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『あの日の忘れもの 』
ジェーン・ドゥ8901

「なぁ、知ってるか?」

「あぁ、最近有名な奴だろ。いつも人形持ってるっていう」

「そうそう……」

『人形』

 その言葉にジェーン・ドゥ(8901)は足を止める。
 青年達が話すには、木偶人形を使う腕のいい奇術師がこの街にきているのだという。
 ふと、いつか摘み損ねた少年の姿が脳裏に浮かぶ。

「まさか、ね」

 あれから四半世紀も経っている。
 あの時渡した人形を彼が今も持っている可能性は低い。
 それでも、もしかしたら。
 そんな思いに駆られてジェーンはマジックショーを見にいくことにした。

  ***

 雨にもかかわらずそこまで広くない会場は満員に近かった。
 一番後ろの席に座ったジェーンに隣に座っていた老人が声をかけてくる。

「今日のマジシャンはうちの近くに住んでた子なんですよ。いつも1人でいたのを見ていたもんですから嬉しくなっちゃってね」

「そうですか」

 淡々とそう返すジェーンに老人は気を悪くした様子もなく話を続ける。

「……だったのですよ。お、出てきましたな。立派になって……」

 青年の名を呼び拍手を贈る老人。
 聴き覚えのある名に、やはりあの時の少年なのかとジェーンも舞台に目を向ける。

「さあ、僕の素敵な相棒にも挨拶してもらわないといけませんね」

 挨拶もそこそこに、青年は肩に乗せていた木偶人形を紹介する。
 ジェニーちゃんと紹介された人形は青年の手によって恭しく礼をする。

 あれはジェーンの[オトモダチ]だった人形だ。
 まだ持っていたの、そうジェーンは思った。

「?」

 妙な違和感を感じてジェーンは自分の胸に手を当てる。
 感慨も何も感じない。
 そのはずなのに、この感覚はなんだろう。
 先日摘んだ少女にも感じたこれは何だろう。理由を考えるが、思い当たる節はない。
 主の傀儡であるジェーンに限って体調不良ということも考えられない。

「ただの人形かと思われるかも知れませんが、実はマジックは僕ではなくジェニーちゃんがやるんですよ。だから、どちらかというと僕がアシスタントなんです」

 にこやかに微笑みながら挨拶がわりのマジックを披露する。

 言葉の通り、人形がマジックをやっているように見える様に人形へも声援が飛ぶ。

  ***

 奇術師があの時の少年だと確認したら帰ろうと思っていたジェーンだったが、そのマジックに目を奪われてか、結局最後まで見てしまった。

 青年と目があったのは、残っている観客がまばらになった頃、帰ろうかと立ち上がった時だった。

「……!」

 一瞬の出来事。

 その一瞬の出来事に、目を見開き息を呑む青年だったが、ジェーンはそれに気がつかない。

 そのままジェーンが会場を後にすると、雨はまだ止んでいなかった。

 会場を出ると共に消えた違和感に、この天気と人が多かったせいだろう、と結論づけて傘を開く。

「そういえば……」

 一度だけ会場の方を振り返る。

(どうして来たいなんて思ったんだろう)

 ふと、ジェーンはそう思った。

(摘み損ねた標的がどうなったか見たかったから?)

 内心ジェーンは首を傾げる。

 ジェーンが摘み損ねた標的は数こそ少ないが彼だけではない。
 主のものになってすぐの頃は、うまく関係を築けず摘み損ねることもあった。
 だが、彼らがどうなったのかなど興味を持ったことはないし、今も興味はない。

(どうして……?)

 いくら考えても答えは出ない。

「……きっと気まぐれね」

 現に、たまたまそんな話を聞くまで彼のことなど思い出しもしなかったのだ。

 だからこれは気まぐれ。
 そうに決まっている。
 そう考えれば納得できる。

 答えの出ない自問自答に彼女は半ば強引にそう結論づけ歩き始めた。

「ジェニーちゃん?!」

 少し歩いたところでどこかで聞いた様な声が聞こえた気がした。

 隣を見ると、今日の公演を見に来ていただろう親子連れがあの木偶人形の話をしている。

「そうだね。ジェニーちゃん、凄かったね」

「うん!」

 この子があげた声か、そう考えてジェーンは帰路に着いた。

(私をジェニーちゃんなんて呼ぶ人間はいないのだから)



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8901 / ジェーン・ドゥ / 女性 /20歳(外見年齢)/ 失くしたものは戻らず 】
東京怪談ノベル(シングル) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月06日

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