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『心が綻ぶ瞬間 』
黒の姫・シルヴィア8930)&紅の姫・緋衣(8931)&黒の貴婦人・アルテミシア(8883)&真紅の女王・美紅(8929)

 アルテミシアはシルヴィアの誓いを破ることはなかった。

「アルテミシア様……」

 そんな姿勢に敬愛の情を持ったのか、シルヴィアは宴の直前には自分からの口付けもほとんど躊躇ないなくするようになっていた。

「そんなにされると離れがたくなってしまうわ」

「ありがとうございます」

 軽口のようなアルテミシアの声にも嫌悪感は浮かばない。

 近くへ侍り、触れ合いながらも愛を交わすことはなく同じ時を過ごす。

 紅の女王の元にいた時とは違う時間の流れ方もどこか心地よいと思うようにシルヴィアはなっていた。

「支度をしましょうか」

「はい」

 宴でシルヴィアが着るためだけに用意されたドレスをアルテミシアが手ずから着付けていく。
 アルテミシアの指がメイクのために肌を踊るのが心地よい。

「さあ、アルテミシア様も」

 宝飾品で飾られたシルヴィアが今度はアルテミシアの着付けを手伝う。
 その様子は誰が見ても長年連れ添った姫と女王のようだ。

「さあ、行きましょう」

 差し出された手を取ってシルヴィアはアルテミシアと共に宴の会場へと歩き出した。

  ***

「本当にいろいろな方がいらっしゃるのですね」

 紅の姫・緋衣(8931)は周囲を見渡し小さく感嘆の声を上げた。

 豪奢な装飾の部屋に並ぶのは色とりどりの酒と、料理。
 そして、見目麗しい女王とその姫たちが言葉を交わし、微笑みあっている。
 さながら絵画で見るような中世の舞踏会の様だ。

「さあ、今日の主催者にご挨拶なさい」

「本日はお招きいただきありがとうございます。黒の御方」

 真紅の女王・美紅(8929)に言われ緋衣は恭しく頭を下げる。

「あら、紅の女王の新しい姫ね、初めまして。名前はなんていうのかしら」

「緋衣と申します」

 黒の貴婦人・アルテミシア(8883)は、初めて会ったような態度で2人に接した。

「アルテミシア様、貴女の姫も紹介してくださらない?」

 美紅の声にそうね、とアルテミシアは傍らにいた黒の姫・シルヴィア(8930)を1歩前に出させる。

「私の新しい姫、シルヴィアよ」

「シルヴィアと申します。本日はお会いできて光栄です。紅の君、緋衣様」

 そう言って、手袋越しに美紅の手の甲へ口付ける。
 その動きは宴に何度も出ているかのように慣れていた。

「シルヴィア様の御召し物とても素敵でいらっしゃいますね」

「ありがとうございます。ですが、緋衣様の御召し物程では御座いません。とてもよくお似合いですわ」

 緋衣の言葉にシルヴィアは微笑む。
 モノトーンのドレスと銀で統一された指輪やティアラはその所作と相まって、数日前まで紅に身を染めていたとは思えない程にシルヴィアを黒の姫らしくしている。

「褒められたのだから素直に受け取りなさいな」

 自分の姫を褒められて気分を良くしたのか、アルテミシアがクスクスと笑い、シルヴィアの頬へ口付ける。

 少し頬を染め口づけを返すシルヴィアの姿に緋衣は少しだけ不快感を覚えた。

(仮初の姫であるにもかかわらず、真の主の前で他人と口づけを交わすなんて……でも……)

 宴に参加するのはシルヴィアも初めてのはず。
 だから、美紅はシルヴィアを貸したのだ。
 ということは、

(宴で美紅様の供をしたことがあるのは私だけ)

 そう考えれば不快感は優越感へと変わる。
 初めての宴をよく知りもしない女王の供として参加しなければならないシルヴィアに同情すら覚える。

(美紅様……)

 一方のシルヴィアは真の主の名を呼べない現状を少しだけ歯がゆく思っていた。
 数日間、アルテミシアの元で誓いを尊重されながらも愛され、分かったことはこの女性は尊敬に値する人物だということだった。
 美紅が友人と言うだけのことはある。
 だが、

「美紅様と初めて会ったように……ですか?」

「ええ、それから、その呼び方はいけないわ。自分の女王以外の貴婦人を名前で呼ぶのは宴には相応しくないもの」

 宴の前にそう言われたことだけが気になっていた。

(今はアルテミシア様の姫。でも、私は美紅様の姫なのに……)

 だが、宴にふさわしくないと言われてしまえばどうしようもない。
 2人の女王には互いの姫の心が手に取るように分かる。

(それにしても……短期間でよくここまで……)

 美紅はシルヴィアの立ち振る舞いに満足していた。

 自分の姫として振舞っていた時は、それが当然であるような気がしていたが、他人の姫として見ると言葉も立ち振る舞いも完璧だ。
 自分のところにいた時とは違う髪型やメイクのせいだろうか、本当に初めて会った姫であるような気さえしてくる。
 そこまでシルヴィアを変えたアルテミシアとの交わりはどこまで深いものだったのだろうと考えると暗い笑みが浮かぶ。

  ***

 しばらくして、他の貴婦人達と談笑していた美紅がアルテミシアの元へ戻ってきて何やら耳打ちをした。

「ええ。構わないわ」

 アルテミシアが頷くと、美紅は緋衣にアルテミシアの元にいる様に、シルヴィアに暫くの間美紅に同行するように命じる。

「「かしこまりました」」

 2人の姫が丁寧に頭を下げると、早速と言うかのように美紅はシルヴィアを庭の薔薇園へと誘った。

「よくやっているわね。シルヴィア。貴女を彼女に貸したのは正解だったわ。緋衣ではこうはいかなかっただろうから」

 宴でずっと様付けで呼んでいた美紅がそう呼んだのは誰もいないからだろう。

「ありがとうございます。その言葉を聞けばアルテミシア様もきっとお喜びになるかと思います」

 満足そうな本来の主の言葉にも、あくまでアルテミシアの姫として振舞おうとするシルヴィア。
 彼女の誓いや契りを重んじる姿勢を美紅はとても気に入っている。
 もちろん、この態度にも満足だ。
 だが、

「今は誰もいないわ。無理に演じる必要はないのよ」

 甘いささやきと共にそっと抱き寄せればシルヴィアの瞳がほんの少しだけ見開かれる。

「そのような……っ」

 拒絶の答えは聞いていないとばかりに美紅によって塞がれる唇。
 歯列の間から入ってくる甘い香りに頭の芯がしびれていく。

「お戯れはお止め下さい」

「良いじゃない。貴女も我慢できないでしょう」

 胸へと伸びる手と耳元で囁かれる甘く淫猥な言葉。

(どうして……)

 アルテミシアの姫として振舞えと言ったのはほんの数日前のことだ。
 それなのに、自分が昂っているからといって、どうしてこんな振る舞いをするのかシルヴィアには理解できない。
 ドレスの上から触れる手はいつも愛されるそれと同じで、このまま許してしまえばどこまでも深く愛されそうだと思うとシルヴィアの中に嫌悪感が広がっていく。

(アルテミシア様は私の気持ちを重んじて下さったのに……)

 本来の主がいるからと唇へ触れることを避けてくれた黒の女王の姿が脳裏をかすめる。
 そんな心とは裏腹に、紅の女王からの愛を覚えている身体は昂り白い肌を薄桃色へと変えていく。

「ほら、やっぱりシルヴィアも欲しいのでしょう」

 甘くなっていくシルヴィアの吐息に満足そうに美紅は微笑んだ。

  ***

 会場に残された緋衣はどこか落ち着かない様子で薔薇園の方を見つめていた。

 アルテミシア以外には分からないほど微かにだがその瞳には、嫉妬が滲んでいる。

(ほぅ……)

 本人も自覚していないだろう彼女のその感情がアルテミシアには面白くてたまらない。

「大丈夫よ。貴女は美紅の姫として完璧だもの。姫になって日が浅いとは思えないわ」

 そんな彼女に、アルテミシアは飲み物を勧める。

「ありがとうございます」

 黒の女王の言葉に少しだけ安堵する緋衣だったが、心のもやもやは消えない。

「今までのどんな姫より彼女の姫として相応しいと思うわ」

 アルテミシアと美紅の付き合いは長いと聞いている。
 その彼女が言うのであればそれは真実なのだろう。
 それに、美紅が手元へ置くことを選んだのは私なのだ。
 その自負が緋衣の優越感をさらに高めていく。

「自慢の様になってしまうかもしれないけれど、私のシルヴィアも負けないくらい素敵だと思うの」

(え?)

 真に迫る言葉に緋衣は少しだけ目を見開く。

(仮初の姫のはずではなかったの?)

「ああ見えるけれど、私の前ではとても可愛いのよ」

 契った時の様子や、始めて口づけを交わした時のこと、肌を重ねた時のことを楽しそうに語るアルテミシア。

(美紅様の姫でありながら、この方の愛を受け入れたというの?)

 緋衣の知るシルヴィアはそんなことをするような姫ではない。
 だが、アルテミシアの口ぶりでは何度も愛を交わし合ったかのように聞こえる。
 実際、そんなことはないのだが、先程、仲睦味い様子を見てしまった緋衣には2人が深く愛し合った姿が鮮明に想像できてしまう。

(なんてことなの……)

 忠義に厚いシルヴィアがそんなことをするはずがない。
 そう思いなおすが、一度芽生えてしまった疑念を晴らす材料がどこにも見つからない。
 むしろ、アルテミシアの言葉が耳に入れば入るほど疑いは強くなっていく。

(こちらの姫も存外面白いわね)

 緋衣を姫として伴い、宴の途中でシルヴィアと2人きりになる。
 そんな美紅の趣向に興味がわいて同行するように指示した。

 それは2人の女王の計画のためだとばかりアルテミシアは思っていたが、緋衣に優越感と嫉妬を同時に抱かせる意図もあったようだ。

 ちらりと薔薇園の方へ視線を移すが、見えるのは月光に照らされる薔薇ばかりで2人の姿は少しもは見えない。

 だが、紅の女王のことだ、どんな言葉をかけどんなことがしているのかは想像に易い。
 そして、シルヴィアがそれに対してどんな思いを抱くのかも。
 2人の姫の感情がこんなにもはっきりと見えるとこの後がますます楽しみになってしまう。

(さあ、この後はどうなるのかしら)

 そっと瞳を伏せる緋衣の様子に気づかぬふりをしながらアルテミシアは紅の姫として緋衣を賛辞し、黒の姫としてシルヴィアを褒めるする言葉を続けるのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8930 / 黒の姫・シルヴィア / 女性 / 22歳(外見) / 戸惑いは不信へ 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / 淫蕩への誘い 】

【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 偽りの誠実 】

【 8931 / 紅の姫・緋衣 / 女性 / 22歳(外見) / 落とされた黒い染み 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月08日

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