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『女神推察 』
スノーフィア・スターフィルド8909

 異世界転生というものがある。
 いや、現実にあるわけじゃなくて、物語の一ジャンルとして存在するという話。
 加えて記憶というものは連動していたりして、あるものを思い出したことで関連するなにかを思い出す……といったことが起こりうるわけだ。
 異世界転生と記憶システム、ふたつを並べてなにが言いたいのかと言えば。
「私、異世界転生した感じですよね?」
 そもそもの起点は、「神様っていったいなんなんでしょうね?」という疑問だった。
 次いで考えていくうち、微妙に思い出した。“私”は神様に小言を言われるような子で、どうやら“スノーフィア・スターフィルド”となる前から、何度も何度も神様と会っていることを。
 そこまで思い出したことで、なんとなく察せられたわけだ。
 スノーフィアとしての生は、多分“私”に与えられた最後のチャンスなのだと。

 ただ、ここで新たな疑問が生じる。
 どうして“私”はスノーフィアにさせられた?
 神様にとってダメな子であるはずの“私”に女神の体を与えるなんて、普通に考えればありえないことだ。力を得ることによってもっとダメなことをしでかす確率が高いのだから。
 それを誰よりも知るはずの神様が、あえて“私”をそうしたことには意味がある。
 しかし“私”ならぬスノーフィアは、使命もなにも与えられることなく、ひたすら無為に暮らしているばかり。いや、それどころか、元になった『英雄幻想戦記』の設定に合わせて世界の理をねじ曲げたり、酒を飲んだりネットを荒らしたりしもつかれを作ったり……ろくなことをしていない。
 なのに神様は強制ゲームオーバーを宣告することなく、この世界にスノーフィアを野放しにしているのだ。
 神様は世界でいちばんえらい方なはずなのに、私ばかり贔屓していいんでしょうか?
 いいはずがない。
 いいはずがないのに、見ないふりをされている。それはつまり、この世界はスノーフィアを最優先していい場所だということに他なるまい。
 ――スノーフィアは以前、“私”だったころに通っていた会社が存在することを確認していた。だから普通にここが元々“私”の暮らしていた世界であることを疑わなかったのだが。
 ダメな子のために神様が用意した、元の世界によく似ているだけの異世界であるとするなら、これまでに起こったいろいろな不条理の説明がすべてつく。
 そうなると、“私”のダメさってどのくらいのものだったんでしょうね。
 そこまでして神様が“私”を優遇する理由もわからない。
 実は壮大な使命があるのに、私が思い出せていないだけだったりするんでしょうか?
 とりあえず、気持ちを落ち着けてもやもやを洗い流すため、薄く作った生ライムハイを飲む。酒を飲んで落ち着くとか、なかなか終わっている感じはあるが、なにひとつ始まってもいない現状で是非を問うても意味はないだろうということで目をつぶることにした。
 言い訳しつつ息をついて、また考える。
 異世界転生にはいくつかのパターンがあるものだ。たとえばその世界の住人として赤ん坊に転生する王道パターン。元の体を保ってスリップする派生パターンもあるし、魂だけが異世界に飛ばされてその世界で空いている体へ宿るというものだってある。
 スノーフィアの場合は魂が飛ばされ、ただのデジタルデータだったはずのスノーフィアに宿らされて顕現した。このパターンは女性向け恋愛ゲームに多い――ゲームの登場人物(大抵はヒロインのライバル役)として転生し、ゲームとは異なるエンディングを目ざしたりする――ものだが、肝心の目的がわからないため、シナリオを進められずに停滞しているわけだ。
 結局は、“私”が私になった目的がなんなのか、ですよね。
 ゲームならかならず進行するためのヒントがある。
 しかしここにはなにひとつ、彼女を導いてくれるものがない。
 読み解けていないだけならこの後探せばいいわけだが、最大の懸念は、使命や目的が存在しないからこそヒントもないのではないかということ。
 もし目的が存在しないのでしたら……それこそ私はなんのためにスノーフィアをやることになったんでしょうか。こんなに優遇していただいて、馴染みやすい世界まで用意していただいて。ここで私はなにをすればいいんですか?
 当然のごとく、応える者はなかった。
 だとすればやはり、自分で思い出すよりない。
 スノーフィアはモヒートを作ってぐいと呷った。ペパーミントには記憶力や集中力を高める効果があるそうだから、きっと助けになってくれるはずだ。
 神様は小言といっしょになにか言っていたはず。
 おまえはすぐ死ぬとか――いや、それはスノーフィアがではなく“私”のことだ。“私”のダメさはすぐ死ぬこと? だとしたら、ますます女神の力を与えてはいけないのではないだろうか。理をねじ曲げて、自分だけじゃなく世界そのものを死なせることだってできそうだ。
 いや、そういうことではないのですよね。女神の力が“私”にとってプラスに働くことがあるはずなんです。
 濁ってきた思考を澄ませたくて、スノーフィアは脳の栄養となる果糖たっぷりなオレンジジュースにポーランドの森で採れたとある草を漬けたウォッカを混ぜて呷る。さっきはミント入りのモヒートを飲んでいたから、それ繋がりで草入りの酒を選んでみたのだが、かすかに立つヨモギっぽい香りがうまい具合にオレンジの酸味を引き立ててくれる。
 ともあれ思索再開。
 世界の有り様すら曲げる女神の力と、神様がその公平性を振り捨てて贔屓しなければならないほどダメな“私”。示されることのない果たすべき使命と目的。
 それが示す答へ至るための鍵は、半ば引きこもりなスノーフィアを取り巻く状況にあるのではないだろうか。
 スノーフィアが引きこもって暮らしていけるのは、ここに家があって、グレードはともあれ食料その他の支給品があるからだ。そしてそればかりでなく、使用金額の上限不明なクレジットカードにより、買い物を通じて外の世界とも繋がりを保っていられる。
 わずかな努力も就労も必要なく、最低限を越えた暮らしが保証されていればこそ、スノーフィアは愉快で無為な毎日を繰り返しているわけで。
 なんでしょう、生きてみせろと言われているんじゃなく、とにかく生きていろと言われているような……
 もしそうだとしたら、やっぱり神様の意図がわからない。
 種の存続が生命の持つ原理的な目的で、そのために生命は喰らい、自らを保持し、次代へと繋いでいく。それだけに終始する存在ではなくなって久しい人類だが、だとしても社会という繋がりの中で自身の生の意味を探ることは最重要事項のひとつ。
 ああ。
 見えた気がする。
 スノーフィアという存在は、ただ生きていればいい。それを保つためにこの家や食料が与えられて、それを見失わないためにカードのような世界との繋がり、さらに女神の力が与えられた。そういうことではないのだろうか。
「まあ、難しいことは明日考えればいいですよね」
 スノーフィアはリビングの床に背を投げだし、ぐにゃぐにゃくねった。
 スクリュードライバーは飲み口のよさと噛み合わないアルコール度数を誇る。考えるためのブースターとして飲み続けていたことで、彼女はすっかり酔っ払っていたのだ。
 難しいことを考えるのは無駄。全部忘れてしまえばなかったことになる。
「というわけで、今日は飲みますよー!」
 結局なにひとつ解決できないまま、いつもどおりに今日をやり過ごすスノーフィアだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【スノーフィア・スターフィルド(8909) / 女性 / 24歳 / 無職。】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月08日

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