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『『3年目のバレンタイン』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 2月の半ば。
 チョコレートがならぶ催事場が女性客で賑わうこの時期に、アレスディア・ヴォルフリートは1人、キッチンに籠っていた。
「むぅ……」
 唸り声をあげる彼女の眉間には皺が寄っている。
(思いの外長く床に臥せってしまい……もうすぐバレンタインだというのに、ただの一度も予行演習ができなかった……)
 手の中にはお菓子作りの本がある。なんとか買い出しにも行けたため、定番の材料も一通りそろってはいる、のだが。
 本を眺めれば、これなんかどうだろうか、と思えるお菓子もある。
(……作るなら一度試してからにしたかったのだが……ここは、ぶっつけ本ば……)
 材料に視線を移すも、アレスディアは首を左右に振る。
(……いや、人に贈るものとしてそれはあまりにリスキー……)
 そして、深くため息をついて、彼女が手に取ったのは生クリーム、だった。

 翌日――2月14日。
 アレスディアはディラ・ビラジスと久しぶりに外で待ち合わせをしていた。
 日当たりの良い公園の隅の方。目立たない場所に、彼は先に来ていた。
 声をかけるより早く、ディラはアレスディアに気付き、指をさして近くのベンチに誘ってきた。
「調子はどうだ?」
「大丈夫だ。ディラは?」
「もうなんともない」
 互いを気遣い合いながら、ベンチに並んで腰かける。
 2月にしては温かく、天気は穏やかな晴れ。
 薄い雲が、太陽の光を優しい光に変えてくれていた。
 座ってすぐ、アレスディアは手提げかばんの中から綺麗にラッピングされた小箱を取り出す。
「今年も……作った、んだが」
 小箱を差し出すアレスディアの表情は、恥ずかしげではなく、渋い顔。
 礼を言いながらディラは受け取るも、アレスディアの嬉しそうではない表情が気がかりだった。
 嫌々というわけでは、ないだろうが。
「どこか痛むのか?」
 ディラの言葉に、アレスディアは首を左右に振る。
「体は大丈夫だ。それは本当なんだが……知ってのとおり、最近まで怪我の治療で床に臥せっていて……その……」
 伏し目になる彼女は、照れているわけではなく、ディラには困っているような顔に見えて。僅かな不安を覚えた。
 そんなディラの気持ちを察し、アレスディアは観念したかのように一つ大きく息をついて言う。
「今回は、練習、できなかったんだ……」
「練習?」
 こくりと頷き、アレスディアはため息交じりに続ける。
「日常の料理ならば、ともかく、菓子は……得意とは、言えぬ……ディラに贈るものだし、何かあってはならぬと、一度は試しに作るのだが……」
 ディラは包みを開いて中を見る――入っていたのは、手作り感あふれたトリュフだった。
 アレスディアは眉を寄せて唸っていたが、諦めたかのように言う。
「そういうわけで……すまぬ。芸のないことではあるが、一度作ったことのあるものならそう失敗はすまいと、トリュフにした……まぁ、形はあまり上達しておらぬが、味に問題はないはずだ」
 苦笑気味な彼女にディラは「ありがとう、嬉しい」と返して。悪戯気にこうも続ける。
「他にあげた相手は?」
「む? 何故あげねばならぬ。義理チョコの習慣はあるが、さほど気心知れぬ相手から手作りのものを渡されても気が引けるだろう。それとも、贈らねば失礼か?」
 そうかとディラは軽く笑い、トリュフを1個、口に運んだ。
「うん、美味い。この苦みが強めなところとか、俺好みにしてくれてるんだろ? これからもずっと、俺がアレスの傍に居る限り、俺だけでいいから」
 素直に頷きかけたアレスディアだが……少し、ひっかかりを覚えてしまい、彼女の寄せられた眉が戻ることはなかった。
 傍に居る限り、という言葉。
 2人、別の人間である以上、いつか別れは訪れるのだろうけれど。
「……なぁ、クリスマス前に言ったこと、覚えているか?」
 アレスディアがディラを見上げる。
「勿論」
 ディラは、アレスディアの青い瞳を切なげに何かを訴えるかのような目で見詰めていた。
 瞳を揺らし、少し考えた後、意を決しアレスディアは続く言葉を口にした。
「今度……一緒に、部屋を探さないか?」
「今度といわず、今すぐ行きたい。けど、アレスの身体が心配だから」
 両腕を広げて、ディラはアレスディアを包み込んだ。
「湯治にいかないか? もう少し体力が回復してから、2週間くらい……お返しも、そこで」
 ディラからのお返しは……彼に任せると予想外なものとなることが多い。
 しかし、遠慮をするのも、拒否するのも何か違う。彼の想いが籠ったものが、欲しくないわけではないのだから。
「残りは、大切に部屋で食べさせてもらう。早く元気になれ」
 髪を撫でながら、ディラは切なげな声で、囁く。
「チョコよりもっと欲しいもの、食べたいものがあるって、知ってるか?」

 軽く散歩をして、その日は食事も共にせずに2人は別れた。
 来月訪れる3回めのホワイトデーの頃には、アレスディアの身体も随分とよくなっているだろう。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターの川岸です。
時系列順にとも考えましたが、ホワイトデーが近づいてきてしまいましたので、こちらを先に納品させていただきます。
次回ディラは指輪を贈り求婚……とはちょっと違うかな、交際を申し込むよりは、プロポーズに近い告白をすると思います。
ご依頼いただける際には、アレスディアさんの反応をお願いいたします!
イベントノベル(パーティ) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月05日

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