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『『静かな心』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 次元の狭間から、アレスディア・ヴォルフリートは東京の自室へと帰ってきた。
 最後にあの男は――アレスディアの故郷を滅ぼし彼女の大切な人たち全ての命を奪ったあの男は、アレスディアを道連れにしようとした。
 それを許さず、彼女を奪い取るかのように強く引き寄せて、この世界に、東京に連れ戻したのは、アレスディアが全てを失った後で出来た大切な人――ディラ・ビラジスだった。

 真夜中。
 寝返りを打ったアレスディアは、痛みで目を覚ました。
 豆電球が仄かに部屋を照らしている。その小さな明かりに安らぎを覚える。
 何故だろうか、心が落ち着いている。あんなことが、あったばかりなのに。
(あの男は自らの愉しみのためだけに人々を苦しめる、憎い仇だった)
 瞼の裏に、あの男の姿は未だ残っている。
(その仇を討った。なのに心は驚くほど平坦で、何の感慨も抱かない)
 だけれど心が、何故か昂らない。
 何度もアレスディアの盾に攻撃を加えたあの男は、その力の反射を受けて滅んだ。
 最後の姿も、鮮明に残っているというのに、アレスディアの心はざわめくことがなかった。
 あの男はアレスディアの故郷を滅ぼした時と、何も変わっていなかった。
 故郷の人たちを殺した相手を、倒した。憎い仇を討った。
(……もっと胸に何かが満ちるものかと思っていた)
 もしくは、仇を討った後、ぽっかり胸に穴が開いたようになってしまうのではないかとも、思っていた。
 そのどちらでもなく、アレスディアの心には変化がない。
 激しい憎悪に、身を焦がした日々。
 聖職者に説得され、命の使い道を――誰かを護るために使い果たす。そう決めてからは、胸の奥底に閉じ込めていた炎。
 しかしその炎は、閉じ込めていただけで、消えることはなくずっと燻り続けていた。
 あの男の顔を何年かぶりに見た直後、アレスディアの中で増悪の炎は激しく燃え上がった。だが、その後の男の言葉で消え失せた。故郷の人々を、大切な人々を死に導いたのは、アレスディアだという男の言葉を、アレスディアは否定できなかった。
 憎悪だけではない、自信も、信念も打ち砕かれてしまった。
 だけれど、胸の中に残っているものがあった。
 ディラ、という存在。
 護るべき、全ての大切な人を失った後でできた、アレスディアの今、特別に大切な人。
 あの男は、アレスディアを苦しめるために、ディラを傷つけた。
 その時、アレスディアの胸の中に現れた炎は、男への憎悪の炎ではない。彼を傷つけられることへの怒りの炎。そして、彼を護りたいという思いが胸に溢れていた。
「……そうか」
 アレスディアは、深く息を吐いた。
「私は、仇を討ったのではない。ディラを護ったのだ」
 傷つけられる彼の前に立ち、盾としてアレスディアはあの男の攻撃を受けた。
 そして結果的にあの男を倒すに至った。
 ディラと共にこの街に、東京に帰りつけた。その喜びは確かにあるのだが。
 あの男への気持ちは今は何も無い。憎悪であれ、なんであれ、もう何一つ、彼女の胸の中に残ってはいなかった。

(私の中であの男の存在は本当に、終わったんだ)

 燻り続けていた炎が無くなっていた。
 存在し続けていた炎が在った場所に何もないわけでもなく。
 別の存在への想いが在る。
 そして、あの男はもう、アレスディアの中にはいない。思いは何一つ残ってはいない。

 全身に負った怪我による発熱と痛みで、魘されることもあった。
 だけれど、あの男がアレスディアの夢に出てきて、彼女を苦しめることさえ、もうなかった。
 目を閉じて、アレスディアは再び夢の世界へと旅立つ。
 故郷がある世界にも、次元の狭間にも、ここ東京にも。
 そして彼女の内にある、夢の世界にでさえ、あの男はもう存在しない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
いつかこのことを、故郷に報告に行くアレスディアさんの姿が思い浮かびました。
隣に居るディラの姿も。
ご依頼、ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月22日

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