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『微笑む神の名は(1) 』
白鳥・瑞科8402

 すでに使われていないはずの教会。しかし、だからこそ、その儀式を行う場に相応しかった。
 呪いの呪文が、賛美歌の代わりとばかりに教会内に響き渡る。ひび割れたステンドグラスから差し込む月明かりだけが、信者達の姿を照らしていた。
 歌と共に運び出されるのは、いくつもの……棺。だが、それは時折周囲の音に反応するかのように揺れ、中に入っているのがただの遺体ではない事を伝えてきている。
 まるで助けを求めるかのように、棺は揺れる。しかし、信者達はそんな事を気にも留めない。賛美歌はやまない。
 何故なら、その棺の中身は狂ったこの儀式において最も必要なものであったからだ。
 儀式は、続く。棺の中の者を生贄に、今宵この教会に邪神が呼び出されようとしていた。

 ◆

「少女達をさらう狂信者でして?」
 白鳥・瑞科がその任務を受領したのは、久方ぶりの休暇の最中であった。突然呼び出されたというのに、不満一つこぼす事なくすぐに上司の元へ駆けつけた彼女は、今しがた彼……神父が口にした言葉を、確認するかのように麗しい唇で繰り返す。
 渡された資料には、ある邪神を信仰する狂信者達が街で純粋な心を持った少女を捕らえては神を呼び戻す生贄として捧げているという残忍な調査結果が記されていた。
 それは、秘密組織「教会」に所属する武装審問官である彼女にとって、到底許す事の出来ない蛮行であった。心優しき瑞科は、少女達の苦悩を思いその端正な形の眉を僅かに歪める。
 唯一幸いな事は、その非道な者達を自分自身の手で裁ける事だろうか。狂信者達のせん滅、そして捕らえられている少女達の救出が今回の任務の内容であった。
 敵の数は多い。守らなくてはいけない存在がその場にいるので、戦闘も一筋縄ではいかないだろう。しかし、瑞科は本当にこの任務を受けるのかと念の為尋ねてきた神父に迷う事なく頷きを返してみせた。その磨き上げられたサファイアですら及ばぬ程に輝く青の瞳に、恐怖や不安といったマイナスの意味を持つ感情が宿る事はない。あるのはただ、己の力への自信と悪を倒せるという事に対する充足感。街を救うこの生活に、瑞科は満足していた。
 失敗は、万が一であってもありえない。今まで彼女は、数え切れぬ程の危険な任務をこなしてきたが、ただの一度も失敗した事はないのである。それも、傷一つ負う事すらなく、だ。だからこそ、神父もこの任務を瑞科に頼む事にしたのだろう。
「わたくしにお任せくださいませ。必ず、勝利を手に帰ってまいりますわ」
 そう告げる瑞科の顔はどこまでも頼もしく、堂々と胸を張るその姿は一層彼女を美しく見せるのだった。

 ◆

 真にお洒落に気を使う者は、ただ流行の衣装を着るわけではなく時と場合によって身につけるものを使い分ける。瑞科もまた、そうやって衣装を選ぶ事の出来る人間であった。
 だが、彼女が任務に赴く前にワードローブを開く理由はそれだけではない。聖女の手が、慣れた様子でかかっていた衣服を取り出す。ワードローブから顔を出した長袖の上着が、彼女のその触り心地の良さそうな柔からな肌を包み込んでいく。「教会」の装飾が施されたそれは、まるで寄り添うように瑞科の肌へと張り付き、その美しいボディラインをそのままに彼女の肢体を象った。この衣服は、薄いながらも丈夫な素材で出来ており瑞科の身体を守ってくれる特注品だ。
 ボトムには黒のプリーツスカートを。規則正しい段を連ねたそのスカートにもまた、美麗な装飾が施されていた。短いそれからは、ガーターベルトが装着された美脚が覗いている。誰もが羨むその美しい脚のラインにはニーソックスが食い込んでおり瑞科の太腿を更に魅惑的に彩っていた。
 全身鏡に映る瑞科の背で、ひらりと布が揺れる。短めのマントはまるで聖女を一層神聖たらしめるヴェールのようだ。天使の翼の代わりとばかりに瑞科の背で揺らめくマントを、小型の肩当てが留めている。鉄で出来たそれもまた特別な素材で出来ており、その証拠とばかりに「教会」の装飾が刻まれているのだった。
 着替えている姿すら、瑞科は上品で華麗だった。靴をただ履くその動作だけでも、まるで映画のワンシーンのように優雅なのだ。白の編上げのロングブーツが瑞科の脚を包み込むその瞬間は芸術的ともいえ、見る事の叶う観客がこの場にいない事が不思議なくらいだった。
 着替えを終えた瑞科は、今一度鏡で自身の姿を確認する。皺一つない、汚れ一つない完璧な戦闘シスターの姿がそこには映っていた。
 最先端の素材で作られたこの衣服は、どんな攻撃からも瑞科の身体を守ってくれる。それでいて、どこまでも彼女に似合っていて美しい。戦場に出る時に着るのに、この上ない程相応しい衣服に違いなかった。
 満足げにくすりと一度瑞科は微笑み、最後にとあるものを手に取る。ある種最も重要とも言える、長い杖とナイフ。瑞科の愛用している武器である。
 全ての支度を終えた彼女に、ついに任務の時間が訪れた。待っているのは危険な戦い……だというのに、その足取りはやはり軽い。ブーツが床を叩く小気味の良い音と共に、瑞科はただ真っ直ぐに向かっていく。自らを待つ戦場……今宵の任務の舞台、今はもう使われていない教会の跡へと。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます! ライターのしまだです。
連続ノベルの一話目となっております。瑞科さんのご活躍はこれからが本番……今しばらくお付き合いいただけましたら幸いです。
引き続き、よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月12日

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