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『いばらの棘(1) 』
水嶋・琴美8036

 闇夜に、女の着ている赤い衣服が彩りを添えた。木の上にて身を潜め、水嶋・琴美はその時が来るのを待っている。ターゲットがこの場所を通りかかる、その時を。
 虫の声すら聞こえない夜だった。都市から少し離れた郊外の道は、この時間になってしまうと音を忘れ静まり返っている。
 だが、予定ならもう少ししたら来るはずなのだ。敵を待つ女の横顔には、少しの憂いもなかった。なにせ、ターゲットである組織の次の目的を今までの彼らの動向から計算し予測したのは誰よりも信頼出来る相手……他ならぬ、琴美自身なのだから。
 不意に、遠くで何かが光った。規則正しく並んだその光は、徐々に琴美の潜む場所へと近づいてくる。
(きましたわね)
 琴美は期待に胸を膨らませる。その魅惑的な唇が、綺麗な弧を描いた。
 光の正体は車のヘッドライトだ。琴美が待っていた相手、任務のターゲットである組織の者が乗っている車のものであった。
 通信機を繋げ、琴美は通信先にいる仲間へと告げる。
「――目標発見。任務を開始いたしますわ」

 ◆

 琴美が任務を開始する数時間前。
 高層ビルにて、一人の女性が手慣れた仕草で仕事をこなしていた。タイトスカートとスーツを身にまとった彼女の格好は普通のOLだが、その扇情的な体型と類まれなる美貌は良い意味で普通の枠にはおさまっておらず、周囲の人々を魅了する。
 不意に、どこかから通信が入り彼女は一度仕事の手を止めた。爪先まで手入れの行き届いたその手が、慣れた手付きで通信機を操作する。
 通信の向こうの相手と、二、三言葉を交わし終えた後、女の唇からこぼれ落ちたのはその姿には似つかわしくない一言であった。
「ええ、分かりましたわ。新しい、『任務』ですわね」
 任務。その重みのある二文字も、彼女にとっては耳慣れたものなのか女は事もなげに口にしてみせる。その顔には、自信に満ち溢れた笑みまで浮かべているくらいだ。
 ……彼女は、ただのOLではない。普通でないのは、外見に限った話ではなかった。隠れ蓑である商社で普段は働いている彼女こそ、自衛隊に所属しているエージェント、水嶋・琴美その人なのだ。

 ◆

「それで、私の次の相手はどなた?」
 司令室へと辿り着いた琴美は、落ち着いた様子で腰掛けている司令に向かい首を傾げる。司令は、いくつかのデータを琴美へと渡すと今回の任務の内容について話し始めた。
「これがターゲットの資料だ。君にはこの組織のせん滅を頼みたい」
 司令の話に耳を傾けながらも、琴美は司令から手渡された資料へと目を通す。ターゲットになっているのはとある組織だった。その組織が政府や企業に対して行った、いくつかのテロ行為が資料には記されている。
 最近になって急激に頭角を表し始め、これ以上放置出来ないと判断した結果、琴美へと任務がくだる事になったようだ。
 相手は大規模な組織……それもテロを繰り返しているような連中だ。しかし、司令はいつもと変わらぬ声音で呟く。
「君にとっては簡単な任務だろう? エージェント水嶋」、と。
 そして、その言葉に琴美もまた迷う事頷くのであった。
「ええ。今回も完璧な仕事をこなしてみせますわ」
 にこり、と彼女は余裕のある笑顔を浮かべる。頼もしくも美しい笑みを浮かべた琴美の胸は、任務に臨む高揚感で満ちていた。

 ◆

 琴美の手が、ワードローブの扉を開く。任務の前にはいつも開ける事になるこのワードローブにしまわれているのは、とびきり特別な衣服だった。
 彼女のしなやかな手が、ミニのスカートを手に取る。脱ぎ捨てた衣服を代わりにワードローブの中へとしまい直し、琴美はスカートを身にまとった。彼女の細腰をプリーツスカートが覆い、薔薇のような赤色で琴美を一層美しく彩る。
 上半身に着るのはシャツだ。肌触りの良いそれが、琴美の豊満な身体を包み込む。傷一つないまるで芸術品のように先まで美しい指が、締めたばかりのネクタイの位置を調整した。
 スカートと揃いの赤を貴重とした軍服が、彼女の女性らしいなだらかなラインを描く肩の上へと羽織られる。琴美の身体のラインをなぞるように肌へとぴったりとフィットしているこの上着は正装でもあり、琴美用に特別に作られた彼女の戦闘服でもあった。そう、このワードローブの中に入っているのは彼女の戦闘用の衣装。任務の時に琴美が必ず身にまとう、美しいだけではなく機能性にも優れた特注品なのだ。
 スカートから覗く美脚が、光沢のある黒いストッキングにゆっくりと包み込まれていく。膝まであるロングブーツを履き床を何度か靴裏で叩いてその感触を足になじませると、小気味の良い音が室内には響き渡った。
 陶器のように艷やかな太腿にベルトをつけ、そこに鋭いナイフを携えておくのも忘れてはいけない。仕上げに、細身の剣を装備すれば全ての準備は完了する。
「……完璧ですわ」
 鏡に映った自身の姿を確認し、琴美は満足げに一度頷いた。戦闘服姿の琴美は先程までのスーツ姿とはまた違った色気と魅力があり、このまま街を歩けば道行く人の視線をさらってしまうに違いなかった。
 しかし、これから琴美が向かうのは街ではない。ターゲットが次の目的地へと向かう途中の郊外であり、琴美が彼らをせん滅するために戦う場……戦場だ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8036/水嶋・琴美/女/19/自衛隊 特務統合機動課】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます! ライターのしまだです。
今回の琴美さんの相手は大規模な組織との事で、映画のような情景が頭に浮かびドキドキしながら執筆させていただきました。お客様のお気に召すお話になっていましたら幸いです。
次回からは戦闘シーンとなります。引き続き、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月22日

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