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『信念を抱いて 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001


「はぁーっ!」

 道場の床を蹴り、小柄な一人の少女が小太刀型の木刀を手に跳び上がる。対するは、艶やかな紫色の髪を流した女――不知火あけび(aa4519hero001)[現:日暮あけび]だ。木刀を中段に構えると、振り下ろされた木刀を払い、そのまま摺り足で間合いを詰めていく。少女は地面に降り立った途端、身を屈めて足払いをかけた。
「甘いよ」
 あけびは飛び退いて足を躱し、片手突きを放った。間合いの外からすっ飛んでくる剣先。少女は咄嗟に柄頭で刃を払い除け、再び立ち上がって半身に構える。あけびは上段に構え、娘へ挑発的に対峙した。
「ほら、いつでもどうぞ」
「遠慮なく!」
 少女――娘は飛び出す。喉元へ剣先を向けて詰め寄ったかと思うと、急に少女は沈み、スライディングを仕掛けた。あけびが飛び越えて躱すと、少女は跳ね起きてあけびの背後に剣先を突きつけようとする。あけびは身を捻ると、肘で刀身を叩き落し、そのまま肩口へ木刀を振り下ろす。
「……はっ!」
 娘は咄嗟に手首を返し、逆手に持ち替えた小太刀の剣先をあけびの胸元に突きつけた。互いの木刀が体に触れるか触れないかという時、二人の身体は、時を止めたように静止した。肩口を切り落としにかかるあけびと、心臓を狙う娘。互いに一歩も譲らず立ち尽くす。
 やがて、道場の扉が静かに開いた。
「相打ち、というところだな」
 スーツ姿の日暮仙寿(aa4519)は、二人を見比べ小さく微笑む。少女は小太刀を納めると、小さく頭を下げる。
「お帰りなさい、父上」
「ただいま」
 仙寿は白手袋を静かに脱ぎ、胸ポケットに収める。あけびも乱れた道着の襟を整え、仙寿へと向き直った。
「お帰りなさい。……それにしても、今日は夜中まで本部で缶詰じゃなかった?」
「そうなんだが、予定が変わって、至急リオ・ベルデへ出張する事になったんだ。だから荷物をまとめに帰ってきた」
「リオ・ベルデに? またどうして?」
 後ろに束ねていた髪を解きつつ、あけびが尋ねる。
「ああ。“ブラックコート”と合同訓練を行おうという話になってな。その交渉を行う為に直接顔を出す事になった」
 ブラックコート。その名を聞いたあけびは目を細める。今となっては親しみすら感じるコードネームだ。
「と、いうことは……フィオナとイザベラさんに顔見せしに行くって事だよね」
「三年ぶりになるな。どちらも壮健だといいが」
 彼女達との縁は、当に奇妙だった。友人とは呼べないが、敵というわけでもない。有り体に言えば仕事相手でしかなかったが、会えば食事の席でそれなりに親しく話していた。
「イザベラ・クレイ。以前お話ししてくれた人ですよね」
 娘が仙寿を見上げる。金色の瞳が丸く見張られていた。仙寿は眉を開くと、そっと腰を落とし、その頭をそっと撫でた。
「いい機会だ。明日は二人も一緒に現地へ行こう。……お前も彼女に会っておくといい」
「ですが、迷惑になるのでは……」
 渋る娘に、仙寿はにやりと悪戯っぽく笑ってみせる。
「彼女は世界最高峰のスナイパーだ。教えを受けてみたくはないか?」
「世界最高……」
 娘は黙りこくったまま頬を紅潮させる。どうやら殺し文句になったようだ。そんな二人を見て、木刀を担いだあけびは少々不満げな顔をした。
「まーた銃の話してる」
「いいじゃないか。イザベラのクレー射撃にはあけびだって惚れ惚れしてたろう」
「む……」
 銃より刀なサムライレディは、ほんの少し頬を膨らませるのであった。

 夜。二人はキャリーケースに衣類その他を詰め込んでいた。ワープゲート技術はますます発展しているが、だからといって日帰りというわけにもいかない。
 仙寿は荷物を纏め終わると、欠伸をしながらベッドに倒れ込んだ。持ち出す化粧品を見繕っていたあけびは、そんな彼の横顔に尋ねる。
「イザベラに会わせるっていう話、別に銃を教えて貰うだけが目的じゃないんでしょ」
「そうだ。……そろそろ、あの子にあの『鉄の女』と話をさせておくべきだと思ってな」
 あけびと仙寿は、大学を卒業してからというもの、時折前線に立ちつつ、ジャスティン会長引退後のH.O.P.E.を管理職として支えてきた。戦士としてそんな風に働き続けてきた二人の子、特に能力者と英雄が番って生まれた運命の子となれば、娘は年若の内から同じく戦士を目指し、前線へと飛び出したがるのは当然のことだった。
 同じく幼い頃から戦士だった二人も、ある種それを自然のものとして受け容れていた。
「あの子は強くなった。正直、俺がガキだった頃とは比べ物にならないと思う。……あいつにリベンジする事も、十分出来るはずだ」
「それはそうだよ。だって私達の剣術だけじゃなくて、私の忍術、仙寿の刺客の術まで受け継いでるんだから。それから鉄砲術もね」
 天井を見つめたまま、仙寿はこくりと頷く。『闖入者』の討伐からヴィランの捕縛まで、娘はよくよく活躍していた。
「だからこそ、余計に危うい気がするんだよ。強いだけに、突き当たる壁もより高くなるだろう。俺達が想像できないくらいに高い壁だ。……同じくらい強かったあいつなら、その越え方もあの子に示してくれるだろう」
 言葉を切ると、仙寿は長い溜め息を吐き出す。『彼』との戦いは、最早遠い昔になってしまった。しかし、その出会いを通して見つけた道は、今でも先へ先へと続いている。
「本当はトールにも会わせたかったがな」
「そうだねえ……あの人とあの子が会ったら、一体どんな話をしたんだろう」
「……あいつも助けてやれたら良かったんだがな」

 翌日。ワープゲートを越え、H.O.P.E.リオ・ベルデ支局を出た三人。そこには、見上げ切れないほどに高いビルが立ち並んでいた。娘は茫然とその光景を見渡す。
「教科書で習うのとは、全然違うんですね……」
「質、量優れたライヴス鉱石を保有し、この国は積極的に世界的な研究プロジェクトを受け容れていった。その結果、技術立国として大成した……まあ大したものだな」
 仙寿は目を細める。10数年前が閉ざされた独裁国家だったなど、最早誰も信じられないだろう。隔世の感である。
 物思いに耽っていた仙寿の肩を、あけびはそっとつつく。見ると、政府機関の正門の前に二人の女が立っていた。
「ようこそ、リオ・ベルデへ。お久しぶりです」
 言って、小柄な女性――フィオナ(ゲストNPC)は静かに二人へ手を差し出す。仙寿は微笑み、その手を取った。
「ああ。久しぶりだ。今日はよろしく頼む」
 仙寿は視線をフィオナの肩越しに送った。コートのポケットに手を突っ込んだ、いかにも厳格そうな雰囲気の女――イザベラ・クレイ(az0138)は二人に小さく頭を下げた。
「久方振りだな。日暮殿」
「ああ。息災そうで何よりだ。クレイ副所長」

 話はとんとん拍子にまとまった。アメイジングス部隊の訓練のため、ブラックコートでも指折りの隊員達がH.O.P.E.に派遣されることとなった。
 しかし、帰るまでにはしばらく時間がある。その時間を使って、仙寿は娘の教練をイザベラに頼む事となったのであった。

 乾いた銃声が、射撃練習場に響く。拳銃を構えたイザベラは、寸分狂わず的のど真ん中を撃ち抜いていた。
「……と、照準の合わせ方を理解していれば拳銃でも狙い通りに当たる。やってみろ」
 イザベラは拳銃を娘に手渡す。しかし、少女はぼんやりとイザベラを見つめるだけだ。
「どうした」
 彼女は眉を寄せ、ぶっきらぼうな口調で尋ねた。世間では彼女の事を『第二の鉄の女』と表現しているが、当にその通りの立ち居振る舞いである。娘は銃を胸に抱きしめたまま、おずおずと口を開く。
「質問があります」
「質問? 何だ」
 眉間に皺寄せ、ずり落ちかけた眼鏡を掛け直す。そんな渋面を見つめて、娘は尋ねた。
「イザベラさん……貴方を英雄だという人も、悪党という人もいます。私もよく分かりません。……貴方の話を両親から聞いて、怖くなりました。私も両親のように、自分を誰かを救う刃であると信じたいと考えています。でも、正しい心を持っていても手段を間違えた為に悪になったり。心が邪でも、やっている事は正しかったり。……父上だって人を手に掛けたことがある。私は正しく在れるのでしょうか。その正しさは誰が決めるのでしょうか」
 少女の吐露を隣で聞いていたイザベラは、静かに的を顎でしゃくる。
「まず撃ってみろ」
 言われるがまま、構えて引き金を引く。どんなに気を抜いても普段は的に当たるのに、この一発は大外れしてしまった。少女は目を丸くする。
「何故当たらなかったと思う」
「え?」
「揺らいでいたからだ。己の心が」
 イザベラは少女の手からするりと拳銃を抜き取り、背後に立っていた仙寿にその銃把を突き出す。
「撃ってみろ、日暮」
「ん? ……ああ。構わんが……」
 仙寿は銃を受け取ると、黙って狙いをつけ、的のど真ん中を撃ち抜く。それを見届けた彼女は少女に向かって静かに口を開く。
「銃は心で撃つものだ。構えと照準の合わせ方を理解しても、心が伴わなければ当たらん」
「心が……」
「そうだ。誰の命も平等である以上、戦いに正しいも悪いも無い。どちらの信念が強かったか、ただそれだけだ。まあ、それを理解し貫けるかは別問題であるがな」
 イザベラは仙寿達の顔を一瞥する。
「私もそこの奴らに負けた。私が考えている以上に、希望を切り拓こうとする刃は鋭かったのだよ。だから、お前も自分で自分を疑うな。自分が為す事と結果を受け容れる覚悟を持て。……そうすれば、弾は絶対に外れん」
「……はい」
 少女は再び渡された拳銃を構える。ぴたりと狙いを定めると、的の中心を確かに撃ち抜いた。

 仙寿とあけびは、そんな二人のやり取りを見つめていた。一等の狙撃手の教えは見事なものだったが、あけびは仙寿にこっそりと耳打ちする。
「イザベラって、もっと理詰めで授業するのかと思ってた」
「冷たそうに見えるが、熱心でなければあれだけのことはやり抜けないだろう」
 イザベラは振り返って歯を剥き出す。
「聞こえているんだがな。そこ」
「すみません」
 二人は慌てて肩を縮める。そこも息がぴったりだ。イザベラはうんざりした顔をする。
「全く、お前達は歳を食っても仲良しこよしだな。羨ましいものだ」
「それはそうですよ。二人で幾つも死線を潜り抜けてきたんですからね。イザベラさんこそ、誰かお相手を見つけたりはしないんですか?」
「生憎。……そういったものに興味を持つ機会は無かった」
 仏頂面でイザベラは応える。その堅苦しい佇まいに、二人は揃ってぴんと背筋を伸ばした。すると、イザベラはふと頬を緩める。
「まあ、この娘にとって良い父と母でいたまえ。君達ならば重々承知の事と思うが」
 仙寿が目線を下ろすと、娘が真っ直ぐに彼を見上げていた。仙寿は微笑むと、イザベラに向き直り、その穏やかな目を見つめた。
「もちろんだ。良い示しとなるよう常に心掛けている」

 イザベラと娘との邂逅を終えてから、数日が経った。任務に事務にと相変わらず忙しく過ごしていた日暮家であったが、その日はちょっとした変化が起きようとしていた。
「母上!」
 娘の凛とした声が屋敷の廊下に響き渡る。振り返ったあけびは、その娘の装いを見て目を丸くした。
「へえ……?」
 少女は普段の和装ではなく、白軍服風のワンピースを着付けていた。腰に差した刀の鞘や拵えも、装飾豊かで華やかなものとなっている。
「どうでしょうか。仁科さんにお願いして、グロリア社で仕立てて貰ったのですが……」
「よく、似合ってると思うよ?」
 華やかなその姿は、当に天使が降り立ったかのようだ。突然の事に、あけびは目を奪われるほかにない。
「母上。私はもっと強くなります。私の進む道を信じる強さを得る為に。……両親に代わって、あの方にリベンジする為にも」
 娘はふっと微笑む。これまでも直向きだった少女の眼に、力強ささえ宿っていた。
「では、任務に行って参ります」
 そっと会釈した娘は、踵を返して歩き出す。

 あけびはただ娘の背中に見惚れていた。仙寿はその肩に手を載せ、ちらりと視線を交わす。
「俺達も、しっかり見守ってやらないとな」
「うん。……そうだね。あの子は刀と銃を使いこなす、新時代のサムライガールになるんだから!」
 日暮家の未来は、間違いなく明るいものであった。


 終






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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日暮仙寿(aa4519)
不知火あけび(aa4519hero001)
イザベラ・クレイ(az0138)
フィオナ(ゲストNPC)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
ちょっと納品が遅くなってしまってすみません。
リオベルデ周りの設定を詰める為にしばらく塩漬け状態になっていました。
仙寿くんもあけびさんももう三十路という事なので、多少振る舞いは落ち着いたものにしていますが、いかがでしょうか。何かありましたらリテイクをお願いします。
(修正しました。確かにちょっとややこしかったかもですね……)

ではまた、御縁がありましたら。


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2019年03月07日

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