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『染みは広がり 』
黒の姫・シルヴィア8930)&真紅の女王・美紅(8929)&黒の貴婦人・アルテミシア(8883)&紅の姫・緋衣(8931)

「どうかしたの?」

「い、いえ」

 宴は滞りなく終わった。

 だが、黒の姫・シルヴィア(8930)の表情は浮かない。
 誓いを交わした部屋へと戻ったシルヴィアに黒の貴婦人・アルテミシア(8883)は心配そうに声をかけた。
 首を横に振りシルヴィアは微笑むが、やはりどことなく思い悩んでいるようにアルテミシアには見える。

 シルヴィアは宴で真紅の女王・美紅(8929)と唇を交わし交わったことをずっと悔いていた。

 本来の主との間であれば問題のない行為。

 だが、一時的にとはいえ今のシルヴィアはアルテミシアの姫だ。

 宴に来ていた貴婦人の中には他の姫にちょっかいを出す好色な人物もいることは話に聞いて知っていたし、実際にそういう場面も目にした。

 だが、美紅は自分が契りを重んじる質だと十分すぎる程に知っているはずだ。
 だからこそ薔薇園での彼女の振舞いに黒いものが胸の中に広がる。

(どうして美紅様は……)

 だが、アルテミシアにそのことを言う訳にもいかない。

 招待客である美紅が、仮初とは言え他人の姫に手を出したことを知れば美紅の名が汚れてしまう。
 それに、2人は友人だ。
 最悪の場合、2人の間に不和が生まれるかもしれない。
 自分のせいでそんなことになるのは避けねばならない。
 そう思うと、これは自分の胸に閉まっておくべきことだということは明白だった。

 幸いにも薔薇園での昂りはもう収まっている。
 そう言ったことに敏感な黒の女王といえど、薔薇園から戻った直後ならいざ知らず、今の自分を見て何かあったとは思わないだろう。
 だが、ばれないからそれでいい、という風には思えない。

「そういえば、ホールから庭が見えないのをいいことに他の姫に懸想し、あまつさえ愛してしまった貴婦人がいたらしいわね」

 シルヴィアの心臓が跳ね上がる。

(美紅様のことだわ)

「宴の場では言わなかったけれど、私個人としてはあまり好きではない行為だわ。ちょっかいを出すくらいなら良いけれど、自分の愛すべき姫がいるのに他の姫を、それも公の場で愛するなんて少し淫乱が過ぎるのではないかしら」

『淫乱』

 その言葉が、今までシルヴィアの中で言葉にならなかった美紅の行為に対しての明確な言葉としてすとんと落ちてくる。

(美紅様は淫乱なのかしら……)

 そんなことはない。
 あれはただの戯れだ。

(そう、きっと私がちゃんとアルテミシア様の姫として振舞えるかを試したのだわ)

 そう何度自分に言い聞かせても、一度繋がってしまった淫乱という言葉と美紅の姿が切り離せない。

 一層曇るシルヴィアの表情にアルテミシアは手招きする。

「慣れない宴で疲れてしまったのかしら。ドレスも窮屈でしょう? いらっしゃい。脱がせてあげるわ」

 そう優しく言いながら手招くアルテミシアに申し訳ない思いになりながらもシルヴィアは招かれるまま女王の前へ立つ。

「少し汗ばんでいるわね。暑かったかしら」

「いえ、緊張していたので……」

 そんなことを言いながら瞼や頬へ優しくキスを落としドレスに手をかけるアルテミシア。

 美紅の残り香や行為の甘い残滓に気づかれやしないかと冷や冷やしながらシルヴィアも言葉を返す。

 衣擦れの音がしてドレスが床に落ちるのとアルテミシアがシルヴィアを抱きしめたのは同時だった。

「ア……アルテミシア様?」

「少しだけこのままでいいかしら。シルヴィアにとっては仮初だったかもしれないけれど、私は本当の姫の様に感じていたの。だから少しだけ。お願い」

「そんな。私などに勿体ないお言葉です」

 腰へ手を回し、愛おしそうに頬や額へ唇を落とす黒の女王の髪や頬へ口づけを返しながら、シルヴィアは思う。

(美紅様はこんな風に言ってはくれなかったわ)

 別れの時、どこにいても自分の姫だと言ってほしかった。

 本当なら美紅様の元へ居たかったけれど、美紅様の命令なら仕方ないと自分を無理やり納得させてここに来た。

 だから、せめて去り際に愛の言葉をかけて欲しかったのだ。

(それに……)

 薔薇園での振る舞いが思い出される。

(あれは本当に試すためだったのかしら)

 何度も言い聞かせた言い訳に疑問が首をもたげる。
 いや、そうではないことには気が付いている。
 だが、それを認めてしまったら美紅への想いが壊れてしまうような気がシルヴィアはしていた。
 だから、認めたくない、認めるわけにはいかないのだ。

「庭でのことを聞いた時、貴女でなくて良かったと心から思ったわ」

(私でなかったら……)

 アルテミシアの呟きのような言葉に、もし、自分があそこにいなければ別の姫に手を出していたのだろうか、とシルヴィアは思う。
 そんなことはありえない、いくら否定しようとしても、あの薔薇園で自分ではない誰かと美紅が交わる姿が想像できてしまう。

「私でよければいつでも力になるわ」

「えっ?」

 アルテミシアの声がシルヴィアの意識を戻させる。

「宴が終わってからずっと何か沈んでいるようだから心配なの。話しにくいならいいけれど……主には言いにくい話もあるでしょうし、私でよかったら頼ってくれると嬉しいわ」

(……優しい方)

「そのようなつもりはありませんでしたが、ご心配をかけ申し訳ありません。でも、ありがとうございます」

 優しい雨の様に降り注ぐ慈しみと愛に満ちた言葉。
 それはどれも心地よくシルヴィアの心へ染み入っていく。

 その後もアルテミシアは何もしなかった。
 ただ、優しく抱きしめ、慰める様にキスを落とすだけ。
 ただそれだけのことが、愛の行為がないことが今のシルヴィアにはとても嬉しかった。

  ***

「おかえりなさいませ。美紅様もお帰りを待っていらっしゃいました」

紅の女王の城でシルヴィアを出迎えた紅の姫・緋衣(8931)は恭しく一礼すると、出迎えの口付けを交わす。

「美紅様は?」

「居室でお待ちです。お姉様と3人で早く愛し合いたいと仰っていましたわ」

(愛し合う……)

 いつもの、日常的な行為がシルヴィアの心に影を落とす。

 とてもではないが、そんな気分ではなかった。
 だが、主の求めとあれば応えなければならない。

「準備をしたらすぐにお伺いすると伝えて頂戴」

「かしこまりましたわ」

 シルヴィアの居室まで案内した緋衣はそう言って踵を返した。

(準備……)

 シルヴィアが戻ってきたのは宴の次の日だった。
 その間に何かあったのではないかと緋衣は少しだけ勘ぐってしまう。

 シルヴィアが言うには疲れてしまった様子の彼女にアルテミシアが一晩泊っていくことを提案したのだというがシルヴィアへの疑念がぬぐえない緋衣にはそう思えない。

(お姉さまを疑うなんて……いけないことですわね)

 緋衣は首を振り疑念を思考の隅へ追いやると美紅の部屋へと歩き始めた。

  ***

「お待たせしました」

 シャワーを浴び、主の好む香りとドレスや宝飾品を身に纏ったシルヴィアが美紅の部屋へ入ると、主は笑顔と共に迎えた。

「おかえりなさい。よく務めを果たしたわね」

 そのままの表情でシルヴィアの髪を撫で、甘く深く口付ける。

「薔薇園での口付けも甘美だったけれど、はやりいつもの貴女もいいものね」

 唇を離しクスクスと美紅は笑う。

 その言葉に視線を外すシルヴィアはどこか後ろめたそうに緋衣には映った。

(お姉さま……?)

「さあ、久しぶりに3人集まったのだし、ね」

 そんな2人の様子に気が付かないふりをしながら、美紅が2人をベッドへ手招く。

 それが、濃密な愛の時間を告げる合図だった。

  ***

「今日は熱心ね」

「お姉さまが戻られたからですわ。わたくし、美紅様にもお姉さまにも気持ちよくなってほしいんですの」

 からかう様な美紅の声に緋衣はそう答え一層奉仕に努める。

「そう。そういえば薔薇園でのシルヴィアも激しかったわね」

 その言葉にシルヴィアの奉仕の手が止まる。

(どうしてそんなことを……?)

 わざわざ3人でいる時に、愛の営みの中で言わなくてもと思う。

(アルテミア様はこんなことは言わないのではないかしら)

「本当はもっと愛し合いたかったけれど、時間は有限だものね」

 少し残念そうな美紅の声。

「これからは3人でいくらでも愛し合えますわ」

 蕩けきりうっとりとした声で緋衣が答えるとそうね、と美紅は緋衣の頭を撫でる。

(緋衣のいう通りだわ)

 そんな風に考えてはいけない、そう考えなおしてシルヴィアも快楽に身を任せようとする。

「宴の時も思ったのだけれど、他の貴婦人の姫と快楽を分かち合うのもよさそうね」

「ええ。その時はわたくしも混ぜてくださいな。お姉さまもそう思うでしょう?」

 心から楽しそうな美紅の声に返るのは心酔しきった緋衣の声。

「え、ええ」

 同意こそしたが内心シルヴィアは嫌悪感を感じていた。
 宴の後、頭によぎった考えは真実だったのだ。
 その事実が彼女の黒い思いをさらに黒くする。

(淫乱……)

 美紅の愛を受け入れれば受け入れる程に、アルテミシアの声がリフレインする。

 アルテミシアは自分の嫌がることは決してしなかった。
 だが、目の前にいる主はそんなことよりも快楽を貪ることの方が大事に思えてしまう。

(お姉さま?)

 緋衣はそんなシルヴィアの態度に心の中で首を傾げていた。

 美紅から自分に注がれる愛の濃密さは減っている。
 それは、美紅がシルヴィアにも愛を注いでいるからだ。
 それなのに、愛に身を委ねきれないように見える。

(お疲れなのかしら?)

「美紅様、お姉さまはお疲れの様ですわ。お姉さまは休んでいただいた方が良いのではないでしょうか?」

 そう、言って自分は奉仕を続ける旨を伝える。

「そう?でも、私は3人が良いわ。シルヴィアも愛されたいでしょう?」

「……はい」

 シルヴィアは頷き奉仕を続ける。

 美紅の振る舞いは何も変わっていない。

 疑念を抱く自分がいけないのだとシルヴィアは自分を叱責し、奉仕に没頭しようとする。

 だが、そうすればそうするほどにアルテミシアからの愛との違いがはっきりと彼女の中に浮かび上がってくる。

「美紅様……」
 うっとりと貪欲に愛を強請る妹姫にまでもが、ただの淫乱に見えてきてしまう。

 勿論、緋衣がこんなにも欲しがり強請るのは美紅からの愛だからだ、ということは頭では理解できる。

 それでも、その愛を得るためなら他の姫と交わることもいとわない彼女の盲目さが理解できない。

 仮初の姫になるまでは、彼女の姿は当然でそれが当たり前だと思っていたのに。

 シルヴィアの中にどろどろとしたものが溜まっていく。

(私はどうしてしまったというの)

 気持ちのやり場がないままに身体だけが快楽に流されていく。それがシルヴィアにとってとても気持ち悪かった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8930 / 黒の姫・シルヴィア / 女性 / 22歳(外見) / 染みは黒く深く 】

【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 優しい言葉の裏は 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / 愛を追い求める 】

【 8931 / 紅の姫・緋衣 / 女性 / 22歳(外見) / 盲目に愛して 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月08日

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