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『Making 』
海原・みなも1252

 みなもは久しぶりの場所へと足を運んでいた。一般人には知られざるネットカフェだ。
 ブラックボードから変化のない看板。だがしかし、装飾は店長自ら季節ごとに変化させているらしく、以前のものとは違っていた。
 それらを見て、小さな笑みを浮かべつつ、みなもはいつものように自動ドアの前に立った。
「――いらっしゃい、みなもちゃん!」
 まるで、みなもの来訪を解っていたかのような出迎えだった。
 開いたドアの向こうには、このカフェの店長である精悍な男が立っていたのだ。
「お久しぶりです」
「ふふ、今日はアタシの勘が冴えたわね〜! みなもちゃんが来てくれるような気がしてたのよ!」
「そうだったんですか……」
 男の口調は相変わらずのオネエであった。
 精悍でありながらも、彼(彼女)はれっきとした『女性』なのである。
「さぁ、入って頂戴。ここに来るからには、ゲームしに来たんでしょう? それとも、ダイブしてミッションに挑む?」
「今日は……キャラクター作成をしたくて」
「あら、そうだったの! 前はゲストログインだったものね。もちろん歓迎よ〜。ほら、ここ座ってね」
 みなもは男に促されるまま、店内に入り、そして一つのパソコンの前に座った。
 ふと視界の端を見れば、見慣れない人影もちらほらとあったが、もしかすると能力者なのかもしれないとも思いつつ、モニターを見る。
「今日はね、一般サーバーで集会があるのよ。アンタも慣れたら、行ってみるといいわ」
「……はい」
「ええと、キャラクター作成ね。みなもちゃんはダイブの経験もあるし、ダイブサーバーでの作成にしておきましょうか。ここからは娘の出番よ」
 店長は手際よくキーボードを叩いて事を進めてくれた。ゲーム画面には【dive】という文字が表示されている。そして差し出されるのは、専用のプラグだ。
「他のお客もいるし、直接降りて自分だけのキャラ作っていらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
 みなもは、そのプラグを自然と受け取り、こめかみに当てた。
 時間にしては、ほんの数秒のことだ。
 一瞬だけ意識が途切れるかのような感覚のあと、『降りた』と感じることが出来る。
「――ようこそ、ユビキタスへ」
 声が聞こえた。
 みなもにも馴染んた声であった。
「ミカゲさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、みなも様。またお会いできて嬉しいです」
 水面の前に現れたのは、小さな少女だった。ユビキタスの監視者の一人である、ミカゲだ。
 彼女はスカートの端を指で摘み、丁寧にお辞儀をしつつそう言った。表情の変化はあまり見られないが、みなもが来てくれたことが嬉しかったようだ。
「本日はこちらでキャラクター作成、とのことでしたね。立ち会えて、本当に嬉しいです。素敵なユニットにしましょうね」
「あ、あの、あたし、まだこちらの事はほんの少ししか分からないので、そういったカバーをミカゲさんがしてくれたら有り難いです」
「……肩の力を、抜いてください。今日は作成作業ですから、リラックスして進めていきましょう」
「は、はい」
 ミカゲが小さな声でみなもを落ち着かせた。
 初めてのキャラクター作成ということもあり、自然と力が籠もってしまったようだ。
 その場で深呼吸してみせるみなもを見てから、ミカゲは僅かにその口に笑みを浮かべて、立体ホログラムを手のひらに立ち上げる。
 そしてつい、とそれをみなもの前に放ち、画面を拡大してみせた。
「それでは早速、始めましょう。こちらではみなも様ご自身がこうして動けますので、保険のためのユニットと考えていただくと良いかもしれません」
「……危険な依頼もあるんですか?」
「そうですね。ですが、なるべく発令させないようにしています」
「そうなんですね……うん、でも、もう少しここに慣れたら、あたしもなにかお手伝いしますよ!」
「ありがとうございます。お優しいんですね」
 みなもとミカゲは、互いを見つめ合ってから小さく笑った。二人にとって、相手は心地よい存在であるらしい。
 そしてみなもは、板状に見えるホログラムに手を伸ばして、名前入力から始めてみることにした。
「……ええと、自分の名前……は、危険ですよね」
「出来れば、別のお名前が望ましいです。ゲームとは言え、ネット内に広がりますから。難しいようでしたらお名前をアルファベット表記にしたり、数字を付け加えても良いかと」
「なるほど……うーん、じゃあ……『MI_NAMO』とか、どうでしょう」
「はい、名前の間に記号というのも、良いアイディアだと思います。では、こちらで登録しましょう。変更したくなったら、後でも出来ますので言ってくださいね」
 指先でタッチするだけで文字が浮かぶ。みなもの入力した文字がそのまま登録されて、次に出てきたのは職業選択であった。基本職から派生まで、思った以上に種類が多い。
「たくさんあって、迷っちゃいますね……」
 みなもは画面を指でスライドさせつつ、そう言った。職種はおなじみの剣士、武闘家、魔術師、ナイトや忍者、シーフ等と続き、医者や獣使いなどという特殊系にも目が行く。
「感性で選んでも良いですよ。みなも様の能力に寄せることも出来ますが……」
「……あ、ええと、今回は自分とは違った系統でやってみたいなって思ってたんです。良いですか?」
「もちろんです」
 ミカゲがみなもの問いかけに対して、小さく微笑みながらそう言った。その笑顔に安心しつつ、みなもは慎重に職業一覧を見つめる。
「あ、この銃をもったユニット、素敵です」
「では、弓兵にしましょうか。成長すると枝分かれしていくジョブでもあるので、弓と銃と短剣なども扱えますよ」
「弓兵……レンジャーってやつですね。これにします!」
「はい。ちなみに、成長とともに派生ジョブへと進むことも出来ますので、興味があったらやってみてください」
 みなもが指を、たん、とモニターに置くと、職業が確定された。
 それと同時に武器も支給され、装備をする。
「銃と弓が一緒に使えるっていうのも、面白いですね。……あ、服も近未来だと格好いい系なんですね」
 みなもがそう言いながら指さしたのは、全身を覆う形のボディースーツのような衣服だった。ゴーグル付きで、スマートな装備だ。職種ゆえに軽装備しか出来ないが、その簡素なイメージに今回は惹かれたのかもしれない。
「NPCと冒険するのもありですし、他の方とパーティーを組むのも楽しいですよ」
「ミカゲさんには、こういうユニットは無いんですか?」
「……実は、あります。少し意外かもしれないのですが……」
 みなものユニットの隣に、ミカゲが呼び出したユニットは、大剣を持った戦士であった。
「わ、格好いいですね……!」
 監視者ということもあり、能力値はかなり高い。
 みなもはそれを見つつ、素直に感嘆してみせた。
「その……いつでも呼んでくだされば、一緒に冒険できます」
 ミカゲの声がさらに小さくなった。どうやら、照れのようなものを感じているらしい。みなもはそんな彼女を見て微笑んだ後、「お願いします」と答えた。
「では、こちらは保存をしまして……そろそろ戻らねばいけませんね」
「あ、本当だ……結構、時間経ってたんですね」
「今日はここまでにしましょう。またお時間がある時に、お越しくださいませ」
「はい、そうします」
 時間経過のため、今回はここまでとなってしまったが、みなもはそれでも満足そうだった。
 そしてミカゲも、嬉しそうに彼女を見送ったのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1252 : 海原・みなも : 女性 : 13歳 : 女学生】
【NPC5476 : ミカゲ : 女性 : 11歳 : 電脳監視者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お久しぶりです。この度は有難うございました。
 当方NPCを指名してくださり、とても嬉しかったです。
 また機会がございましたら、よろしくお願い致します。
 
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年02月25日

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