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『いばらの棘(3) 』
水嶋・琴美8036

 どれだけ実力に差があろうとも、多勢に無勢。こちらが圧倒的に有利だと、敵組織の男達は思っていた。指揮官からの適切な指示を受け、僅かに落ち着きを取り戻した彼らは仲間と連携し琴美へと攻撃を仕掛ける。たった一人しかいない相手に、自分達が苦戦するはずがない。彼らが今まで相手にしていたのは、巨大な企業や政府ばかりなのだから。
 だが、戦いを続けるにつれて琴美との実力差が数などでは到底補いきれないものだという事に彼らは気付いてしまう。彼女は今まで出会った誰よりも強く、隙がなかった。組織が相手にしてきたどの強大な存在よりも強い彼女は、いったい何者なのだろうか。そんな疑問が、恐怖をまとって彼らの心を巣食う。だが、その問いを口にする余裕すらも今の彼らには存在しなかった。
 群れを作り数で暴力を制してきた彼らは、まるで花に群がる虫のように一斉に琴美へと襲いかかる。そして、その虫の攻撃に花は華麗な棘を返すのだ。
 空間を縫うかのように、琴美の細剣が的確に相手を射抜く。後ろから琴美へと奇襲をかけようとした相手には、振り向き様に回し蹴りの一撃をくわえる。長いしなやかな足が、美しいだけではなく威力を持った凶器となり、敵をまた一人地へと沈めた。
 矢継ぎ早に襲い来る敵の攻撃を、彼女は剣で難なく弾いていく。細剣が防御に徹している事を好機と捉えた敵の内の一人が、琴美の剣を持っていない方の手に狙いを定めて武器を振るった。
「甘いですわ」
 しかし、その剣もまた何かに弾かれてしまう。あいていたはずの琴美の片手には、一本のナイフが握られていた。太腿にくくりつけられていたそれを、琴美は目にも留まらぬ速さで抜いて構えてみせたのだ。
 敵組織の者達の顔が、絶望に染まる。大規模な組織の実働部隊……戦闘慣れしており数も多い彼らは、まさか実行現場につくよりも前に仕事が失敗に終わる事になるとは思ってもいなかったであろう。
『おい、何があった!? 応答しろ!』
 無線の向こうから聞こえてきた指揮官の声に、一人の男は息も絶え絶えながら言葉を返した。
「女……敵は、女一人だ……。とびきりの美人で、それでいて……とびきり、強い……女……」
『はぁ!? 何を言ってるんだ!? くそ、もうすぐ着く!』
 彼は最後の力を振り絞り全てを正直に伝えたのだが、相手には正確には伝わらなかったらしい。それもそのはずだ、と彼自身も思う。自分も、実際に琴美を相手にしなければ、たった一人の美女に組織が追い詰められるだなんて到底信じられなかっただろう。
 多勢に無勢だったはずの組織も、もう残り僅かしかいない。あれだけの数の違いがありながらも、琴美に傷一つつける事が出来なかったのだ。ここから戦況が覆る事など、奇跡でも起こらない限りありえるはずもなかった。
 例え奇跡が起こったとしても、それすら恐らく彼女の味方をするだろう。なにせ琴美は、神すらも羨む程の美しさの持ち主なのだから。

 ◆

 その惨状に、男はまるで狐にでも化かされたような気分になった。三十歳程の、屈強な体格の男である。とある組織に雇われ、その実働部隊を指揮していた傭兵だった。その実力は組織の者達と比べても群を抜いており、この組織がここまで大規模なものになったのは殆ど彼のおかげだという事は自他共に認める事であった。
 いくつもの戦場を駆け、いくつもの危機を自らの力でねじ伏せてきた男。だが、彼であろうとも今いったいこの場で何が起こっているのかを正確に把握する事は難しかった。
「チッ、いったい何が起こったんだ?」
 倒れ伏している部下は、何も言わない。男がその場所に辿り着いた時、すでに部隊は壊滅状態だった。
 自分と一緒に行動していた配下に周囲を調べるように指示を出しながらも、男は先程の無線の内容を思い出す。しかし、無線の相手だった部下は混乱していたのか、その内容は支離滅裂なものばかりでどこまで信じて良いのか判断のつかぬものだった。
「敵は女が一人だとか、わけの分からん事しか言ってなかったしな」
 男の力には遠く及ばないながらも、この組織にいる者は何度も危険な仕事をこなしてきた経験がある。それなりに力を持っている彼らを、この短時間の内に倒せてしまえるだなんて、とてもじゃないが一人だけでは無理だろうと男は思った。
(にしても、敵はどこに行っちまいやがったんだ? まさか、逃げちまったんじゃねぇだろうな?)
 ――何であれ、生かして帰すわけにはいかない。男は自身の武器を取り出し、構える。手入れの行き届いた刀身が映し出した男の顔は、計画を害する敵への怒りに震えどこか不気味に歪んでいた。

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【8036/水嶋・琴美/女/19/自衛隊 特務統合機動課】
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年02月26日

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