▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『見知ったともし火 』
ファルス・ティレイラ3733

 夕焼け空に、翼と尻尾のはえたシルエットが一つ。配達屋さんの、ファルス・ティレイラだ。
 背からはやした彼女の竜の翼を、すれ違い様に風が撫でていく。ティレイラが奇妙な声を聞いたのは、配達の仕事を終えて帰るそんな途中の事であった。
 ――けて。誰か。
「ん?」
 どこかから聞こえてきたその声に、少女は首を傾げる。周囲をキョロキョロと見渡してみても、そこにいるのはティレイラただ一人。夕焼け空には、鳥一羽すら飛んでいなかった。
 ――助けて。お願い。
 けれど、その声は再び聞こえた。
「え? 誰?」
 聞こえたというより、頭の中に響いたと言った方が正しいかもしれない。まるで直接頭の中に声をかけられているかのように、脳内でその声が反響する。
 ――少しだけ街灯持ちの仕事をかわってほしいの。お願い。ここまできて。
「わかったわ! ちょっと待ってて!」
 魔力のあるティレイラだからその声を聞く事が出来たのか、それともたまたまただったのかは分からない。けれど、誰かが自分に助けを求めている事は確かだ。その声を無視する事などティレイラに出来るはずもなく、彼女は慌てて声に集中し少女の指示する場所へと進路を変えた。

 少女の声に従うままに飛んだティレイラがやがて辿り着いたのは、人通りの少ない路地に面したとある建物だった。古びた建物ではあるものの、綺麗な装飾が施されていてティレイラはつい見惚れてしまう。中でもティレイラの目を引いたのは、路地を照らすために立てられている街灯を持った女の子の石像だ。
 ティレイラはまるで誘われるかのように、その石像の前へと歩いて行く。少女の石像は、何も言わない。けれど、動けぬ彼女はそれでも必死にこちらに何かを訴えてきているかのようにティレイラには思えた。
「街灯持ちの仕事って事は……もしかして、さっきの声はあなたのものだったの……?」
 ――お願い。私の手にある街灯を外して。
 ティレイラの問いかけに答えるかのように、再び頭の中に少女の声が響く。やはり、助けを求めているのはこの石像に間違いなさそうだった。
 少女の声に従い、ティレイラは石像が持っていた街灯を手に取る。街灯には何らかの術がかけられていたのか、触れた箇所から魔力が伝わってくるのをティレイラは感じた。それと同時に、石像はまるで呪いが解けたかのように、瞬く間に人間の女の子の姿へと変わっていく。
「わっ、ビックリしたぁ。あなた、人間だったの?」
「そう、よかった! 誰も来てくれないかと思ってたから!」
 久々に自由になった身体を見下ろし、少女は嬉しそうに笑ってみせた。無邪気に喜ぶ少女の様子に、ティレイラも嬉しくなり笑みを返す。
「やっと自由になれたわ、ありがとう! 代わりの石像の役をお願いね!」
「え? 代わり? 石像?」
 しかし、ティレイラのその笑みは、少女の口にした不穏な言葉により引きつったものへと変わってしまった。嫌な予感が、ティレイラの心を覆い尽くす。不意に感じた違和感に、ティレイラは自分の身体を見下ろした。
「え!? う、嘘でしょ!?」
 嫌な予感というのは、どうして当たってしまうものなのだろうか。ティレイラの身体は、街灯を持っている手から徐々に石へと変わっていってしまっていた。慌てて街灯を手放そうとするが、もうすでに固まってしまっている手はティレイラの言う事を聞いてはくれない。
 じわじわと、石化は手の先から徐々に範囲を広げていく。腕の次は胴体、その次は……完全に石化してしまうのも、時間の問題だろう。
 ティレイラは、以前身体が固まってしまった時の事を思い出していた。過去に何らかの事情により身体が固まってしまった事は、一度や二度ではない。かといって徐々に身体が侵食されて行き自由がなくなっていく感覚に慣れる事は難しく、ティレイラはいつもあたふたとしたへんてこなポーズで固まってしまうのだ。
(は、恥ずかしい格好はいや! どうせ固まるなら……!)
 石になっていく恐怖に震える身体を、ティレイラは叱咤する。そして咄嗟に、彼女は可愛らしいポーズを決めてみせるのだった。
(意識はなんとか残ってる……けど、全然動けない! どうしよ〜!?)
 とうとうティレイラの身体は完全に石にコーティングされ、石像と化してしまった。彼女の必死の抵抗のかいがあり意識は残っているものの、瞬き一つ出来やしない。
(助けにきたのに、なんでこうなるの!? ねぇ、あなた!)
 動かぬ唇でティレイラが不満を叫ぶのも当然の事だった。けれど、そんな当たり前の嘆きすらも声になる事はもはや叶わない。ティレイラの喚き声は、彼女の心の中でだけ響き渡るのだ。
「久々に遊びに行けるわ! ありがとう! 今度お礼に美味しいお菓子持ってくるから!」
(お菓子……! い、いや、そういう問題じゃないわ! 今度っていつなの!?)
 少女はティレイラの事など気にもとめず、「じゃあね」と手を振りさっさとその場から走り去っていってしまった。
(わ、私どうなっちゃうの!? ねぇ! ねぇってば〜!)
 もうすでに、少女の後ろ姿すらここからは見えない。人けのない路地には、可愛らしいポーズで街灯を持ったティレイラだけが取り残されてしまうのだった。

 ◆

 ただでさえ人通りの少ない路地は、夜になると更にしんと静まり返っている。石像が持っている街灯のうすぼんやりとした明かりしかない路地は、どこか物寂しく不気味に映り近寄る者は少なかった。
 しかし、オカルトに関する情報を求める瀬名・雫にとっては逆に心惹かれる場所である。今日もまた、帰り道であるその路地を歩きながらも雫の瞳は自然と"そういった類の何か"がないかと探していた。
 そして、不意に見知った顔がそこにある事に気付き少女は足を止める。
「え、ティレイラちゃん?」
 雫の丸い瞳が、驚きに見開かれる。名前を呼んだ相手からの返事は、ない。
 当たり前だ、そこにいる友人は友人そっくりな姿をしているが、街灯を持った石像に過ぎないのだから。けれど、この髪型、顔……背にはえた翼や尻尾は、雫の知るティレイラのものに違いなかった。
「ティレイラちゃん、だよね? なんでこんな姿に……? また何かトラブルに巻き込まれちゃったの?」
 心配そうにティレイラを見ていた雫は、変わり果てた姿の相手へとそっと優しく触れる。触れた箇所は冷たい。普段の温かく柔らかなティレイラの肌とは似ても似つかない、無機質な石の感触。
「わわ、すごい、ひんやりしてる! こんなに精巧なオブジェって初めて見た。魔法? それとも呪いなのかな?」
 だんだんと、ティレイラに触れる雫の手に遠慮がなくなってくる。
(触ってないで助けてよ〜!)
 ティレイラは必死に助けを求め叫んでいたが、その言葉はやはり声になる事はない。
 もっとも、声に出来たところでそれが夢中になってしまっている雫の耳に届いたかどうかは分からないが。ティレイラの持つ街灯が照らし出す雫の瞳はうっとりと細められており、その手は好奇心のままにティレイラの身体を弄ぶのだった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】
【NPCA003/瀬名・雫/女/14/女子中学生兼ホームページ管理人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
愛らしい街灯持ちになるティレイラさんのお話、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。可愛いポーズを取ってしまうところが大変微笑ましく、楽しく執筆させていただきました。
お気に召すお話に出来ていましたら幸いです。何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡ください。
このたびはご発注、誠にありがとうございました。また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月04日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.