろ時間ね。行きましょうか、シルヴィア」

「そうね。シルヴィア、次に会う時はアルテミシアの姫として恥じぬ振る舞いを見せるのよ」

 不思議そうな表情を浮かべるシルヴィアだが、美紅の当然だろうと言うような声に女王達の意図にすぐに気がついた。
 準備というのは、一時アルテミシアの元へ行き彼女の姫として相応しい振る舞いを身につけることだったのだ。

「美紅様……」

 別れを惜しむような声を上げるシルヴィアに美紅は微笑み優しく唇が塞ぐ。

「アルテミシアの姫として立派に役目を果たす貴女を楽しみにしているわ」

 もっと、と強請る様な瞳には応えない主人に代わり深く口付けたのは緋衣だった。

「大丈夫ですわ、お姉様。役目を終えれば美紅様にいっぱい愛して頂きましょう」

「ええ。そうね」

 触れ合い、絡み合う指と舌に互いの熱が高まっていくのが見て取れる。
 どうするのを、どうさせるのを好むのか分かっているからこその行為。
 このまま深く愛し合う様な雰囲気すら感じさせる2人を女王達は楽しそうに眺めていた。

  ***

「どうするかは分かっているわね」

 別室、アルテミシアの前にシルヴィアは跪いていた。

 一時の誓いを交わす為の儀式も、紅の女王の為になるのであれば嫌な気持ちはない。

「はい。……わたくし、シルヴィアはアルテミシア様の姫となり……」

「そうじゃないでしょう?」

 頭を垂れ、朗々と紡がれる白の姫の言葉をアルテミシアは止める。
 不思議そうな表情をするシルヴィアを立ち上がらせるとそっと腰を抱く黒の女王。

「物事には順序があるのよ。紅の女王のものでありながら私の姫になることは出来ないでしょう?」

 主人は1人。
 それは姫を持つ女王とその姫達の中では暗黙のそして絶対のルール。

「あ……」

 シルヴィアは少なからず動揺していた。

(一時とはいえ、あの方への忠誠を捨てるなんて……)

 だが、命を違えるわけにはいかない。

(あの方への忠誠は絶対。これは形だけのもの)

「失礼致しました」

 シルヴィアはそっとアルテミシアの腕から抜け出し自分の非を詫びた。

「いいのよ。……まずはドレスを変えるところからね」

 アルテミシアがパチンと指を鳴らすと、彼女の腕の中でシルヴィアのドレスが色をなくす。
 見ればアルテミシアのドレスも色をなくしている。

(婚姻の儀式の様だわ)

 雪の様に純白のドレスはウエディングドレスを想起させる。

「わ、わたくしは……」

 跪き、美紅への愛と忠誠の誓いを捨て、アルテミシアへ心から仕える言葉が震える。

(一時のものよ。大丈夫、美紅様も分かってくださるわ)

 そう自分に言い聞かせ、手の甲へと口付ける。

 満足そうなアルテミシアの微笑み。
 そして、指から美紅の指輪が抜かれ、アルテミシアのものだということを示す指輪がはめられる。
 頭上に輝くティアラも変えられると、本当にアルテミシアのものであるかの様な錯覚を覚えた。

「立ちなさい」

 言葉のままに立ち上がると、吸い込まれる様に深い瞳の金に惹かれてしまう。

(綺麗な瞳……)

「どうかしたの?」

 アルテミシアの揶揄う様な声に恥ずかしくなってシルヴィアがそっと目を伏せると、

「花嫁の契りなのだからちゃんと相手を見なければ駄目よ?美紅はそう教えなかった?」

「……はい。失礼致しました」

 瞳を閉じ、自分の真の主人を想いながら花嫁の契りを口にするシルヴィアにアルテミシアの声が重なる。
 女王の美しいの旋律の美しさに耳をそばだてながら最後の言葉を口にし終えると、そっと腰に手を回され吐息がかかるほどまで顔が近づく。

「わたくしは先程まで他の方の姫だったもの。誓いを捨てたからと言って、新しい主に直ぐに唇を許す様な軽薄な女ではどちらの女王の品位が下がってしまうというものですわ」

 その意味を察してシルヴィアが声を上げると、それもそうね、とアルテミシアの唇が頬へ移動する。

(唇を避けてくださっている。誓いを重んじてくださるのね。……優しい方)

 額や瞼へ降る優しいキスの雨を感じながらシルヴィアはそう思う。

 美紅より先にアルテミシアに出逢っていたら、永遠の姫になっていたかも知れない、そんな事を思いながら優しい唇に、甘い吐息に身を任せ、同じ場所へキスを返す。

「私の姫になったのだから相応しいものを贈らなくてはね」

 そんな言葉と共に指が鳴らされると、純白だったドレスの一部が黒の染まりモノトーンのドレスへと姿を変える。
 漆黒に戻っているアルテミシアのドレスに、そちらの方が美しいなとシルヴィアは思った。

 ドレスから覗く肌同士を重ね、アルテミシアがシルヴィアの首筋や胸元へ唇を触れさせると、小さく甘い声が上がる。

「あら」

 アルテミシアが少し驚いてみせると、恥ずかしそうに目を伏せアルテミシアの胸元へ顔を埋めるシルヴィア。

「感じてくれるのね。嬉しいわ」

 恥ずかしがらなくてもいい、と髪を撫でれば、目を潤ませ瞳を覗き込んでくるシルヴィア。
 その潤みが恥ずかしさだけではないとアルテミシアは知っている。

「素直に感じていいのよ。誰にも分からないわ」

 アルテミシアは火照り始めたシルヴィアの肌にキスの雨を降らせ、肌をより重ねる。

(そんなことない。きっと分かってしまうわ)

 そう心の中で思いながらも、シルヴィアの中に渦巻いた欲望はアルテミシアの言葉を真実だと受け取った様だった。

「……っ」

 小さかった甘い溜息は徐々に大きく多くなっていく。

「アルテ……ミシアさま」

 おずおずと差し出された手は望みの場所へあてがわれ、シルヴィアの欲を刺激していく。
 暗い闇の中、重なり合う2つの影と衣服の衣擦れの音だけがいつまでも響いていた。

  ***

 紅の女王とその姫へと用意された寝室は豪奢だった。
 ボルドーを基調にした広い部屋に気品にあふれた華美すぎない調度品が並ぶ。
 この城の主が、紅の女王に心を砕いているのが緋衣にもよく分かった。

「緋衣」

 美紅が呼びかける声の色に緋衣は何を求められているのか即座に感じ取る。

(あぁ、私だけを愛してくださるのだわ)

 その腕に抱かれ、髪に、耳に、鼻に、頬に、喉に口付けを受ける。

「美紅様……」

 言葉にされなくても何を望まれているのか緋衣には分かった。

 首元へ唇を寄せ、そのまま喉から胸元へ。
 美紅の甘い香りを独占しているという思いがいつもより緋衣を昂らせる。

「いつもより熱心ね。そんなに愛されたかったの」

 クスリと美紅が笑う。

「お嫌でしょうか」

「いいえ」

 伺う様に美紅の瞳を見つめる緋衣の唇に女王は己が唇を重ねる。

 いつもと同じ愛され方。
 それでも、姉姫と分け合う快楽とは違う。
 今は自分だけなのだと思うと一種の優越感がいつもより早く緋衣を高みへと誘う。

「あぁ、美紅様……」

(シルヴィアはどうするのかしら?)

 心酔しきった緋衣の言葉に愛を返しながらも、美紅の心は別室にいる2人の元にあった。
 誓いや契りを重んじる第1の姫がどの様な気持ちでいるのか、そしてこれからどう変わって行くのか、それを考えるだけでゾクゾクとした快感が駆け上がってくる。

(その身をどこまで許すのかしら?いえ、そもそも肌を見せることにすら恥じらいを感じるかもしれないわ。あの子は契りを重んじる子だから)

 アルテミシアに姫がいないなど詭弁である事を美紅は知っている。
 いや、実際、今はいないのかもしれないがアルテミシアの姫のなりたいものなどごまんといる。
 それでも、かの女王はこの紅の女王に姫を貸して欲しいと願ったのには意味があるのだ。
 だが、2人の姫はその意味を知らない。

(さあ、これからどうなるのかしら。楽しみだわ)

 互いの姫を抱きながら女王達は暗い笑みを零した。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 忍び笑いは暗く 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / 暗い想いを抱いて 】

【 8930 / 黒の姫・シルヴィア / 女性 / 22歳(外見) / 戸惑いながら 】

【 8931 / 紅の姫・緋衣 / 女性 / 22歳(外見) / 1人愛されて 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月18日

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