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『永遠と孕む何か 』
満月・美華8686

 ○年目。
 古びた洋館に人が住んでいるとは誰も思わないような佇まいであるが、そこには満月・美華が住んでおり更にその館の奥にある自室でひっそりと生活をしている。
 体が肥大化していき、一人では動けないのでメイドゴーレムを操って家事や身の回りの事をさせ、膨大な遺産とフリーの作家で外に出なくて済んでいた。
「ん……はぁ、また……」
 妊婦の臨月程に大きくなった腹部を美華は、子供を身ごもった母親の様に膨らんだ腹部を嬉しそうに撫でながら鏡を見る。
 “死”の恐怖から逃れるために『自身の命を孕む』という外法を使用し、腹部には“子”ではなく自分の命という大切なモノを宿している。
 だが、欠点としては体が膨れた分が重たくて着替えさえ満足に出来ないのでメイドゴーレムをただ動かし、服を着替えたり風呂に入ったり等の世話をさせる。

 ○年目。
 自身の命が孕んだ瞬間、マタニティのボタンが弾け飛んでしまい美華はメイドゴーレムを操り、新しいマタニティを用意させて着替えさせてもらおうとする。
「ふふ、また……生まれた」
 ぽこり、と命が孕むのを感じながら美華は口元を緩めて微笑むとメイドゴーレムが新しいマタニティを着せてもらおうとするが、更に命を孕んだのでサイズが合わなくなってしまった。
「仕方がないわね。ふふ……」
 服が無くて困りつつも、やはり自身の命が生まれて行く事の方が嬉しさが勝り微笑みながら擦る。
 合わなくなったマタニティなら、また特注で注文すれば良いだけの話だ。

 だって、お金には困らないから――

 ○年目。
「あ、あら? 入らないわね」
 ゴーレムメイドに支えられて食堂から自室へ戻ったが、ドアを開けてもらい通ろうとしたが腹部が膨らみ過ぎて入れずに苦労した。
「ん、ん〜?? 本が、取れ、ない……」
 どうにか自室に入れたので本棚に手を伸ばすが、お腹が本棚に当たりどんなに腕を伸ばしても本には届かない程に膨らんでしまった。
 本を取るのを諦めて木製の椅子に腰を下ろすと、ギシギシと軋みながらボン! と爆発音に近い音がしたかと思えば美華の視界がグンッと下がった。
「壊れる程に、沢山命が孕んでいるのね」
 椅子が壊れる自分の体重などよりも自身の命を孕み続ける大きく膨らみ続ける腹部を、愛おしそうに笑みを浮かべながら撫でまわした。

 ○年目。
 とうとうお腹が大きくなりすぎて自室から出られなくなった美華は、ベッドで寝たきりでただ天井を眺める日々を過ごす。
 腹部が圧迫して息を上手く出来ずに苦しく思うが、美華の気持ちに応えるかのように自身の命が次々と孕んで行くと、餅を温めて膨らむ様にぐんぐんと腹が大きくなって行き。
「……っ、ふぅ……あぁ……命が……」
 体重を支えきれなくなったベッドの底が落ちて館を大きく揺るがすが、増えた美華の命は自由を奪おうとも彼女は“死”の恐怖が薄れて行く事に喜びを感じる。
「ふふふ、次は壊れないベッドとか……息しやすいように準備も、色々と用意してあげなきゃね」
 笑う、怖いモノは無い彼女は使いきれない程の財産と自身の命を抱えて、永遠にお腹の命を愛する。

 そう、狂った様に――

 現在。
 ベッドも新調し、特注で簡単には壊れないモノを使い呼吸が苦しいので、病院で使われている様な呼吸器も用意した。
「あは、あははは……私の命ぃ……ふふっ」
 部屋を壊さないと出られない程に彼女の腹は膨らみ過ぎて、息もし難い程になっても“死”への恐怖が薄れるならば彼女は狂った様に喜ぶ。
「また、生まれた……沢山、沢山……孕んでね」
 恐怖から遠のいたのに美華は、正気をとうの昔に失って狂った心で自身の命を孕み続けるお腹を撫でる。
 どこか調律が狂ったピアノの様に、壊れたロボットが延々と同じ言葉を繰りかすかのように――狂ってしまった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8686/満月・美華/女/28/魔女(フリーライター)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度もノミ発注していただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年03月01日

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