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『世界の終わりに美味しい餃子を 』
秋原 仁希aa2835)&厳冬aa2702hero001

 二〇一九年冬、まだ「世界が滅ぶかもしれない」と人々が戦々恐々していた頃の話だ。

「ギョーザ〜ギョーザー〜〜っ♪」
 厳冬(aa2702hero001)はルンルンと、ガスマスクの下で朗らかに笑んでいた。
「スーパーやっててよかったね」
 隣に並ぶのは秋原 仁希(aa2835)だ。こんなご時世、下手をすれば店が閉まっていてもおかしくないだろうに。暴動やらそういうのが起きず、町の空気が殺伐としていないのは何よりだ。まあ、その為にH.O.P.E.の皆が頑張っているのだが。
 さて、厳冬と仁希の手には業務用スーパーの買い物袋。何が入っているのかというと、厳冬が「ギョーザ」と言っていたように、餃子の材料達である。

 仁希と厳冬は誓約を結んだパートナーでこそないけれど、親友だ。その名もギョーザメイト。いつも休みの日は――オフの日が合わないなりにも――二人で餃子の食べ歩きをしているのである。
 そういうわけで、愚神の王だなんだかんだとあるけれど、今日も二人は餃子を食べる約束をした。
「今日はどんな餃子を食べたい?」
 仁希の問いに、厳冬は深い深い熟考を要した。
 出した結論は――「今日は家庭の味キブンッ!」

 という経緯で、今日は仁希の家で一緒に餃子を作ろう、ということになったのであった。二人が餃子の材料をいっぱい持っているのは、ちょうど買い出しの帰りだからである。
「今日も冬場れでいい天気だね」
「ギョーザ日和だな!」
「うん確かに」
 寒くて乾いた冬風に、鼻をズビとすすりつつ。仁希は厳冬とそんなやりとりをしながら、温かい我が家の扉を開けた。

 さあ、ヒーターの下でぬくぬくだらだらしたい気持ちをねじ伏せて、気分を盛り上げるためにエプロンも着たら、早速調理開始だ。

 家庭の味と言ったけれど、皮から手作りとなるとそれだけ時間がかかってしまう。そして厳冬は既に空腹気味で早く食べたい状態。ゆえに今回の餃子は、皮は市販品だ。こじつけてしまえば「主婦の皆さんだってパパッと作るとなると市販品の皮を使うだろうし、市販品の皮は実質家庭の味」ということで。それに市販品だって企業努力の結晶なのでおいしいし!
「ハァ……皮の時点でもうウマそう」
「食べないでねー包むやつなくなるとメニューが餃子からハンバーグになりまーす」
「ハンバーグになンのは困るな! 今日はギョーザ! ギョーザだから!」
 ビニールから「業務用」と書かれた餃子の皮詰め合わせを取り出しつつ言う厳冬、調理の為の包丁を取り出しながら答える仁希。

 まずは餃子のタネ作りからだ。

 ニラ、キャベツ、長ネギ、ニンニク、ショウガ。これを今からみじん切り。とにもかくにもみじん切り。なおニンニクについては、仁希の英雄からの要望により控えめである。
「んんん……ネギ切ると目に染みる」
「俺様、マスクしてるから無敵!」
「じゃあネギ任せていい? 目がつらい」
「おうよ! ナイフさばきは得意だぜ!」
 というわけでネギを切るのは厳冬の役目になった。道すがらで試食担当とのたまっていたが、お手伝いはちゃんとやるできる英雄なのである。なにより仁希の言うことを成せば自分に利があるし、何よりもおもしろそうだからである。
 さてド広いわけではないキッチンに大男の厳冬が来ると、わりとギュウギュウ詰めになる。日本の家は当たり前だが日本人サイズなので、二メートル超えの厳冬は背を丸めないと窮屈だ。上部の棚を開けっぱなしにしてると頭ぶつけるし。

 トントントントントントン……包丁が具材を切っていく平和な音が響く。

 なにせ作るのはおよそ八人前強だ。実際に食べるのは仁希と厳冬、その相棒達なのだが、まあ大食いがいるわけでして。余ったら冷凍すればいいしね。
「目がしみる〜!」
「マスクしてるのに?」
「マスクしてるのに!」
「隙間あるんじゃない?」
「そうかもしれねェ……」
 そんなやりとりと包丁の音の裏側では、何やらドッタンバッタンわーわーぎゃーぎゃーガキーンガキーンと賑やかな音が。これは二人の相棒が、友情交流という名の激しい戦闘を遠くの方で行っているからである。仁希と厳冬には慣れ親しんだ生活環境音なので、二人が動じることはない。イメージ的には点けっぱなしのテレビから流れてくる音声みたいな雰囲気である。

 そうこうしていれば、具材のみじん切りが終わった。二人でやればそれなりにあっという間だ。
「厳冬厳冬」
 包丁を置いた仁希が手招きをする。どした? と彼が上体を屈めると、その鼻先にスッと差し出される仁希の手。
「ウワ! ニンニク臭いッ!!!」
「やっぱりそのマスク隙間あるんじゃない?」
「この、仕返し!!」
 ワーワーしながらもお返しと厳冬が仁希の鼻先に手を差し出した。
「ニンニクくさッ!」
 これには仁希も顔をくしゃくしゃにして背ける。ゲラゲラ笑う厳冬。
「厳冬、ちょっと、スマホで“手のニンニク臭 消す 方法”で調べてよ」
「エー、スマホが臭くならねェ?」
「しょうがないな……」
 手を洗ってから仁希が検索すると、どうやら「ステンレスでこする」といいらしい。
「エ〜……コレ、マジでェ?」
 スマホの画面を覗き込む厳冬は半信半疑だ。他には歯磨き粉で洗えだの、ツメの隙間まで洗えだの、無駄にフリー画像と広告を挟みまくってページ数を稼いでからの「よくわかりませんでした! いかがでしたか?」だの……。
「まあ、今からまたタネ触るんだけどね」
 スマホをオフにする仁希。

 さて、餃子調理の再開だ。
 先程みじん切りにした野菜達を、豚ひき肉と、調味料とをボウルに合わせて、粘り気が出るまで混ぜる。混ぜる。こねる。こねる。ボウルを二つに分けて厳冬も手伝っている。
「ひ〜……肉が冷たい! 指がキンキンになるッ!」
「まあ、さっきまでスーパーの冷蔵庫にあったわけだし……」
「この季節のギョーザ職人は大変なンだなー……」
「ハンバーグ作りも大変そう」
「じゃあハンバーグ職人も大変なのか……」
「それから主婦の皆さんもね」
「母は強し……ってやつだな!」
「うんうん」
「あ! これ肉をチンしちゃえばあったかいンじゃね!?」
「いや、チンしたら肉が固まっちゃうでしょ、熱が通っちゃうというか」
「あ! 確かにッ!」
「冷たくても耐えなくちゃ……」
「そうだなッ……!」

 そうこうすれば混ぜ終わり。
 次は餃子作りの華、タネを皮に包んでいく作業だ。皮のフチに水を塗り、端から指先でつまんで、ヒダを作りながら閉じていく。
 仁希は器用にてんてんと包んでいくが、厳冬はどうにも欲張ってタネを入れすぎる傾向にある為、包み切れないことがあったり……それも数度の間に改善されて、徐々に上手くなっていくが。
「あ――そういえば」
 包む作業の手は留めずに仁希が言う。
「焼き餃子以外も作るよね? 水餃子とか」
「水ギョーザ! あのツルンとした喉越しがオモシレェよな!」
「おっけー」
 その傍らでは、大きめの鍋によって白米が炊かれている。炊飯器を使わない方が厳冬が喜ぶからだ。
「炊飯器で炊けンのは分かンだよ、そういう機械だからな! 鍋で炊けンのは何でか分かんねェからオモシレェな!!」
 厳冬のテンションは高く、大分と手慣れてきた手付きで餃子を包んでいく。

「……できたッ!」

 全ての餃子を包み終えたのはしばらくしてからだ。最後の一個を包み終えた厳冬がバンザイをしている。
 達成感が大きいが、これはスタートラインである。後は文字通り、煮るなり焼くなり。

 ホットプレートで一気に焼いて行く餃子、蓋の下でジュウウウと聞こえる音。厳冬はホットプレートの傍らで、じっと焼けていく餃子を正座で見守っている。
 一方で仁希は水餃子――鶏ガラスープの素を、調味料でちょっと整えたものに入れた――の様子を見つつ、市販の中華スープの素を使って、溶き卵をやや少なめに流し込んだ卵スープを手早く仕上げる。
 それから、余った皮については、プロセスチーズを刻んで乗せて、黒コショウをかけて、カラッと軽く揚げて、口休めの一品に。
 さてここまでこだわった仁希であるが、実を言うと餃子愛は厳冬ほどではない。一方でこだわりはあるし、こうやって厳冬と気ままにワイワイするのは一番心地いい。
 一方の厳冬も、ちょうどいい距離感の仁希が大好きだ。双方遠慮なく楽しく餃子を食べられるし、元の世界では仁希のような存在はいなかったし。

「そろそろいいかな!?」

 ソワソワと厳冬が仁希へと向いた。ウン、とお皿とお箸を出していた仁希が頷く。
「じゃ、用意しておくから、皆のこと呼んできて」
「オッケー任せろ! マッハで行ってくるわ!!」
 言い終わりには厳冬は勢い良く立ち上がると、文字通りのダッシュで相棒達を呼びに行った。
(あーあー玄関のドア開けっぱなし……)
 なんて仁希は思いつつも。ぐう、とお腹が鳴ったので……誰もいないし、水餃子をパクッと一口だけ、つまみ食いするのであった。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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秋原 仁希(aa2835)/男/21歳/防御適性
厳冬(aa2702hero001)/男/30歳/バトルメディック
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2019年02月22日

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