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『 』
ヤン・シーズィaa3137hero001)&ファリンaa3137
一陽来復


●その日
 家を出る時はまだ空が澄んでいて、冬の弱い日差しもいつもより暖かく感じた。だから、彼女はコートを羽織ってそのまま出かけたのだ。
 ファリン(aa3137)はつくばのショッピングセンターの中をあちこちと散策していた。
 可愛らしいディスプレイのお店を眺め、カフェで軽く昼食を済ませた後は、ずらりと並んだお菓子を見比べた。それから、興味深げに珍しい本の並ぶ棚の間を潜り抜けた。スイーツに珈琲豆などもチェックして、さてそろそろかと外に出ると……ポツリ、鼻先に冷たい雫が落ちて来た。
「あら……雨ですの?」
 その言葉が終わらないうちに、見上げたファリンの頬にも翳した手のひらにも次から次へとポツポツと大きめの雨粒が落ちる。
「お兄様は、大丈夫かしら」
 ファリンが兄と慕う英雄、ヤン・シーズィ(aa3137hero001)は市内の大学に通う学生だ。今日は彼と夕食でもとろうと約束をしたので、決めた時間までぶらついていたのだが。
「……」
 恐らく、自分がそうであったように彼も傘を持っていない。
 この大学はなにぶん敷地が広い。傘が無ければ、移動する際にどうしても濡れてしまうだろう。構内の売店には様々なものが揃っていると聞くが、──彼の居場所は解ることだし。
 出たばかりのショッピングモールを振り返って、彼女はしばし考えた。




「あら、懐かしいわね」
 A.Sの部室の片隅、ヤンが広げている教科書を覗き込んだこころが声をあげた。
「高校の教科書? よく持ってたわね」
「ああ、先輩たちに貰ったんだ」
 リンカー枠で入学したヤンはこの国の基礎学力が無いことを気にして勉強をしたがっていた。それを知ったA.S.の仲間たちが自分たちの使っていた教科書等を彼に譲ったのだ。
「勉強の仕方が出来ているからかな、進みは早いぞ」
 隣に座って勉強を見ていたアーサーが感心したように言う。詰まってしまったところだけ口を出すつもりだったが、そんな場所はほとんどない。
「あと少し頑張れば、センター試験も受かりそうですよ」
 部員の一人が我が事のように胸を張った。
「そうだといいが」
 ノートから顔を上げるヤンもどことなく嬉しそうだ。
 独りでの思索を好む彼が賑やかなこの部室で勉強しているのは、ここに居る学生たちに好意を持っているからだ。
 ──学問を実践して楽しむ姿勢が、とても好ましい。
 女仙を養母に持ち、悠久の時を見守ったリライヴァーである彼はこの場にいる誰よりも年上だが、ヤンは好意と敬意を持ってこの場での『後輩』であるという立場をとって礼を尽くしていた。
「それは?」
 こころが抱えた包みに気付くヤン。
「聞くな、あの袋はどうせリーフだ。長々とヒーロー談義を聞かせられるぞ」
 きゃんきゃんと喧嘩を始める二人に、ヤンは不思議そうに尋ねた。
「そう言えば、二人ともヒーローが好きだと言うが、聞いていると少し違うのだろうか?」
 待ってました、とばかりに身を乗り出すふたり。
「わたしはアメコミが好きだわ。部室もね、好きなケアロボットが出てくる大学の研究室を真似てみたの」
「そんな派手じゃないとは言え、ミーハーだよな……」
「アストロなヒーロー部がイメージのC.E.R.に言われたくないわね」
 頭上に疑問符を並べるヤンへ、他の部員が穏やかに説明する。
「あの二人はそれぞれ、海外のヒーローモノ、日本のヒーローモノが好きなのよね」
「ヒーロー……」
 ヒーローの定義はヤンにもよくわかる。
 彼がH.O.P.E.で目にした、または書物で学んだ中でもそう讃えられる人物は沢山いた。
「そうね、どちらかと言うと、フィクションのヒーローかな?」
 ヤンが思い浮かべたものに気付いたのか、部員がそう付け加えると、こころがこちらを振り向く。
「フィクションかもしれないけど、あれは理想でもあって、また理想を歩むために立ち塞がる苦難を予め提示してくれる物(バイブル)でもあるわ!」
 理想を志すヒーロー? ヤンの心に引っかかるものがあった。
「……週末のヒーローが気になったら、C.E.R.にも遊びに来てくれ。歓迎する」
「映画観賞会? ちょっと待って、だったら先に観るべきはこっちじゃない!?」
 結局、また二人は再び何事か言い争い始めたが、ヤンは穏やかな様子でそれを見守った。だいぶ慣れたと言える。
 他の部員がこそっと二人が好きなヒーロージャンルについて更に詳しく教えてくれたが、ヤンにとってその違いを理解するのはまだ少し難しかった。
「なるほど。だが、どちらもヒーローなんだろう? ……すぐに見分けるのは、まだ難しいな」
「そうね。どちらもヒーローではあるわ。わたしも、別にあっちのヒーローが嫌いなわけじゃないし。他のヒーローや概念を否定するつもりはないの。
 それに、ヒーローと言ったら、あなたたちリライヴァーも英雄(ヒーロー)と呼ばれているわね。戦う力を与えて共に戦う……そう、わたしにとってあなたたちもヒーローだわ」
 視界の隅で、話と全く関係ないクレイが無性にソワソワしていたが、それに突っ込む気にもなれず、ヤンは黙って考え込んだ。
 英雄……なぜそう呼ばれるのか、そして何故この世界へ自分が現れたのか、おぼろげな記憶しか持たないヤンにはいまひとつ実感は無かったが、その代わり、脳裏にひとりの少女の姿が過った。



●君が守った景色
「お忙しいところ、失礼いたします」
 聞きなれた声に気付いて振り向くと、部員に案内されてファリンがやってくるのが見えた。
「お兄様、雨が酷いようなのでお迎えに参りましたわ」
「気付かなかった。すまない。──そうだ。いい頃合いだし、お茶にしないか」
 教科書を片付けて、ヤンが席を立ちあがる。
「バームクーヘンとマカロン、どっちが好き? まあいいわ、どっちもね!
 いそいそとロッカーへ向かうこころと、いつの間にか袋を背面から開いたスナック菓子をテーブルに広げるアーサーたち。
「ヤンのお茶にそれは合わなくない!? ファイブオクロックにスナック菓子っていいの!?」
「いいの」
「こころさん! ヤン、俺も何か買って──」
 財布を掴んだクレイを止めて、ヤンは自分の鞄を手繰り寄せた。
「俺もおはぎと羊羹を持ってきているから、気にしないで欲しい」
「まあ。わたくしも、少しですけれど」
 ファリンもまたロゴの入ったシックな紙袋を前に出して、中身をテーブルに並べた。
 それから、それぞれが隠し持っていたおやつをあれもこれもと並べ出すと散らかった実験用のテーブルは一気に華やぎ、それなりに多い人数に充分行きわたるほどのちょっとしたデザートテーブルへ生まれ変わった。
「まあ、お兄様はいつもこんなお茶の時間を?」
 ファリンが目を丸くすると、アーサーが目を細める。
「今日は美人が遊びに来てくれたから特別ですよ」
「もちろん、ファリンが来てくれたのも嬉しいし、ヤンの人望もあってよ」
 アーサーを小突いてこころが微笑む。
「随分大きなせんべいだな。……これは……これは納豆味?」
「お茶のお礼よ、こっちのはレンコン味、どうぞ」
「ヤン、うちの実家からのジンギスカン味だ。美味いから食え」
「たこ焼き味だけど大丈夫、大丈夫!」
 回ってくるお菓子を受け取ったりやんわりと流したりするヤンは、とても楽し気に見えた。その姿に思わず目を奪われていたファリン。視線に気付いた彼が振り返った。
「これが、俺の学友たちだ。中々興味深いだろう」
「まあ」
 あまり普段では見られないヤンの姿に、ファリンは驚き、喜びを感じていた。
 だが、同時に。
 ──どうしたのでしょう……。少しもやもやとするものが胸の奥に広がるような……。
 寂しいような、ぽつんと置いて行かれたような……うまく説明ができない予想外の気持ちが生まれて、そんな自分に戸惑っていた。
 少しだけ困り顔にも見える複雑な笑顔で頷くファリンへ、ヤンはゆっくりと言葉を続けた。
「この光景は、君が今まで頑張って来たからこそ、ここにあるのだ」
 たった一言。その彼の言葉が温かな光となって胸に渦巻く霧を晴らした。
「お兄様……」
 小さく頷くヤン。
 彼は、決戦を前に戦意が鈍りがちなファリンに、守りたい、帰ってきたい『日常』というものを見て欲しいと思っていた。
 そして、今、この機会に、彼は彼女が守って来たものを言葉以上に示すことが出来たと確信した。
 なぜなら、恥じらうことなく告げたヤンへ、ファリンが少し頬を赤らめて嬉しそうに笑ったから。


 お茶を飲んでしばらく話して、時間に気付いたふたりは部室を後にすることにした。
 楽しい時間はあっという間だ。
 外に出ると雨足はだいぶ弱まってはいたが、バス停までの距離を考えるとやはり傘は必須だった。
「どうぞ」
 ファリンが傘立てから真新しい二本を取る。
「ありがとう」
 差し出された一本を見てヤンの口元が思わず綻ぶと、彼女もまたにっこりと笑った。
「新作でしたの」
 二回の傘を開く音、雨にけぶる灰色の校内を少し可愛らしい色違いの傘が仲良く揺れていた。



●玄に
 一日の楽しい気持ちを思い返しながら、ファリンは個室のドアを閉めた。
 部屋の中で考え込むように少し足を止めて、それから窓に映る自分を見た。
 そこには桃色の瞳の少女が映る。
 今日、自分に向けられたたくさんの笑顔と、ヤンのかけてくれた言葉が思い起こされる。
 ヤンが気弱になっている自分を励ましてくれたのだと、彼女は気付いていた。
 ──少しでも多くの命を救うため、共鳴した自分たちは喪服を纏い、手を血に染めてきた。
 なのに。
 その覚悟は手折られた。
 心の傷は未だに癒えきらず、ゆえに他人をどこか信じることができないでいる。
 それでも……、そんな彼女が今も戦場に立ち続けることができているのは、ひとえに自分に恥じぬためだ。
 誰かのためではなく──、己が誇れる生き方を、自分が、自分を、ただ好きでいられるように、と。
 そして、彼女が心折れずにそう考えることができるようになったのは──。
「……お兄様のお陰ですわね」
 ファリンという一個の人間を、安易に否定し諫めずに、かといって盲目的に肯定するでもなく、ただただ「好ましい」と見守り続けてくれたかの英雄、ヤン・シーズィの存在があってこそ。
 ヤンの存在のお陰で、ファリンは彼女の苦しみを経てもなお自恃の心を持つことができたのだ。
 硝子の中では、曇らぬ凛とした眼差しが怯むことなく輝いていた。



 次の戦場で、ヤンと共鳴したファリンの姿は今までの白い喪服姿ではなかった。
 銀髪の女仙が新たに纏ったのは極薄の玄。
 それは、万物の始原であり、無欲で純粋な者だけが見える真実の象徴であった。
 漆黒の一歩前、彼らにとってはすべての色を重ね合わせて出来た不可解なる色であった。
 人の感覚を超えて、あらゆる思考を絶した計り知れない根源の色であった。
 玄。
 ──まだその境地には至らずとも、いつかそこに届くと信じて。
 ファリンたちは志を纏い、戦場を彩る。
 続く、大戦に向けて。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3137/ファリン/女性/18歳(外見年齢)/回避適性/ワイルドブラッド】
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ご依頼ありがとうございました。
おふたりにとって、楽しく守るべき日常の一幕となりましたでしょうか。
何か問題がありましたら、窓口を通してになりますがご連絡お願い致します。
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2019年02月25日

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