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『いつか穏やかに実るもの 』
エラ・“dJehuty”・ベルka3142)&神代 誠一ka2086


 あぁ、またか。
 訪れた友人の家の窓が割れているのを確認して、エラ・“dJehuty”・ベルは溜息を一つ吐いた。
「前回は確か扉が燃えたはずですけどね」
 何だろうか。友人は家を壊すことを趣味にしている……?いや、そんなわけはないのだが。
 窓を修理している途中の家主、神代誠一がバツが悪そうな顔をしている。
「元気に雪遊びでもされましたか」
「何故ばれる」
 分からいでか。

 春先。朝晩はまだ寒くとも、日の昇っている間は暖かい。
 ウッドデッキから見える作りかけの花壇を見つつ、エラは横目で柵に寄りかかった誠一を確認した。
 見た目の表情と内心が一致しない男。
 エラから見た誠一の印象の中には、そんな部分がある。
(いつでしたかね。あれは)
 花壇を作る切っ掛け。その言葉を彼にかけたのはいつだったか。
 誠一はひたすらに彼の相棒や教え子、仲間たちと『金の嵐』を追いかけ続け。
 日々消耗していく彼が悩んでいた時辺りに、そんなことを助言したような。
『心の整地ができたら花壇でも作れるといいですね』
 我ながら、面白い提案をしたものだ。
 足元を飛び跳ねるぐまを眺めつつ、そう思う。
 そうして彼は嵐をひと段落させ、花壇を作るべく開墾を始めた。
 気づけば花壇の開墾には彼に関わる沢山の人間が参加し、今や花壇というよりちょっとした畑レベルにまでなっているが。
 まぁ、それはそれで色々と楽しめるのでいいだろう。
 きっと手入れやなんやに集中すれば、この友人は思い悩む暇すらなくしてしまうだろう。
 ちょっとくらい考えずに行動すればいいのだ。思慮深い友人に対して、エラはそう思っている。


「しかし、本当に広がりましたね」
「みんなして面白そうに開墾していくからなぁ。俺もつい張り切って」
 この世界は今、混沌の真っただ中だ。
 あちこちで大規模な戦いが繰り広げられ、世界規模の争いも多発している。
 そんな中、のんびりと開墾を進めるこの花壇での時間は、誠一にとって不思議なほどに心が安らぐひと時だった。
 失うものも多く、手放すものも多く。
 傷つき悩み悔やみ悲しみ、血反吐を吐きつつそれでもと歩んできた彼のことを、友人である彼女は放っておけなかったのだろう。
 土足で踏み荒らすことはない。けれど、必要な時には一歩踏み込み的確に助言を与えてくれる友人。
 年が近いせいか、変な遠慮がいらない相棒とはまた違った関係の相手。
 ぐっと背伸びした誠一の腰が軽くパキリと音を立てたのを耳聡く聞いた彼女が、持参した干し肉を差し出しつつあっさりと告げる。
「年ですか、誠一」
「やめて現実突き付けるの。まだ若いって俺は信じてる」
「現実を見るのは大切ですよ」
 干し肉をそのまま齧りつつ肩を竦めるエラに、誠一は苦笑する。
 本当に、この友人ときたら。

「そういえば。怨敵の件、無事に片付いたようで。お疲れ様でした」
「腹に穴開けられたけどなぁ」
「命あっての物種。生きている方が勝者ですよ」
 そのあとから始めたこの花壇の開墾。
 暢気に飛び跳ねるぐまが、気に入った草でも見つけたのか抜かれた草の中から引っこ抜いてはもぐもぐと口に運んでいる。
「花壇、がいつの間にか畑。そしていつか村に」
「村はないだろ、村は」
「なんにせよ。ここから先、無茶だけはしないように」
「……分かってるよ」
 ウッドデッキから見下ろす作りかけの花壇。
 その開墾は、本当にただの土地を耕し、雑草を抜き、石を避け。
 沢山のメンバーで開墾は進めたが、それでも決して楽な作業ではなかった。
 慣れない作業に手間取り、爪の間に土が詰まり、石で爪が割れそうになり。
 所々で骨がバキボキ音を立てて、あたふたしたりもしたけれど。
 その間は余計なことを考えずに済んだのも事実だ。
(そこまでエラが考えてたんだとしたら……)
 まさか、なんて。


「ところで。結局、この花壇に飴色の花は植えるんですか?」
「ごふっ!」
 あ。咳き込んだ。
 青春だなぁと思いつつ、エラは内心楽しくて仕方がない。
 咳き込んだ誠一が、数度深呼吸して息を整える。
 何事だと振り返ったぐまだったが、まるで「いつものことか」と言わんばかりにまた草を食みに行ってしまう。
 ぐまひどい。でもぐまらしい。
 顔が赤いのは戻し切れないが、まぁそのうち引いてくれるだろう。
 小さく咳払い一つして、誠一は口を開いた。
「いや……うん。ただまぁ、なんていうか……」
 自分が頭に『馬鹿』のつくほど一途な気質なのは自覚している。
 おそらく周囲も、分かっている。
 だからこそ気にしてくれているのだろう、とも。
 誠一にとって特別というものを作ること。それは何よりも重く、とても恐ろしいことなのだ。
「こう、さ。思い出すとまだ痛むものとか、そういうのも、な」
 思い出せば思い出すだけ痛む胸。変わっていく自分が本当に許されるのか。いいことなのか、日々葛藤している。
 例えられた『飴色の花』だって、信じていないわけじゃない。惹かれていないわけじゃない。
 きっとエラはそれも全部知っている。
「それなのに……怖いんだよな」
 ぽつりと呟かれた誠一の言葉に、エラは小さく笑う。
「青春してるわね」
「うっせ」
 そっぽを向く友人の向こう側。エラは思う。
 平穏な開墾のその中でも。日々の戦闘の中でも。

 エラにとって「戦場」とは常にそこにあるものだった。
 殺し殺されの日々は当たり前で、昨日まで隣にいたものが次の日にはいなくなることなどしょっちゅうだった。
 戦争とは、結局のところ消費でしかないのだ。
 武力の消費、武器の消費、人の消費、心の消費。
 凄惨はあれども生産はない。戦いが続く限りただ失われ消えていくばかり。
(それでも)
 それでも、エラは理解している。
 平和のためには、軍備と開戦の覚悟が常に必要なのだと。
 ただ一方的に暴虐されることだけはならない。
 人の営みを見守るという、エラ自身の幸せのために常に備え続けるのだ。
 それらを放棄することは無責任であると。
 その『人の営み』の中に、眼前の友人も入っている。
 だからこそエラは躊躇わない。
 たとえそれが、自身の生命の危機が生じると予見されることであっても。
 素知らぬ顔で。何でもないような顔で。

「でも、ま」
 ふと、思考の海に沈みかけたエラを引き上げたのは、思いのほか明るい誠一の声だった。
「そろそろちゃんと答えを出すつもりではいるんだ」
 その表情に、目立った陰りはない。どこか吹っ切ろうとしている、比較的明るい表情。
 浮かべた笑みがたとえ一点の陰りもないものでなくても。
 笑えるのなら、それでいいと。来た甲斐は会ったと、そう思う。


 そろそろ冷えるから帰る、とウッドデッキから飛び降りたエラの背に、誠一は声をかける。
「なぁ。今日来たの、最近ちょっと様子がおかしかったからだろ?」
 ふと歩みを止めたエラが振り返ると、そこにはくしゃりとした笑みを浮かべた友人がいた。
「気にかけてくれてありがとな」
(……上々ですね)
 言葉は返さず笑顔で応え、手をひらりと挙げてエラは帰途につく。
 花壇の隅にいたはずのウサギが、まるで見送るようにじっと見つめていたのを。
 エラは知らない。


 END
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3142/エラ・“dJehuty”・ベル/女性/30歳/耕すもの】
【ka2086/神代 誠一/男性/32歳/種植えるもの】
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2019年02月28日

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