▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『宴はまだ終わらない 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

「綺麗……。さすが師匠、ずっと見てても飽きないよ」
 あれからいったいどれ程の時間が流れたのだろうか。ファルス・ティレイラは、未だオブジェと化した師匠……シリューナ・リュクテイアから目を離せずにいた。
 うっとりとしながら師匠の事だけを見ていたティレイラは、魔法使いが何か呪文を唱えている事にも気付く事はない。それ故に、次の瞬間突然シリューナがオブジェから元の姿に戻った事に驚き悲鳴をあげてしまう。
「なんで戻しちゃったの!?」
 シリューナを覆っていた硬い魔法鎧はすっかり霧散し、元の盾の姿へと戻ってしまっている。思わずティレイラが抗議の声をあげると、魔法使いは肩をすくめてみせた。
「さすがにそろそろ戻さないとね」
 シリューナに解呪の呪文を唱えてやったものの、魔法使いもどこか名残惜しそうな様子だ。
 一方のシリューナは、先程まで驚愕の表情で固まっていたのが嘘のように、いつものように落ち着いている。
「ティレイラ、ちょっと」
 彼女はしばし何かを思案した後、どこか不敵な笑みを浮かべてティレイラの事を手招いた。
「はい……って、わわ!? なんですか?!」
 自由を取り戻したシリューナがまず真っ先にした事。それは、魔法使いへ文句を言う事でもこの場から逃げ出す事でもなく……弟子であるティレイラに向かい何かの粉をかける事であった。
「いいから、私の言う通りにしなさい」
 金色の粉にまみれたティレイラは、渋々「は、はぁい、師匠」と頷く。師匠を助けるどころか、触ったり愛でたりとたっぷり堪能してしまったのだ。ここでごねたら、もっとしんどいお仕置きをされてしまうに違いなかった。
「あの子の傍に行って、触ってみてちょうだい」
「え、それだけですか?」
「そうよ。それをしてくれれば、今回の事は大目に見てあげるわ」
 どんな無理難題を振られるのかと思ったら、想像よりもずっと簡単な事だったのでティレイラはホッと安堵の息を吐く。そして、師に言われた通り魔法使いに触れようと彼女に近づいていった。
「シリューナのオブジェは最高の出来だったわ。今回の事をレポートにまとめて、同じ趣味の別の魔法使いにも教えてあげなきゃ! ふふ、きっと羨ましがるに違いないわ! さて、次はいったいどんな魔法道具を試そうかしら?」
 オブジェだった頃のシリューナの事を思い返し、魔法使いは一人満足げに自己陶酔にふけっている。恍惚とした様子でシリューナを可愛がっていた至福の時間へと思いを馳せていた魔法使いは、すぐ近くまで近づいてきているティレイラに気付く事も出来ない様子だ。
 だから、ティレイラは師匠に促されるまま、存外あっさりと魔法使いへと触れる。……触れてしまう。
「え、何?」
 瞬間、触れた箇所が金色に光ったような気がした。ティレイラと魔法使いが同時に驚きの声を口からこぼす。徐々にその金色は広がっていき、魔法使いを蝕むかのように少しずつ金属の塊へと変えていってしまった。
「何よこれ!? こんなもの、私のコレクションになかったはず……!」
 何が起こったのかも分からないまま、魔法使いの全身は金色の膜で覆い尽くされてしまう。先程まで騒いでいた彼女の声も金の塊の中へと飲まれ、室内には静寂が訪れた。驚きの表情のまま固まってしまった魔法使いに、何も知らないまま相手をオブジェにしてしまったティレイラも驚愕を隠せない様子だ。
「な、何が起こったの……?」
 不思議そうに目を丸くしながら、相手の状況を確かめようとティレイラはもう一度彼女に向かい手を伸ばす。魔法使いが本当に金の塊になってしまった事を証明するかのように、触れた瞬間に甲高い音が辺りに響いた。金属同士がぶつかったかのような、金属音が。――金属同士?
 違和感を覚え、ティレイラはゆっくりと相手に触れた自身の手へと視線を移す。魔法使いを覆っていたものと同じ金色の膜が、そこからは広がってきていた。
「やだ、なんで私まで……!?」
 パニックになり、ティレイラは慌ててそれを払い落とそうとする。しかし、すでにぴったりと寄り添うように肌を覆い始めたそれはどれだけティレイラが暴れようとも剥がれ落ちてはくれなかった。
「嘘でしょ、このままだと私もこの子みたいに……? た、助けて師匠!」
 ティレイラは絶望に瞳を染めながら、自身の師を振り返る。けれど、シリューナは微笑みしか返してはくれない。
 そうしている間にも、ティレイラの身体はどんどん固まっていってしまう。すでに足は完全に金属と化してしまい、その場から動く事が出来なかった。
 足だけではない。一番最初に金になってしまった手はもちろんの事、胴体も、髪の先も、耳も頭も、何もかもが金に覆われていく。唯一自由に動かせるのは瞼くらいなもので、嗚呼でも、もうすぐこの瞳も、きっと――。
 最後に映った景色すらも、無慈悲にも金色に塗り替えられてしまった。とうとうティレイラは、逃れようとがむしゃらに動き回っていたその不格好な姿勢のまま、金色の像と化してしまったのだ。

 しんと静まり返った室内。二体の像を前に、シリューナは笑みを深める。
「魔法の粉のお味はいかがかしら? そちらもとっておきの魔法道具を見せてくれたのだから、こちらもとっておきのを返さないとね」
 人を金に化す魔法の粉。それは、シリューナが同じ趣味を持つ魔法使いに見せるために持ってきていた特別な品だ。副作用として粉を使った者自身も金と化してしまうという噂があったせいで今まで使った事がなかったものなので、魔法使いへの仕返しついでにこの魔法道具の効能も確かめられたのは僥倖だった。
 そっと手を伸ばし、変わり果てた弟子へとシリューナは触れる。柔らかだったはずの肌はいまや無機質で温度を失ってしまっていた。
 その硬質な感触を、シリューナはじっくりと味わい始める。普段も可愛がっていた弟子だが、像になった姿は殊更魅力的に映りシリューナは動かぬ彼女にすっかり惚れ込んでしまっていた。
 同じように物言わぬ金属と化した魔法使いの事も、忘れてはいけない。ポーズはそれぞれ違っていながらも、どちらも慌てふためき驚いている格好だ。驚愕の表情を浮かべた少女の像を、二人分も愛でる事が出来る幸福をシリューナはひっそりと噛みしめる。
「やられっぱなしでは気が収まらないもの。今度は、私の番よ」
 魔法使いの宴は終わらない。否、彼女にとっての宴はここからが始まりだった。
 今度の宴を執り行うのは、この家の主である魔法使いでも竜族の弟子でもなく、魔法薬屋の女。像を前に楽しげに破顔し笑うのは、シリューナ・リュクテイアただ一人。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
魔法使いとシリューナさんとティレイラさんのお話第三弾、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら幸いです。
何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、また機会がありましたらその時は是非よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(パーティ) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.