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『決戦 』
煤原 燃衣aa2271)&世良 杏奈aa3447)&人造天使壱拾壱号aa5095hero001)&阪須賀 槇aa4862)&無明 威月aa3532)&アイリスaa0124hero001)&藤咲 仁菜aa3237


 人造天使壱拾壱号の姿がとけていく。
 それは人造天使壱拾壱号とよく似ていても中身は全く違う。
 この世のすべての悪意を固めて、さらにまだ悪意を足したような、そんな絶対者。
 その者の悪意が男を染め上げる。
 その悪意の塊『イヴウィル』は、勝利の未来をその目に映してにやりと笑った。
 燃衣はその青年の顔にまったくかつての面影を感じなくなっていた。
 もうすでに、決定的に、あの時と何もかもが違う。
「清くん……」
 そんな切なさをこめた溜息すら届くことなく、清はその本性を現した。
 無数に伸びる腕、黒い肌。
 概念としては観音か、それとも破壊の神のシヴァだろうか。
 どちらにせよ、神と呼ばれて差し支えない霊力を纏っている。
 
 しかし、神がなんぼのものだろうか。 

 こちらには常に悪意をかいくぐってきた『知』がある。どんな破壊からも身を守ってきた『生』がある。
 仲間という力が、ピースが沢山ある。
 ここで最終決戦だ。
「いきます」
 号令で仲間たちは陣形をとる。
 杏奈を最後尾に槇はフットワーク軽く最前列の燃衣と杏奈の間に構えた。
 燃衣の死角に控えるのは仁菜。
 慣れ親しんだフォーメーションである。
 次の瞬間。清の腕が伸びて、信じられないことに燃衣たちの眼前を全て覆った。
 腕が空中で瞬く間に分裂して。それぞれが暁全員を取り押えようと伸びる。
「面には点です」
 燃衣が告げると両足に霊力を集中。地面を吹き飛ばしながら剛速球のごとく腕の壁へとつっこんだ。
「あの時見せた罪罰攻撃じゃない?」
 燃衣は膨大な熱量を纏って壁を突破。空いた壁から仁菜が侵入。地面に着地するなり残像の見えるような速度で走る。
 大剣を握っている清の背後に回り込むと清は円を描くように剣を振るって仁菜に対応。
 すでに仁菜はそこにいない。
「こっちです」
 まだ、体を焦がすような怒りの炎。そして敵を確実に殺せるようにと理性が燃やす氷の炎。
 それを両手に込めて叩き付けようとするも。
 無数のAGWが空から燃衣を襲う。
 無数の腕による投擲攻撃だ。
 それを鎖繰が間に挟まって切り落としていく。
(神経加速!)
(神経加速・エミュレート)
 百を超えるAGW。それは二人の体をミンチに変えるのもたやすい物量だったが二人は息をあわせて空中の武装を迎撃する。
 鎖繰は飛んできたAGWを掴んで両手に武器を持った状態になり、空中の武器を叩き落とす、その勢いのまましゃがんで、姿勢を低く回るようにやや後退。その鎖繰を飛び越えて燃衣が拳を放つと空気が叩かれ複数の武装があたりに散った。
 その中から大剣を蹴り上げるとそれを背中に背負って鎖繰へと振り返る。
 鎖繰は燃衣の手と肩を足場に高く飛び上がると、カオティックブレイドの本領をみせる。
「ああああああ!」
 持っている刀を複製。地面に落下する間にうち放つ。
 やがて全ての攻撃を防いだ時には、全身に傷を作っていたが二人はまだ戦える様子で立っている。
「くそ、防ぎ切ったが、体が重たい」
 鎖繰は肩で息をしながらそう言った。
「霊力が奪われている?」
「おそらく大罪武装、強欲の力です……」
 その言葉に首をひねる仁菜。
「隊長? それってなに? たいざい?」
 仁菜が燃衣を観れば燃衣もすでにズタボロの状態だった。
 ただ燃衣は全身を切り裂かれ。満身創痍の様に見えるがその傷口。血管から炎が伸びて逆に清の腕と対抗し始めた。
(もう、びっくり人間万国博覧ショーだお)
 杏奈を背後に庇いながら槇は清の顔面をねらう。
 腕が遮ろうと伸びるが、この弾丸は悪意に強い。
 何枚も腕を貫通し、清の顔面が弾丸を捕えようとしたが。
 清はすんでのところでそれをよける。
「あの力、彼のだけのものじゃない」
 杏奈は告げると禁書を天高く掲げた。杏奈が改造した古の神の力を継承せし一冊、その本を地面に叩き付けると地面から無数の足が、タコの足の様なものが伸び、それが清の生み出した腕をからめ捕っていき無力化していく。
「そんなに罪を裁いてほしいか! おれによぅ」
 燃衣はぞわりと神経をなでられる感覚に陥る。
「僕らはあなたに裁かれる罪など、持ち合わせていません」
 燃衣が告げると清はにやりと笑う。その瞬間生暖かい風の様なものがリンカーたちをなでる。
 次の瞬間、鎖繰は愛刀を取り落した。見れば腕が氷りついている。
「く……」
「罪罰攻撃……」
 振りかえれば杏奈は胸を押さえて倒れ、槇は蹲って荒く息をついてる。
 槇は違和感を感じて開いてみる。
 見れば、両手が真っ赤に染まっていた。しみだすようにジュクジュクと、血が溢れ流れだしている。
「手を血で染めるって、俺まだ誰もころしてねぇお」
 その中で燃衣だけが立っていた。穏やかな風に立ち向かうように。
「いったい仲間たちに何をしたんです」
「お前等は勘違しているようだな、罪とは抱くもの。生まれるもんじゃねぇ、自分に背負わすもの、それはお前たちが自分に対して架した罪。罪悪感の現れ、それを俺がさばいてやってるんだよ! 嬉しいだろ?」
 燃衣は冷たい視線を清に向けたまま離さない。
「たとえばぁ? 人を殺めていなくても、人を殺めることを恐れ、もしくは、人を殺める同然の行いをして?  それをひたすらに気に病んでいるんだとしたら? そんな形で罪が現れてもおかしくないわなぁ」
 そして清は燃衣を一瞥すると吐き捨てるように告げる。
「それがお前の瞋恚の力か。神たる俺に裁かれていれば、楽になったろうにな」
 次の瞬間清の背中から悪魔めいた黒い影が立ち上る。
「ここからが本番だぞ、ねいぃぃぃぃ」
 顔を抑え、悲鳴のような叫びをあげながら清は告げる。同時にイヴウィルも重たい声で囁きかける。

――我はアンリ・マンユ
 我はヤルダバオート

 それは名だたる悪神の名称、イヴウィルが告げるほどに影は大きくなり、やがて両腕を伸ばす。 

――我はマーラパピヤス
 我はニャルラトテップ
 恐れ怯えよ、我が名は『悪意』
 傷付き続けよ、意志ある者よ
 ただ我らが為に、其の魂魄の砕けるまで

「なにが! なにが『恐れ怯えよ』だお。もう怖がってる暇もねぇお」
 槇は食いつくように叫んだ。もうすでに感情の臨界は超えている。
「しかし、体はもう、銃は握りたくないと言っているように見える」
 清がいつもとはちがう声音、口調で告げた。神でも気取っているつもりだろうか。
「お前だけは殺す」
 告げる燃衣は体の表面から陰炎を立ち上らせる。
(これは……英雄化してる?)
 杏奈は燃衣を観察しながらそう思った。直後燃衣が飛んだ。
 燃衣の突撃を受けて清がイヴウィルが刃をとって迎撃する。
 四本の刃の切っ先がそれぞれ燃衣に伸びるも、足で蹴りとばし、剣の腹を殴りつけ燃衣は敵と拮抗する。
 傷ついていく燃衣。その姿を観ながら仁菜は歯がみする。
 いつものように癒す力が自分にあったなら。
 隊長を守れる力になったのに。
 だがそれはちがうことをもう一人の相棒が教えてくれる。
「そうだよね、大切なのは、私の意志」
 槇が仁菜を見上げる。仁菜はその全身から沸き立つ霊力を一本に束ねて拳に集めた。
「仁菜たん!」
「止めても無駄だよ、槇お兄ちゃん。私はここに全員生きて帰るつもりで立ってる」
「解ってるお」
 次いで震える手でサイドバックから数本のアンプルをとりだした。注射針をとりつけて杏奈と鎖繰の足元に転がす。
「タイミング、合わせるお。あいつ隊長に夢中だお。全員で押し切れば」
 勝機はある。
「これは?」
 杏奈が首をかしげた。
「正真正銘……」
 槇はそれを膝に打ちこんだ。
「やばいお薬だお」
 それは以前作ったアンチ・マリス・ポストの応用品。かつて罪罰攻撃に抗った彼や燃衣を観ていると英雄化も罪罰攻撃を逃れる手段になりえるだろう。そう思って作っておいたのだ。
「チャンスは一度だお。全員が全員の動きをみて、いい感じに連携だお」
「お兄ちゃん、それ作戦じゃないよ」
「作戦名、仲間を信じる。だお」
「だったら……」 
 杏奈が不敵な笑みを浮かべた。
「私から行かせてもらおうかな」
 次の瞬間。地面に黒い大穴があいて、タコの様な頭部、蝙蝠の様な翼をもった化け物がその場にあらわれた。
「むちゃくちゃだお」
 走る仁菜と鎖繰。
「本のなかの魂とやっとお話できた。力になってくれるって」
 驚き振り返る清。イヴウィルは思わずつぶやいた。
――御前……くとゅ。
 その巨大な腕の一撃が清に見舞われる。
 その間に仁菜が先行し、鎖繰もその背を追って走った。
「私は感情無く、刃を振るうことを求めていた。復讐を果たすため、御前を殺すためだ」
 腕を下に構えるとその氷った腕、手首に鎖繰は手刀を叩き込む。
 氷にひびが入る。
「だがな、私はまなんだ。教えてもらった。日常がどれほど素晴らしいか、笑いあえる未来がどれほど大切か。私はもう感情を殺してお前と戦うつもりはない」
 鎖繰の背中を銃声が押してくれる。ついで腕を振るうと鎖繰の氷は爆ぜた。
「私に幸福をおしえてくれたお前たちのために、力を振るおう」
「その意気だお、鎖繰たん!」
 槇は打ちこんだ英霊化薬の力で左半身を弟が、右半身を自分が使うという完全なマルチタスクに成功していた。
 右手にライフル。左手にアサルトライフルを装備、清の足や関節を打ち飛ばす。
 その隙に燃衣は一旦後退。なけなしのヒールアンプルでいったん回復を図る。
「切り裂け、切華の太刀」
 鎖繰がクトュルフの腕ごと清を切り付けると、清は刃を腕でガード。
 押しつぶされそうになった状態での咄嗟の対応のため腕を深々と切り裂かれた。
 足から力が抜けると、上から抑えつけようとしている邪神がさらに体重をかけて前のめりになった。
「なめるな!」
 清は無数の腕で体を支えながらその腕を伸ばして鎖繰を迎撃する。
 鎖繰はそのまま刃を投げて清の腕の一本に突き刺す。
 それに仁菜が走り寄って空中まわしげりを放つ。
「ぐああああああ!」
 押し込まれた刃は腕を貫通し、胸に突き刺さった。
 心臓すれすれまで押し込まれた刃に血が噴出し、仁菜の頬にかかる。
 追撃で伸びた腕。それを仁菜は左右にフェイントをかけて回避。
「ほしいほしいほしい!」
 腕の束が波のように連なって仁菜を追い始める。
「お前は俺の様になるべきだ」
 次の瞬間腕がまた一瞬のうちに分離した。
 これこそ、望む結果を全て引き寄せる。自信の現れ。
 大罪武装『傲慢』の力だ。
「さらに暴食の力を忍ばせてある。この波にのまれればお前は終わりだ」
「仁菜ちゃん!」
 杏奈がクトちゃんに命じるとその触手で清の腕を妨害する。さらに歩み寄ったクトちゃんの頭を蹴って方向を変え、清の腕の上を逆に走っていく。
「くっそ! 腕がガタガタ震えてきたお」
「お兄ちゃん、もう少し頑張って!」
 仁菜が腕も使って清の腕の上を駆け抜けると、素早く背後をとる。
「奇遇だね? 私も欲張りだから奪っちゃうよ!」
 背中から心臓めがけ肉を切り裂くと膨大な霊力が仁菜の体に降ってくる。
(これ、悪意……)
 仁菜はあわてて戦線を離脱、その体に侵入する悪意。
『自分さえ良ければ良い、他人なんて利用し踏み潰す為だけに在る』
 そんな感情をねじ伏せながら、体が、心が 裂かれそうな痛みに耐える。
「まだ、まだだよ、この程度じゃ、私は。わたしたちは。」
 仁菜はプリヴェントデクラインで体内のライヴスを整え清浄な力とす
 銃の振動や反動を腕の筋肉や骨で無理やり抑え込んでいるために、槇の体は悲鳴を上げつつある。
 霊力で弾丸の装填ができるリンカーならではのトリガーハッピーだが、銃身が焼け付かないのか心配なのと、明日は筋肉痛で動けなくなっていないか心配だ。
「タイチョーを、皆をひどい目に遭わせやがって! ゆるさねーお!」
――君たちの在り方は理解できない。
 イヴウィルがいった。
 邪神を力で抑え込み。清は両手に刃を握って鎖繰と燃衣を同時に相手する。
 傷は塞がる。 
 大罪武装『怠惰』の影響だろう。
 それを燃衣は不思議と直感で理解できた。
(大罪武装? イヴウィル……僕はすんなりそれを受け入れているけど。瞋恚?)
 しかし思案にふけっている暇はない。
 槇の弾丸が頬をかすめ、すれすれのところで清の刃を弾いた。
 加速している燃衣と鎖繰に当てることなく正確に。
「僕の動きについてこられるようになったんですか?」
 そう燃衣が問いかけると槇はニヒルに笑って言葉を帰す。
「追いついてるわけじゃないお、予想してるんだお」
 燃衣が戦う姿なら目を瞑っていても脳裏に浮かんでくる。そう言いたげに槇は微笑む。
「御仲間ごっこ楽しそうだなぁ、よぉ、ねいぃぃぃ」
 そうだ液でもたらしそうな勢いで口を開けて燃衣に言葉を投げかける清。
 そのわずかな隙を突いて。仁菜は敵の動きを縛る。
 細かな霊力の糸で心をがんじがらめにした。
「おれがよぉ、暁を直接攻撃しなかったのはなぜかわかるか?」
「知りたくもありませんね」
「最後の瞬間に御前からすべてを奪い尽くすためだよ」
 次の瞬間仁菜は天井に悪意を感じて顔を上げる。
 そこには枝になるブドウの様に無数の手が伸びていて。それ全てがAGWを構えている。
「お前のすべてなんて俺はいらねぇが、お前のすべてを失った顔がみてぇええええええええええんだよ」
 次いで放たれた武装の雨あられ、重力加速度もその身に宿して敵の臓腑を食い破る矢と化す。
「みんな! かくれて!」 
 杏奈がクトちゃんを盾にしようと全員を集める。
 本来杏奈は防御が苦手だ、これも焼け石に水だろう。
 そう思った矢先。戦場に鳴り響くのは妖精の歌。
 室内を黄金の輝きが満たす。
 レディ・ケイオスが真なる輝きを放ち、光の壁とも言うべき盾が暁の頭上に咲く。
「またせたね」
 告げるアイリスはその翼で空を跳び、首だけ後ろに向けてメンバーを観た。
「アイリスさん!」
「朱雀は大人げなくやらせてもらった。これから私が防御を全て受け持つ、君たちは気にせずやりたまえ」
 そんなアイリスに黒い風が差し向けられる。罪罰攻撃だ。
 だがそれをものともしないアイリス。
「私は精霊だ。罪はない。あるのはちょっとした悪戯ごころだ」
 そう普段より陽気にウインクを飛ばして見せるアイリス。
「貴様! 何をした」
 苦しみ始める清。
「この罪罰攻撃も音を媒介としているね。君たちは音を冒涜しすぎだ。君の攻撃、そしてガデンツァの攻撃も解析して新しい歌にさせてもらったよ。どうかな。心が洗われるようだろ?」
「俺の悪意をとかすんじゃねぇえ!」
 清が脚を踏み鳴らすと地面から無数の腕が湧きたった。それがアイリスに伸びようとしても仁菜が根元から刈り取る。
「耳を塞ごうが真空を作ろうが次元の違う【何か】を媒体に存在に直接響き渡る呪歌魔奏だ、たっぷり味わってくれ」
 その音色は燃衣たちには心地いい。そして苦しむ清へ鎖繰が刃を突き立てる。
「清……君はどこかで満足しているべきだった。器を水でいっぱいに満たす機会はあったんだ」
 鎖繰はその胸のなかの魂に語りかける。
 清の視界がはじけた。
 青色に染まっていく視界。
 燃衣はいない、仁菜も、槇も。
 代わりにいるのは、鎖繰と威月と、そしてかつて愛した彼女。
「俺を否定するお前等なんていらねぇ、俺は望むものを全て手に入れる」
「それで、望むものは手に入りましたか?」
 威月がそう口をひらいた。この空間では心で思った言葉が伝わる。
「シン君……、私は」
 そう少女が口を引き結ぶと刃を構え直す。
「あなたを止めたい」
「無駄だ! だったら俺を殺すしかない」
 閃く三つの刃。
 それが肌に触れる瞬間、清は現実に戻ってきた。目の前に燃衣が立っていて、燃衣の拳がそのまま清の顔面に突き刺さる。
「妖精とはね、歌で恐ろしい森の奥へ…神秘の世界へと誘うものだ」
 吹き飛ぶ体。すんでのところで体制をたてなおそうと、両足に力を入れたところを槇に狙撃される。
「だというのに警戒が足りないな?」
 アイリスが微笑んだ。 
「より高次の存在になりたかったのだろう。進化の道を提示してやっているんだ、喜びたまえよ」
 まぁ、希釈により高次元の存在へと溶けていく事を進化ととるかは人次第だろうが
「妖精なんて、気まぐれで底意地の悪いものだろう?」
「御前がいなければ!」
 背中から腕を生やして体をもちあげ、空を跳ぶアイリスに迫ろうとした清。
 その体に銃弾を浴びても止まらない。
「アイリスたん!」
 だがそれを槇は予測している。
「右にずれるお!」
 アイリスがそれるとその背後に見えたのは仁菜。高く跳躍し周囲には飛盾をはべらせている。
 その盾に足をかけて鎖繰が飛んだ。
「やっちゃえ! 威月ちゃん!」
 頷く鎖繰、いや威月。
 その刃に浄化の炎を宿らせる。
「普通に攻撃してもあなたは倒れない」 
 声が三つ重なった。
「だから、私はあなたを救う」
 次いで閃く斬撃は参閃。
 貫通連拳とは全く違うが、見た目としては酷似している。
 名前は。
「鏡花水月……」
 放たれた斬撃はつきの輝きを帯び、もろにその攻撃を受けた清は地面に体を叩きつけられた。
「そ、そんな、イヴウィルの……あいつの声が聞こえない」
「清君、もう遅いんですよ、あなたの悪意のパスはきれた」
 いわば清は英雄との契約で誓約を破った状態ということだ。そうするとどうなるかはリンカーたちは痛いほどに身に染みている。
「僕らの勝ちです。なんてことはなかった。僕らはあなたの悪意を否定するだけでよかったんだ」
「くそ! なんだよ燃衣、怖いのか? これでもう終わりか? それで俺が納得すると思うなよ。御前を、おまえをころして」
「だれが、これで終わらせると言ったんですか?」
 燃衣はこぶしを振り上げる。
「な! 燃衣っ」
 それ以降、清が声を上げることはなかった。
「僕は、友達だと思っていたのに!」
 右の拳をえぐるように、首をもちあげたから左の拳を叩き付けるように。
「彼女も君のことを大切に思っていた。なのに!!」
 膝で肩を強く圧迫する。そのまま右の拳を構えて叩き付ける。
「弟に罪はなかった!! 威月さんにもだ!!」
 左、右、右。顔を殴るにはタイミングを謀る必要がある、そんなこともめんどくさくなって燃衣は見えた鎖骨に手刀を叩き込んだ。
 呻く清の口に拳を突っ込むように一発くわえる。
 葉が砕けて喉に詰まったのか激しくせき込む清を、燃衣は容赦なく殴った。
 仁菜が動く、槇が止めた。
 見れば燃衣は泣いていた。
 悲鳴と、骨の砕ける音。
 けれど、誰も、誰も止めることはしなかった。
 できなかった。
 止めたいと思った。
 でもいざとめに入って、自分は燃衣に、仲間たちになんといえばいいんだろう。
 まったく分からなかった。
 清の命をすくための言葉が出てこなかった。思いつかなかった。
 だがからそれを誰も止めない。止められない。
 清が死ぬのか。生きるのか、決定権は全て燃衣にあり。
 そして、その罪は燃衣が一人で背負う。
 これはそうして終わる物語だった。
「……考えた。アニメでよくある『復讐なんて何の意味もない』ってセリフ」
 杏奈がポツリと言葉を紡いだ。
 その言葉がスッと暁のメンバーたちにしみわたっていく。
「本当だったね」
 そう振り返った杏奈の頬を涙が伝っていく。
 杏奈は思い出していた。この戦い。
 戦わないという選択肢はなかった。だから戦った。
 でもその結果皆の心は傷つき、自分も観たくないものをたくさん見てしまった。
 仲間は死んで。燃衣も狂ったように人を殴っている。
「この戦いで私たちに得るものは」
「それまでにしておいた方がいい」
 そうアイリスが言葉を遮る。
「今は考えるな。自分たちはするべきことをした。そう思っていろ。向き合うのはゆっくり一つずつでいい」
 出ないと心は壊れてしまう。
 そして、いつの間にか男の呻く声が聞こえなくなっていた。かわりに聞こえるのは荒い呼吸音。
 清はすでに抵抗する気力を失っている。
 顔面は赤黒く肌が破けて筋肉がみえるほどになっていた。
 鼻と口の周りの骨は粉々で。頭蓋骨も触れればぐにゃりと形を変えるのではないだろうか。
 燃衣はそんな心をくすんだ瞳で見下ろして、立ち上がる。その手に斧をとりだした。
 斧を振ると清の腕を斬り飛ばす。
 切れ味を確認したのち。それでろっ骨をすくいあげるように斬り飛ばした
「があああああああ」
 その切れ間に石突をさしこんで穴を広げるとその穴に燃衣は手を突っ込む。
「燃衣、いいか、お前はこれからも失っていくばかり、取り戻せるものなんて何もない。次はお前の晩だ」 
 その言葉に何も答えず燃衣は清の心臓を引きずり出す。
「もう、関係ありません、疲れました。これで終りになるなら」
 なんでもいい。
 そう血がなみなみに入った心臓を燃衣は握りつぶす。
 全部、全部終わったんだ。
 そう思うと仁菜は膝をつく。
 涙は出てこなかった。
 この光景をみて、結果をうけて、なにを思えばいいかすら分からない。
 燃衣は目を静かに閉じるとまた頬を涙が伝った。
 親友を殺した事、清らの為に死した者たちへの想い。様々な感情が濁流となって溢れ、涙となって流れる。その涙は腕を伝って指を伝って。
 地面に落ちるころには真っ赤に染まっていた。
 そんな暁メンバーに別働隊から連絡が入った。
 あちらでも首尾よくラグストーカーの面々を倒すことが出来たのだと。
 誰が言うでもなく、メンバー全員が施設の外に向けて歩きだす。
 自動ドアを抜けて見ればすでに朝日が昇っていたのか外は白んでいた。
 燃衣のなかの 瞋恚の炎が鎮まってゆく。憎悪のダムがヒビ割れ、涙と共に流れ出てゆくのを感じ。燃衣は顔を上げた。
 この光の中に、いつかみた少女の様に、自分も溶けていく日が来るのだろうか。
 そう燃衣は汚れたジャケットを背中にひっかけて太陽に背を向けた。
「帰りましょう、僕たちの日常に」
 告げて燃衣はその場を後にした。
 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━……・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』
『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001@WTZEROHERO)』
『黒日向 清(NPC)』
『月奏 鎖繰(NPC)』



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 皆さんこんにちは。
 鳴海でございます。この度はOMCご注文ありがとうございました。
 今回は完結編ということだったのでクライマックス感を意識しました。燃衣さんに描写が酔ってしまったところもあるのですが。これまでのシリーズを支えてきた立役者なのでどうかご容赦いただければと。
 今回仇敵を倒したわけですが、ただなにやらまだ不穏な様子? だったのでクライマックスは終わりきらない形で描写させていただいています。
 気に入っていただければ幸いです。それではまたお会いしましょう。
 鳴海でした。
 ありがとうございました。
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2019年03月04日

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