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『姉妹猫、二人 』
ミアka7035)&白藤ka3768

「あぁ、なんや周りがカップルだらけやないか」
 一ヶ月前の出来事が思い浮かぶ。同じ街並み、同じような時間帯。違っているのはここにもう一人お揃いのピンを持つ友人がいないことと、そしてミアの隣を歩く白藤が口にしたように、恋人同士と思しき男女二人組の数が明らかに増えていることだ。それもバカップルと揶揄されそうなほど、甘ったるい雰囲気を放っている類の。二度と離れないと言わんばかりに腕や指を絡めている恋人を横目に見て、ミアはキランとレッドスピネルの瞳を輝かせると、微笑ましさと居心地の悪さ、それからほんの少しの憧憬を滲ませた表情をしている姉猫に思いっきり飛びついた。無邪気な言動に反し背の高いミアにそれなりの勢いでぶつかられた白藤はたたらを踏む。
「こんな風にくっついてたら、ミアたちもデートしてるように見えるニャスか?」
 ミアには自分がどんな顔をしているのか漠然としか判らない。ただ、楽しい、一緒にいられるのが嬉しいという感情を隠さずに小首を傾げて様子を窺えば、白藤は驚いたように薄く唇を開いて、けれど直ぐ相好を崩した。蕾が綻ぶような微笑みの中、ほんの一匙分の甘えが混じる。多分今は、自分にだけ見せてくれる笑い方。独占したいなんて子供じみた願望もないとはいえないが、“ダディ”にも見せられるようになったらもっとずっと嬉しいのにと、そう思うのも本当だ。
「そやなぁ。折角やし、うちとデートの予行練習でもしよか♪」
 言って白藤は軽く肘を曲げ、隙間を作ってくれる。そこに遠慮なく手を差し込み腕を絡めれば、春の足音が聞こえているとはいえ、まだ寒さも残るこの時期としては薄着の衣服越しに彼女の温もりが伝わる気がした。微かに香る煙草の匂いがあればきっと、目を閉じて歩いても怖くない。
「しーちゃんはデートだったらどこに行くニャス?」
 笑い合い再び歩き出すとミアの視線は不思議とあの天邪鬼な黒猫の幻を追って、あちらこちらへと流れていく。自宅である“みあはうす”こそ森の中に静かに佇んでいるが、同じサーカス団に在籍しているので生活圏は重なっていた。勿論百人もいないような小さな村ならともかく、これだけ広い街で偶然出くわすなんて途方もなく低い確率なのは判っている。しかし予行練習という単語が足されたことで連想したのは、どうしてか彼の顔だった。
「……いやぁ、言うてうち……デートまともにしたことあらへんな?」
 自問するように小さな声で言い、白藤は苦笑いを浮かべる。
(軍時代の恋人は戦場がデートやったしなぁ……)
 そんな胸中での追憶はミアに伝わることはない。
 実のところミアは白藤の過去について詳しくは知らないし、逆も然りだ。それは相手のことを信用し切れていないだとか、マイナス方向の感情が理由じゃなくてむしろ逆で。生まれ育った土地どころか世界まで違う、そんな自分たちだから出逢ってからこれまでとまだ何十年と広がっている未来。過去に囚われそれを見失うのは嫌だし勿体ない。だから白藤が幸せになる為には自分だけじゃ足りなくて、一緒にパジャマパーティーをした友人たちや何度も一緒に戦ってきた仲間、伸ばした手を取ってくれるあの人が必要で。エゴでも大切な人の幸せを祈らずにいられない。
「この時期やったらバレンタインチョコのお返しついでにデート、とかになるんやろうか」
 自信なさげにふんわりと言う彼女に、ミアはそういえばと思い出す。練習でも作った苺とワインの入ったキューブ型キョコに加え、バナナとラム酒を合わせた物も一緒に渡した。ホワイトデーは数日後に迫っている。
「ミアたちもお返し、貰えるかニャ?」
「……あの子のことやし、なんやかんや言いながら用意してくれるんとちゃう?」
 惚れ惚れするほどの綺麗な声で紡がれるぶっきらぼうなお礼の言葉。もし返してくれるならそれはきっと手作りのお菓子か何かだろう、と想像した。料理上手なだけに味は保証つきであれこれ候補を思い浮かべるだけでついよだれが出そうになる。最近は苺味のお菓子ばかり食べている気がするけれど、彼から貰うならやっぱりそれがいい。そして出来ることなら、テーブルを挟んで向かい合って食べたい。
「それなら忙しいニャスけど、ダディもきっと――」
 言いかけた言葉は後方に腕を引かれたことで引っ込む。引かれたというか、白藤が急に立ち止まったのに気付かず前に進もうとしたのでよろめいた。するりと腕を解き、彼女は「ごめん堪忍な」と軽く手振りで謝罪して、通りの彼女に近い側にあるお店――洋服屋の店頭にディスプレイされた幾つかの服を眺め、それからミアに視線を戻した。上から下へと流されたかと思えば白藤は満足げに小さく頷く。
「お返しがデートやったら、この服屋さんに来そうやんなぁ。うちが代わりっていうのもアレやけど、入ってみぃひん?」
「いいニャスネ。ミアがしーちゃんにお洋服をプレゼントするニャス!」
「それは本番が来た時にしてもらったらえぇわ。でもお互いのコーディネートするっていうんは悪くないなぁ」
「なら早速しーちゃんに似合う服を探すニャスよ!」
 ミアのショートパンツから伸びる尻尾がゆらゆらと揺れる。喜び勇み我先にと店内に入ってから振り返れば、小走り気味に追いかけてきた白藤に痛くないデコピンを喰らう。いや嘘。ほんの少しだけ痛かった。姉猫の顔に浮かぶのは少し過剰なほどの心配だ。前科があるので何も言えないけれど。
 特に相手を気遣うでもなく、自分のペースで系統ごとに纏められたディスプレイテーブルやハンガーラックを眺めながら、ふと後ろに振り返り、赤いロングコートを手に取って首を捻る白藤を盗み見る。さすがに真冬は例外になるが、彼女は身体の線がはっきりする服を好み着ていることが多い。なら敢えて、本人は選ばなさそうな服にするのも面白そうと思い早速その方向で探し始める。

 ◆◇◆

 この店を選んだのはミアだけじゃなく彼女と日々じゃれ合っている黒猫の顔が思い浮かんだからだ。女物も男物も一緒くたに扱っているここなら似たような感じで合わせるのもやり易いと思う。もっとも、彼の体格なら女物でも余裕で着られそうな気がするが――と、もし本人の前で口にしたら、怒られるか絶対零度の視線を向けられそうだと想像しつつ、コートを元の場所に戻す。ミアは白か黒なら黒、暖色か寒色なら暖色のイメージが強い。なら逆を見てみたいと至極単純に思った。
(青薔薇のイメージに引きずられてんのもあるけど)
 だから紺や藍のような深い青色ではなく、澄みきった空や海を連想する鮮やかな色合いがいい。まだ厚着でも困らない時期ではあるが、春のうららかな陽気に似合いそうな軽装にしようか。思い直し店内を巡って幾つか籠に入れると、棚の向こうに猫耳カチューシャを見つけ、ミアと合流する。
「ミアが選んだのはこれニャス!」
 と、満面の笑みで一着差し出される。
「たまにはパーカーワンピとかどうニャスかネ? 部屋着になっちゃうかもニャスけど、お出かけしたくない日とか……雨の日とかでも、可愛くて明るいお色が彩っているから、寂しくないニャスよ」
 ミアが持ってきたのは青空柄と白色のツートーンのフード付きパーカーワンピだった。姿見の前で肩の位置を合わせつつ、寂しくないという言葉に視線を妹猫へと戻すと。
「まあ、しーちゃんが寂しい時はミアが駆けつけるニャスけどな!」
 言って肩にぽんと手を置き、自信満々な――所謂ドヤ顔的な笑みを浮かべるミアに白藤は思わずふっと笑い声をあげた。
「ほんまミアはカッコえぇなぁ〜」
 無邪気で自由気ままな、見た目通りに猫のような気性でいて情に厚く、人の感情の機微に聡い。まるで全てを見透かす眼を持っているように、欲しい言葉を欲しいときにくれる。そのたびに支えられているのはむしろ自分だと実感して、居心地の良さを感じると同時に同じだけの好意を返せているか心配にもなる。両頬をむにむにされているミアはニャぁニャぁ言いながらも楽しげだ。
「ほらほら、着てみーニャスよ」
「じゃあ一緒にお着替えしよか」
 瞳を輝かせるミアと籠ごと交換して、隣同士の試着室に入って衣装を着替える。外で見たときは可愛すぎて似合わない気もしたが、全身を合わせると案外そうでもなかった。胸許に手を添えれば自然と笑みが零れて、試着室を出るとミアも出てきたところだった。
「かわえぇ……!」
 しなやかな脚はスキニーデニムで覆われていて、トップスはカシュクールのブラウスに白のロングカーディガンを重ねている。
「こっちがよかったニャスか?」
 言って、ミアは同デザインの黒のカーディガンを取り出し羽織る。
「いやー、二人で青系とか爽やかそうやない? って思ってたけど……黒もえぇなぁ!」
 白と合わせれば爽やかさが強く、黒だと色が引き締まり大人っぽく見える。どちらも可愛い。逆に黒を基調にするのもいいと想像して、胸がわくわく躍った。
「……二人?」
 自身の気持ちに無自覚らしいミアが首を傾けるのを見て、白藤は軽く手を振った。
「これ、めっちゃえぇ感じやわ」
 パーカーワンピの裾から黒のペチコートが覗き、試着なので実際につけていないが胸許に赤椿のブローチを添える。赤椿といえば思い浮かぶのは一人で、それが少し気恥ずかしくもあるが。
「お部屋でぬくぬくする時とか、あの人と一緒にぬくぬくする時とか、きっと重宝するニャス」
「ちょぉっ、ミア……!」
 唐突に爆弾をぶっ込んでくるのは故意か天然か。想像して赤くなる頬を隠せばニシシと乙女らしからぬ笑い声が返ってきた。

 何とか気持ちを鎮め、一旦元の服に着替え直す。買ってまた別の店に行ってもよかったのだがファッション関係では困らなさそうな品揃えについつい宛てもなく眺めてしまう。
「――彼には何が似合うかニャぁ。線が細いからユニセックスサイズのヴィジュアル系の服とか?」
 試着前の白藤と似たり寄ったりの感想を零しながら、ミアが取ったのはアシンメトリーのスカートやらガウチョパンツやら。両方共メンズ用もあるし、似合うのは違いないが。橙色の薔薇のタイピンを手にミアは真剣な面持ちだ。贈るのだろうか。
 つられるように白藤の意識もまた、赤椿の彼の元へと戻る。
(……あの花の意味は、うちの本心やけど……な)
 本命チョコに添えたのは黒蝶の切り絵と羽ばたく鳥のような形をした白の鷺草だ。リアルブルー由来なのか花言葉は共通で、彼は多分その意味を知っている。一体それをどう思ったのか送った後になって不安を抱いて、笑って誤魔化したい衝動に駆られた。花言葉は複数あるが、白藤が込めたたった一つを理解している気がした。
 動揺を拭い去れないまま手を伸ばしたのは銀をベースに赤椿が飾られた、少しレトロなデザインのイヤーカフスだ。ブローチと違って視界には映らない、しかし直接肌に触れるアクセサリーでもある。身につければ否応なしに彼を思い出すだろう。
 以前――夏のある日に森の洋館で彼と二人、夜空を見上げた。デートだなんて茶化すように誘い、知らないと思ったから言えた言葉に返ってきたのは――。
(知らん、はずや……言葉も、意味も……)
 リアルブルーの極狭い地域出身じゃないと知らないはずだ。後者は有名だが、前者は知らないという人間もきっとそれなりにいる。それに、文脈からして何ら不自然ではない台詞でもあり。でも同時に、彼ならば知っていても可笑しくないと思うのだ。
 夜が来るたびに空を見上げては手を翳す。
「うちもそない想うわ、なんて」
 ――言える勇気が、欲しいなぁ。誰に拾われるわけでもない小声で呟いた。こんなに想っていても未だ、核心を突く言葉は胸の奥に引っ掛かったまま。手のひらの上のイヤーカフスに視線を落とし、逡巡の末に籠の中のブローチの隣に置く。
 会計の為に店の入口近くまで戻りながら、ふと視線を落とせば、ミアの籠にタイピンが入っているのが見えた。せめて少しでも早く彼女の幼くも無垢な想いは結ばれたらいい。普段押し込めているネガティブが顔を出していたせいか、注意が散漫になって店に入ってきた人と肩がぶつかる。謝罪の言葉は支えるように優しく触れてくる手の、白手袋に吸い寄せられ溶けた。
 顔を上げるのが早いかミアが彼らの名前を口にするのが早いか。目の前には、赤椿と月季花の二人が夢でも幻でもなくそこにいた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka7035/ミア/女性/20/格闘士(マスターアームズ)】
【ka3768/白藤/女性/28/猟撃士(イェーガー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
まず最初に断っておくと、白藤さんのセンスが
残念だったらそれは全面的にわたしのせいです。すみません!
(描写に差がありすぎるのもどうかな、と勝手に足しました)
きっとリプレイやノベルにもっと目を通せば解るんだろうなと
思いながら、実際とても仲良しだし本人たちは自覚がなさそう
ですが、お互いに若干重い感情を抱いているような気がします。
お相手さんとの進展もですが、そちらの行方も気になりますね。
今回は本当にありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2019年03月11日

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