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『南極の物語 』
オールギン・マルケスaa4969hero002

 王との戦いから数年が経った。頻度は落ち着いたが、南極では相変わらず異世界との接触が相次いでいる。H.O.P.E.南極支部は、未だ重要な立場にあった。

 南極支部、格納庫。寒さを凌ぐ分厚い鉄壁の中で、オールギン・マルケス(aa4969hero002)は黙々と作業に当たっていた。雪上車の駆動部の整備だ。慣れた手つきでエンジンの清掃を行っている。手はただの人の一回りも二回りも大きいが、機材の扱いはとにかく繊細だ。雪上車が無事に動くかどうかは、南極で活動する上では死活問題である。一切手を抜くことは出来なかった。
 そんな彼の下へ、作業服姿の職員が歩み寄る。
「お疲れ様です、オールギンさん」
「うむ。どうしたのかね」
 オールギンは手を止めて振り返る。どこか頼りない表情の青年は、書類を片手に背後を指差した。
「いえ、ワープゲートの改築について、少々相談したい事があるので、呼んでくれと……」
「承知した。雪上車の整備ももうしばらくで完了する故、しばし待たれよ」
「承りました」
 青年は踵を返して出ていく。オールギンはその背中を見送ると、今度は配管の点検を行っていく。その顔に刻まれた皺は、さらに深いものとなっていく。
「ふむ……」

 王との戦いが終結して以来、エージェント達は新たに進む道を選び取ることになった。オールギン達も例外ではない。オールギンと誓約を結んだ少女は、南極支部に駐在しながら、東京海上支部近辺の学校に通う事を選んだ。オールギンと同じ世界を統べてきた女神であり、少女と共に在るもう一人の英雄も、雑誌モデルとして世間で活躍し始めていた。
 オールギンは、その巨体を載せる為に用意された特注のスノーモービルを整備しているうちに、機械いじりに興味を持つようになった。少女と女神の帰還を南極で待つ傍ら、彼は独学で機械工学を学んだり、支部内の機材の修繕を引き受けるようになった。
 そのうちに、彼は機械に関しては一人前の知識を持つようになっていた。そこで、南極支部は王との戦いが終わって手すきになった彼を技師として招いたのである。

 自動ドアが開く。オールギンは腰を軽く曲げ、ドアをくぐった。ふわりと漂う、淹れたてコーヒーの匂い。デスクに目を向ければ、オールギンの良く知る人物が席に腰を下ろしていた。
「お久しぶりです。マルケス技師」
「御足労に感謝する、仁科殿」
 コーヒーカップをゆらゆらさせながら、仁科 恭佳(az0091)は静かに頭を下げる。オールギンも彼女に合わせ、静かに頭を垂れた。二人の挨拶を見届けた職員は、そっと傍のモニターを起動する。
「では、揃いましたので、始めましょうか」
 恭佳はこくりと頷くと、素早く立ち上がる。レーザーポインターを取り出し、彼女はオールギン達に向かって説明を始めた。
「ええ。今回の提案は、ワープゲートを用いた異世界探査実験についてです。異世界探査用のワープゲート開発に当たって、まずは単純な……映像や音声の発信を行おうと考えています。それを行う為、ワープゲートの改修が必要となりました――」
 恭佳はすらすらと説明を始める。オールギンはタブレットを取り出すと、丹念に彼女の言葉を文面に纏め始めた。彼女はアメリカの有名大学で学ぶ、優秀な技術者だ。少しでも彼女の知識や思考回路を学ぼうと、彼は懸命である。
「一つ、質問しても問題ないだろうか」
「ええ。何です」
 学べる機会は逃さない。彼は恭佳に質問を始めた。
「ああ、交信のメカニズムについてなのだが――」

 彼がそうまで技術者としての道を邁進するのは、彼自身の趣味だけが理由ではなかった。彼と誓約を結んだ少女は、王との戦いが終わっても、愚神との戦う事を求めていた。それは最早復讐のためではない。運命を歪められてしまった生命に“終わり”を与える為である。
 少女の本懐を遂げさせるために、彼は学び続けていた。今では南極支部でも指折りの技術者として重用されるようになっていたが、それでもオールギンは満足しない。
 異世界にも範囲を広げた、超広域の愚神探知機の開発。それが彼の目標であった。現在の愚神探知用レーダー、プリセンサーの予知だけでは取りこぼしも出てしまう。それさえ見逃さず、全ての愚神を探し出す。そう彼は心に決めていた。

 夕刻。学校から帰ってきた少女や、撮影を終えて帰ってきた女神を迎え、彼は帰路に就いていた。巨大なスノーモービルが唸りを上げ、雪煙を巻き上げていく。
「それで、先生は何て?」
「うん。……この調子なら、目標の高校には、十分入れるだろう……って」
「そうよね。きちんと勉強も頑張っているもの」
 二人が背後で談笑している。それを聞きながら、オールギンはふっと頬を和らげた。二人とも、平和に日常生活を送れているらしい。彼女達の話を聞いているだけで、オールギンは心が弾んだ。
(より精を出して取り組まねばならんな)

 一介の男として、この家の大黒柱になろう。オールギンは今日もその想いを新たにする。

 少女と女神が、共に平穏な日々を送れるようにするために、オールギンの日常の奮闘はこれからも続いていくのであった。

 END






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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オールギン・マルケス(aa4969hero002)
仁科 恭佳(az0091)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
納品が遅くなってしまってすみません。完成させていたのに納品を忘れておりました。
何かありましたらリテイクをお願いします。
もう一つのノベルについても、今しばらくお待ちください。

ではまた……
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2019年03月11日

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