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『神のみぞ知る 』
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001

 王との戦いが終わって数か月。氷雪を操り戦う少女が北海道のとある小学校に通い始めた。まだまだ戦いは終わっていないし、少女もとある信念からその戦いを止めるつもりは無かったが、普通の少女らしい生活を送るようになりつつあった。
 それに伴い、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)も文字通りに戦い続きであった毎日から、ほんの少しの自由を手に入れるに至った。それでも、アルヴィナは大切な妹の為に公私ともに寄り添いたいとしか思っていなかった。任務で方々へと向かう役得を活かして、自らの世界では見る事の出来なかった、世界の絶景をたまに見る事が出来ればそれでいい……ぐらいに思っていた。

 のだが。

 H.O.P.E.南極支部。少女が小学校へと通うに至り、常勤ではなくなったアルヴィナであったが、ワープゲートを通してよく顔を出していた。
「こんにちは。今日の南極の様子はどうかしら」
 支部のメインルームに現れたアルヴィナは、いつも通りに白い羽衣を揺らしながらパソコンのモニターへ向かう青年に尋ねる。
「安定しております。イントルージョナーの出現も確認されていませんね」
「良かった。それなら、今日はペンギン達の様子でも見て帰ろうかしら……」
 陸にまともな天敵が居ないペンギンは、大抵人懐っこい。二足歩行する人間を図体の大きな仲間だと思い込んでついてくる事も多い。アルヴィナもすっかり懐かれてしまっていた。
 踵を返すと、ふわりと雪色の髪が揺れる。その艶やかな魅力に釣られ、男達は思わずアルヴィナに目を奪われてしまう。その視線にアルヴィナも気付いていたが、神はそもそもあらゆる者から見上げられるものであるから、慣れっこだった。
「ヴェラスネーシュカさん!」
 そんな折、分厚い瓶底眼鏡を掛けた女性がアルヴィナ目掛けて駆け寄ってきた。戦いが終わり、補充の人員として送られてきた新顔である。
「あら、どうしたの?」
「ヴェラスネーシュカさん、折り入ってお願いがあるのです!」
 アルヴィナは首を傾げる。職員はいきなり気をつけ、敬礼しながら声を張り上げる。
「H.O.P.E.南極支部で発行するスナップ写真集のモデルとなって頂けませんか!」
「モデル?」
「はい! 現在南極支部はピンチなのです。戦いの中で破損したスノーモービルの修理あるいは補充、損傷した各機関の修復等々お金がかかり……我々の食糧を買うお金が足りなくなりつつあります。まあ要するにピンチなのです! そこで、支部で発行している広報誌を利用して、必要な資金を充当しようと思ったのですが……」
「私の写真を載せれば、売れるのではないか……という事かしら」
 女性職員は眼鏡の向こうでちらりと視線を動かす。ごくりと生唾を呑み込み、職員は頷いた。彼女の魅力は同性をも惹きつけるのである。
「ふむ……」
 アルヴィナは腕組みする。他の神々は、彫刻となって祀られていた。この世界でも、彼らとよく似た姿の彫刻が発掘されている。彼女自身は立場が立場なせいで、祀ってもらえる機会など無かったのであるが。
(こういう形で姿を写して貰うのも、悪くはないかしらね)
 ふと考えたアルヴィナは、こくりと頷いた。
「いいわよ。……その代わり、綺麗に撮ってもらえる?」
「ええ! もちろんです!」
 そう言うと、職員はずいとカメラを取り出した。

 結果的には大当たりだった。10代のような若々しさと、幾星霜に渡って経験を重ねた円熟ぶりを兼ね備えた、人間には成し得ない凄艶の美に気を取られない男などいない。南極の澄み切った空がそんな彼女の美しさを包み隠さず露わにし、広報誌は飛ぶように売れていった。南極支部の食糧庫は瞬く間に缶詰やインスタントラーメンでいっぱいとなった。
 そんな彼女に目を止めた、有象無象の写真家や出版社が彼女に呼び声を掛け始める。突如として現れた新進気鋭のモデルを逃さない手など存在しない。しかも、このモデルはそこいらのモデルでは到底敵わない、“積極性”があった。

 都内のとあるスタジオ。グリーンバックの真ん中に立ち、海のように蒼いパレオを着て彼女は照明やフラッシュを浴びていた。
「いいよー! じゃあ次はこう、好きな人を挑発するようなイメージで、前かがみに!」
「こう、かしらね?」
 アルヴィナは腕で軽く胸を寄せつつ、上目遣いをカメラに送る。勝手に歓声を上げ、写真家はノリノリでシャッターボタンを押しまくっている。しゃがみ込んでカメラを見上げたり、仰向けに寝そべって天井を見つめたり、もう言われるがままに彼女は己を魅せていた。
 そう、この女神は『脱ぐ』事に一切の躊躇が無いのだ。むしろ、普段は少女に『頼むから着てほしい』と小言を言われる始末である。有象無象のモデルが躊躇するような過激なドレスや水着、下着でもさらりと、当然のように着こなしてみせる。まさにグラビアアイドル業界の新星となりつつあった。
「ねぇ、照明……もう少し落としたらダメかしら。暑くて融けちゃいそうなんだけど……」
 アルヴィナは汗でしっとりと肌を濡らしながら尋ねる。ただのエロ親父になりつつある写真家、この頼みを嬉々として受け容れた。
「お? そうかぁ。じゃあ趣向をちょっと変えちゃおうかな? いやあ、気持ち良く撮らせてくれるからオジサンも嬉しいよ!」
 とかく、彼女はこんな調子で『女神』と巷で呼ばれるようになっていくのだった。

 写真を撮り終えたアルヴィナは、今度は女子大生らしいファッションに着替えさせられていた。白い丸テーブルの上には、全力で冷やしたアイスティーがカップへ注がれていく。
「……暑いわね」
 むしろ彼女にとってはこちらの方が苦行であったが、写真集にメリハリをつける為とか何とか言われ、不承不承で引き受けた。流石のプロ意識だ。
 しばらく待っていると、カメラマンが女性のライターを引き連れてやってくる。
「では、今回はよろしくお願いします」
「ええ。よろしくね……」
 写真集に添えるという、アルヴィナへのインタビュー。カメラマンに写されながら、彼女はライターの質問に次々と答えていく。
「恋人? ……いないわね」
「では、好みのタイプ、などは」
「好みのタイプ? そうねぇ……頼り甲斐のある人、かしら」
 アルヴィナはカップを傾けながら、静かに応える。その脳裏には、一人の男神の姿。
「寡黙でも、愚直に自分の仕事をしっかり果たすような……情の深い、真面目な人がいいわ。そうね……年上か年下かで言えば、年上派ね。ナイスミドルって言うのかしら。逞しくて、髭の似合うお爺さんとか……そんな人に一途に想われたら、キュンとしちゃうかも」
 傍で写真家が軽く髭を撫でつけた。アルヴィナは一顧だにせず、ライターの女に向かって微笑む。
「あと、告白は……するより、される方がいいわね。だって、好きな人には男らしいところ……見せて欲しいじゃない?」

 全洋を凍りつかせてしまうような小細工など必要ないのだ。ただ身一つでぶつかってくる度量を見せてくれればそれでいい。
 今はもう神ではなく、只の英雄に過ぎないのであるから。

 二人の為、南極支部で黙々と働き続けているであろう彼に向かって、アルヴィナは心の奥で語り掛けるのだった。

 Fin


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
発注していただき誠にありがとうございます。
書いている間に周囲のモブキャラ達のテンションがどんどん変な事に……これもひとえに女神の魅力という事で。もし何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。

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2019年02月25日

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